キーワードは「サステイナビリティ」。自分たちがトレンドを牽引する

▲2018年の冬に日鉄物産が開催した展示会の様子

変わりゆくファッション業界の中でも、特に大きな変化の1つが、社会全体や消費者の「サステイナビリティ」や「サステイナブル」に対する意識の高まりだと水野は言う。大量生産や大量消費、そして大量廃棄の現状を懸念するトレンドがやっと日本にも来ているのだ。

水野 「『オーガニックコットンの生地でないと使用しない』というお客様(アパレルブランド)も出てきているくらいです。一般消費者に着目しても、安価だが低品質で環境負荷の高い洋服より、値段は高くてもオーガニックコットン等の環境に優しいサステイナブルな素材を使用した高品質な商品を選ぶ消費者も増えてきており、社会全体でそういった意識が芽生えているのだと思います」

しかし、サステイナブルを考慮した日本のファッション業界全体のトレンドは、欧米諸国と比べるとまだまだ遅れている部分も多く、特に欧米と日本とでは消費者意識の間に大きな差があると水野は感じているという。ODM・OEMを中心にアパレル製品の生産を行う水野自身も、アパレル業界の現状に大きな問題意識を持っている。

水野 「ニュースや記事などでも話題にもなっていますが、僕が今一番問題だと感じているのは、洋服の在庫廃棄が多いことです。僕は、アパレル製品の生産を担う立場として、業界全体を変えていく為の新たな取り組みが必要だと考えており、トレンドの牽引は我々商社の使命であるとも感じています。商品を企画・提案する際は、サステイナブルの重要性をプレゼンし、理解してもらうことも多いです」

そんな水野が働く日鉄物産では、ファッション業界全体のトレンドを牽引すべく、サステイナブルをコンセプトにした展示会を開催したり、持続可能なアパレル産業構築を目指す団体に加入したりしている。

水野 「日本のファッション業界でサステイナブルに対する意識がやっと芽生え始めた3年前くらいから、当社では『サステイナブル』をコンセプトにした展示会を開催しており、年に2回、大きな展示会を継続的にやっています。

まずは、そこで経営者やバイヤーの方々にサステイナブルの重要性を認識・理解してもらうことが大切だと考えました。その結果、そこから徐々に日本でもサステイナブルに対する意識を広げることができたかなと思っています。

また、当社はアパレル製品を担う商社としていち早く『SAC(Sustainable Apparel Coalition)』 に加入し、サステイナブルな生地を使用しています。SACは2010年にパタゴニア社とウォルマート社によって設立された、サステイナブルなアパレル産業構築を目指す団体です。

日本では、2020年現在6社が加盟していますが、商社として入り込んでいったのは当社が初めてで、繊維業界のサステイナブルの先駆けとしての役割を担ったともいえます。自分の目指す方向と会社の目指す方向が一致しており、大変大きなやりがいを感じています」

営業の仕事はストーリーが大事──自分自身がその製品に惹かれるか?

▲2020年現在の水野

「人本位の商売」「実力主義の環境」を求めて就職活動を行っていた水野は、日鉄物産のOB訪問で「将来、自分はこんなことをしたい。新しいことにもチャレンジしたい」とイキイキと話す営業社員に出会って魅力を感じたことが1つのきっかけとなり、商社業界への入社を決意した。

アパレルにはもともと興味があったが、4つの異なる事業を展開する日鉄物産において、入社前から繊維事業本部を強く希望していたわけではなかった。繊維事業本部を選んだのは、鉄鋼などと比べて洋服は身近でイメージがしやすかったからだと水野はいう。

水野 「ファッションや繊維に対して最初から興味がなくても仕事はできます。どちらかというと、ファッションや繊維に興味があるかより、ものづくりや仕組み作りに興味があることの方が大事なのかなとは思っています」

水野は2016年4月に入社した後、1年間は法務や与信管理、物流管理などバックオフィスの業務を行い、基本的な商社の機能について学んだ。2年目からはレディス衣料部門に配属され、先輩の営業のアシスタント・生産管理業務を担当。

3年目で営業として独り立ちした後、2020年現在は大手レディスアパレルメーカーの営業を担当し、製品・生地サンプルをもとに先方への企画提案を行ったり、先方からの提案を形にしていったりとODM、OEMを中心にアパレル製品の生産業務を主に行っている。

水野 「営業において大事なのはストーリーだと思っています。製品そのものの提案のみならず、世の中のトレンドや、流行りの製品・生地、お客様のブランドコンセプトや既存商品を理解した上で、様々な情報をロジカルに組み合わせ、お客様がより納得して前に進める提案を意識しています。一つの道筋をつくるような、その納得してもらうロジカルな道筋がストーリーであり、大切なことだと思います。

そして何より、自分自身がそれを作りたいのか、わくわくするのかについても重要視しています。新しいことに挑戦できるときは商社業界に入社した時のことを思い出し、いつも胸が躍ります」

BtoCプロジェクトを立ち上げ、新製品でクラウドファンディングに挑戦

▲『Makuake』プロジェクトメンバーでの集合写真

「サステイナビリティ」や「サステイナブル」をキーワードとして業界の変革が求められる中、日鉄物産の繊維事業本部は2020年7月、初めてBtoC事業に取り組み始めた。そのプロジェクトにアサインされ、リーダーとして推進したのが、当時入社5年目の水野であった。

会社としてこのような取り組みを始めた理由は大きく二つあると水野は語る。

水野 「ひとつは、サステイナブルな商品を直接消費者に売り込むことによって、トレンドをつくりつつ、会社としても名前を売り込みたいということです。

また、現場レベルでは、商品を売ることで売上・利益を出したいというのも大きな目的でした。もうひとつは、業界の変革に伴い、BtoBで製品の生産量が減っていく流れの中、BtoC事業を今後のひとつの方向性にする可能性を見いだしたかったからです」

その具体的な企画内容は、クラウドファンディングサービス『Makuake』を活用した、働く女性のコーディネートをサポートするTシャツ「5秒でキマる!365日着る大人女子のパックT」の販売だった。

水野 「僕は、プロジェクトリーダーとして携わることになったのですが、ゼロベースから企画を考えるということは、普段はお客様がやっているプロセスなのです。

通常、僕らがお客様に提案する際には既にブランドコンセプト、軸が確立されています。なので、商品コンセプトなどについてゼロベースから企画を考えることは新鮮でおもしろかったですね。その一方で、本当に売れるのかなという不安やプレッシャーもありました」

期待と不安を抱えつつ、水野たちのプロジェクトは新製品の企画を打ち出した。

水野 「ある程度コロナウイルスが収束して、出社する人の割合も増えてくるのかなという前提のもと製品を企画しました。家でも外でも着られるようなきれいめの、レディス向けカットソーがあったらいいよねという発想でした。

また、8月末に消費者のもとに届くというのが最短のスケジュールであったので、夏と秋先にも着られるようなものを考え、フレンチスリーブTシャツと7分袖の2枚組商品をつくりました。素材にはかなり拘り、自社で開発したリサイクルリヨセル×オーガニックコットンスムースを使用しました。サステイナブルな“トレンド“を”当たり前“にしたかったことも狙いの1つでした」

しかし、クラウドファンディングの結果、目的金額には到達しなかった。そのため、プロジェクトは120%の失敗に終わってしまったと水野は語る。

水野 「プロジェクトチームで振り返りも行いました。そこで議論に上がったのは、本来であれば自分たちが本当に欲しい製品かどうかというところを詰めるべきということです。『本当に周りの人たちに勧めたい商品だったか?』『最後までこだわれていたか?』と聞かれると自信がないですね。

市場調査を各個人で行い、こんなものが売れそうじゃない?という考えには至りましたが、やっぱり、自分が欲しいかといわれると微妙で。ターゲットを定めて、ペルソナをつくってというマーケティングが甘く、さまざまな情報に踊らされたことで、本質的なところを見落としていたような気がします」

失敗は学びの種。販路を広げて、結果を出したい

▲プロジェクトメンバーの後輩と製品に関して打合せ

Tシャツのクラウドファンディングは失敗に終わったが、この失敗から学べたこともたくさんあると水野は語る。実際、水野の挑戦を皮切りに、他の部門でも『Makuake』を活用したBtoCプロジェクトが多く立ち上がっている。

水野 「ひとつは、チームで妥協をせずに話し合いをしていくことの重要性です。チームの中には繊維業界の常識にはまだ染まっていない、より消費者目線に近い後輩もいた中で、その意見を引き出せなかったんです。今後は年次など関係なく、後輩でもより意見を言いやすい環境をつくりたいです。

もうひとつは、お客様が普段していることは、とても難しいことなんだなと知ることができたことです。これは特に普段の業務にも跳ね返るような学びでした。企画自体は失敗してしまったんですけど、そこから学んで変えていかなきゃいけないという気持ちが強いですね」

失敗から学びを得た水野は、新たな挑戦を志し、今後の展望を語る。

水野 「今後も新しいことにチャレンジしていきたいです。もちろん、繊維のものづくりに主軸を置いて取り組む必要がありますが、販売先の選択肢を増やし、販路を広げていく必要があると感じています。

たとえば最近、ECサイトでしか販売していないアパレルブランドに販路を広げられた例もあります。このように、常にアンテナを張って、どれだけ販路を広げられるかということに挑戦したいです」

水野は販路の拡張に狙いを付けつつ、営業としての成長も見据えている。

水野 「営業はやはり数字で評価される世界なので、部内で一番の営業になり、事業部内でも存在感のある人になりたいです。『数年後に自分もこういう数字を残したいな』と思える、目標にしている先輩がいます。

入社前に思い描いていた通り、『あなただから任せます』というような商売は多々あります。そんなふうにお客様から信頼されて、数字も取れる営業に僕もなりたいです」

部内ナンバーワンの営業を目指して挑戦を続ける水野が、日鉄物産の仲間とともにファッション業界全体のトレンドを牽引してくれる未来が楽しみだ。