繊維業界の商社ではたらく女性営業職の「喜び」と「強み」とは

木村 「『繊維業界にも商社が必要なの?』と不思議に思うかもしれません。ですが、実は商社は人の身近にある服の生産に密接に携わっており、OEMとODMという二つのモデルを通してものづくりをしているんです。OEMを簡単に説明すると、私たち商社がアパレルブランド等のお客様の代わりに生産を担うこと。ODMは生産だけではなく、商品のデザインまで商社から提案することです」

木村のお客様であるアパレルブランドは、今年の秋ごろから、来年の春夏商品をつくり始めます。ニットやカットソーでそれぞれつくりたいものを決め、自社でつくるものと商社のようなODM/OEMメーカーに頼むものを割り振り、マッピングして、私たちに依頼します。

そのため、最初の依頼は、お客様が固めた商品のイメージに合った糸を探すことから、最終的には納品にわたるまで、生産全体に携わります。

木村 「ニットは糸の種類がとくに大事。イタリア糸や中国の糸など、多種多様な糸の中から、イメージや予算に合わせてご提案します。糸が決まるとお客様から仕様書が上がってくるので、決まった糸でサンプル商品を編み、修正を重ねて現物の作成に進むというのが仕事の流れです」

毎年新しい糸が出ていて、トレンドも常に変化していくので膨大な知識が必要です。こうしたトレンドを知るために木村は自他関係なく常に店頭を見ることを意識しています。

木村 「プライベートで買い物をしている時も周りにいるお客様の声は気になりますし、自分が買いたいなと思ったものに対しても『ここはもっとこうしたらいいのに』や『こういうふうになっているんだ』とつい仕事目線でみてしまいますね。実際に買い物をしている自分の目線はお客様目線でもあるので、その視点は大事にしています」

店頭では、学びだけではなく達成感を得られる瞬間もあります。

木村 「学び続けるという点に関しては、正直なところかなり大変です。でも、そうした苦労を経て実際に自分が担当した商品を着ている人を見かけたり、店頭で一番正面のボディに商品が出ていたり、インスタで写真が上がっていたり…そういう瞬間は心の底から嬉しいですね。営業は、数字を求められる仕事なので、売上があがると嬉しいのはもちろんですが」

女性だからこその強みを活かした成功体験もあると、木村は振り返ります。

木村「商品のプレゼンは誰でもできるし、人によっていろんなプレゼンスタイルがあると思います。その中で、私は担当している商品のターゲットと同じ女性かつ同じ年代なので、その視点で『可愛い』と言えるのはプラスだと捉えて提案することが多いです。そのほうが信頼していただけるなと手応えを感じていますし、実際にお客様から『そこが木村さんの強みだからどんどん提案してきてほしい』と仰っていただくこともあります」

商社業界では、女性の営業職は決して多くありません。一方で、繊維業界全体の就労人口は8〜9割が女性で、お客様も圧倒的に女性が多いのが実態です。

そのような中で、お客様との関係性をいかに構築していけるかーー。木村の考えも常にアップデートされています。

木村「去年あたりから、仕事の対人関係において性別は関係ないことに気づきました。女性であれ男性であれ、相手に対して提供できる価値は発揮するべきだし、楽しく気を遣って仕事をすることが大事なんです」

プラスアルファの価値を求めて──日鉄物産で学んだ商社のいろは

木村が商社で営業を志したきっかけは大学時代約2年携わった、ゴルフ場に併設されているレストランでのアルバイトでした。

木村 「お客様に合わせたプラスアルファを自分で考えて提案するのが楽しかったんです。例えば、お客様一人ひとりの特徴を覚えて、『この人が来たら、注文されなくてもこれを出す』『あの人はお酒を飲む人なので、食べ物は濃い味付けにすればいいのでは』など。自分で考える習慣はそのときについたように思います」

このような経験から、木村は将来のキャリアにおいても、「プラスアルファの価値」を提供できる仕事を志望するようになっていきました。

木村 「私に合うのは、ただ決められた物を売るのではなく、新たに価値を生み出せる商社なんじゃないかと考えました。また、実際にビジネスに携わりたい、自分で考えながら動ける職種がいい、と考えていくうちに、だとすると営業職かな……と徐々に志望が絞られていきましたね」

現在は繊維の営業部門に所属している木村ですが、就職活動中は商社の中でも鉄鋼商社を志望していました。

木村 「振り返れば安易な考えかもしれませんが、世の中にはいろいろな商材があるものの、広い世界で大きなものを動かすのが商社だ!というイメージがあり、大きなものを動かしているイメージが強かった鉄鋼にいきたかったんです」

しかし日鉄物産に入社が決まった後、新人研修期間中から「私はもしかしたら鉄鋼事業本部への配属じゃないかもしれない」と木村は感じていたと言います。 その予感は的中し、木村は繊維事業本部に配属されることになります。

木村 「私の顔を覚えて挨拶をしてくれる人が繊維の人が多かったので、『もしかしたら繊維に配属されるのかな?』と。とは言え、四つの事業本部を持っている日鉄物産に応募した時から、想像も覚悟もしていましたし、あまり深く考えずに鉄鋼を志望していたので、そこに対しての不満はありませんでした」

当社の他事業本部は、新入社員として入社後約1か月半の新入社員研修を終えた後、各部署へ配属されるのに対し、繊維事業本部の1年目は研修。まだ営業には出ず、コーポレートで為替や貿易など、営業に最低限必要な知識を学ぶ1年間を過ごしました。

木村 「営業部に配属されたあとは、担当するお客様は少なかったのですが、営業だけではなく生産管理も経験できました。たとえば仕様書もデザイナーに任せきりにするのではなく、どういう形でどういう大きさのものを作っているのか…を見ることができたのは、とてもいい経験でしたね」

つながりを大切にすることで、つながりに助けられる

日鉄物産に入社して5年。さまざまな成功や失敗を経験していく中で、木村は営業として着実に成長しています。

そんな彼女が、いま仕事をする上で大切にしていることは二つあると言います。

ひとつは、必ず約束を守ること。

木村 「たとえば、生産管理は社内からの頼まれごとが多い仕事です。対応が漏れたりしてしまうと『あの人の依頼はやっているのに、こちらのことはやってくれない』と信頼が損なわれてしまうので、誰の依頼であっても、引き受けたことをちゃんと最後までやるというのは、基本的なことですが絶対に忘れてはいけません。

もちろん、お客様や工場に対しても同じです。それで信頼関係も変わってくるし、自分が逆の立場であっても約束を守って欲しいと思うので、それは絶対に欠かせません」

もうひとつは、絶対に楽しく仕事をするということ。

木村 「営業と言えども数字を追いかけるばかりでは考えも凝り固まってしまい、真面目にやりすぎるとしんどくなってしまいます。楽しくプレゼンをすることでお客様にも響くと思いますし、周りの人も楽しそうだから一緒に仕事をしたいと思ってくれて味方も増える。

とはいえ実際にやるのは難しくて、時には落ち込むこともあります。でも、そういう時でもあまり周りには見せすぎてはいけないなと思うんです」

こうして積み上げてきた信頼関係の中で、救われた経験もたくさんあると木村は振り返ります。

木村 「たとえば、お客様のアテンドで出張にいく時は、他のお客様の対応をすることができないので、生産管理の方やデザイナーさんにすべてをお願いしています。『頑張っておいで』と優しく見送っていただけるので、出張先で思う存分仕事ができるんです。

それに工場の方とも、『木村さんだから特別にこの値段でやるよ』とか『スケジュールに間に合わせるよ』と言ってくれるので、日頃からちゃんと関係を築けているからこそ、いざというときに助けてもらえていますね」

木村曰く、「営業はあくまでも依頼をもらってくる仕事」ですが、依頼をもらったその後は、生産管理、デザイナー、工場と次々と仕事がバトンタッチされていきます。そういったチームプレイがあるからこそ、そのつながりに助けてもらえると木村は考えているのです。

仕事でもプライベートでも、プラスアルファの価値を追求したい

木村 「私ひとり、または営業ひとりでは提供できるノウハウは少ないと思いますが、当社は自社工場があるので、そこが持っている知識やノウハウを生かせます。過去にない事例が発生してもすぐに頼める環境ですし、お客様をフォローできる。これは日鉄物産だからこそです」

そういったノウハウを活用し、プラスアルファを提供できる仕事をしていきたい──木村は、繊維事業本部としてより価値を発揮できるのではないかと考えています。

木村 「日鉄物産の繊維事業本部としてはやはり”ものづくり”が大きな強みです。自社で持っている工場があるので、厳しい依頼に対してもなんとか応えてくれて、実現ができます。お客様もその強みを理解した上で依頼してくれる方も多いんです。

そこに加えて、ものづくりだけでなく糸などの素材開発もできれば、お客様により頼ってもらえる万全の体制ができます。ただ、そこの開発については私だけだと知識が足りないので、知識が豊富な先輩たちを巻き込みながら取り組んでいくつもりです。これが私たち繊維事業本部として取り組んでいけるプラスアルファの価値なんじゃないかなと」

仕事以外でも、日鉄物産で成し遂げたいことはあります。2020年現在、繊維事業本部の中では結婚や子育てをしながら営業している女性社員は多くありません。木村自身が家庭を持ちながらも営業ができる環境作りに先陣を切って取り組むことで、会社に声を届けて実現させていきたいと考えているのです。

 木村 「個人としては、長く働ける環境作りを推進していきたいです。3〜5年後には子どもがいたらいいなと。生まれて数年の大変な時期でも、テレワークや時差出勤を活かしながら、今と同じような状況で仕事ができたらなと思いますね。容易ではないでしょうが、そこがまず目指すべき第一地点です。

そして、10年後くらいには子どもも手を離れる時期だと思いますし、その頃にはマネジャークラスになって、課を担える営業になれたらいいなと思います」

今はまだ20代。周囲からは「20代の女性営業が一番大変だ」とも言われています。しかし、木村はあくまで自身のキャリアを前向きに捉えています。

木村 「私は人生経験も仕事の経験もまだまだ浅い。そこに立ち向かう日々が続きますが、結婚や出産などを経て、人生経験を積めば、お客様に対して『なんでもやります!』ではなく優しくフォローできる仕事の仕方ができるんじゃないかなと感じますね」

仕事だけではなくプライベートも充実させ、やることすべてにおいて「プラスアルファの価値」を求める木村の挑戦はこれからも続きます。