社員による自律的なキャリア形成と適所適材での活躍をめざして、新制度を導入
私が所属する人財企画部HRプランニンググループは、異動や評価・報酬、教育など人事に関わる多くの業務を担当しています(2023年3月取材当時)。業務範囲は幅広く、教育ひとつ取っても新入社員・若手向けの研修から、次世代リーダー候補を育成する選抜教育までさまざま。そんな中で、私がメインで担当しているのが「ジョブチャレンジ制度」です。
ジョブチャレンジ制度とは、各事業部から全社に公開される募集ポジションに対して社員自ら応募できる、社内人材公募制度。各組織が募集ポジションを公開したのち、応募者の書類選考や募集部門との面談を経て、マッチングした場合に異動が成立します。
会社にポジションを割り当てられる組織主導の人事異動と違って、ジョブチャレンジ制度では社員自身がチャレンジしたい場所に主体的に応募・異動が可能に。「社員による自律的なキャリア形成」と「会社としての適所適材での活躍推進」の両立を図ることができると考えています。社員としては新しい挑戦ができ、組織としてもモチベーションの高い人材が獲得できる。双方にとってWin-Winとなるものです。
また、社員の自発的なチャレンジを促す目的もある以上、応募に際しては上司承認を必須としていません。もちろん事前に上司に相談した上で応募する方もいますが、なかにはそこにハードルを感じる方もいるはずですから。応募時には直接募集部門へ希望を届けられる仕組みとなっています。もし結果的にアンマッチになった場合は、応募したという事実も所属部門には開示しません。このように、どんな社員にも安心して制度を使ってもらえるルールづくりを行っています。
私は上司1名のチームで制度を運用しています(2023年3月取材当時)。マニュアルも用意しましたが、まだ新しい制度であるため日々社員の疑問に答えられるよう、ヘルプデスクも設置。社員と組織双方において滞りなくジョブチャレンジ制度を使ってもらうため、日々奔走しています。
働き方や価値観は人それぞれ。キャリアコンサルタントとしての学びが活きる
ジョブチャレンジ制度がスタートしたのは2020年。実はこの新制度、設計から制度導入までおよそ1カ月半という、かなりのスピードで進めた施策でした。
最初は大まかな内容しか決まっていなかったため、異動に至るまでのプロセスをまずは整理。公募のタイミング、選考フロー、部門から出してもらう募集ポジションや社員が提出する応募書類の項目の設定など、細かい部分まで慎重に一つひとつ決めていきました。
こうした制度の設計は初めてでしたし、私自身、組織主導の人事ローテーションの中で育ってきたため、知らないことだらけ。そのためゼロから勉強をして、制度を作り上げていきました。
実はこの制度を立ち上げる少し前に、国家資格キャリアコンサルタントを取得したんです。きっかけは人事の先輩からのアドバイスで、おすすめの資格を教えてもらったこと。もともと私は総務や労務の仕事をしていたのですが、配属が人事に変わって社員と対話する機会が格段に増え、一人ひとりのキャリアをサポートするにあたりこの資格取得への学びは確実に役立つだろうと。自分自身の強みになると確信して勉強を始め、取得に至りました。
資格取得の講習では、キャリア理論の学習のほか、実際に受講生同士で話を聞き合う“傾聴”のワークがかなり長い時間を占めました。相手と信頼関係を構築しながら受容的な態度で接する傾聴。この経験は、現在の社員との対話の機会でも活かされています。
そして何より、さまざまなキャリアについての考え方に触れ、働き方や価値観の幅の広さを学んだことが、私にとっては非常にプラスでした。たとえば私は、みずから仕事を選んでチャレンジするというより、アサインされた業務に自分の成長やモチベーションなどを紐付けた意味を持たせて努力するタイプ。ですから、これまでのキャリアを振り返っても、人との縁や偶然性を大切にしてきました。
こうした私の考えに近い人もいれば、まったく異なる考えを持っている人もいますよね。大切なのは、その多様性を知った上でいちばん自分に合ったものを取り入れること。これは新鮮で大きな学びでした。
ジョブチャレンジ制度は、異なる考えを持った社員一人ひとりのキャリア形成をサポートする制度でもあります。資格取得を通して学んだことも意識しながら制度の設計を行ったので、私自身もキャリアについてより視野を広く持って考えられた気がします。タイミングにも恵まれ、タイトなスケジュールの中でもやりがいを感じながら進められました。
150人以上が制度を活用し希望の仕事職種へ。社内でのチャレンジ機会を増やすことに
制度が開始してから、実際にジョブチャレンジ制度を利用して異動した人数は150人以上(2023年3月31日現在)。希望者はその倍以上におよびます。
当社には1万2,000人を超える社員がいて、メインの職種は技術職ですが、その仕事内容は多岐にわたっています。お客さまの課題発見から提案、設計、開発、運用保守まで網羅しておりますし、お客さまの業界も非常に多種多様で、官公庁、金融、医療、製造業、サービス業など、さまざまな領域に関わることができるのも魅力です。
そのためひと口に技術職と言っても、一人ひとりのキャリアがまったく異なります。自治体のお客様とお仕事をさせていただいている人もいれば、自動車・モビリティの領域で開発をしている人もいる。一方で、社内では自分の担当領域以外のところはまったく知らないという方も意外と多いのです。
社内にさまざまな業務があるということは、チャレンジの機会が多く存在するということです。そして、それを知らずにいるのは非常にもったいない。制度を利用した人へのアンケートに「たくさんの求人票を見て、こんな仕事もあるんだとはじめて知った。視野が広がってチャレンジへの意欲が湧いた」という声がありました。
制度の存在が、転職しなくても社内で多様な経験ができる、という会社の魅力の発信につながっていることは、運用を始めてから気づいたメリットでしたね。
また、社内のオンラインイベントに参加して、異動成立者へのインタビュー配信を行いました。「どういう思いで応募したのか」、「実際に異動してみてどうか」、「制度を利用してキャリアにどんな影響があったか」などの質問を私がファシリテーターとして質問し、実際に異動した社員に答えてもらいました。
インタビュー配信を行う前は皆さんに参加してもらえるか不安だったのですが、結果的に参加してくれた視聴者は500人以上。人数を見て少し緊張感が高まりましたが、社内でこの制度に興味を持ってくれている人がこんなにいるとわかったのは非常に嬉しいことでした。
インタビューのなかで「今後のキャリアを考えて、新たな領域でも経験を積みたくてチャレンジした」という前向きな発言もありました。制度の目的である“社員の自律的なキャリア形成”が実現されつつあり、さらに次のステップにつなげていることを実感。この制度を立ち上げて本当に良かったと思えた言葉でした。
制度の存在がメンバーと組織双方の成長・活性化につながる
制度が始まってから、社員が利用しやすくなるような改善は繰り返し行っています。
たとえば、当初は期間を限定して半年に1回実施する形でした。まず募集ポジションの募集期間があり、次にすべての募集ポジションを一斉に公開して、社員が一定期間応募できるという流れ。ただそうすると、応募期間は過ぎているけれど応募したいという人が出てくることも。社員・組織にとって適切なタイミングはそれぞれ違うはずだと気づいたことで、2022年11月からは期間を自由化し、随時募集と応募ができるようにしました。
実施時期の自由化により、応募から結果までのプロセスがスピーディーになりました。それまでは、結果の通知も一律のスケジュールに組み込んでいたので、部門によっては判断から結果通知まで待たせてしまうケースも。そのバッファがなくなり、社員・組織双方にとってより活用しやすいかたちになったのではないかと考えています。
今後も引き続き、ジョブチャレンジ制度をもっと幅広く使ってもらえるものに育てていきたいですね。まだこの制度を知らない人や、知っていてもハードルを感じている人も大勢いるのではないかと思いますので、まずは周知活動を継続して行い、制度が生まれた背景にある思いを伝えていきたいです。
このことは会社にも良い作用をもたらすと考えています。各部門にとっては、現メンバーの異動や新しいメンバーの加入がいつ来るかわからない状態。自部門のメンバーとキャリアについての会話を増やしたり、より強い信頼関係を構築する仕組みがつくられたり、といったことが期待されます。また、外に向けて今以上に魅力を感じてもらえるような組織づくりがなされるかもしれません。
そのうえで社員のチャレンジを応援する風土があれば、さらに安心して制度を利用してもらえる好循環が生まれるはず。実際に異動が成立した人からも「元の部門の上司には背中を押してもらった」という話を聞きます。上司にもメンバーにもこの制度を知ってもらうことで、組織と個人がお互いに成長できる状態が理想ですね。
繰り返しになりますが、NECソリューションイノベータではひとくちに技術職といっても働き方は多種多様。こんな仕事をしてみたい、こんなふうに成長したいというビジョンを実現するチャンスがたくさんあり、あらゆる可能性に満ちています。そして、そのチャンスを誰でも活用できるようにする仕組みがジョブチャレンジ制度。
一人ひとり思い描くキャリアも違えば、大切にしている価値観も違う。そういういろいろな想いを持った社員が1万2,000人以上いるということを常に忘れず、私としても人事の役目を全うしていきたいと思っています。