自分の給料は自分で稼ぎたい。画像認識システムを活用した独自の事業を模索
私がシニアマネージャーを担当している部門は、NEC製品の受託開発や保守を主に行っています。私および部門のメンバーを信頼して、お仕事を依頼していただけることは非常にありがたいですが、昔から、仕事は「いただけるもの」ではなく、「自分で作りだすもの」にしたいと考えていました。そこで、NECの仕事のほかに、当部署の独自の技術を確立して、プロジェクトの創出にも取り組んでいます。
プロジェクトの創出として、何に取り組んでいるかというと、AIや画像認識を活用した取り組みです。仕事につながった具体的な例としては、まだまだ少ないですが、たとえば岐阜県を流れる長良川を遡上する鮎をカウントするシステムを構築しました。遡上する鮎は、人の目でみることも難しいですが、それを、画像認識の技術を活用して自動でカウントするという内容です。
もちろん私たちは営業職の部門ではないので、新しい分野を自ら積極的に開拓するのはそう容易ではありませんが、いろいろな方々の助けを借りながら、画像認識という文脈の中で私たちができることを探っています。正直、ほとんどが失敗ですが、小さな失敗を繰り返し経験しながらも、少しでも新しい仕事を作り出すことができるように、活動を継続しています。今では、このような自主的に働きかけて創出した業務が全体の2割くらいを占めるまでになってきました。
実は、私は大学では水産学を学んでいた身です。ITについてまったく知らず、パソコンも持っていない状態でこの業界に入ってきたのです。当時は、今でいう「ガラケー」が世の中に浸透しつつあるころ。「ITってこの先に大きな可能性があるのではないか」と感じて飛び込みました。私の根本には、いろいろなことにチャレンジし続けたいという気持ちがあるので、「ITの会社に入ったら今は想像もしていないようなおもしろいものが作れるのかも」という軽い気持ちでしたが、 ご縁をいただき入社に至りました。
せっかくITを取り入れるなら、将来の仕事につながる技術の習得を目指したい
2023年2月現在、私は会社に正式な申請をした上で、株式会社協働日本という企業で兼職をしています。「協働を通じて、地域の活性化と働く人の活性化を実現する」をテーマに、さまざまな会社のスキルを持った方が何百人と集まってチームを組み、地域の中小企業の経営者に伴走しながら、経営課題に取り組むという活動です。その中で、鹿児島県の株式会社サクラバイオが手掛ける「グッジョブグループ」の経営者の方からお話を聞く機会がありました。こちらは、発達障がいや不登校の子どもたちの放課後等デイサービスなどを展開している事業でした。
私が驚いたのは、そういう子どもたちが成人したときに、多くの方がまともにお金を稼ぐことができていないという現状です。けれども実際に子どもたちに会ってみると、まったく普通であり、私からすれば個性があっておもしろい子たちが集まっている、という印象でした。少子化が問題になっていて多様性が重要視されてきているのに、なぜ大人になって生きづらくなってしまうのか、大いに疑問に感じたんです。
この経営者の方はITの重要性を理解していらっしゃって、放課後等デイサービスでもIT講座を取り入れていました。しかし、教えられることはスクラッチやマインクラフトなどのゲーム系が主で、それを学んだからといっても将来の仕事に直結するタイプのものはありませんでした。その点、私の立場や経験からなら将来の仕事につながるITを教えられる。自分の強みを活かしてここで貢献できるのではないかと考え、子どもたちに向けたIT講座を開講することになったのです。
このプロボノ活動を含めた兼職について会社に報告したときは、兼職に伴う負荷を見越して体調面をまず心配してもらいました。その上で、本務であるNECソリューションイノベータの仕事に影響が及ぶようであれば会社としては認められないと念を押されています。もちろん私としても、本務のパフォーマンスを下げないつもりで活動をしています。
忙しくなるのを承知で兼職及びプロボノ活動するのは、自分自身の成長につながると考えている部分もあるからです。以前、NEC本社に出向した経験がありますが、場所や人などの働く環境が変わったことで、大変なことも多かったですが、自分の成長を感じられました。40代を迎えた今、自分の人生を考えたときに、もっと成長しておきたいと感じました。20代・30代で頑張っておけば40代という期間は、もしかしたら惰性で走りきれるかもしれません。
でも、40代に頑張っておかないと、50代で成長が鈍化してしまうと考えています。40代でもっともっと成長しておけば、50代、それ以降の人生をしっかりと走り切れるのではないか──そういった考えと、もう少し外に出て自身の力を試しながら社会還元して活動してみたい、という気持ちから、兼職やプロボノ活動につながったのだと思います。
もちろん、自分一人の小さな力では難しいこともあります。しかし、いろんな人を巻き込みながら行動すれば、小さいかもしれませんが、変化を起こせるかもしれない。現在は、企画したIT講座に共感してくれたNECの3名と、NECソリューションイノベータの4名が一緒になって、カリキュラムの設計やテキスト作成、オンラインでの講師を行っています。
人の喜ぶ反応を肌で感じられたことが、働く意味の再確認につながった
今年度実施しているIT講座では、大きく2つのテーマを教えています。1つはホームページの作成。もう1つは画像の編集やデザイン。やってみると、思っている以上に、子どもたちから反応は返ってきません(笑)。リモートによる講座であることに加え、みんな恥ずかしがり屋でコミュニケーションが苦手という特徴があるからだと思います。ただし、講義を重ねることで、慣れてきて、今では、Zoomのチャットを使いながらコミュニケーションを取っています。
そして、嬉しい結果も出てきています。一人のお子さんは引きこもりで家から一歩も出られない状況でしたが、IT講座があるときだけは家から出て放課後等デイサービスの場に来てくれているのです。しかも、毎週欠席することなく。
もう一人のお子さんは、もとからITに興味があって、すばらしい編集技術を持っているのですが、趣味の世界でやっているだけだと自分も周りも決め込んでいました。でも、ITの世界のプロに教えてもらっているということが自信になったのか、自分も将来はITの仕事をやってみたいとお母様に話したと言うんです。それを聞いて、すごく嬉しかったですね。
人が喜ぶ反応を肌で感じられるというのは、自分にとって意外なプラスの効果でした。本務の仕事の方は、製品を使うお客様と接する機会は少ないです。自分たちで作ったソフトウェアは、いったんNECの製品として出荷され、それを使っているのがお客様なので、自分たちからは顔が見えないのです。人と人とのつながりって、思っている以上に大事なのかもしれませんね。働く意味を再確認させてもらえたことで、本務のモチベーションアップにもつながっている気がします。
このプロボノ活動について、同じ想いを持つ方、感じてもらえそうな方には、ぜひ一緒に参加してもらいたいですね。同じ想いを持った人が増えれば、教わる子どもたちにとって、プラスになる可能性はあると思います。いろいろな技術や考え方を吸収できる機会があれば、子どもたちはより大きく成長できると思うのです。
教える側にもプラスの効果はあります。私自身が兼職して気づいたのですが、自分たちは、思っている以上に方法論が好きで、自分の言いたいことを伝える傾向が多いです。誰かに何かを教える場合、当たり前ですが、「自分が何を伝えたいか」ではなく、「相手が何を知りたいか」に思考が変わります。これはマーケティングの基本でもあり、お客様思考の考えが身につくはずです。ITを知らない人に教えることで、自分の言語能力も鍛えられるので、自分の成長にもつながっています。
外に出なければ人とのつながりは生まれない。迷ったら行動あるのみ
2022年6月に開講した講座は10カ月ほどで一旦終了し、2023年4月からは動画編集をテーマにした講座を開く予定です。今後は、このような取り組みを鹿児島から全国に広げていきたいですね。発達障がいのある子どもたちや不登校の子どもたちに、早くから働くことにつながるITを学んでもらい、しっかりと自分で働き稼げる人材として社会に出てもらえたら、そういう子どもたちに対する社会のとらえ方も違ってくるはず。まずは活動の認知を日本全国に広げていきたいと考えています。
自分自身がここまで、この取り組みにワクワクしている理由として、この業界に入ったとき、ITのことが全然わからないという劣等感からスタートしたという経験が自分の根底にあるからかもしれません。興味だけでITの世界に入ったので、実際に働き始めた当初はわからないことしかなかったと、今振り返ってみると思います。決して才能に恵まれているわけでも、器用に生きているわけでもありませんが、自分なりに頑張って、ここまでやってきました。
ですので、今、教えている生徒、これから教えることになる生徒に対して、昔の私と同じように「ITのことがわからない」という状態から、今の私のように「ITも楽しいし、変化も楽しい」と思えるための伴走ができればと思っています。
私もいろいろな挑戦や失敗を繰り返していますが、これまで唯一、一貫して心掛けてきたのは、「行動すること」と、「選択肢があるときには大変な方を選ぶ」こと。VUCAという言葉で象徴されることもある現代は、変化が多いからこそ、自ら考えて行動することが必要だと思います。私が尊敬する経営者の方の言葉に「イノベーションが起きるかどうかは移動距離に比例する」というものがあります。移動する(=行動する)と普段とは異なる体験ができ、その体験が新しい気づきにつながり、結果としてイノベーションの可能性を高める。プロボノや兼職へ取り組む根本的な考えは、同じであり、行動することが、自分の成長につながっているなと思います。
自分の領域の外に出て行動するというのは、最初はつらいこともあるかもしれません。勇気がいるかもしれません。けれども、自分が知らない世界に触れ、その世界が頑張り続けると、数年後には自分が成長したという実感が持てるはずです。みんなが少しでも行動することで、会社自体が成長し、ひいては日本が活性化していくのだと信じています。私と共に、変化を楽しんでいきましょう!