ものづくりの魅力を忘れられず車掌を退職。大学進学を経て切削研究室へ

▲ミニF1大会『学生フォーミュラ日本大会』の様子

2013年に不二越に入社した栗田 祐希は、工業高校を卒業後、一度鉄道会社に就職した経験があります。

栗田 「工業高校に通っていたころは、ものづくりに興味はあったものの、どのような仕事に就くか、まったくイメージが湧いていませんでした。製造系の仕事につく人が多い中、なんとなく変わった仕事がしたいなと思い、車掌の道を選びました。

ただ、実際に仕事に就くと情熱を感じることができず……。やはり、自分の手で作ったものを残していく、ものづくりの仕事がしたいと思うようになりました」

ものづくりの魅力を再確認した栗田は退職を決意。1年間の浪人生活を経て、大学を受験し、機械工学部に進学します。

栗田 「加工が好きだったので、ものを削る作業や材料に関する勉強を始めました。卒業の研究テーマで『学生フォーミュラ』という、学生によるミニF1大会に参加し、機械を触って削る作業を重ねてレーシングカーをつくりました。

狙った形の部品を削り出して溶接でぴったりとくっつけると、しっかりと狙い通りの寸法のものができる。そうした経験を通して、『削る』作業に大きな魅力を感じたので、大学院では切削研究室に入りました」

卒業後の進路として、工作機械メーカーや工具メーカーへの就職を志した栗田は、指導教授からの紹介をきっかけに、不二越と出会います。

栗田 「研究の中で不二越のドリルを使う機会も多かったので、とても気になっていました。会社訪問した際に想像以上に大きな企業だなと驚いたのですが、ここで働くことができたらかっこいいなと素直に思いました。『この工具は自分が作った』と胸を張って言える仕事をやりたいと思い、開発系の部署を希望しました」

2013年4月に不二越に入社した栗田は、新入社員研修の後、工具事業部 ラウンドツール製造所技術部の配属となりました。

栗田 「高校卒業後、特に目標を持たずに就職したときには、『自分はなんのために生きていくのだろう』と思い、まだ先が見えていませんでした。ですが、不二越に入社する際には、この仕事がしたい、という素直な希望を持っていました」

現場で技術と熱に触れ、開発者としての一歩を踏み出す

▲大学院時代の栗田

学生時代に扱っていた工具を作る側の人間になった栗田。配属先では、機械部品や自動車部品の加工など、あらゆるものづくりの現場で使用される、切削工具の開発を行っていました。

栗田 「最初の1年間は、ドリルの製造現場で機械操作を学びました。材料を大体の形に作って溝を切り、先端に刃先を付けるなど、いろいろな工程ごとに2~3カ月ごとにローテーションしながらの研修です。

どのようにしたら効率よくできるのか、今の状態だと何がまずいのかなど、現場の人たちが常に先の先を読んで作業に取り組み、日々プライドを持って思いを込めながら商品をつくっているのを目の当たりにしました。非常に貴重な現場経験でしたね」

研修を終えた栗田は、ドリル開発担当として、一歩ずつ歩みを進めていきます。

栗田 「『この材料を削ることが出来る、新しいドリルを開発してください』というようにテーマを一つ与えられ、そこに向けて開発をはじめました。上司に相談しながら進めていくのですが、知識がまったくなかったので、まず基礎固めが大変でした。

現状ある商品はどんな性能なのか、テーマに対してどこが足りていないのかを調べ、新たな設計図を作成します。形状を考えて図面に起こし、それを製造部門で作ってもらう流れです。

商品のことを考えるだけでなく、事前準備もしなければならないので、なかなか大変でしたね。試作品の評価に必要な材料や工具を発注したり、試験に必要な作業を担当者に書面で伝えたりするなど、事務的な作業も発生します。私は事務処理を覚えることが苦手なので、開発とは違った部分で難しさがありました。ただ、この工程も新しい商品につながっていると思うと、前向きな気持ちで取り組めました」

ユーザーの生の声を原動力に、タップの開発に取り組む

ドリル開発担当者として開発の基礎を学んだ栗田は、タップ(ねじ穴を作る工具)の開発部門に異動。後に栗田は、“超”モノづくり部品大賞 機械部品賞の受賞品でもあるHyper Zタップシリーズを皮切りに、開発者として多くの商品を生み出していきます。

栗田 「タップの開発に本格的に力を入れ始めたのは、Hyper Zシリーズが始まる2年ほど前のことです。タップの知識を持つ人が社内にほとんどいない中で、開発を進めていくことになりました。どうしたら良いのだろうと、日々悩みながら製品と向き合いましたね」

それでも、基本は同じ。お客様の声から、どのような評価をしていて、どこに困っているのかを丁寧に拾い上げていくことが、栗田が開発を進めるうえでのカギになりました。

栗田 「『従来の商品だと、精度の良いねじ穴が開かない』という声が数多く届いていると、営業の方から聞いたのです。そのお困りごとに応えられる商品を作ろうという想いが、Hyper Zタップシリーズの誕生につながっていきました。

試行錯誤を繰り返しながら1つ目の商品ができ、発売されてから少し経った頃、嬉しい評価が届くようになったんです」

この商品が出てから、ねじ穴が開かないという声はだんだんと減っていきました。そして「Hyper Zタップは良いですね。うちでも使っています」という声が上がるようになっていきます。

栗田 「こんな製品をつくりたい、という自分の想いが商品になることもちろん嬉しいのですが、それよりも、実際の生のお客様の声を聞き、『良いですね』と言ってもらえたことがなによりも嬉しかったですね」

その後も新商品、新シリーズの開発を続けた背景には、ユーザーから寄せられるさまざまな困りごとに応えたい想いがあり、直近ではZTフォーミングタップの開発に携わりました。

栗田 「お客様によって、長く使いたい、綺麗な穴を開けたい、連続で加工をするときにトラブルがないような工具がほしい、などニーズがそれぞれ違います。お客様の声を一つひとつ丁寧にうかがい、対応できる商品を世に出していくことを繰り返した結果が、多くの開発の実現につながりました」

自分で考え、議論も交えて実行する──“不二越イズム”を背景に成長を模索

開発担当一筋、不二越に勤務して8年になる栗田。彼は不二越の魅力を「やる気があればやらせてもらえるところ」だと語ります。

栗田 「個人の要望をしっかり聞いてくれる会社です。サポートもしっかりとしてくれる一方で、自分の頭で考えることも大切にしているので、『本当にそれで良いのか』と深い部分について指摘を受けることもあります。

そういった環境で開発に携わってきたので、私自身も、後輩に対して『どういう形状で試したいか』『どういう風に進めばうまくいくと思うか』などといった言葉をかけるようにしています。自分で考えられる環境だから楽しいのであって、一方的にやらされる仕事は楽しくありません。自分で考えて、実行することの大切さや、そこで得られる喜びを後輩にも感じてほしいと常々思っています」

栗田自身も「いろいろな考えを聞きたい」という願望を軸に、今後を見据えています。

栗田 「開発については、上司も部下も先輩も後輩も、みんなで意見を出しながら、討論しながら良い商品を作っていくことができれば、と考えています。議論をして、いろいろな意見が出た方が良い製品ができると思うので、意見を言いやすい職場や機会をつくっていきたいですね」

自身の経験を踏まえ、進路に悩んでいる人に対しては「自分が何をしたいのか、真剣に考えてほしい」と栗田はエールを送ります。

栗田 「仕事をする上では大変なこともありますし、落ち込むこともあります。でも、やりたいことをやっていれば、必ず楽しいことがありますし、仕事が嫌いにならないんです。

だからぜひ、やりたいことをやってほしいと思います。なんとなく仕事選びをするのではなく、自分が今まで生きてきた中で何が楽しかったか、何をやりたいと思ったかを大切にしてもらいたいです」

一度は別の道で就職をしたものの、かねてより興味を持っていた「ものづくり」の魅力に再び立ち返って自身の進路を転換したことで、やりがいにあふれる日々を手に入れた栗田。

産みの苦しみも楽しみに変えながら開発をする彼は、今後も真新しい商品を世の中に送り出していくことでしょう。