大学時代に一念発起。飲食アルバイトに挑み、接客する楽しさをはじめて体感

▲株式会社エヌアセット 営業部 溝の口北口店 店長 輿石 佳絵

その場に加わると、辺りがぱっと明るく、華やかになる──そんな天性のオーラを持つ輿石。しかし意外にも、幼少時代から極度の人見知りに悩んできました。

輿石 「たとえば、母親と近所に出かけ母の友人や知人とばったり会っても、目を合わすことすらままならなくて。社交的な母は、愛嬌のない私の態度にたびたび歯がゆさを感じていたようです」

彼女がはじめて「人見知りを克服したい」と思ったのは大学時代。このままでは社会に出て仕事に就いても、なんらかの支障が出ると考えます。一念発起して始めたのが、居酒屋のアルバイトでした。

輿石 「ファミレスのキッチンでバイトをしていた高校時代は、ホールで接客しているスタッフを見て、『知らない人を店内に案内するなんて、とても無理!』という感じでした。ですから、当時の私にとってはとても勇気のいる決断でしたね」

「きっと愛想のない店員だったと思う」と振り返りながらも、接客業務にはすぐに慣れます。またアルバイト中、人と接する楽しさを実感できた忘れられない出来事がありました。

輿石 「とある忙しい週末、お盆に乗せて運んでいたビールを、サラリーマンの男性客の背中にドバーっとこぼしてしまったことがあったんです。頭が真っ白になりながら、とにかく謝ったのですが、そのお客さんはしばらく黙ったまま。

ドキドキしながら、頭を下げ続けていると、笑いながら『ちょうど、ビール浴びたかったんだよね!』と(笑)。そのウィットに富んだ返しに『知らない大人の中にも、こんなに素敵な人がいるんだ』と感激して。接客業におもしろみのようなものを感じるようになったんです」

これをきっかけに、輿石は居酒屋やカフェなどさまざまな飲食店でアルバイトの経験を重ねていきます。最も思い出深いアルバイト先は、地元の住宅街にある小さなカフェ。「お客さまのために何ができるか」という視点で、すべての従業員がフラットな関係性で接客スタイルやメニューを共につくり上げるような店でした。こうした運営方針に、輿石は心から共感したのです。

輿石 「お客さんの名前を覚えて『「〇〇さん、こんにちは」と出迎えたら、喜ばれるかもしれない』とアイデアを出し、それを実践しながら、手応えをつかんでいく。すごく楽しかったですし、学生ながらホスピタリティの基礎としっかり向き合えた時期でした」

大好きな“食”を本業にしたものの、挫折。迷った末に不動産業界へ転身

▲“美味しいものを食べている人の笑顔が好き”と公言する輿石らしい表情。産休に入る社員を囲んで懇親会を催した時のひとコマです

経営学部に在籍していた輿石が兼ねてより興味があった仕事は、マーケティングや商品企画。就職活動では「美味しいものを食べている人の笑顔が一番好き」という理由から食関連に的を絞り、食品パッケージの制作会社や広告代理店を中心に応募していました。しかし活動を進めるうち、輿石はあることに気づきます。

輿石 「たとえ『自分のやりたいこと』を事業にしている企業に就職しても、希望する職種に就けるかどうかはわからない。だったら広く『食カテゴリー』で企業を探したほうが、入社してどんな部署に配属されても、ある程度楽しく仕事ができるのでは?と思ったんです」

方向性を少し変えたことで選考は順調に進むようになり、輿石は無事に大手飲食チェーン運営会社の内定をつかみ取ります。そして入社後、配属されたのは首都圏にあるカフェ店舗での接客担当でした。

イチから経験を積み、将来は店舗開発や運営を担いたい──そんな希望を抱きながら日々奮闘するも、飲食業の現場で社員として働くことの厳しさを実感。ある時点から「どうしても笑顔になれない」状況に陥り、輿石は2年弱で退職を決意します。

好きだからこそ悶え苦しんだ飲食業の現場。しかし、転職活動中の輿石が選んだアルバイト先は、地元の飲食店でした。

輿石 「『いいお店だから』と友人に強く勧められてジョインしたんですが、『お客様のために、スタッフみんなでよりよいサービスをつくっていく』という考えのもと運営されていて、雰囲気のよい素晴らしい職場でした。
短期アルバイトという立場もあったせいか、心ゆくまで仕事を楽しむことができました」

この飲食店だったらもう一度社員として働けるかもしれないが、また前職のように継続できなかったら……今後のキャリア形成を鑑みながら、悩む日々。そんなとき、不動産会社に勤める友人から採用募集の情報が舞い込みます。

輿石 「それが、溝の口に拠点を構えるエヌアセットでした。はじめは『そういう選択肢もあるかも』と軽い気持ちで説明会に行ったんですが、次第に『食ほど強い関心を持っているわけではないけれど、一定の興味を持って関われる仕事のほうが、自分には合っているんじゃないか』と思い始めて。

紹介してくれた友人も充実感を持って仕事に打ち込んでいるようでしたし、思い切って面接を受け、入社することになったんです」

「質問しない方が、お客様に失礼」上司の一言でジレンマから抜け出せた

▲溝の口北口店のメンバーと。営業部は現在、中国、ベトナム籍の仲間が加わり、国際色豊かな部署になりました

2016年4月、不動産管理会社・エヌアセットに入社した輿石が配属されたのは、溝の口本店(現・溝の口南口店)での賃貸仲介営業。来店客の希望に沿った賃貸物件の紹介業務を担当しました。

物件の探し方や身だしなみ、言葉遣いに関する研修はあるものの、それ以上のマニュアルはなく、各自でベストな接客手法を確立させていくのが当時の育成方針。飲食業とは異なる点も多く、輿石は、なかなか自分のスタイルを見つけ出せずにいました。

輿石 「入社5カ月目からは個人予算を持たせてもらうようになりましたが、どんなにがんばっても、達成率は5割以下。自問自答する毎日が続きました。

というのも、初対面のお客様と会話を広げていくことに苦手意識があったんです。しかも、お部屋探しって、プライベートなこともしっかり聞かないといけないのに、変に気を使ってしまって、なかなか深く切り込めず、ついあいまいな回答で終わらせてしまう……。

今振り返ると、『ただ希望に沿う物件を検索して、提示するだけ』だったので、『この担当者で物件を探したい、決めたい』というお客さまが少なかったのは、理解できますね」

停滞していた輿石を突破口へと導いたのは、上司の上野 謙でした。たまたま店舗での接客にあたっていた上野の姿を見て、彼女は、自らの改善策を見出すことができたのです。

輿石 「普段、オフィスにいる上野の接客をつぶさに見たのは、そのときがはじめてだったんですが、とにかく衝撃的でしたね。一つひとつのお客様の返答について『なぜこの点が良いと思われたんですか?』と躊躇なく、どんどん深堀りをしていくんです。

お客様の退店後に『どうしてそんな風に聞けるんですか?』と上野に質問したら『だって、その人の真のニーズを掘り起こさなきゃ、いい部屋探しができないでしょ?しっかり聞かない方が失礼だよ』と言われて」

その瞬間、輿石はかつてカフェに勤務していたころの、ある出来事を思い出しました。食事中のお客さまにデザートを勧めることが必須業務のひとつでしたが、輿石は「相手に無理矢理売りつけているのでは」と抵抗感を持っていました。

ある日、そのことを先輩に打ち明けると「自分は、自信を持って勧められる美味しいデザートだからご案内している。だから、売りつけているなんて思ったことは一度もない」ときっぱり。この言葉の真意を理解した輿石は、本心からデザートを勧められるようになり、オーダー率を上げることができたのです。

輿石 「“相手のため”を思って、ヒアリングすればいいんだと理解したら、距離感を掴めるようになりました。その後は、お客さまのニーズに合ったお部屋を提案できるようになり、成約数を増やせるようになりました」

「世界の共通言語は笑顔」。肩の力を抜き、自然に笑い合える空間にしたい

▲2020年9月に移転オープンした溝の口北口店。ナチュラルな内装と笑顔でお客さまをお迎えします

入社から4年。賃貸仲介営業としての経験・スキルを身につけた輿石は、周囲に信頼される中堅社員へ成長し、2020年9月には移転オープンした溝の口北口店の店長に抜擢されました。

溝の口北口店は、エヌアセットが運営するシェア型複合施設「one(ワン)」の2階スペースに開設。「店舗は1階に設置するのが基本」という不動産業界のセオリーにあえて挑む形となりました。1階にはコワーキングや飲食スペースなどを設置し、1・2階で人と人、人と場所、人とビジネスの化学反応を起こせるような交流拠点を目指します。

店長である輿石が担うのは、メンバー5名のマネジメントと、管理物件を増やすための新規オーナー開拓業務。彼女自身にとっても大きな節目となりました。

輿石 「店長という大役を打診されたときはとても驚きましたが、自分の成長の機会ととらえて引き受けることにしました。

責任ある立場になると、必要以上にプレッシャーを感じて余裕がなくなるタイプなので、正直言って不安はあります。でもポジションではなく、自分が課せられた役割そのものに目を向け、葛藤しながらでも前へ進めることができたら」

輿石の好きな言葉は「世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔」(作詞作曲:高橋優/2011年/「福笑い」)という歌詞の一節。大学時代に短期留学をした際、言葉は通じなくても笑顔があれば心が通じた──そんな思い出も重なり、強く心に残るフレーズとなりました。

輿石 「この歌には『笑顔には理屈ではなく通じあえる力を持っている』『あなたが今楽しんでいて、心から幸せだって言えるかどうかが大事なんだよ』というような素晴らしいメッセージがたくさん散りばめられていて。聴くたびに、決して無理に笑うのではなく、心の底から笑顔になれる状態がベストなんだと気づかせてくれます。

溝の口北口店も、肩の力を自然に抜いてみんなで笑い合える。そんな空間を目指していきたいですね」

新店舗は、木や緑の温かみが感じられる内装に仕上がりました。この場所で多くの人を笑顔にしたい──輿石の挑戦は、まだ始まったばかりです。