コロナ禍で気付いた、教える側の意識改革

2020年初頭からのコロナ禍を機に、リモートワークを導入したり、出社しても同僚や上司との接触をできるだけ避けるようにしたりと、働く環境に大きな変化が生じています。それに伴い、従来の働き方や仕事の方法を変えることを、多くの人が余儀なくされています。

田辺三菱製薬のバックオフィス支援などを担う田辺三菱製薬プロビジョンで人材育成に携わる藤田 岳人も、そんな新しい手段・方法を模索する一人です。

藤田 「研修というと、従来はいわゆる“集合型”。広い部屋に集めた社員を前に外部講師が教壇に立ち、さまざまな知識やスキルを教えるという形態がほとんどだったと思います。でもそれがコロナ禍によってできなくなった。ありようを大きく変えていかなければいけない事態に直面しています」

藤田は田辺三菱製薬へキャリア入社したのち、データ分析という専門性を軸に、15年以上にわたって開発、営業、生産技術ほか、多様な部門で活躍。2021年秋に田辺三菱製薬プロビジョンへ異動し、これまでの豊富な経験をもとに研修講師として製造現場における社員教育を任されました。

社員教育をするにあたって藤田が最初に直面したのは、コロナ禍における研修の難しさでした。中でも課題だったのは、“オンライン会議ツールを使用した研修では、主体的に学ぶ意識が薄れやすいこと”。

藤田はその解決策として、受講者の意識を変える以前に、教える側の意識変革が必要だと考えています。

藤田 「コロナ禍で社会人の学習する時間が減ったという調査結果をたまたま見たんですが、決して従業員たちが学ぶことを怠っているわけではないと思うんです。

問題を抱え、変革が求められているのは、むしろ“教える側”。世の中の状況に応じて、従来のやり方を積極的に変えていかなくてはならない。そうすることで、若手が自発的に学ぼうとする時間や学ぶ機会を増やしていきたいんです」

教える側の意識改革が進めば、おのずと人が育まれる環境が整い、組織が成長すると考える藤田。実際、研修プログラムを展開している社内外の受講者から、好意的な反響を多く得ていると話します。

アナログとデジタル——それぞれの良さを際立たせた新しい教育メソッドを追求

▲体験型ものづくり研修の風景「受講者はみな真剣!」

研修プログラムの再構築が進む一方で、各現場で行われるOJTでは、人との接触を避けなくてはならないコロナ禍での影響から、思うように人材を育てることができなくなっていました。

藤田 「たとえばめったに行わない業務など、正確な手順を忘れてしまうことって案外少なくありません。ところが、詳しい人に聞こうと思っても近くにいないという困りごとが頻繁に起きていたんです」

そうした課題を解決するために、藤田は新しい2つの教育メソッドを考案します。

藤田 「1つは、リアルでしか経験できないことや、リアルで実施する意義のある要素を盛り込んだ集合研修を、少人数で行うもの。もう1つは、これまで積み上げてきた組織の知識やノウハウを映像化し、オンデマンド教材として次世代に伝えるというものです」

藤田が追求したのは、不透明な世の中だからこそアナログとデジタルの特長を改めて見直し、双方の良さを活かした研修プログラムを考案すること。そしてその根底には、「みんなが目を丸くして夢中になれるようなまったく新しい教育メソッドを開発したい」という想いがありました。

藤田 「ものづくり体験を通じたチームビルディングや人脈形成には、オフラインの研修だからこそできる、アナログの威力を感じます。一方、デジタル技術を活用して人を育てていく方法にはまだまだ伸びしろがあると思います。

特に映像は人の心をゆさぶる力があると思うんです。教育用の映像を見て、『おおおっ』と思わず声を出した人もいました。そうした反応は確信にもつながりましたし、ぜひアナログとデジタルの良さをうまく引き出し、学びに夢中になれる人材育成の方法を考えたいと思ったんです」

リアルの体験型ものづくり研修は、企業の垣根を超えて ~社外交流から得る気づき~

▲社外でも研修する講師スタッフ「いつも笑顔で」

リアルの研修の狙いは、ものづくり体験を通して、チームで議論しながら作業することや試行錯誤することの楽しさなどを経験してもらうことにあります。

藤田 「製造業で国を発展させてきた日本には、良質なノウハウがたくさん受け継がれてきました。でも、今、その考え方の多くが失われかけているんです。

だからといって、『勉強しなさい』『規則どおりにやりなさい』となんの動機づけも与えず頭ごなしに言うだけでは、誰も成長しません。ものづくりのおもしろさを伝えていくことが何より大事だと考えています」

すでに実施している研修の中で特に好評を得ているのが、紙を切ってつくる「紙ヘリコプター」を題材にしたもの。

藤田 「4人1チームとなって、どう設計すれば最も長い時間飛行させることができるかを考えて、計画的に紙ヘリコプターを設計し、実際に飛ばして他のチームと競い合います。

本来、これを学術的に設計しようと思えば、ややこしい計算が必要になるんですが、それはひとまず脇に置いて……体験を通じてチームメンバーとディスカッションしながら成功体験を味わってもらうことを何よりも重視しています」

一般的に、こうした自社オリジナルの研修プログラムが社外に出ることは、あまり例がありません。ところが、新しい研修プログラムの内容が製造業全般に通じると考えた藤田は、他のメーカー企業にも展開する取り組みを進めています。 

藤田 「ある企業の上長さまから、『チームでわいがやディスカッションする様子を久しぶりに見て、チームビルディング力が回復するのを実感した』という声をいただきました」

こうした外部の企業に展開するためには、日常的な社外の人たちとの交流が欠かせないと藤田は感じています。

藤田 「過去のちょっとした人との出会いやつながりがきっかけで、研修プログラムが社外に波及したケースもありましたね」

さらに、ゆくゆくは社会貢献にもつなげていきたいと、藤田の想いは尽きません。

藤田 「新しいコンテンツの開発やブラッシュアップを続けていくことに加え、いずれは研修のアウトプットを広く社会に展開していくことを目指しています。他の企業だけでなく、ものづくりの体験学習として小中高校生など地域社会にも広げ、生き生きとした人生を育むお手伝いができればいいですね」

ノウハウや熟練技術を「映像」で伝える挑戦

▲教育映像の試作・制作のひとコマ「映像に込める熱意も大切と」

オンラインで視聴できるオンデマンド教育映像の開発では、作業手順などこれまで文章で書かれていたものを映像化。従来のOJTのように先輩の作業を間近で観察する感覚で、わかりやすく伝えることを目指しています。

こうした映像化への要望は、以前より研修受講者の中からも上がっていました。

藤田 「たとえば何らかの物質を測定するとき、今までだと手順書や補足的な文書資料を頼りにしていました。ところが、文章では伝えづらいことが多々あるため、実際に手を動かして作業している様子を撮影します。

熟練技術が必要で、なおかつ文章化が難しいことほど映像に残し、ライブラリ化しておくことが大切だと感じています」

映像の制作にあたっては、ニーズの吸い上げから、テーマ決め、撮影時のアングルの微調整まで、現場を巻き込んでディスカッションしながら進めることが大切だと言います。

藤田 「『伝承されずに困っていることは何か』『伝承されないことでどんなエラーが生じているのか』『それが会社にどんなマイナスの影響を与えているか』……それらをきちんと理解した上で、映像の撮り方、伝え方を工夫しなければ、一般的な教材となんら変わらないものになってしまいます。

私たちも一から学びながらやっているんですが、『この腕の角度が重要なんだよね』という具合に習熟者ならではの知識やノウハウを発見する機会もあって、とても興味深いですね」

故きを温ねて新しきを知る。良いモノ同士を組み合わせ、新しい価値を生み出す。発見と工夫の日々が藤田のやりがいにもつながっています。

「人材育成を担当していて、学ぶ人が喜んでいる姿、笑顔を見ることが一番の励みになります」──そういって目を輝かせる藤田。新たな教育メソッドを浸透させ、多くの人に笑顔を届けるために、これからも挑戦は続きます。