課員のキャリアに寄り添えなかった。課長に着任して直面した、キャリア支援の難しさ
「あなたは今後、どんな仕事がしたい?どんなキャリアを築いていきたい?」
投じられた質問から、たった一人で自分の未来やありたい姿を考えるのは、簡単なことではありません。答えは一つではなく、その選択肢の多さに悩み・戸惑い、果てには考えることすら億劫になることもあるかもしれません。
では、自らのキャリアについてともに悩み、ともに考えてくれる人が身近にいたらどうでしょう。自分も考えるから一緒に考えようと、寄り添ってくれる人がいたら──。
きっと安心して自分のありたい姿を描けるのではないでしょうか?
みずほ銀行外為事務第一部 仕向第三チームの課長である豊田は現在、キャリアに悩む課員に寄り添い、自分らしさやありたい姿を一緒になって考えています。しかし、今にいたる過程には、キャリア面談での葛藤がありました。
豊田が初めて課長職に任命されたのは2018年。当時は勘定系システム統合という社内の一大プロジェクトの真っ只中。豊田も課員もプロジェクトと目の前の業務に集中している時期で、なかなか将来のキャリアについてじっくり話し合う余裕がなく、形式的なキャリア面談しかできなかったと振り返ります。
そんな豊田に“悩み”が生まれたきっかけは、2019年10月に同部署の他チーム(外為事務部東京外為センター輸入事務第一部から送金事務第一部)に異動したことでした。
豊田 「顔もよく知らない課員50名ほどをまとめる立場になりました。ちょうど会社全体でキャリア面談をする時期だったため、『しっかりと取り組んでください』と上席から言葉をもらい、さあどうしようかと」
「はじめまして」の挨拶と同時に始まった、課員とのキャリア面談。毎日じっくり時間を取りながら50名と対話していく中で、課員の意外な本音が見えてきました。
豊田 「キャリアについて上司と一緒に考えることやキャリアの希望を伝えることを後ろ向きにとらえる課員が多かったのです。中には、キャリア面談の中で特定の部署名を口に出したり新しくやりたいことを伝えたりしたら、自分は異動させられるのではないかという不安を抱き、面談中黙り込んでしまったり、涙を流したりする課員も。
異動経験のない課員や10年以上この部署でキャリアを積んできた課員が大半だったため、現在の業務以外の選択肢や、自身のキャリアについて考えることに慣れていなかったようでした」
そもそも聞き方や課員への配慮が足りなかったと反省する一方、自身のやりたいことや今後のキャリアプランを前向きに話す課員に対しての働きかけも十分ではなかったと振り返ります。
豊田 「『その部署で活躍するためには、どんな能力を伸ばしたら良いのかな?どんな強みが必要だと思う?』と、今なら話を展開できますが、当時はそれができず、ただ『そうなんだね』で話を終えてしまいました。今振り返ると反省点だらけのキャリア面談でした。自分と向き合うことに抵抗を感じているように見える課員が多いからこそ、私がしっかり導かないといけないと思いました」
支援するにも、まずは自分から。初めて真剣に向き合った自身のキャリア
課員が安心してキャリア面談に臨むために、自分に何ができるだろう──。そう考える中で、豊田は自分自身のキャリアについても見つめるようになります。
豊田 「入社以来、外国為替の分野一筋で大きな異動もなく30年のキャリアを積んできましたし、上から言われるまま会社主導のキャリアを歩んできました。しかし、課長になった途端に自分で今後のキャリアを描く必要と課員のキャリアも考える必要が出てきて。
自分のキャリアさえ考えられない私が、課員のキャリアについて助言することにジレンマを抱えるようにもなりました」
課員であっても、管理職であっても、キャリアの悩みはついてくるもの。そんな悩める豊田にきっかけをくれたのは、当時の部長でした。
豊田 「心の中のもやもやを、つい部長の前でこぼしたことがありました。すると、部長が『考えるので少し時間をください』と。そこで提案されたのが、社内兼業という選択肢でした。翌日、部長から『社内兼業にチャレンジしてみてはどうか?しっかり考えて自分で決めてください』とも言われました」
初めて自ら主体的にキャリアを考える岐路に立ち、豊田は自分を振り返ることに。
自分は何がしたいのか。何が得意なのか。何にやりがいや楽しみを見出すのだろうか。そして、考えた末に一歩を踏み出す決断をしました。
豊田 「自分を見つめ直してみて気づいたのが、自分は後輩たちに仕事を教えるのが好きだということ。
実務指導の機会を多くもらったこと、他部署からの研修生のために資料の作成、研修講師をやらせてもらう機会にも恵まれ、やりがいを感じていたことを思い出し、社内兼業先として応募した先は人材育成やキャリア開発に携わる本部の事務企画部人材マネジメント室でした」
2021年からの1年間、兼業先では自分と同じ事務グループのメンバーがキャリアへの意識を高めるような企画や事務グループにおける人材育成の企画立案に取り組んだ豊田。兼業での気づきや学びを通じて、自律的なキャリア形成を支援することへの興味がいっそう深まり、キャリアコンサルタントの資格取得にも挑戦します。
豊田 「当時悩んでいた自分自身のキャリアや、メンバーのキャリア支援に役立つヒントが得られるかもしれないと考え、資格学校へ通い取得しました。
クラスメイトには、同じような立場で同じような悩みを抱えている人が多くいました。勉強会を開いたり、これから資格を取るメンバーの面談相手になったりと、今も関係が続いています。キャリアコンサルタントの先輩には『じつはこんなことがあって悩んでいます』と気軽に相談できるので、とても助かっています」
自分を知り、キャリアを考えることを身近にするために始めたショートインタビュー
学びや資格取得を通じて、自己理解や対話の大切さをあらためて認識した豊田。課長として自らのチームで独自のキャリア支援を開始します。
豊田 「定例の面談に加え、期初に10~15分間のキャリアインタビューの時間を設けるようにしました。答えづらくないよう、事前に質問事項や話すトピックを課員に共有した上で、『今期はどんな風に成長していきたいのか』『どんな仕事をしたいのか』といった対話を行う面談です。
このキャリアインタビューを初めに行うことで、その後の目標設定やキャリア面談が円滑にできますし、『期初に伺った話を踏まえて、あなたにはこれをやってもらいたいと思います』と伝えることができます。日々の対話の中で少しずつ情報収集しておくことで、『この前はこう言っていたけど?』『今でもこの部署に行ってみたい?』といった会話もしやすくなりました」
チーム内でこの取り組みを共有しながら、豊田はインタビューするだけでなく、行動のきっかけとなりうる情報の発信も意識していると言います。
豊田 「〈みずほ〉には、キャリア研修制度や学習ツール、社内キャリアアドバイザーとの面談、キャリアについての座談会、talentbookのような社員のキャリアストーリーの共有など、キャリアを考えるための資源が豊富にあります。知らずにいてはもったいないので、『こんな情報があるよ』とさらりと伝えるようにしています。
ほかにも、世間で起きているニュースやキャリアの小話も伝えていますが、決して押しつけることなく、あくまで私の意見や気づいたことが、キャリアを考えるうえでの参考や選択肢の一つになればと思って共有しています。数カ月後や数年後になって『前に課長がこんな話をしていたな』と思い出してもらえたらうれしいという想いもあります」
課員一人ひとりの“自分らしい”キャリアに対して、ともに悩み、ともに学び、ともに考えながら、小さな一歩を踏み出せるきっかけを提供できるよう意識している豊田。めざすのは、“そっと背中を押せる存在”です。
豊田 「〈みずほ〉としても、社員と会社(上司・人事)が “自分を知る・キャリアをともに考える・キャリアをともに作る”という3つのステップを通じて、社員一人ひとりが自分らしいキャリアを形成するための “キャリアディベロップメント運営”に注力しています。
1年中キャリアのことを考える必要はありませんが、『ときにはじっくり自分のことについて考えよう』とは伝えたくて。自身の経験からも、自分の好きや得意に気づくことができれば一歩踏み出せると思っているので、そのきっかけを届けたいですね」
“一緒に”歩む支援者でありたい──私もあなたもみんな、キャリアに悩む仲間だから
課長となり、課員のキャリアと真剣に向き合う中で自身のキャリアを広げ深めてきた豊田。2023年の抱負は、“一緒に学び一緒に成長、一緒に一歩踏み出すチャンスを見つけること”です。
豊田 「この抱負は、年初に課員の前でも発表しました。あわせて、新しい分野の学習に取り組んでいくことも宣言したところ、面談の際に課員から『どんなことを勉強しているのですか?』と質問されるなど、会話のきっかけにもなっています。
また、私との話をきっかけに『新聞をしっかり読もうと思いました』『これからどんな勉強が役立ちますか?』など行動につながりそうな声も聞くようになり、学びへの触発につながっている実感もあります」
管理職である自身もキャリアに悶々としていた時期があるからこそ、興味を持って一歩踏み出した先に見える景色を伝えたいと話す豊田。今後も課員一人ひとりと向き合い、対話することを大切にしていくつもりです。
豊田 「今はこちらから呼びかけて、時間を設けてキャリア面談を実施していますが、いずれは課員らから『キャリアについて悩んでいるので相談したいです』と気軽に声をかけてもらえるような存在になるのが目標です。以前、私が部長に背中を押してもらったように、課員が一歩踏み出すための支援ができればと思っています」
また、自身のキャリアについても選択肢が広がってきていると言います。
豊田 「社外のキャリアコンサルタントの先輩から、『君は人に何かを教えるのが好きなようだから、キャリアコンサルタント養成講師の道もあると思う。講師になるための研修に参加してみては?』と提案していただくことがありました。「そんな道もあるのか」と、今後も目の前の気づきをチャンスと捉え、興味・関心に正直に、自分らしくキャリアを広げていきたいと考えています」
何歳からでも、社会人何年目からでも、勇気を出して一歩踏み出せば、新しいつながりが生まれて可能性とキャリアが広がる。大切なのは、“キャリアをともに考えていく”という姿勢だと豊田は語ります。
豊田 「キャリアについてひとりで悶々と考えるのではなく、友達や上司、同僚に自分の思いを素直に話してみるのがいいと思います。相手からの客観的なフィードバックがヒントやきっかけになることもありますから」
課員のキャリアをともに悩んだり、ともに考えたり、ともに学んだりと、一人ひとりに寄り添い続ける豊田。同時に、課員と同じように自らのキャリアについても考えています。
ときに課員に寄り添いながら、ときに課員とともに走りながら──
一人ではなく、仲間とともに“自分らしいキャリア”を考え続けた先にある未来を。