サステナって何?──サステナブルファイナンスに関わり始めたときに抱いた“抵抗感”
サステナ、SDGs、ESG。
そうした言葉が多く飛び交う世の中に変わってきた一方、「それは仕事にどう関係するのか?」というイメージが湧かなかったり、難しくてわからないと感じたりすることも多いのではないでしょうか。今でこそ、サステナブルファイナンスの先駆者として活躍する泉屋も、はじめは「サステナって何?」と抵抗感を抱いたところからスタートしています。
泉屋とサステナブルファイナンスの出会いは2019年。サステナブルファイナンスの検討・推進を行う施策チームの、リーダーに任命されたことがきっかけでした。
泉屋 「当初は『サステナって何?』『SDGsとESGの違いは?』『グリーン?評価機関?』というところからのスタート。私も、肌感がない分野に、自らが主体となり推進していくことに抵抗感を持っていました。
しかし、施策を進め、理解が深まっていくうちに、サステナはすべての企業に必要な考えであり、『お客さまへの提案の切り口に使えるかもしれない』とも思うようになってきて。当時、周りの環境を含む社会課題やSDGs・ESGへの意識の強まりを感じる時期だったことも、この領域に取り組む自分の背中を押してくれたと思います」
やがて泉屋はあることに思い至ります。サステナブルファイナンスへの取り組みは、自分らしさにもつながっていくのではないか──。自分らしさは、泉屋がそれまでずっと大切にしてきた価値観でした。
泉屋 「私は2006年に新卒で入社し、最初の2カ店では中堅中小企業の営業を担当。その後、銀行を外から見るために、農業関係のNPO法人に希望して出向しました。銀行に戻ってからは、お客さまのビジネスマッチングに関わる業務や、大企業を相手にシンジケートの組成をするなどの経験を積んでいます。
そうしたなかでは、いろいろなところへ足を運んで得られた情報をもとに、『このお客さまにはこういう提案が合うのでは?』と、私独自の視点を意識してご案内してきました。私は特別優秀というわけではありません。〈みずほ〉や他行には年代問わず、多くの優秀な人がいます。だからこそ、泥臭いかもしれませんが、自分なりにお客さまのためにできることを考え抜いて取り組むよう努めていたのです。
黎明期だったため先行事例がなく、定義も不明確だったサステナブルファイナンスに対しては、私自身をはじめ抵抗感を持つ人が多かったものですから、当時はまだ取り組む人が多くありませんでした。それが、差別化要素にもなり、自分らしさという点でもプラスアルファに働いていったと思います」
サステナが、自分らしさへとつながる。ではいったい、泉屋はどのようにサステナファイナンスと関わっていったのでしょうか。
〈みずほ〉の、そして国内のサステナブルファイナンスの草分けとしての歩み
2019年からサステナブルファイナンス施策を進めるなかで、最初の転換点となったのは、〈みずほ〉初の事例に取り組んだときでした。
泉屋 「施策のなかで、トレンドや海外の事例検証・評価機関へのヒアリングをしながら、一歩ずつ商品組成の準備をしていきました。そして2020年、あるエネルギー関連企業にサステナビリティ・リンク・ローンを提案したのです。
サステナビリティ・リンク・ローンとは、企業が“CO2削減”などの野心的なサステナビリティ目標を設定した上で資金を調達し、設定した目標の達成状況に応じて金利などが変動するというもの。当時から複数の企業に提案はしていたものの、初めて実施に至ったのが、そのお客さまでした」
当時はサステナブルファイナンスの事例が少ない状況。泉屋自身、何をするにも手探り。とくに障壁となるサステナビリティ・リンク・ローン原則に定められる要件を満たすために、評価機関やエネルギー関連会社との調整に奔走しました。
泉屋 「『お客さまのために』『社会課題(環境課題)解決のために』という趣旨を丁寧に説明し、社内の関係者と目線を合わせる努力をしました。メンバーに恵まれ、営業担当、関係部署、みずほ証券などグループ一体となって本案件に対し最大限の支援をしてもらったと感じます。
そしてそれは、外部の評価機関も同じでした。エネルギー関連会社の社会課題解決に対する取り組みを理解していただけて、『いい取り組みをしっかりと応援しよう!』と足並みが合った実感がありました」
そうして、2021年、2022年には、 今度は“国内初”となる、トランジションファイナンスを立て続けに組成していった泉屋。
泉屋 「“トランジションファイナンス”とは、温室効果ガス排出削減を目指す企業が脱炭素社会にトランジション(移行)するための取り組みに融資する枠組みのことです。
2021年に担当した船舶会社のケースでは、脱炭素へ向けた次世代型環境対応LNG燃料船の調達に際し、経済産業省・環境省・国土交通省と連携し、国内初のトランジションファイナンスの事例を組成することができました。同年、同じ船舶会社の優れた脱炭素に対する取り組みを評価する、国内初となるトランジションファイナンスも組成。これは経済産業省モデル事業にも認定されました。
続く2022年には、非鉄金属会社に対してもトランジションファイナンスの組成に成功し、これも温室効果ガス多排出業者以外としては日本で初めての事例となりました。
案件に携わらせていただいたお客さまからは、『メディアに取り上げられるなど、自社のサステナの取り組みを、多くのステークホルダーに知ってもらい、PRできる機会になった』という言葉と、『ありがとう』という感謝の言葉をいただきました。
十数年銀行員として業務に従事していても、お客さまや仲間からの『ありがとう』という言葉は嬉しく、サステナファイナンスの観点からさらに多くのお客さまの役に立ちたいという想いが湧きあがり、業務推進の原動力になりました」
そして、2022年4月にサステナブルビジネス推進室が正式に発足。泉屋も、室の一員となりました。
過去の経験と事例が、サステナブルファイナンスを提案しやすい環境づくりにつながる
サステナブルビジネス推進室発足後も、国内初のトランジション利子補給制度を活用した案件を扱ったり、〈みずほ〉がお客さま企業のポジティブな取り組みを支援する“Mizuhoポジティブ・インパクトファイナンス”を改良したり。泉屋は、より精力的に活動を進めています。
泉屋 「営業担当の営業力やリレーションをはじめとする関係者の支援の下、サステナブルビジネス推進室が次々と国内初の事例を組成してきたことで、サステナの分野では、〈みずほ〉は今や金融業界をけん引する存在になりつつあると思っています。
私が担当するサステナブルファイナンスは主にシンジケートローン(協調融資)であるため、複数の金融機関で議論しながら案件を進めていきます。その際も、すでに複数の事例を経験している〈みずほ〉がアレンジャーとして中心になることが増えているのです。他行が不慣れな場合でもわれわれの過去の事例もお伝えしながら、『一緒に支援しましょう』という流れをつくるようにしています」
2023年2月現在も、泉屋は、持続可能な社会を実現するという目標のもと、サステナブルファイナンスの商品開発、営業、社内の知識伝播や対外的な広報に従事しています。
泉屋 「サステナブルビジネス推進室では、これまで国内初のサステナブルファイナンスの組成など、ノウハウや情報を蓄積しながら、ときには、社内の関係部署のほか、みずほ信託やみずほ証券、みずほリサーチ&テクノロジーズといったグループ会社と連携し商品開発を行ってきました。また、私たちの知見を社内の多くの人に伝播するべく、勉強会も開いています」
サステナブルファイナンスは、企業にとっては、資金調達とともに環境活動を広報できるメリットもあり、最近では、不動産ファイナンス、M&Aファイナンス、サプライチェーンファイナンスなど、幅広い分野で広がりを見せています。ファイナンスだけでなく、預金やデリバティブ関連商品も開発されています。
泉屋 「最近では、〈みずほ〉独自のサステナブルファイナンス“みずほグリーン不動産ノンリコースローン”の商品開発にも、携わりました。また、以前の提案先は大企業のお客さまが中心でしたが、サステナの企業活動が普及するにつれ、中堅中小企業のお客さまに提案することも増えてきましたね」
現在、サステナブルビジネス推進室の専任担当は4名。同じプロダクツ部署にはさらに兼務者が10名近くいて、互いの知見を活かしながら横串を刺して進めています。
泉屋 「各企業のサステナの取り組みは日々加速していると感じます。お客さまとともに新たな挑戦を繰り返してきた〈みずほ〉には、さまざまな事例と知見が蓄積され、社内外の関係先との信頼関係も築けました。
これから初めてサステナブルファイナンスの案件に取り組む担当者にとっても、提案しやすい環境が整ってきたと思います。〈みずほ〉の中に、お客さま企業の将来についてしっかりと会話しサステナブルファイナンスを提案できる人がもっと増えていくことを期待しています」
ナレッジの共有に注力し、サステナブルファイナンスをもっと身近な存在に
今や〈みずほ〉の、国内のサステナブルファイナンスの草分け的存在となった泉屋。サステナでの経験を通じて自身も成長を感じています。
泉屋 「お客さまに、国内初の事例を組成した実体験や、先行入手した最新情報などを説明すると、『勉強になった』と言われることが増えました。社内でもサステナ関連の意見出しを他部署から依頼されることもあり、少しは専門的知見が身につき、〈みずほ〉のブランド価値向上の役に立てるようになったのかなと思っています。
サステナのトレンドを把握するには日々の勉強や情報収集が欠かせませんが、学びが自分の成長につながりますし、支援する企業の成長にもつながると思っています。そしてそれが、社会全体の環境課題の解決につながってくれたらうれしいですね」
そんな泉屋が今後力を入れていくのは、サステナブルファイナンス未経験の人が一歩踏み出せるようにするための、ナレッジの蓄積と共有。そうしてサステナブルファイナンス案件を見聞きすると共に提案する実体験が、未経験者にはまず必要だと泉屋は考えているのです。
泉屋 「専門用語に触れても興味がないうちは聞き流してしまうかもしれません。触れるきっかけを作ること、触れる機会を継続して持つうちに意識せずとも知識につながって、『サステナについて話してみよう』『サステナブルファイナンスを提案してみよう』と考える日がいつか来るはずです。
推進室として、そのためのお手伝いをしたいと思っています。すべてのお客さまにサステナを切り口としたファイナンス商品を提案できる体制を整えていきたいです」
そしてその先には、泉屋個人としての想いがあります。
泉屋 「いずれは営業に戻り、自分らしい提案をしてお客さまに喜んでもらいたいと考えています。“ギブ&ギブ&ギブ”の精神で、お客さまと共に歩んでいきたいのです。〈みずほ〉という巨大な知見が集まる組織の一員としてお客さまと一緒に取り組むことができれば、必ずより良い社会になっていくと信じています。
また、実は、サステナブルビジネス推進室の専任になってから、商品提案のためお客さまを訪問する際には、私の立ち位置は、プロダクツ担当者の一歩後ろ。お客さまとの距離から、寂しさを感じてしまうのです(笑)。それも、もう一度営業に携わりたい理由のひとつですね」
自分が今できることをひとつずつ積み重ねることが、お客さまとより良い未来を描くことにつながると信じて。さまざまな経験も自分らしさの一部にしながら、サステナブルな社会の実現を目指し、泉屋は今後もお客さまのもとへ、より良い提案を携えて向かっていくはずです。