視野を広げたい。天職である「担任の先生」という仕事から一歩進み始めた

▲小学校で授業を行っている東

2021年、春。校長室に呼ばれて伝えられた異動先は「みずほ」だった──

東が〈みずほ〉で働くことになったのは、教職員の中から将来の管理職となる人材の候補となる者を選抜する教育管理職A選考(以下、A選考)という試験に合格し、ジョブローテーションの一環で「長期社会体験派遣研修生」(以下、長研生)として派遣されたことがきっかけでした。

東 「これはただの笑い話ですが、まさか金融機関に派遣されるなんて1ミリも思っていなかったので、『みずほ』と聞いたときは東京都西多摩郡の瑞穂町かと思い込んでしまいました(笑)。

『遠いところですね』なんて話をしていたら、『いやいや、オフィスは大手町にあるらしいよ』と、校長先生と全く話が噛み合わなくて。よくよく話を聞いてみると、『みずほフィナンシャルグループ』らしいということが分かったんです」

長期社会体験派遣研修は、「学校以外の組織で就業経験を積み、それにより得た多様な考え方や視野を学校教育の場へ還元し、教育が抱える諸課題に適切に対応する能力を養うこと」を目的としています。

学生時代から学校の先生になるという夢を持ち続けていた東。夢が叶って毎日子どもたちに囲まれ、子どもたちの成長に一番近くで関われる現場にいることは天職だと思っていると言います。それでも学校現場を一度離れて、行政機関や民間企業で一定期間働く可能性のあるA選考を受けようと思ったのには、理由がありました。

東 「ゆくゆくは『管理職になって、理想とする学校を作っていきたい』という想いがあったからです。A選考の話を聞き、挑戦するかどうか1~2年は迷いました。『教員を続けてそのまま副校長、校長という学校管理職になるパターンももちろんあるけれど、学校現場以外の環境を知っておくことは視野を広げるチャンスでもある』という話を伺い、覚悟を決めて選考を受けました」

コロナ禍の影響もあり、今までの当たり前が大きく変化する日々。学習指導要領が変わり、小学校でもICT(情報通信技術)を用いた教育が導入されました。

東 「様々な物事が大きく変化していく中で、閉じた世界で完結するのではなく、外からの新しい風を取り入れて変化するということが大事だと思っています。私はこの長研生という制度を、『外の風をしっかり取り入れるための研修』として捉えていました」

自分の役割は、企業に外の風を届けること──〈みずほ〉ですべきことは何か

▲担当したM-DIMイベントにご登壇いただいた青山学院大学 陸上競技部の原晋監督と

ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)推進を経営課題として掲げ、社員の意識改革と行動変革の促進に取り組んでいる〈みずほ〉。東はその中枢で働くことになりました。

東 「まず衝撃を受けたのは、規模の大きさです。東京都の教職員の数は約6.5万人で、〈みずほ〉の社員は約7万人。伝えたいメッセージを〈みずほ〉の社員たちへどう届けるか、それは学校ひとつふたつではなく、東京都全体の教職員に響かせるのと同じくらいの規模になるんです」

東は4月の着任早々、ダイバーシティ・インクルージョン推進室で「M-DIM」の企画・準備を担当することになります。M-DIMとは、Mizuho Diversity & Inclusion Monthの略で、社員一人ひとりがイベントを通じて多様な考えを吸収し、議論・発信しながら他者とのつながりを広げる、グループ・グローバル一体で行う社員参加型の大規模D&I推進プロジェクトです。

東 「M-DIMの目的や意義を社員に伝えるために外部のクリエイターと連携し、コンセプト動画を作り、その動画はM-DIM期間前・期間中と様々なイベントで多くの社員に視聴されました。伝えたいことを文書で伝えるだけでなく、視覚と聴覚に訴えて届ける有用性や大切さを実感しました。

また、M-DIMを企画するチーム自体が多様性のあるチーム。人事以外の部署からプロジェクトに参加している社員もいました。さまざまな価値観の人が集まり『より良い企画をつくる』というベクトルが合うと、自分たちの想像を超える良いものを作れるのだ、という経験ができました」

このようなやりがいがある一方、難しさもあると話します。

東 「M-DIMは業務外の取り組みであり、社員それぞれの本業に必ずしも直結するわけではないので、興味を持ってもらうことの難しさを感じることもあります。どうすれば、参加意義やそのおもしろさが伝わるのか、チーム全員で何カ月もかけて考えました」

東はM-DIM以外でも、全ての管理職を対象とした「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」に関する研修作成を担当。思い込みや固定概念にとらわれず多様な部下を育成するインクルーシブ・リーダーシップの重要性についても発信しました。

その後すぐに、東はこの研修を小学校でも取り入れました。

東 「『無意識の思い込みが、成長を妨げる』という研修を〈みずほ〉で作っていく過程で、これは子どもたちでも一緒だと感じたんです。学びを経た子どもたちからは、『お互いをリスペクトすることでより良いクラスになる』、『アンコンシャス・バイアスがなくなることで世界が平和に近づく』という感想が出てきました。大人だけの知識で閉じるのではなく、子どもたちにも伝えることで、よりすばらしい社会をつくっていけるのだと実感しました」

〈みずほ〉からの学びを積極的に学校教育に取り入れている東。逆に〈みずほ〉にも、自分だからこその視点を届けることを意識しているといいます。

東 「13年間学校で働いてきた教員としての経験をもとに、〈みずほ〉で働いていて思ったことや違和感を覚えたことなどについては、積極的に周囲に発信しています」

〈みずほ〉にとって、長研生受け入れ元年となった2021年。東ならではの視点や率直な意見はかけがえのない「外の風」として〈みずほ〉に取り入れられたのです。

「社会をより良くしたい」──教育者としての自分、社員としての自分

▲長年続けている趣味の阿波おどり

教員としての自分、〈みずほ〉社員としての自分。ともすれば二つの顔を持つような状況ですが、東はどちらの自分も区別していません。なぜなら、今学んでいることを教育現場に持って帰ることで、社会がより良くなる──そう確信しているからです。

東 「私は、担任しているクラスの子どもたちに『このクラスが良くなることで学年が良くなる。学年が良くなれば、学校全体が良くなる。この学校が良くなれば街が良くなるし、街が良くなれば地域が良くなる。そしてこの地域が良くなれば日本という社会が良くなると信じている。もしかしたら、それが世界の平和にもつながっていくかも。だから、まずはこのクラスでの一年間を大事にしていこう』と伝えています。

今〈みずほ〉で携わっていることも、私一人の頑張りはとても小さなものかもしれませんが、きっとどこかで社会のためになると思っています」

また、子どもたちを取り巻く環境をより良くするために、東は地域の活動にも積極的に参加しています。そのひとつが、大学時代から続けている「東京高円寺阿波おどり」。そこには30人を超える子どもも在籍しており、幼少期から家族ぐるみで参加し、大人になるまで関わり続ける人たちもいます。まさに、学校・家庭・社会が三位一体となって子どもを育てているのです。

東 「大切にしている言葉に『いいまちは、いい学校を育てる。学校づくりはまちづくり』というものがあります。『チーム学校』として、学校と家庭と地域をつないで共に子どもを育てることが大事だなと思っています。これからの先生は、勉強を教える“ティーチャー”としての役割だけでなく、“マネージャー”としての役割も大事だと言われています。私自身も、地域と家庭と学校をつなげるような役割を担いたいと思っています」

「社会のため」と熱い想いで活動している東ですが、学校現場や〈みずほ〉で、難しいと感じることもあります。

東 「組織や風土を変える難しさは、共通していると思います。大きい規模であればあるほど、自分の携わり方がすごく難しい。学校教育においても、会社においても、『これをやればすぐ良くなる』という近道や正解はありません。改革をしていくためには、挑戦や失敗を繰り返し、時間をかけて地道にやり続けていくしかないと、〈みずほ〉で業務に携わるなかで学びました」

正解がない中でも、トライ&エラーを繰り返しながら、歩みを止めずに進み続けています。

〈みずほ〉での経験を学校教育へ還元。教育者として抱く希望と展望

▲〈みずほ〉大手町本社ビルにて

企業での経験を学校教育へ還元したい──学校という場をより良くするために東が〈みずほ〉で続けていることは、「アウトプット」です。〈みずほ〉で業務に携わるにあたり、意識していることがふたつあると東は語ります。

東 「ひとつは、業務終了報告の工夫です。コロナ禍もあり、チームメンバーの働く場所が必ずしもオフィスだけではない環境下、私のチームではその日に行った業務を箇条書きで記して、退勤時にメンバー全員にメールをするという運営を執っています。私はそこに、ただの業務報告だけでなく、『今日の小さな発見』コーナーを加え、外から来た自分だから気付いた発見、驚き、違和感、感動などを毎日記しました。共感したメンバーから返信をもらったりして、嬉しかったです。他のメンバーもその日の発見をぽつりぽつりと書いてくれるようになったのも嬉しかったですね。 

もうひとつは、籍を置いている小学校に定期的に顔を出すときに作っていた『長研生通信』。必ずA4用紙1枚分の情報発信をすると自分で決め、学校の先生たちに共有しました。また、〈みずほ〉のチームメンバーにも共有しました。情報を載せるために自然と毎日アンテナを張って生活していたので、気づきも多くなったと思います」

常にアウトプットを意識しながら生活していたからこそ、業務の中で、学校教育へ還元したいと思えることに出会ったときに、すぐに気づくことができたといいます。

東 「M-DIMを通して、経営トップのメッセージを全社員に届くように発信することの重要性を感じました。〈みずほ〉には一方的に発信するのではなく、社長と社員が直接対話できる仕組みがあったのです。学校現場でも、例えば各地域の教育長のメッセージを一方的に発信するだけでなく、現場の先生たちと対話しながら価値観や想いを共有するという手法が取れるのではないか、と考えています。

また、ダイバーシティ・インクルージョン推進室で業務に携わるなかで、多様性は目に見えるものだけではないことに改めて気づきました。どの場所にもどの教室にも、元から多様性はあります。だから子どもたちには、『一人ひとりに違いがあって、違いがあるということが実はとても大切。お互いの多様性を理解し合い、認め合いながら成長してほしい』と伝えていきたいです」

〈みずほ〉で働くことで視野がさらに広がった東は、今後のキャリアの展望をこう語ります。

東 「先生たちがより楽しく仕事ができるようになれば、子どもたちも幸せに楽しく過ごせると思っています。学校の先生は本当に素敵な仕事ですから、『やりたい』と思ってくれる人が増えてほしいと願っています。

将来的には、ひとつの学校を任されるような立場になり、学校、地域、家庭、行政を上手く連携させて、地域全体で『子どもたちのために何かをしたい』と皆が考えられるようなまちづくりをしていきたいです」

自ら手を挙げたことで学校現場から一歩踏み出し、これまでとは全く異なる環境で経験を積んだ東。〈みずほ〉での経験を糧に、2022年4月には学校教育の現場に戻ります。

子どもたちの未来のために、よりよい社会のために──動き出した東の挑戦は、始まったばかりです。

※インタビュー当時(2022年3月)の内容です。