できそうだから、やってみる──副業解禁と同時にウェブサービスを起業

▲みずほ銀行個人マーケティング推進部デジタルチャネルチーム 渡辺 徹

〈みずほ〉で副業解禁──。

2019年10月、〈みずほ〉が「次世代金融への転換」に向けて掲げた「新人事戦略」の取り組みの一つである副業の全貌が明らかになった日。産業界で副業解禁の動きが広がる中、誰もが予想していなかったメガバンクでの副業解禁は、社内で大きな反響を生むと同時に、多くのメディアに取り上げられました。

〈みずほ〉の副業解禁は、社員が社外で様々な経験を積み、多様な価値観に触れることでイノベーションを生み、会社の成長にもつなげていくことを目的としたもの。競合禁止や情報管理などの条件を満たし、自ら業を営むことで本人の成長につなげることが狙いです。

その知らせを見て胸を躍らせた多くの社員。みずほ銀行個人マーケティング推進部デジタルチャネルチームに所属する渡辺 徹もその一人でした。

渡辺は、みずほ銀行の個人のお客さま向けに提供しているデジタルサービスに関連する業務を担うチームで、金融とテクノロジーを掛け合わせたFinTechに携わっています。

渡辺 「私が主に担当しているのは、インターンネットバンキングを提供する『みずほダイレクトアプリ』とスマホ決済アプリ『みずほWallet』の企画・開発。それからチーム全体のデジタルマーケティングのプロモーションも担っています」

みずほ銀行に入社してから一貫、法人営業でキャリアを築いてきた渡辺は、現在のチームに配属になるまでITやデジタル関連業務にはあまり興味がなかったといいます。けれど、現在の業務を担当するようになって2年が経つ頃、社内で副業申請の受付が始まると、友人と共同でウェブサービスを起業するべく、すぐに副業を申請したのです。

渡辺 「たまたま友人と『こういう体験をこういうユーザーで作ったら面白いよね』と話していて。友人もシステムに詳しく、僕も本業でモバイルアプリを担当していたので『やれそうだ』と思っていたところに、グループCEOから〈みずほ〉の人事制度を変えますという発信があったのが、副業を始めたきっかけです。

僕はやりたいと思ったことはやりたい人間なんですよね。本業でも自分がやりたいと思えるように案件を作っていくし、やりたくないと思っているものはユーザーには出せないと思っています。副業も『できそうだからやってみるか』という単純な理由で、それが僕のドライバーになっています」

「やりたい」「やれそうだ」と思ったらやってみる。渡辺を突き動かすその思いは、これまでのキャリアの中で変わらぬ軸として築かれてきたものでした。

旭川でバンカーの基礎を築き、ハノイで挑戦的なマインドと柔軟な思考を育む

▲ハノイ支店での最終日、メンバーに囲まれる渡辺(中央・着座)

2009年4月、渡辺がみずほ銀行に入社して、最初に配属されたのは北海道の旭川支店でした。中堅中小企業の法人営業としての経験は、今でも彼の土台となっています。

渡辺 「土地柄か、お会いする企業オーナーの方々が温かくて、『なべちゃん、こうやってやらないとダメだよ』と教えてくれるお客さまが多かったですね。銀行業務の基礎から仕事の進め方まで、社会人としての在り方を叩き込んでいただきました。

法人取引だけでなく、オーナーの個人資産の運用・事業承継などの相談カウンターとして、『社長としてはこうだけれども、個人、親としてはこうで』というお考えを聞くことで、個人営業としての視野も備わりました」

旭川支店の4年間でバンカーとしての基礎を築いた渡辺。次のキャリアは、入社時から希望していた海外勤務でした。

渡辺 「高校生の頃から一度は海外に留学したい、海外で働いてみたいと思っていたので、就職活動ではそうした制度やチャンスがあるかを見て〈みずほ〉を選びました。

海外で何かしたかったというよりも、まったく違う文化背景を持った人たちと一緒に過ごして、自分の知っているフィールドとは違う世界の空気を吸ってみたかったんです」

そうして2013年に渡辺が赴任したのが、ベトナムのみずほ銀行ハノイ支店でした。

当時、東南アジアでもまだ発展途上であったベトナムについて、渡辺は経済が伸びている元気な国だと感じたといいます。

渡辺 「日本での仕事と大きく違いを感じたのは、基本的に全てのことが前向きに進んでいることでした。同業他社との競合というよりも、こんな取引がしたいという意欲旺盛な企業が多く、そのためにいかにファイナンスをつけるか、いかにM&Aを成立させるかといった仕事が多かったです」

一方で、日本と比較すると法規制などの制度が整っている状況ではなく、苦労も多くあったといいます。しかし、決まったルールがないからこそ、挑戦することが醍醐味でもあったと渡辺は語ります。

渡辺 「お客さまがやりたい、もしくは僕らがやれるんじゃないかと思ったことを実現するために、規制を確認したり、中央銀行の担当と議論したりして解釈を深めていきました。そうしたプロセスを積み上げてまとめ上げるのが面白かったです。

一口に文化が違う、規制が違うと言っても、それって経験してみて初めてわかることが多いんです。そんな環境にいたからこそ、変な先入観を持たずに、『そういうこともあるよね』と受け入れられるようになったと思います」

ハノイ支店での経験が、渡辺の挑戦的な姿勢と柔軟な思考を育んだのです。

香港のMBAスクールで知った、世界の広さと多様性の価値

▲中国・万里の長城を訪れた渡辺。MBA留学中に様々な見聞を深めた。

ハノイに赴任して3年が経った頃、次の異動を意識し始めた渡辺が検討したのは、社内公募留学制度によるMBA留学でした。

渡辺 「お客さまには一部上場企業の海外現地法人の社長が多くいらっしゃいました。常に経営や事業展開について考えていて、それについていくにはもっと経営の知識がいるなと思ったんです」

渡辺が選んだ留学先は香港の香港大学ビジネススクール。30弱の国や地域から60人ほどの留学生が集まっていました。

そこで学んだことは、経営に関する知識だけではないと渡辺は語ります。

世界にはすごいやつがたくさんいる――。

渡辺がそれを感じたのはクラスメイトとの交流でした。インドから留学してきたあるクラスメイトは、クラスが終わってからの打ち合せに遅刻してくることが常だったと言います。時には、何の連絡もなく2時間遅れることも。

渡辺 「たまたまかもしれませんが、日本では考えられないですよね(笑)。ただ、議論を始めると、15分くらいでまとまってしまうんです。日本でしていたようにじっくり時間をかけて出てくるアウトプットと、彼らと15分で出すアウトプットにそんなに差がなくて、すごいなと思いました。

また、中には見たことないくらい優秀な人材もいました。それでいて自分より若かったりして、世界は広いなと思いました。自分の中のおごりもなくなりました」

振り返ると、ハノイ支店でも似たようなことを経験していたという渡辺。当時ハノイ支店で働いていたIT部門のマネージャーにこう言われたのです。「怠け癖があるからITに向いているんだ」と。

渡辺 「自分たちで手を動かして仕事をしたくないから、システムで回しちゃおうという思考なんですね。これはスクールのインドからの留学生にも通ずるものがありました。

短い時間の中でしっかりフォーカスして、結果に向かってアウトプットしていく。自分とは考え方がまったく違っていたんです。これは一緒に生活してみなければわからなかったことでした」

中には当然、合う・合わないという人もいるけれど、千差万別のいろいろな考えを持った人たちが集まる中で、多様性が生み出す価値について身をもって学んだ渡辺。その経験は、今の職場でも生かされています。

やりたいことはやる。でも無理はしない──経営者兼社員としての今後

▲「夢は大きく」と語る渡辺

これまで法人営業でキャリアを築いてきた渡辺にとって、現在の部署は初めての本部かつデジタル分野での業務。基礎から勉強の日々でしたが、FinTech分野を本業で経験したからこそ、副業の事業を考えるきっかけにもつながっています。

渡辺が副業で創り出そうとしているのは、学生向けのウェブサービス。

社内で副業申請の受付が始まると、渡辺はすぐに申請を出し、2020年5月には会社登記を行いました。2021年現在は、システムの要件定義や税務署への届出などを終えてようやく委託先のパートナーにシステム開発の発注をしたところだといいます。

本業と並行しながら副業を進めていくうちに、渡辺に起きた大きな変化がありました。それは、起業を自ら体験したことで、〈みずほ〉にいる自分とは違う角度から世の中の動きを見るようになったことです。

渡辺 「〈みずほ〉の人間としてものを見る時は、大企業や他銀行、チャレンジャーバンクの動きに注目していました。副業を始めてからは、これまで接点のなかった業種の人々がどんなシステム開発をして、どういうユーザーを取ろうとしているのか、顧客にどんな体験を作ろうとしているのかと、より広いレンジで見るようになりました。また、スタートアップの人々と話す機会が増え、入ってくる情報の幅も格段に広がっています」

しかし、本業に加え、家庭では2児の父親でもある渡辺が、公私ともに多忙な中で副業に取り組むのは容易ではないはず。そんな渡辺が副業をするうえで大事にしていることがあります。

それは、やりたいことはやりつつも、無理はしないこと――。

一時は、平日の早朝5時から副業のミーティングをすることもありましたが、それが辛くなってきた今は、土日のいずれか半日を副業に充てるようにし、状況に応じて柔軟に対応しているといいます。

渡辺 「頑張りすぎて失敗してしまっては本末転倒なので、何事もバランスよくやればいいのではないかなと思っています。基本的にやりたいと思うことは、なるべくその時に着手する、これに尽きますね」

“アクティブに、ポジティブに、クリエイティブに”を常に意識し、どんなときも自分の軸をぶらさない。本業か副業かに限らず、困ったときはそこへ立ち返るようにしているからこそ、渡辺は目指すべき場所を見失わないでいられるのでしょう。

そんな渡辺が見据える未来は――。

渡辺 「本業では、また海外赴任をしたいという気持ちがあります。別の国で文化や考え方の違う人たちと仕事をして新しい経験ができればと思っています。

副業については、来年の決算期で多少なりとも売上をあげられるようになっていればいいかなと思います。将来はまた違う分野のシードができたらいいなとか、夢は大きく考えています。これからもやりたいと思ったことを、続けてやっていきたいと思います」

一人の経営者として、〈みずほ〉に新たな価値をもたらす一人として、確かな存在感を放し始めた渡辺の歩む道は、可能性に満ちています。