経営者として、思い通りにいかないこともすべて受け止める覚悟で

ITシステムのコンサルティング・受託開発事業や技術者派遣事業を展開する上場企業・ヒューマンクリエイションホールディングスで取締役経営企画本部長を務める音吉。他にも、連結子会社のヒューマンベースで代表取締役社長、シー・エル・エスとアセットコンサルティングフォースで取締役に就くなど、4つのポジションを兼務しています。

音吉 「いわゆる企業の“攻め”の部分を全般的に担当しています。

M&Aやグループ間でシナジーを生み出せる協業を推進したり、グループ外企業とのアライアンス戦略を策定したり、ストックオプションを活用したインセンティブ型人事制度を設計したり、事業の成長の可能性を投資家の皆様に理解していただくためのIR戦略を練ったりと役割は多岐に亘っています。

戦略を考え、実行することで非連続な成長の実現を目指しています」

さまざまな人が集まる組織を率いて経営に関わる立場として、音吉が大事にしているというのが“敬天愛人”の考えです。かの西郷隆盛も好んだといわれる言葉で、「天を敬い人を愛する」という意味が込められています。

音吉 「経営は、思い通りにいかないことのほうが多いものです。自分が全力を尽くして『絶対にうまくいく』と思ったことが成果につながらないシーンも多いですし、『こうしたほうがグループのシナジーが生まれる』と思って示した方向が、社員の向かいたい方向と必ず一致するわけではないですからね。

組織にとって最善の選択をしても、結果に表れないこともあります。けれど、それを嘆くのではなく、どんな結果も受け止める気持ちは持っておこうと思っています」

経営者は絶対的な権力を持った存在ではなく、100%正しいとも限らない。そして、社員に指示を出すだけでは、何事もうまくいかない──そう理解しているからこそ、“敬天愛人”を大切にしたいと語る音吉。組織のために「何ができるのか」「どういう付加価値を生み出せるか」を常に問われる覚悟を持って、経営に臨んでいます。

仲間意識を持って本当に必要な支援だけを——多業種を支援した三井物産時代

音吉のキャリアは、証券会社の審査部門におけるIPO業務から始まりました。その後、外資系のコンサルティング企業に転職し、企業再生や海外企業のM&Aの支援に従事。再度金融業界に転職した後は、自己資金投資部門にて投資先企業のバリューアップに務めました。イギリスの投資先に駐在し、経営改善などを手掛けてきたといいます。

音吉 「キャリアを振り返ると、携わる業務は大きく変わっていないものの、審査というバックオフィスの深いところからスタートして、徐々にフロントへ立ち位置を変えてきたように思います」

三井物産への転職を考えたのは、イギリスから帰国し、しばらく経った頃のこと。投資先企業のイグジットが諸事情により長期化したことがきっかけで、自身のキャリアを見つめ直していた音吉に、総合力推進部ビジネスコンサルティング室(以下、ビジコン室)からのオファーが届いたのです。

音吉 「当時在籍していた企業では上司・同僚に恵まれており積極的に転職を考えていたわけではありませんでした。ただ手掛けていた案件が諸事情で仕切り直しになりましたので、自身のキャリアを見つめなおす時期でもありました。

このタイミングで、たまたまビジコン室の部長と室長にお声掛けいただいて、お話する機会がありました。

普通、『この人に入社してもらいたい』と思ったら、会社の良いところばかりを話したくなるものですよね。けれど、おふたりとも飾らないお人柄で、ざっくばらんに話しながら『こうした課題解決に手を貸してください』と率直に誘ってくださって……その雰囲気に強く惹かれました」

音吉がコンサルティングのスペシャリストとして嘱託採用されたビジコン室は、三井物産グループ会社の経営改善・改革の推進と、グループ全体の事業経営力強化に向けた取り組みを担う部門。いわばPEファンドのバリューアップ部隊のような存在です。2019~2021年までの在籍中、音吉はプロジェクトマネージャーとして、多くの企業の経営支援を担いました

音吉 「さすが三井物産というべきか、支援先の業種は、通販業者や鉄鋼商社から海外の缶詰の卸会社までさまざまです。中でも私は海外系の子会社の支援を多く担当しました。

外部ファームで働いていたときと比べると、ビジコン室はインハウスの支援組織ということで、支援先とも同じ利害関係の中で仲間意識を持ってプロジェクトに取り組めました。また、外部ファームのように売上にとらわれることがないので、グループ会社にとって本当に必要な支援だけを提供できる点も魅力ではないでしょうか」

異なるカルチャーが混交する多様性に富んだ環境が活躍を後押し

2年間で6〜7件の大型プロジェクトを手掛けた音吉にとって、とくに印象的だったのが東南アジアの病院グループのプロジェクトです。

音吉 「投資金額は数千億円と、三井物産の中でも非常に大きな案件でした。単純に病院の経営を改善するだけでなく、『医療データの発展的な活用・ビジネス化』という構想にも関わらせてもらいました。

三井物産の事業展開の上でも大きな意義を持つ取り組みだったので、やりがいもありましたし、かなり重要なミッションでしたね」

音吉のほかにも、ビジコン室から約半数のメンバーが参画するほどのビッグプロジェクト。かつ、病院を管理する三井物産の該当部門や現地の出向メンバー、外国人役員などがプロジェクトメンバーに名を連ねるなか、音吉はその取りまとめ役を任されました。

音吉 「投資先の企業は、『よくわからない日本企業が、人や資金面で支援をしたいと言っているけれど、果たして自分たちにメリットはあるのだろうか』と不安を抱えています。となれば、まずは信頼関係の構築からですよね。

投資先やプロジェクトメンバーの思いを汲みつつ、相手の期待値を越える丁寧な支援をした結果、『彼らがいてくれた方がうまく事業が回る』と信頼してもらうことができました。

私が抜けた後の今も、多方面のプロジェクトで継続的に成果を出し、現地出向者と共に大型プロジェクトのPMOなど重要な役回りを任せてもらえるようになり、この企業のバリューアップに寄与していると聞いています」

現在の経営ポジションへとステップアップする前に、2年間を過ごしたビジコン室。そのカルチャーは、音吉にとって非常に相性が良く、働きやすい環境だったと振り返ります。

音吉 「コンサルティングファーム出身者がおよそ半数で、残り半数は三井物産のさまざまな部門で実務を経験してきたプロパー社員という構成ですが、異なるカルチャーがうまく混ざり合ったチームです。

入社前は、商社に対してヒエラルキーが確立されている印象を抱いていたのですが、三井物産のビジコン室はフラットに意見を言い合うことができる環境でした。

また、基本は縦割りの部門のなかで動く三井物産において、ビジコン室は横串を刺せる特殊な組織。部門やグループの垣根を越えてなんでもできるので、自分のやりたいことがあり、自分で仕事を作りにいける人には最適な環境ですね」

“社会への還元”が今後のテーマ。成長意欲のある若手に挑戦機会を与えたい

現在、音吉が取締役を務める企業の代表は、以前コンサルタント時代に支援していたクライアントでもあります。2021年3月に上場したタイミングで、「企業としてのステージが変わったため、成長をさらにドライブさせるために来てくれないか」とオファーを受け、現職に就きました。

音吉 「三井物産という巨大なグループの中でさまざまな経営課題の解決支援を行ってきたからこそ、目の前の案件がグループのどこに、どのような影響を与えうるのかを考える視点を持てるようになったと感じます。

自分の仕事について、グループ全体への波及効果はもちろん、IT業界や社会に対してどのような貢献ができるかと常に考えるようになりました。ビジコン室での経験を経て、目線が上がったかもしれないですね。

ヒューマンクリエイションホールディングスはエンジニア派遣事業を行っていますが、単なる派遣業にとどまらず、ITを活用してお客様の経営課題を解決できるコンサルティング会社に転換しようとしています。ビジコン室時代、SIerを支援したこともありますし、私自身の経験をフィードバックできる機会は、きっと多いはずです」

現在は同社の経営や人事を担う立場として、組織や社会にどう貢献できるか、社員にとって快適な環境をどう構築すべきかに関心があると話します。

音吉 「若いエンジニアを迎え入れ、彼らが一人前のコンサルタントになってお客様の役に立てるよう教育体制を整えたいと思っています。そして、より正当な対価を受けられる仕組みづくりにも取り組んでいきたいですね。

これまでは自分の能力を磨き続けてきましたが、あと何年今のような仕事に携われるだろうかと考えると、自分が持っているものを世の中にもっと還元できたらと思うようになったんです。育てるというとおこがましいですが、成長意欲のある人が積極的にチャレンジできる環境を用意したいですね」

社員や社会のために貢献したい──まさに敬天愛人を体現するような、新たな目標を掲げる音吉。豊かな経験と確かな手腕、篤実な人柄で人を惹きつけ、続く世代を導いてくれるはずです。