学生時代にカーデザインのスキルを身につけ、三菱自動車へ

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▲(会社の展示ラリーカー)幼少期からモータースポーツ、観戦が好き

2022年4月現在、エクステリアデザイナーとして量産車を担当している最上は、学生時代にカーデザインを学びました。

最上 「3年制の専門学校に入り、1年生の時はスケッチをはじめ、デジタルモデリングの基礎やクレイ(粘土)での造形などを学びました。2年生からはデザイナー、デジタルモデラー、クレイモデラーと3つのコースに分かれます。最初はデザイナーを選択したんですが、自分でモデリングもやりたいなと思って、デジタルモデラーに転向しました」

こうして最上は、デザイナー、モデラーとして必要なスキルを磨きました。そして、学校と企業の産学共同プロセスで、三菱自動車との関わりが始まったのです。

最上 「専門学校では、自動車会社との産学協同授業が毎年あり、僕の年は三菱自動車だったんです。三菱自動車の現役のデザイナーの方が講師として来てくれました。当時は『i(アイ)』が出るタイミングで、『i(アイ)のミッドシップのプラットフォームを使って何か提案する』という課題を一緒にやらせてもらいました。それが三菱自動車と関わるようになったきっかけです」

こうした関わりを持つまでは、三菱自動車に強い興味を持っていなかったと最上はいいます。

最上 「実は、ほかの会社のデザインが好きでした。でも、講師の方々から『三菱だったらフレキシブルに仕事ができる。縦割りじゃないからデザインもデジタルも、やりたいことが両方できるよ』と声をかけてもらいました。

ほかにも、2005年に開催された東京モーターショーで、『i(アイ)』の生産車と、ランサーエボリューションのコンセプトカー、デリカのコンセプトカーを見たこともきっかけになりました。その年のモーターショーで、三菱自動車が一番モダンだなという印象を持ったんです」

東京から岡崎へ──「プロ」のデザイナーを目指して

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▲『mitsubishi concept GR-HEV』スケッチ

2007年に、最上はデジタルモデラーとして三菱自動車に入社。最初の1年間は新人研修がメインで、2年目から本格的な仕事が始まりました。

最初はデジタルモデラーとして、RVRのインテリアのモデリング業務を担当。その後すぐに東京デザインスタジオに異動となり、先行デザイナーとしてモーターショーカーを含む、さまざまな車種のモデリングやデザインに携わりました。

最上 「印象に残っている仕事は、2013年の『mitsubishi concept GR-HEV』というショーカー。スケッチが選ばれて、デジタルモデリングや広報用CG作成も行いました。初めての海外での仕事だったので新鮮でした」

東京デザインスタジオで先行デザインの仕事を7年間経験した最上は、より製品に近い仕事に興味をもつようになりました。

最上 「最初、東京デザインスタジオでの勤務は1〜2年の予定でしたが、結果的に約7年いました。先行デザインのほか、レースカーやマイナーチェンジ、グラフィックデザインなど幅広くスケッチを描くんですが、特に量産車の場合、スケッチを描いたら、それを製品開発を担当している岡崎のデザインセンターに渡すと任務完了なんです。しばらくすると、そのスケッチが車になっているんです(笑)。当時は製品化に必要な要件はほとんどわかっていなくて、格好良ければ良かったんです。

そこで、このままではプロになれないと思ったんです。開発のことが全然わからない。絵を描いて、モデルをつくって……。極端に言うと、やっていることが学生とあまり変わらなかったんです。

カーデザイナーのイメージって、かっこいい車の絵を描く仕事ですよね。でも、スケッチを売って僕達は食べているわけじゃない。そこで終わりだったらイラストレーターですよね?

スケッチは車という商品を作るためのツールの1つでしかなくて、プロのデザイナーは製品化に向けたいろいろな問題をまとめられるスキルや知識が必要だと思いました」

プロのカーデザイナーを目指した最上は、上司と相談し、2016年に三菱自動車岡崎製作所にある総合的なデザインスタジオである、岡崎デザインスタジオに異動しました。

新しい挑戦、新しい自分

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最上 「岡崎では最初、用品開発を担当しました。今のエクリプス クロスもそうですし、アウトランダーにも携わりました。特別仕様車も担当してプロダクトを出す経験を積みました」

こうして最上は、岡崎デザインスタジオでプロダクトデザインの経験を積み、2022年4月現在は、次世代車のエクステリアデザインのアシスタントマネジャーを担当しています。現在携わっている仕事について、最上はこう語ります。

最上 「先行デザイナー時代は、絵を描いたり、モデリングしたりと、モノと向き合うことが多く、それは時間を忘れるくらい熱中して取り組めるんです。ただ、今思うと人との関わりは少なかったですね。

プロダクトデザイナーとしての今は、人との関わりがとても多いです。デザインを具現化していく中で、一緒に開発する方々と、それぞれの立場でより良い車をつくろうと意見を闘わせます。難しさもありますし、ストレスが貯まることもあります。

一方で、でき上がったときの充実感や達成感、みんなでやりきった感覚を得られるんです。それは自分ひとりでは得られない感覚です」

デザインの現場の「旗振り役」としての立場が多くなってきたと語る最上。若手のころとは違う仕事に戸惑いつつも、日々奮闘しています。

最上 「実は正直、向いてないなと思いながらやっています(笑)。

僕は人と話すのがあまり得意じゃないし、人前に立ちたくない性格です。どちらかというと職人側でいたい。淡々とものづくりをしたり、良くしていったりする方が好きです」

得意ではないと思っている仕事をなぜ続けられるのか。最上はこう話します。 

最上 「苦手で、自分では手を上げてやらない仕事だからこそ、放り込まれて得られるものとか、成長できることがあると思っています。考え方を切り替えて、自分の経験値になると思って取り組んでいます。

それに何より、どんな形であれ、関わるからには良いものにしたい。これが一番の原動力です。

今は、これからASEANで発売する次期車のデザインとして最後の部分に携わっています。これほど細部までプロジェクトに関わるのは初めてです。でき上がったものが世の中に出たら嬉しいだろうな、と期待しています」

カーデザイナーはアーティストじゃない──お客様の期待を超えるために

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▲(好きな陶芸&旅行)車以外の領域でインプット&リフレッシュ

デジタルモデラーとしてキャリアをスタートし、先行デザイン、プロダクトデザインを経験した最上は、自身のスキル・成長についてこう語ります。

最上 「元々デジタルモデラーとして入社したので、デジタルモデルを自分で作ることには何も抵抗はないですし、自分でモデリングできるのは武器なのかなと思います。ただ昔と比べて、デザイナーとか、クレイモデラーとか、デジタルモデルを扱える人は増えてきました。なのでもう長所だとは思ってなくて、むしろどれも半人前だなっていう意識があります。

そのせいか、仕事の中で譲れないやり方みたいなものはないです。周りの人を見て、『そのやり方は上手だな』と感じたことは、どんどん取り入れるようにしています」

カーデザインの中でいろんな職種を経験した最上は、カーデザイナーをこんなふうに捉えています。 

最上 「カーデザイナーはアーティストじゃありません。違いは出発点で、“自分がしたいこと”ではなく、“お客様が欲していること”を実現していく仕事だと思っています。何が欲しいかを具体的に聞ければ楽ですが、それだと期待通りまでにしかならない。期待を超えるものを作りたいです」

さらに最上はデザイナーを志す方へこうアドバイスします。

最上 「期待を超えるために、こういう形を提案したいという想いを伝えるところからデザイナーの仕事は始まるので、伝えるツールはたくさんあった方が強いと思います。

一番わかりやすいのがスケッチです。これは平面で、モデリングができれば立体でコミュニケーションができます。僕はまだまだですが、英語ができれば外国人にも伝えられます。なので、いろいろな表現方法を身につけると良いのではないでしょうか」

デジタルモデラーとしてキャリアをスタートし、先行デザインからプロダクトデザインへキャリアを拡げてきた最上。お客様の欲しいものを提供する「プロ」のデザイナーとして、自分が関わった車が世に出ることを楽しみにしています。