美術教育からカーデザインの道へ。惹かれたのは三菱自動車社員の一枚のスケッチ

大学時代の越山は大学で美術教育を学び、卒業後、カーデザインの専門学校に進学しました。

越山 「美術は、小さいころから好きだったので、何となく美術系に行きたいと思っていました。大学に行った理由もちょっとふわっとしていて、将来どうするかを考えた時に、金沢が良いところらしいという話を聞き、行ってみたいと思ったことがきっかけでした。オープンキャンパスを理由に金沢旅行に連れて行ってもらったら、金沢の街をとても気に入り住みたいと思い、金沢に行ったという感じです」

美術系の学部に進学した越山は、ふとしたことがきっかけでカーデザインに興味を持ちます。

越山 「車は小さいころから好きでしたが、大学時代に車に乗っていた時、デザインに対して『自分ならこうするのに』などアイディアが湧き出てきたことがきっかけで、カーデザインに興味を持ち始めました。
タイミング良く知り合いが『良いカーデザイン専門学校があるよ』って紹介してくれて、進学を考えました。親からは、2つも学校に行くなんてと最初は反対されたのですが、親にプレゼンテーションをして説得し、納得してもらいました」

大学卒業後、カーデザインの専門学校に進んだ越山は、三菱自動車との出会いを果たします。

越山 「授業の一環で、いろいろな自動車メーカーの人がスケッチのデモンストレーションをしてくれたことがありました。その時に三菱自動車の方が描いたスケッチを入手したんですが、その人のスケッチが私には一番衝撃的で、印象に残ったんです。表現が難しいんですけど、一番キラキラして見えて、その時に三菱自動車に興味を持ちました」

就職活動では三菱自動車へ応募し、1週間の選考試験に参加しました。そこで社風や社員の雰囲気に好印象を抱いたといいます。

越山 「実は試験の中で、カラーデザインのインストラクターの方と言い合いになって……。でも、その時に嫌な印象というよりも、話しやすくて親しみやすい環境だなと感じました。
また、エクステリアデザインのインストラクターだった岡本さん(岡本 俊彦の記事)が明るく元気が良くて、別のグループの私にも気軽に話しかけてくれる等、すごく雰囲気が良かったことが印象に残っています。最終プレゼンテーションの日も学生よりも派手で、髪の毛を普段の2倍以上立てていた姿がおもしろいなと思って、すごいポジティブな印象を受けました」

「仕事があるうちは華だよ」──苦難を乗り越え強くなるきっかけとなった上司の言葉

▲カラー検討中

三菱自動車に入社後、越山はインテリアデザインを経て、希望するカラーデザインの仕事に就きました。

越山 「カラーデザインの仕事はトレンド情報を集めてから、コンセプトを考えます。それに基づいて色や素材を開発し、スタイリングデザイナーと一緒に検討をして、一番適切なデザインを製品化して行きます」

越山はデザイナーとして活動する中で、クリエイティブなだけではない地道な一面を知ったといいます。

越山 「入社前はカラーデザインに対してちょっと華やかで良い部分しか見えていませんでした。でも実際は交渉事とかも沢山あって、社外のサプライヤーさんをはじめ、社内の設計・商品企画、海外拠点の人など関わる人や部署はすごく多いことを知りました。

意外とクリエーションをする時間が少ないことを知り、悩んだこともありましたが、クリエーションするための時間は自分で作り出そうと考えることにしました。他の作業をいかに早く終わらせるか自分なりに工夫をして、クリエイティブな作業がしっかりできるように自己マネジメントしています」

入社後、忙しさから気が抜けない状態が続き、自己マネジメントができなくなった時もあった越山。当時かけられたひと言が今でも心に残っているといいます。

越山 「当時、デザインスタジオでマネジメントについて上司と口論したことがあったんです。その時に当時の本部長から『仕事があるうちは華だよ』って満面の笑みで言われたんです。

その時、任せてもらえる仕事があるっていうのはありがたいことなんだなと妙にスッキリしました。その後も、辛い時こそ仕事をさせてもらえるのはありがたいことだと、ポジティブに考えるようにしています。私にとって影響力の大きい言葉でした」

本部長の言葉をきっかけに、辛い時こそ視点を変える重要性に気づいた越山は、仕事で失敗した時の気持ちの切り替えが早くなりました。

越山 「失敗することを恐れずにやってきたからこそ立ち直りも早くなったし、若いうちに数々の失敗をしたからいろいろ乗り越えられてきたような気がします。『落ち込む気持ちもわかるけど、できるだけ早く立ち直ることが今後成長して行くコツだよ』と、後輩たちに伝えたいですね」

自分の成長からメンバーの成長へ。チームリーダーの役割を果たす

▲チームメンバーとMeeting

三菱自動車に入社してからの12年を振り返り、越山はカーデザインの仕事において重要なことがあるといいます。

越山 「カーデザインの仕事では、コミュニケーションをとることがすごく重要です。自分の所属するグループの中では通用する言葉も、ほかの部門の人にとっては分からないこともあります。

だから、言語や立場によって伝わり方が変わることを念頭におきながら、伝える相手によって伝え方や見せ方、プレゼンの資料を変える必要があります。これが大変な部分でもありますね」

また、越山は「人に頼る」ことも重要なスキルだと考えています。

越山 「役員など立場が上の人に説明するときは、プロジェクトのリーダーであるプログラムデザインダイレクターやもっと上の人たちにすぐに相談して、一緒に案を考えてもらうようにしています。自分の提案をしっかり伝えながらも、人に頼ることでアドバイスをもらい、案を洗練させていきます」

2022年3月現在は、カラーデザイングループのチームリーダーとして活躍する越山。後輩に対し、自分だからこそ語れることがあるといいます。

越山 「私は新人の頃から数々の失敗を重ね、よく叱られてきました。だからこそ、良いところだけでなく『私はこうしたら失敗して怒られたから、気をつけた方がいいよ』と失敗談を正直に話すようにしています。

『失敗』は繰り返してはいけないことですし、そこをちゃんと伝えてあげた方がいいかなと思っているんです。失敗しない人は絶対いないから、そこを見せた方が、相手も心を開いてくれるような気がします」

また越山は、リーダーになったことで生じた自身の変化について、こう語ります。

越山 「リーダーとして後輩と一緒に働く中で、考え方も昔よりも柔軟になったし、視野が広がったような気がします。昔は自分のデザインをどうしたいかとか、どうやったら提案が通るだろうなど自分目線のことしか考えていない頑固な性格でした。しかし、リーダーになってから人の意見もちゃんと聞けるようになりました。

また、個人のアウトプットには限界があるので。誰かと競ったり、チームとして動いたりした方が、情報量や提案力、発見や刺激が大きくなることに気づきました。きちんと人の話を聞いて考えて、みんなで決めて、仲間と一緒に動かしていくことが、今は楽しいと思っています」

アウトプットとインプットの切り替えを大切に──自分らしさを貫くライフスタイル

▲プライベートの過ごし方──工房&ショップ「NOTA_SHOP」にて

越山は、仕事とプライベートの切り替えを意識しているといいます。

越山 「平日はガッツリ仕事に集中して、休みの日はしっかりと休んで、リフレッシュをするようにしています。昔は休みの日もデザインの延長と考えていましたが、それだとフレッシュな気持ちでデザインができないと思ったことがあります。

体を休めるという意味でも、新しい視点で自分のデザインを客観的に見るという意味でも、平日はアウトプットで、休日はインプットと切り替える方が、私のスタイルとしてはいいなぁと思うようになりました」

休みの日は、どこかへ出かけたり好きなものに触れたりと、デザインに通ずるインプットをしているといいます。

越山 「今はあまりできていませんが、大抵休日はどこかへ出かけています。大学の時に過ごした金沢がやっぱり今も好きで、初心に戻ってリセットできる場所なので、定期的に行くようにしています。

また、地元が焼き物の街なのでお皿や土鍋が好きなんです。直接作家さんのところに行って、買ったり、注文して作ってもらったりしています。展示会でいいなぁと思った作品の作者さんに直接連絡を取って、親しくさせてもらうこともあります。

その作家さんもものづくりの人で、デザインに通ずる価値観を持っているので、話をしていてすごく楽しいです。モノだけでなく人と触れ合うことからのインプットも大切だと思っているので、そういう人たちと触れ合えることは貴重だし、ありがたいですね」

越山は今後、自身の目標についてこう語ります。

越山 「今後は自分のチームを大きくし、いろんな人や組織を動かしたいです。以前はエクステリアデザイン、インテリアデザイン、カラーと個々で動いている印象がありましたが、最近組織の刷新によって一緒にやることが増えました。

なので、『こういう色をやりたいから、こういう形にしよう』『この素材を使う上でこの形ではよく見えない』など、カラーの立場から発信し、デザインをリードできるようなチームになりたいと思っています」

さらに越山は、「ずっと売れるデザインを作り続けたい」と思っているといいます。

越山 「デザイナーとしての細かいこだわりやポリシーもありますが、車を買うことって並々ならぬ想いがあったり人生の一大イベントだったりするので、選んで買ってもらうのはすごいことだと思っています。『何かほしい』『必要だから』とか、どんな理由でもいいから、1人でも多くの人に認めてもらい、乗ってもらえるデザインにしたいです。自分が関わった車が街で走っている姿を見たいですし、売れるデザインを作りたいですね」

デザインに妥協しない姿勢が、随所で発揮されている越山。彼女の想いが詰まった車が街の至る所で走る未来も、そう遠くないでしょう。