美大に興味をもったことで知った「カーデザイナー」という職業

▲祖父の手仕事に興味津々な幼少期

山本 「小さい頃から乗り物が好きでした」

三菱自動車工業でカーデザイナーを務める山本は、自身の幼少期を懐かしそうに振り返ります。

山本 「そんな私を見て、祖父が自分の車の助手席に、ハンドルをつけてくれたんです。よく助手席に座って、そのハンドルを切って遊んでいました。それから、バスに乗るときには、必ず運転手さんの後ろの席に座って、運転する姿を見ていましたね。

 あの頃に抱いていた乗り物への憧れが、今の仕事の原点にあると思います」

ハンドルをつけてくれた祖父は、靴職人でした。ものづくりを生業にする祖父の影響を受け、山本自身も自然と「ものづくり」に興味や憧れを抱くようになります。自分も何かを創ってみたい――そんな想いで、多摩美術大学に進学。工業製品のデザインを学びました。

山本 「美大について調べた時にカーデザイナーという仕事を知って、興味を持ちました。車のデザイナーって、他のプロダクトデザイナーとは違うなと思ったんです。

たとえば、家の中で使われる商品をデザインしても、実際に誰かがそれを使っているところを見る機会は少ないかもしれません。でも車であれば、自分がデザインしたものが道路を走ることになるので、使っている人を街で見ることができますよね。そういった意味で、カーデザイナー、とくに外装を手がけるエクステリアデザイナーは特別な仕事だなと思いました」

在学中に、カーデザイナーになりたいという夢を抱いた山本。数ある自動車メーカーの中から、三菱自動車工業に興味を持つきっかけとなった、ある出来事がありました。

 山本 「大学の授業で、三菱自動車工業との産学連携のプログラムがあったんです。実際に現役で活躍しているカーデザイナーの方に自分の作品を見てもらい、直接アドバイスをもらえるという授業でした。

そのときに印象的だったのが、三菱自動車工業の皆さんが、フラットに話してくれたことです。忙しいはずなのに『いつでも連絡していいよ』と言ってくれて、実際に私がいろんな質問を送っても、とても丁寧に答えてくれました。『たくさん質問してくれる姿勢が良かったよ』と、温かな言葉をくれたことも覚えています。

当時学生だった自分にとってはすごく嬉しいことでしたし、三菱自動車工業で働く人たちの人柄に魅力を感じた出来事でした。それで、就職活動では三菱自動車工業を受けようと思ったんです」

デザイナーは、発明家でないといけない──心に残った本部長の言葉

▲ホイールモデルを見せながらエピソードを語る山本

念願が叶い、2016年に三菱自動車工業に入社した山本。これまで数々のデザインを手がけてきましたが、中でも印象に残っているのは、新型アウトランダーのプロジェクトです。

山本 「新型アウトランダーのコンセプトは『威風堂々』。それを表現するために、三菱では初となる20インチの大径ホイールを採用することになったんです。全社的に注目度の高い、大きいプロジェクトで、しかもホイールという重要なパーツのデザイン。是非自分が担当したいと思い、コンペのときからかなり気合を入れて取り組みましたね」

コンペを勝ち抜き、見事ホイールデザイン担当となった山本。デザインを始めるにあたり、「今まで誰も見たことがないようなホイールを手がけたい」という想いを抱いていました。

山本 「新型アウトランダーのボディーは、オールニューデザイン。それを支えられるように、ホイールデザインにも新規性を持たせようと考えました。

周囲の先輩方や上長からアドバイスをもらいながら、何回もモデルを作っては試行錯誤を繰り返しました。そして数パターンのデザインを作ったのですが、最終的には『自分が一番やりたいデザインを選んでみたら?』と言っていただき、現在の形になりました。自分が考え抜いたものを選んでもらえたときは、とにかく嬉しかったですね」

若くして「会社の主力商品に自身のデザインが採用される」という実績を上げた山本。このとき、デザイン本部のトップである本部長から言われたある言葉が、強く印象に残っているといいます。

 山本 「本部長に、『君のデザインは発明』だと言ってもらえたのです。そして『いいデザイン=発明。僕らデザイナーは、デザイナーであると同時に発明家でないといけない』という言葉に、深く感銘を受けました。

発明という言葉は、すごく納得のいくものでした。たとえばiPhoneって、デザインがすばらしいだけではなく、携帯電話というものの在り方を変えたまさに発明的なものだったと思うんです。私もそういうものを創っていきたい。だから今でも、本部長からの言葉が、デザインをアウトプットしていく際のベースになっています。

また当社は、やりたいことを強く希望すれば、若手でもチャンスをしっかりもらえる会社です。会社の主役となるような商品のプロジェクトに、若いうちから携われるというのは、三菱自動車工業の魅力のひとつだと思いますね」

器から化粧品パッケージまで……他業界のデザインも貪欲に学ぶ

▲Analogue Life(作家物の作品を中心に暮らしのものや道具を取り扱うお店)にて友人と

新型アウトランダーのプロジェクトを振り返り、緊張よりもワクワクした気持ちの方が大きかったという山本。仕事をするうえで「これをやってみたい」「もっとこうしたい」という貪欲な姿勢を大切にしていると語ります。

山本 「デザインの勉強も兼ねて、ギャラリーや作家物の器や雑貨を扱うお店によくいきます。新しいテクスチャ―や、おもしろいプロダクトにすごく興味があるんですよね。

それから、化粧品売り場にも行きます。化粧品のパッケージって、女性向けにラグジュアリーな要素等がつまっていて細部までこだわったデザインになっていますよね。そういったものの差し色の使い方や質感などすごく勉強になるんです」

カーデザインのトレンドを追うだけでなく、他の業界の製品や作品からデザインを学ぶことも大事だという山本。過去には、洋服の「プリーツ」から着想を得て、グリルをデザインしたことも。

山本 「いろいろなおもしろいものを貪欲に吸収していくことでデザインクオリティーを高めていきたいと思っています。ただ難しいのは、自分が満足いくアウトプットが出せたとしても、必ずしもコンペで選ばれるというわけではありません。

でもそこで折れずに、何度もトライする。その強さこそが、この仕事を続ける上で大事なことかもしれません」

お客様にいい体験を──同じ想いでぶつかり合った分だけ仲間が増える

自分が描いた「絵」が製品として作られ、工場から出てきたとき。商品として、ショールームに並んだとき。そして、街なかを走る姿を見たとき──山本が「デザイナー冥利に尽きる」と感じる瞬間は、数多くあります。一方で、カーデザイナーならではの難しさについて、こう語ります。

山本 「車を製品化する場合、法律が関わってきますし、設計の部分でエンジニアとぶつかることもありますね。こちらが描いたデザインについて、『これはできない』と言われる場合も多いんです。

ただ、デザイナーもエンジニアも『お客様にいい体験をしてほしい』という想いは同じ。じゃあどこをどう変えれば作れるのか、どんなシミュレーションをすればいいのか、会話を重ねて着地点を見つけていきます。

プロジェクトごとにそういうぶつかり合いをすると、会社のなかでどんどん仲間が増えていくんです。仲良くなったエンジニアが、次のプロジェクトのときにアドバイスをくれたり、ほかのエンジニアとの橋渡しをしてくれたり……。苦労して乗り越えた分だけ、どんどん仕事がやりやすくなるのを感じますね」

昨今、新しい車種を続々と発表している三菱自動車工業。これまでよりも多くの、新しいお客様の目が、三菱車に向けられていると感じ、山本は決意を新たにします。

山本 「世の中も自動車業界も、今どんどん変化しています。その変化にマッチするような、よりモダンで先進的なデザインを表現していきたい。そのために、世の中にある優れた商品や作品から吸収していく姿勢を、これからも持ち続けたいと思います」

新卒社員として入社し、カーデザイナーとして成長を遂げてきた山本。「どんな人が三菱自動車工業のデザイナーに向いているか?」と尋ねると、「こだわりを持ち、何かに貪欲になれる人」という答えが返ってきました。

山本 「当社のお客様は、他のメーカーにはないような、個性が強い車を求める傾向にあります。だからこそ、『こんなデザインを実現したい』というこだわりを持ち、それにとことん貪欲に取り組める方が向いていると思いますね。またカーデザイナーは、細部を詰めるために市場調査したり、エンジニアと折衝したり、デザインをすることだけが仕事ではありません。だからこそ『やらされている』という気分ではなく、自発的にどんどんやっていけるかも重要です。

上長から言われたことをこなすだけでは、他社の製品に勝つことは難しい。現場の社員である私たちがどんどん提案をして、自分がいいと思ったものを言葉にしていくことが重要だと思います」

三菱自動車らしさ、時代のトレンド、そして新旧のお客様を満足させられるかどうか──山本はこれからもさまざまな角度からデザインを磨き上げ、三菱自動車工業のプロダクトを支えていきます。