「君が思っている以上に良いサービスだ」

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後藤が率いる「プライマリケアプラットフォーム事業部」では、これまでに保険薬局向けのかかりつけ薬局化支援サービス「kakari」、クリニック向けのかかりつけ化支援サービス「kakari for Clinic」を立ち上げ、運用を開始しています。

とりわけkakariで一番使われている機能は「処方箋事前送信」機能です。患者さんが受け取った処方箋をスマホで撮影し、自分の行きたい保険薬局に事前に送信しておくことで、保険薬局での待ち時間を減らすことができます。

当初は、患者さんが自分で服薬管理をするためのアプリを作ろうと考えていましたが、患者さんにヒアリングをしてみると服薬管理への関心はあまり高くなく、それよりも待ち時間を減らしたいというニーズが大きいことがわかりました。

診察待ち、会計待ち、さらにお薬待ち――通院に伴う「待ち時間」は当たり前のように患者さんの負担になっています。患者さんにとっても利便性が高まり、保険薬局も混雑を緩和できる――そう考えて2019年6月に「kakari」をローンチしたところ、想定外の嬉しい反響がありました。

「導入先の保険薬局様から『このサービスは君が思っている以上に良いサービスだ』と言われたのです。『一口に“待ち時間”と言っても奥は深いのだよ』と」

話を聞くと、がん末期のご主人の薬の受け取りのためにこの薬局を訪れていた患者さんが、「『kakari』のおかげで薬局での待ち時間が減り、その時間がご主人と一緒に過ごせる時間になった。本当に感謝している」と担当の薬剤師に話されたというのです。

後藤は、患者さんにとってかけがえのない“時間”という価値に改めて気づかされたと言います。

「その話を聞いて、私たちは待ち時間の短縮自体が医療貢献なのだということに気づいたのです」

処方箋事前送信、つまり“薬局予約”が当たり前の社会にしていきたい。しかし、そのサービスはすでにできているのに患者さんの利用機会が少ない――そこで後藤は、これまで薬局向けに提供していたサービスを地域医療の中で重要な役割を果たしている病院でも提供しようと、2022年7月新たに病院向けの薬局予約サービス「やくばと」を立ち上げます。

やくばと」とは“薬を運ぶ伝書鳩” の意で、待ち時間を減らしたいという願いを込めたもの。処方元である病院発の「薬局予約サービス」は他に類を見ず、保険薬局にとっては受信先の薬局として登録することで新規患者の獲得が期待できるとあって、運用開始早々加盟を希望する保険薬局が5,000店舗を超えるほどの反響がありました。

「先記行導入を行った2医療機関には、導入後3日間常駐させていただきました。患者さんに実際にスマートフォンで操作していただく様子を見せていただき、使いづらそうな部分を改良に生かしています。患者さんの新しい価値体験をより良いものにするため、 現在も定期的に現場を訪問して、患者さんとお話させていただくようにしています」

想定外の価値が見つかる、ワクワクする体験

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薬局予約サービスでスタートを切った「やくばと」ですが、大規模病院に足を運びヒアリングを重ねるうちに、大病院ならではのペインポイントが浮かびあがりました。それは診療予約にかかる業務負荷の問題でした。

「患者さんの診療予約が電話やFAXだけで行われていたのです。予約を受け付ける専従スタッフを置き、予約センターなどを設けても、施設によっては通電率は50%。つまり2回に1回しか電話がつながらないことがある。

これでは患者さんにも負担になってしまいます。また、大規模病院は紹介状の持参が前提なので、電話予約でも内容確認に1人あたり5~15分の時間がかかるなど、業務負荷は非常に大きいものでした」

そこで、「kakari for Clinic」での診療予約システムの経験を活かし、高度急性期医療を担う大病院向けのWeb予約申込システム「やくばと病院予約(※)」を開発。2023年7月にリリースしました。

先行導入施設の利用状況を分析してみると、意外なことがわかりました。従来、電話予約では対応できなかった早朝や夜間、土日の予約が全体の4割を占めていたのです。クリニックから紹介状をもらっていても忙しくてなかなか昼間に予約ができなかった患者さんたちが予約できるようになり、結果的に紹介患者の増加も期待できることがわかりました。

「病院の業務負荷軽減、業務効率化のために開発した『やくばと病院予約』でしたが、それ以上に患者さんの利便性向上や、紹介患者数の増加による病院の経営面への貢献につながることがわかりました。新たなサービスを提供することに想定外の新しい価値が見つかる。それがとてもおもしろくて、ワクワクしています」

※ 急性期病院向けWeb予約申込システム「やくばと病院予約」提供開始に関するプレスリリース

変化を推進するドライバーでありたい

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現場の情報を収集し、潜在ニーズから新たな価値を生み出していく中で、後藤は「自分たちの仕事は10年単位で物事を見ることが欠かせません」と語ります。

「今後の日本は人口減少に伴い医療を支える人口が減るため、生産性の向上や業務効率の改善は必須です。人口減によって外来患者数も減少するので、患者さんに選ばれる医療機関になるために、医療DXは必要不可欠でしょう」

また、医療機関の支援には、国の規制や医療改革の方向性が大きく影響します。プライマリケアプラットフォーム事業部の“薬局予約”=処方箋事前送信は、患者さん自身がかかりつけ薬局をもつことを促す意味で、国がかかりつけ薬局の推進を掲げた「患者のための薬局ビジョン」(2015年)に沿うものでした。

さらに、国は2022年に「医療DX推進本部」を設置し、2023年1月から「電子処方箋」の運用も開始しています。電子処方箋対応施設であれば、医療機関から発行された電子処方箋が支払基金の運営する電子処方箋管理サービス上のクラウドに蓄積されます。

患者さんは、紙の処方箋の代わりに6桁の引換番号が書かれた「処方内容控え」を受け取り、希望する電子処方箋対応薬局でそれを提示するか、保険証利用登録済みのマイナンバーカードを提示すれば電子処方箋が薬局にてダウンロードできるというしくみです。

「kakari」「やくばと薬局予約」では、6桁の番号を写真にとって電子処方箋対応薬局に送ることで、処方箋事前送信は完了します。

電子処方箋は自分たちがめざす処方箋事前送信=薬局予約の当たり前化にとって、「追い風でしかない」と後藤は考えています。

「国の電子処方箋に関する通知にも『電子処方箋によって処方箋の事前送信はより便利になる』といった趣旨のことが書かれています。何しろ、これまでは紙の処方箋を写した画像に過ぎなかったのが、今後は処方箋の“原本”を事前に送ることができるのですから」

国が急速に進めつつある医療DX化。その真っただ中にいる後藤は、「ものすごいスピードで医療・ヘルスケアが変わりつつある」と身をもって感じています。さらに、今後電子処方箋が普及したときに、患者さんの行動は変化するかもしれない。医療やヘルスケア業界には新たなニーズが生まれるかもしれない――。

後藤は10年先を見つめつつ、自らが「変化を推進するドライバーになっていきたい」と考えています。

社会に確かに役立っているという手応え

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「プライマリケアプラットフォーム事業部」は現在総勢約30名。半数がエンジニア職で、半数はセールスやマーケティングを担当するBizDev職です。

エンジニア職には、システム本体を開発するサーバーサイドエンジニアとUIを設計するフロントエンドエンジニア、モバイルアプリエンジニアがおり、BizDev職はプロダクトマネージャーからなるチームとセールスマーケティング、医療現場のユーザーの声を集積するカスタマーサクセスに分かれています。

職種や職能は異なってもチームとしてまとまりがあり、社内でも「結束力が高い」と評判のワンチームです。

後藤がリーダーとして心掛けていることは、全員に「仕事の意義を共有する」こと。

「自分たちの仕事にどういう意義があるのかを繰り返し伝えるようにしています。ビジネスメンバーが集めてきた医療現場の声、患者さんの声などを全員が共有することも欠かせません。

また、自分たちの事業を展開するに当たってどういう戦い方をするのか、事業戦略、売上の推移、リソースが限られている中で何を優先するのかなど、包み隠すことなくすべて伝えています」

後藤自身は大学卒業以来4年間、独立系コンサルティングファームで勤務し、新規事業立案や事業戦略を実地で学んだ後、メドピアに転職しました。

「コンサルタントの仕事は提案するところまでですが、私は自分でバトンを持って走りたかったのです。社会に確かに役立っているという手応えを感じる領域、それが医療でした」

医療系IT企業の中でメドピアを選んだ理由についてこう語ります。

「『Supporting Doctors, Helping Patients. 医師を支援すること。そして患者を救うこと』というミッションに惹かれました。

この言葉には“間接性”――つまり、社長の石見は医師ですが、医療従事者ではない私たちが現場の医療従事者とは異なる視点で医療を見て、常に提案し続けていく。医療従事者をリスペクトしながらも親密な他者であるということが込められています。それが魅力的でした」

また、自由な社風もメドピアの魅力だと感じています。

「社員一人ひとりに委ねられている部分が大きいんですね。トップは大まかな方向性を示すだけで、具体化の過程は各事業推進主体に委ねられています。

自分たちがフリーハンドで医療のことを考え、実際にビジネスを立ち上げ、展開までチャレンジすることができる。とても稀有な体験ができる環境だと思います」

この会社で今後、後藤はどんな人と共に働きたいのか尋ねると、「Warm Heart, Cool Head.(熱い想いと冷静な思考)」というキーワードが返ってきました。

「大前提として、医療への思いが強い人であってほしいです。でも、事業に持続性がなければ、結局医療従事者を支えることも患者さんを助けることもできません。

ですから、熱い想いとともにビジネスとしての冷静な思考が必要なのです。事業の立ち上げは決して簡単ではありませんが、チャレンジしてみたい人と一緒に、七転八起しながら取り組んでいきたいですね」 

※ 記載内容は2023年9月時点のものです