ヘルスケアは、日本における数少ない成長領域

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コロナ禍を通じて、さまざまな課題が浮き彫りとなった医療業界。医療体制のひっ迫による患者の受け入れ困難や医療機関の連携不足、通常医療への影響、医療従事者の不足や病院・診療所の経営難など、苦境を強いられる状況が続いています。これらはアフターコロナになれば解決するものではなく、コロナ禍が浮き彫りにした社会課題そのものです。

一方で、医療業界はDX(デジタルトランスフォーメーション)はおろか、IT化もまだ未整備なところの多い状況です。遅れているということはすなわち、変革の余地が大きいフロンティアでもあるということ。これもコロナ禍によって、多くの人が感じたところでしょう。

天坊 「日本ではさまざまな領域で規制緩和が進んでいますが、医療業界はむしろ年々規制が強くなっているような感覚さえありました。医薬品に関する広告規制や、製薬企業の医療従事者への情報提供活動のガイドライン制定はその一つです。そのような中、コロナ禍は大きな転換点となりました。

たとえばオンライン診療やオンライン医療相談は急速に利用されるようになりました。関連する法規制も臨時措置的なものから恒久化が進められていることは、その有用性が社会に認められたものということでしょう。引き続き、生命に関わるサービスならではの安全性追求も図りながらではありますが、不可逆的な変化が始まっています。“医療ならではの難しさ”ד新しい技術の利用”、ビジネスチャンスがそこにあります」

そう話すのは、取締役COOを務める天坊 吉彦。

天坊自身、入社以前は医療・ヘルスケア業界にも製薬業界にも携わったことはほとんどありませんでしたが、ヘルスケアITに大きな可能性を感じ、メドピアへの入社を決意したと言います。

天坊 「私がメドピアに入社した2014年当時、製薬業界におけるITコストが販管費のわずか1%しかないというリサーチ結果に触れたことがあり、そのときに強い衝撃を覚えたんです。どの業界もこぞってIT化を進めるなか、これは異常値だと直観しました。製薬業界だけではありません。

入社を決めて以来、知り合いの医師を巡り、医療機関を観察する機会をできる限り取っていますが、改めて命に関わる方々の責任の重さをひしひしと感じつつ、同時にヘルスケア業界はIT産業にとってのフロンティアだなと感じることばかりです。

身近なところでも、ホームページもないクリニックはたくさんありますし(※1)、Webで予約が取れる所のほうが少ない(※2)。ワクチン接種や発熱外来の受診などで多くの方々が不便を感じたのではないでしょうか。中小規模の病院では未だ紙カルテで管理されているところが多いですし、大病院であっても毎日FAXが飛び交っているのが実態です」

医師・薬剤師向けコミュニティサービスを中心とした「集合知プラットフォーム事業」をコア事業として取り組んできたメドピアは、ミッションである「Supporting Doctors, Helping Patients.(医師を支援すること。そして患者を救うこと)」を実現するため、事業の多角化を進めてきました。

2023年度(事業年度)からは事業を3つにセグメントに分け、製薬企業・医療機器メーカー向けにマーケティングや営業支援をする「集合知プラットフォーム事業」に加え、 医療機関・医療現場の業務効率化をサポートする「医療機関支援プラットフォーム事業」、企業の人事部門や健康保険組合を通じて従業員やその家族の健康を支援する「予防医療プラットフォーム事業」を推進しています。これら3事業を管轄する天坊は、メドピアを“チャレンジャー”と表現します。

天坊 「メドピアの強みは、約15万人(国内医師の約4割)の医師会員数を擁するコミュニティサービス『MedPeer』をはじめ、医師や薬剤師のナレッジを共有する集合知プラットフォームです。ユーザーでもある医療従事者の声を聞き、共にサービス開発をしてきました。

その一方、医療業界にはテック系スタートアップが続々と産まれていますし、国内異業種やグローバル企業の新規参入まで、“レッドオーシャン”の様相を呈しています。私たちもまたチャレンジャーとして、まだまだ多くの課題に取り組んでいかなければなりません」

※1:2022年9月のMedPeer会員調査で<ホームページのないクリニック>は35%

※2:2022年6月のMedPeer会員調査で<Webで再診予約ができる施設>は13% 

ヘルステックを価値あるものにするのは、「人」の力

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天坊はヘルスケア領域における課題を、“一般の人”が直面する現実から指摘します。

天坊 「日頃からスマートデバイスを身につけて健康状態を管理し、健康診断で最新の検査を受ける。病気の兆候があれば医療機関を受診して先端治療を受け、やがて歳を取ったら介護や終末期医療といったケアサービスを利用する……ヘルスケアサービスと言うと、こうしたシーンを思い浮かべるかもしれません。

けれどもこれはあまりにも実態から遠く離れています。健康に関心のある方々にこうしたサービスを提供することももちろん大事ですが、本当の社会課題は無関心層を含めてなんらかの理由で適時適切なヘルスケアを受けられずにいる人が大半だということにあります」

どんなに身体に悪影響を及ぼしたとしても、タバコや暴飲暴食をやめられない人。運動する習慣がない人。体調を崩しても「大したことはない」「忙しいから」と病院に行こうとしない人。介護が必要な状況になっても、周りに頼る人がおらず、介護サービスを受けられない人……。こういった現実に真正面から向き合うことなしに、医療費増大などの問題解決にはつながらない、と言います。

天坊 「どんなに優れた治療法が開発されても、それを必要とする人に必要なタイミングで届かなければ、なんの意味もありません。ヘルスケア領域は、予防医療、保険医療、終末期医療……。と、それぞれが個別のものとして発達し、横連携がうまくいっているとは言えません。

『ごく一部の人が使うサービス』では、私たちのミッションである『Supporting Doctors, Helping Patients.(医師を支援すること。そして患者を救うこと)』が実現できない。われわれが目指すものは多くの人が、それぞれの状況や価値観に応じて適切なヘルスケアサービスを享受できる社会インフラのようなものです」

ヘルスケアのITサービスが生活者に行き渡るためには、「現場に寄り添い、ヘルスケアプロフェッショナルの人の力を最大発揮すること」が必要と天坊は語ります。

天坊 「医療業界のDXを阻んでいるのは、法規制だけではありません。医師をはじめ医療従事者は多忙を極めていますし、医療施設や薬局のデジタル環境の整備が追いついていないケースも多い。利用者である患者さんは高齢者の方も多く、デジタルに忌避感を持つ方も多いでしょう。

単にヘルステックを標榜し、テクノロジー先行でサービスを作っても、現場では使われずに終わってしまいかねません。最先端の技術で作られたサービスでなくても、医療従事者の信頼を得て、医療従事者がサービスやツールの利点を患者さんに伝えることで普及していく方が良い。

ですから、医療従事者をはじめ現場でまさに医療に取り組む方々に寄り添い、われわれ自身もヘルステックのプロフェッショナルとして現場に入り、伴走することが重要。現場のことを深く理解した上で、現場の方々にとって本当に望まれるサービスを提供しなければなりません。テクノロジーと、それを使う人をつなぐのは、あくまで『人』なのです」

医療業界のインフラとして、100年成長し続ける企業に

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2023年度の中期経営方針として、「“医療ど真ん中” プラットフォームとしてのポジション獲得」を掲げています。その具体策の一つは「ヘルスケアマーケティングのインフラに」。集合知プラットフォームである「MedPeer」「ヤクメド」をますます多くの医師や薬剤師に利用されるコミュニティサービスにするとともに、MIフォースの展開するコントラクト(派遣)MRやMSL(メディカルサイエンスリエゾン。高度な専門知識を持って最新の治療法や医薬品の適正使用を推進する専門職)を軸に、一歩先を行く医薬品マーケティング支援を実現したいと天坊は語ります。

天坊 「医薬品マーケティングは近年、様変わりしています。取り扱われる医薬品の主力がプライマリー(生活習慣病など)領域からスペシャリティ(希少疾病や高度な治療法が求められる疾患)領域へとシフトしていることがその要因です。

スペシャリティ領域では、専門医は海外の文献や学会情報を自ら収集し、また専門医同士で情報交換しているため、MRが持ってくるより先に最新情報を得ていることも少なくない。従来のような訪問頻度を上げて、薬剤名とMR自身を覚えてもらうような営業スタイルはもはや有効ではありません。

では、どのような営業スタイルがスペシャリティ医薬品マーケティングでは有効なのか?その答えはまだ誰も持っておらず、試行錯誤している段階です。ただ、少なくとも製薬企業からの情報が不要になることはないと確信しています。医療の高度化が進めば進むほど医師には深い最新の知識が求められ、自分の専門分野を学習するだけで精いっぱいとなります。

けれども患者さんは複数の疾病を抱えていることもありますし、高度な治療により予期せぬ副作用が生じることもあります。そうなると自分の専門分野だけでなく隣接する分野も常に学習しなければならず、どうしても“手薄な知識領域”が出てきてしまいます。しかも、治療が高度になればなるほど、患者さん一人ひとりに適した治療マネジメントが必要になっていきます。

それを解決するには、やはり“テクノロジー”ד人”の力が必要です。医師の集合知プラットフォームである『MedPeer』を活用し、一人一人の先生に寄り添った情報提供をしていく。それが実現できれば、『MedPeer』はヘルスケアマーケティングのインフラになるはずです」

中期経営方針の具体策の2つ目は、「国民の健康を支えるヘルスケアバリューチェーンの確立」。かかりつけ薬局化支援サービス「kakari」や薬局予約サービス「やくばと」などの「医療機関支援プラットフォーム事業」、そして企業向け健康管理サービス「first call」や特定保健指導サービス「DietPlus」といった「予防医療プラットフォーム事業」を、集合知プラットフォームに続く第2・第3の柱として成長させていくことです。

天坊 「各々の事業はまだまだ小さく、10~50人程度の社員で推進しているものばかりで『スタートアップの集合体』といった様相です。それぞれのサービスが日本一となり、その先で予防から治療をつなげていくヘルスケアインフラとなるべく邁進しています」

集合知プラットフォーム事業、医療機関支援プラットフォーム事業、予防医療プラットフォーム事業の3つが着実に成長し、その提供価値を高めた先に目指す、中期経営方針3つ目の戦略は、「各プラットフォームで蓄積される独自データの横断的な活用による事業創造」です。天坊は、メドピアに蓄積されたユニークなデータの数々に大きな期待を寄せています。

天坊 「たとえばMedPeerやヤクメドに記載されている薬剤情報の評価データは、のべ約60万件以上あります。ひとりの医師が目視で参考にするのは数百件程度かもしれません。しかし、いまやAIを活用してテキストデータを分析すれば、医師一人ひとりにとって必要な情報を提供したり、製薬企業のマーケティング担当者に今まで気づき得なかった医療現場の声を提供できたりするかもしれません。

first callに寄せられるチャットの健康相談も、日々データが蓄積されています。ここには、電子カルテなど医療データには存在しない、患者さんや介護者の社会生活における悩みが寄せられることもあります。それらの現場の声を分析することで、一人ひとりの人生を支える“寄り添い型”のヘルスケアサービスの構想が見えてくるかもしれない。

メドピアには、ほかにもまだ手つかずの膨大なデータが眠っています。ひとりでも多くの人が健康寿命を全うし、自分らしく生きるためのサービスを生み出すため、各プラットフォームの連携を強め、さらなるデータ利活用を推進していきたいです」

今、メドピアに必要なのは「異端」な人

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「集合知により医療を再発明する」というビジョンを成し遂げるため、メドピアが今求めているのは「異端」だと、天坊は語ります。

天坊 「メドピアはどのようなカルチャーですか?とよく聞かれます。入社したとき、最初に感じたのは非常に穏やかで成熟した組織風土です。良く言えば『大人びている』し、悪く言えば『おとなしい』。失敗が許されない医療業界だからこその風土だとも思いました。

けれどもその一方で、新たな事業を生み出すためには、飛躍したアイデアやチャレンジャーマインドが必要。そんな風に思っていた人が私以外にも多かったのでしょう。5年くらい前のリーダー合宿で作られたクレドは、圧倒的な当事者意識を求める『われわれ』のほか、『はみ出る』『ぶつかる』とやや過激とも思える言葉になりました。リーダー陣が自ら作ったクレドは、できたときから浸透していると思います。そこで今、必要なのは異端な人です。異端な人を受け入れ、健全にぶつかる土壌が用意されています。

メドピアが実現しようとしているのは、誰もが最適な医療を最適なタイミングで享受できる世界──まだ誰も成し遂げていないことです。そのためには、数限りなくやるべきことがたくさんあります。難題だらけ、課題だらけの業界ですが、だからこそおもしろいし、ワクワクする。しかも社会に貢献できる。仕事を通じてそう思えることは、本当に幸せなことです。現場に寄り添い、結果的に社会を変えるインパクトをもたらすことがメドピアで働く醍醐味だと考えています」