自分を突き動かすのは、「孫の世界まで輝ける日本を作りたい」という想い
熊倉が所属するマーケットワン・ジャパンは、BtoBマーケティングの専門コンサルティングエージェンシー。米国ボストンに拠点を置くMarketOne International初のアジア拠点として設立されました。外資系企業の日本法人や国内の大手BtoB企業を主なクライアントとして、多様なマーケティングサービスを提供しています。
熊倉が担うのは、デジタル&コンサルティング部門の部門長というポジションです。
熊倉 「私が率いるのは、BtoB企業のデジタルマーケティング推進を支援する部門。ただ、『デジタルマーケティングを強化したい』と要望するクライアントの中には、デジタルマーケティングの目的が定まっていない企業が多いのが実情です。
その状態で施策を進めても成果に繋がらないため、まずクライアントの課題や事業体、会社の風土などを踏まえた上で最適な戦略を考えるところからサポートしています。その結果、デジタルマーケティングの強化が有用となれば、私たちデジタル&コンサルティング部門の出番です」
さまざまな企業を支援する熊倉は、日本企業の弱体化に強い危機感を抱いているといいます。バブル全盛期には、世界時価総額ランキングのトップ10に日本企業が多数名を連ねていましたが、2022年のランキングでは、上位はほぼアメリカの企業が占めており、日本企業の最高位はトヨタ自動車の31位でした。
熊倉 「私が生まれたのはバブル崩壊のころだったため、物心ついてからというもの、日本経済はずっと停滞もしくは衰退し続けています。GDPは横ばいですし、少子高齢化が進んで労働人口がさらに不足していくといわれています。世界に勢いのある企業が増えて競争が過熱していく中、このままでは日本企業の存続が危ぶまれます。
今このタイミングで大きく変わらなければいけないとわかっていても、人間は変化を躊躇してしまう生き物です。とくに伝統的な日本の大企業では、これまでの実績・歴史があるからこそ変化への抵抗も大きく、マーケティングにおいても新しい戦略や手法を取り入れることに消極的な企業が多く見られます」
熊倉が日本経済への危機感を強く抱き始めたのは、自身のライフステージの変化がきっかけでした。
熊倉 「2021年に子どもが生まれたのですが、仮に自分の子どもが2050年に子どもを持つと考えると、孫が100歳になるときには2150年を迎えます。そんな想像をしていると、少なくとも孫が人生を終える2150年ごろまでは、なんとかこの国を保てるようにしたいと思ったんです」
子どもや孫の将来を想像したときに、遠い未来が自分事になったと話す熊倉。「孫の世界まで輝ける日本を作りたい」という想いが、今の原動力となっています。
日本経済の未来は決して明るくない。ただ、悪化を食い止めることはできる
「マーケティングという手段を使って、日本企業の変革や成長に貢献したい」と考えながらも、現状をシビアに見据える熊倉。
熊倉 「残酷なことをいうようですが、マーケティングを活用したからといって日本企業や日本経済の未来が明るくなるとは思えません。少子高齢化といった人口問題があったり、気候変動からくる環境問題や社会問題があったり、マクロトレンドの前で、ミクロの企業活動が与える影響はどうしても限定的なものになります。ただ、これ以上悪くならないように食い止めることならできる。われわれの世代と上の世代で、なんとかして変えていかねばなりません」
では、少しでも日本経済の悪化を食い止めるために、マーケティングを活用して何ができるのでしょうか。熊倉は、トップラインの向上とボトムラインの改善がマーケティングの要だと語ります。
熊倉 「マーケティングは企業の売上に関わる存在です。買ってもらえる仕組みを作るのがマーケティングのミッションであり、それを達成するためには大きく2つの点を指標にします。売上を伸ばすか、利益を増やすか。売上を伸ばすための仕掛けづくりをしながら、効率化によってコストを下げることで利益を上げていくことができれば、どちらも叶えることができます。
たとえば、デジタルマーケティングを活用することで、これまで時間をかけすぎていた、コア業務から派生するあらゆる業務の時間を短縮できます。当社にもテレマーケティング部門がありますが、インサイドセールスを導入することで、訪問営業に労力を割かずとも顧客接点を持つことができ、営業活動が効率化できます。インサイドセールスと並行して、コンテンツマーケティングやメールマーケティングに注力すれば、鮮度の高い情報を効率的に見込み顧客に届けることもできますし、接点を絶やすこともないため、売上向上にもつなげることができます。すでに取り組んでいる企業も多いですが、デジタルマーケティングの活用は今や必須といえるでしょう」
また、国内市場の飽和にともない、海外市場を視野に入れた営業活動も欠かせなくなっているという熊倉。新しいエリアへの進出に際し、これまでとは異なるアプローチをする上でもマーケティングは有効だと話します。
熊倉 「前職でマーケティング部門に所属していたんですが、会社として挑戦したいものは『マーケティング部門でやってみてくれ』とよくオーダーが来ていました。
現時点で専任部署を作るわけにはいかないから、なんとなく市場や新しい情報に詳しそうなマーケティング部門に依頼が集約されてました。つまり、マーケティング部門が手掛けられる仕事はとても広範囲に及ぶんです」
マーケティングの範囲は無限大——業務領域が広がれば、キャリアも広がる
企業活動においてマーケティングがますます重要になると確信しつつも、定義しづらいという理由から、あえて“マーケティングらしきもの”という表現を用いる熊倉。単純に、リードを獲得する活動やプロモーション活動だけがマーケティングではないと強調します。
熊倉 「前職で、マーケティング部門のメンバーとしてさまざまなプロジェクトチームに参画した際に、“販売担当責任者”と呼ばれていました。現状の売上を分析した上で、売上を上げるための戦略を立てていたため、やるべきことが非常に広範囲に及んだからです。
“マーケティング4P(Product・Price・Place・Promotion)”といわれるように、開発やサービスの責任者とともに製品やサービスをブラッシュアップしたり、最適な価格に改定したり、ターゲットの目を惹くクリエイティブを作ったり……。
マーケティングとは、さまざまなことに手を付けられる役回りなんです」
実際、マーケットワンのクライアントの中にも、新製品の開発や新しい事業の開発をマーケティングと定義する会社が増えているといいます。
熊倉 「私は、たまたま前職から営業とマーケティングをやっていただけ。実際には、どんな職種でも企業の成長に貢献できると思います。
ただ、『売上につながる活動はすべてマーケティングだ』といい切ってしまえるほどに、マーケティングの境界線は曖昧です。だからこそ、意志さえあれば責任範囲を広げて、とてもスケールの大きい仕事に取り組めるのではないかと思います」
手掛ける範囲が広がると、おのずと他部署や経営層との接点も増えることに。業務範囲が固定されづらい領域だからこそ、キャリアにおけるチャンスも広がると熊倉はいいます。
熊倉 「私は今32歳ですが、20代後半や30代前半で中長期のキャリアを描こうと思ってもなかなか難しいですよね。だからこそ、打席に立つ回数を増やし、いろんなことを試すしかないと思っています。もし、今の環境で30歳や35歳までに多く打席に立つことが難しそうなら、思い切っていまの環境を変えてみるのも選択肢です」
外野で傍観しているだけではつまらない。覚悟を持って茨の道を歩む
日本経済の未来が少しでも明るくなるために、そして持続可能な社会を作るために──今、志を同じくする社内外の仲間を求めているという熊倉。
熊倉 「実践を通して得た成功体験も失敗体験も交えて、広く世の中にわれわれの取り組みや考えを発信していくことが大事だと考えながら、マーケティングに関する新たな取り組みを続けています。すべてさらけ出しながらマーケティングの価値を伝え続けていけば、想いに共感いただける仲間も増えていくのではないでしょうか」
そう話す熊倉が、先頭を切って目指す社会を実現するために日頃から信条としているというのが、“主体的”であることです。
熊倉 「外野で見ているだけでは嫌で、自分がプレーヤーとなってコントロールできる範囲を増やしていきたいタイプなんです。コントロールできないことを考えても仕方ないといわれますが、『コントロールできないことをいかに自分の配下に収めていくか』という観点も重要だと思っているんです。
たとえば、自分が日本支社のいちマーケティング社員だった場合、米国本社の営業戦略を変えることは難しいかもしれないけれど、営業総責任者の立場になれば可能になりますよね。実力を磨いて、任せてもらえる範囲を広げていけば、コントロールできることは増えていくんです」
いちプロジェクトメンバーなのか責任者を引き受けるのかで、裁量権は大きく異なります。責任者を買って出るのは茨の道を行くことと知りながら、あえてその道を歩む覚悟が求められると熊倉はいいます。
熊倉 「皆がやらないから自分が手を挙げるという行為はとても尊いものですが、実際は何かをする度に叩かれるおそれがある立場です。
だから、私は部のメンバーに『叩かれることを覚悟で主体的に動くか、外野でいるか、どちらかを選びなさい』といつも話しています。うちには『主体的でありたい』というメンバーが多いですね」
頼れる仲間とともに、マーケティング領域から日本経済の未来を少しでも明るく照らそうと奮闘している熊倉。閉塞感の漂うこの国から脱出して、成長著しい国でビジネスを行う選択肢もありますが、あえてその道を選ばない明確な理由があります。
熊倉 「日本に限らず、どの国にも課題はあるはずです。順調に経済成長を遂げている国には、また別の課題があるでしょう。どこに行っても課題が山積みならば、生まれ育った日本の課題を解決してこの国に貢献したいんです」
マーケットワンには近年、「日本企業を強くしたい」という心を一(いつ)にする仲間が一人またひとりと加わっています。課題を見てみぬふりができない、主体的で熱い想いを持った集団は、今後ますます日本企業の心に変革の火を灯していくことでしょう。