医療のプロフェッショナルはキャリアのプロではない。コンサルタントに求められる力

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――医師はどのような理由で転職するのでしょうか。

キャリアアップ、マネジメントへの挑戦、ライフイベントの変化、ワークライフバランスの見直し、人間関係など医師も私たちとなんら変わりはない理由で転職を検討します。

ただ、私たちとの違いとしては、自分でキャリア選択する機会が少ないことが挙げられるかもしれません。医学部を卒業した後、すぐに専門とする診療科目を決め、大学医局という組織に入って経験を積むことが一般的でした。そうして医局からの辞令に従い、さまざまなエリアの医療機関で研鑽を積むのですが、そこに医師の希望を反映されることは少なかったと思います。

しかし、2004年に初期臨床研修が必修化されたことにより、2年かけてさまざまな診療科を経験して専門とする科目を自分自身で決定していくようになりました。私たちの就職活動に少し似ているのかもしれません。いろいろな企業を見ていく中で、自分の興味ある業界や職種に気づいていくのと同じ感じですね。

最近は自分でキャリアを考える人たちが徐々に多くなり、大学医局に所属せず転職を選択する医師が増えてきました。

――医師にとってコンサルタントは、どんな役割を期待されているのでしょうか。

医師は医療の専門性において、学会やネットワークを通じて最新の情報を把握しているものの、ご自身のキャリアについては相談先が少なく情報を入手しにくいと思います。

医療業界ならではの文化もあって、勤務先の医療機関に同年代の医師が多いわけではないので、周囲がどのようにキャリア形成をしているのか、気軽に話をすることも目にすることも少ないんです。

医療のプロではありますが、キャリアに関してはプロではありません。だからこそ、私たちコンサルタントが、求人情報を提供するだけではなく、キャリアの相談相手として信頼してもらえるように努力しています。

でも、ただ話を聞くだけでは解決しないので、複数の選択肢を提案することも重要です。自分だったらどうするかを想像することから始め、医師のことを解像度高く理解できるまで聞くようにしています。

医師の「大変」という言葉ひとつをとっても私が想像しているものと違うことがあります。1日のスケジュールやひとつの手術をするための時間や事前準備がどの程度かかっているのかを聞いて医師の目線に近づけるようにしています。すると、自然と提案の幅も広がっていくんです。

――医師の目線に近づくために知識もやはり必要ですか。

学ぶことは大切です。私は医師ではないので、同じレベルで医療を語れませんから、わからないことは素直に質問しています。

医師が転職をしようと思ったとき、もし業界知識が豊富で大ベテランの方が担当についたとしても、相手の方が今不安に思っていること、今の働き方や大切にしたいことを理解されないまま提案された求人は、自分自身に合っているかどうか判断がつかないと思います。

まずは、私たちが一番の理解者になることが大切なんです。信頼関係ができた上で、業界の知識でわからないところはいろいろと教えてもらいながら、私も日々学ぶことを大切にしています。コンサルタントとして知識をつけるというよりは、医師の悩みを理解したいから、という要素の方が強いと思います。

医師と医療機関に新たな気づきを。代わりがきかないコンサルタントの介在価値

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――医師の転職支援コンサルタントの業務内容について教えてください。

何かを求めて登録してくださっているので、まずはその背景を知るところから始めます。電話やメール、オンライン面談など医師の状況に合わせて話を伺い、求められていることに応えていきます。

この先のキャリアを考えるための情報収集が目的であれば市場感のことを伝えたり、漠然とした悩みをとりあえず聞いてほしい方には、気持ちの整理を支援したりします。転職という選択肢がすべてではありません。選択肢の1つに転職があれば、積極的に支援をしています。 

医師の転職支援で特有だと思うのは、求人を提案するときです。医療機関からお預かりしている数多くの求人を単発で案内していくと、他にもっといい求人があるんじゃないかと思ってしまうんです。

納得感を持って進めていくためにも、私たちがどのように医療機関をピックアップしているのかすべてお伝えしています。求人の有無に関わらず、可能性のある医療機関はすべてリスト化して、一つひとつ相談を進めます。応募できるのであればその医師が今回転職で重要視しているポイントを情報収集し、交渉していきます。

ここで、初めて医師に求人を提案するんです。この提案は私たちコンサルタントの腕の見せ所ですね。もし求人に興味を持ってもらえたら、見学・面接を調整して、面接当日はコンサルタントが同行することもあります。

今まで医師の人員確保は大学医局という組織から派遣先を紹介してもらうことで解決できていたので、採用のノウハウを持つ医療機関はごく稀です。医師は私たちのような就職活動を通して複数の面接を経験することはありません。

面接経験の少ない医師と採用のノウハウが少ない医療機関の双方にとって、有意義な意見交換の場になるように。両者の心強い存在となり、中立な立場でコンサルタントがファシリテートに入っています。

――求人の有無に関わらず相談を進めるというお話について、もう少し詳しくお聞かせください。

医療機関が採用の必要性に気づけていなかったり、緊急度が低く募集を出すに至っていなかったりするんですよね。 医療機関に気づきを与えられたら、新たな求人が生まれることで医師は選択肢を広げられるし、医療機関の発展にもつながります。

医師に提案するときも、希望に完全一致する求人しか案内しないわけではありません。希望に沿わない部分があっても、まずは提案することで医師と目線合わせができます。私たちが転職活動するときに、さまざまな企業を調べたり、面接をしたりすることで希望を明確にしていくのと同じなんです。

すでに求人化できているものがすべてであり、医師も自分の希望を正しく理解できているのであれば、システムでマッチングした方が圧倒的にスピードも早いです。でも、実際にはそうではないのでコンサルタントの介在が必要なんです。

医師と医療機関の先にあるもの──実感できた医療への貢献

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――プロとして、大切にしていることはなんですか。

医師と医療機関双方に本音で語ることです。医師には、医療機関のメリットばかりをお伝えするのではなく、足りていない部分もしっかり伝えていきます。

医療機関には、医師から許可をもらえたら意向度や他院の選考状況なども伝えています。医師との温度差に気づけていることで、打ち手が変わってくるんです。双方が私を良き理解者、協力者として見てくれることで、いいご縁をつなげると思っています。

――この仕事のやりがいはどんなところにありますか。

正解がないところですね。年齢や専門性、転職検討理由などが近い医師がいたとしても、一人ひとり考え方は異なるので、当然提案も変わります。

正解に近いものを常に模索しているので、今まで10年間コンサルタントをしている中で、同じマッチングはありません。難しいんですけど、おもしろいですね!

――どのような想いで日々お仕事と向き合っていますか。

私の仕事は、医師と医療機関だけでなくその先の患者さんや地域にも影響が与えられることを意識しています。私がミスマッチをつくってしまうと、医療機関は採用のコストや時間が無駄になってしまうし、医師はイキイキと働くことができなくなってしまいます。すると、 最終的に医療を受ける地域の患者さんに適切な医療が届けられなくなるんです。良いご縁を結ぶことができれば、医療に貢献することができます。

以前、小児科医が不在のエリアにご縁をおつなぎできたことがありました。たまたま、その後に私がそのエリアに引っ越すことになって、実際に支援した医師に自分の子どもを診てもらえることになりました。

イキイキと働いている姿を実際に見られたことはもちろん嬉しかったのですが、それ以上に知り合いの親御さんたちからその医師の良い評判を聞いたときに、医師や医療機関だけでなく、その先の地域や患者さんに貢献できていることが自分自身で確認できたんです。「医療に貢献する」を実感できた瞬間でしたね。

一つひとつの積み重ねが医療を変えていく

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――今後、めざしている姿はありますか。

医療機関、医師、他社の医師コンサルタントから見て「エムスリーキャリアの太田」と思われることですね。そのために、今後も多くの医師と医療機関の支援をしていきたいですし、まずは何より社内のメンバーに思ってもらうことが必要です。

今まで多くの失敗と成功を重ねながら積み上げてきたことを、伝えていきたいと思っています。今、新しく入社するメンバーの育成も担当しているので、とてもいい機会を得ています。伝えるばかりではなく、何かあればとりあえず「太田に相談しよう」と思ってもらいたいですね。

――現状にまだまだ満足していないんですね。

そうですね。すべての医師や医療機関に価値提供をできているかと言われると、できていません。エリアや状況によっては、ご提案ができない医師もいるし、ずっと採用ができずに困っている医療機関もあります。

私たちのミッション「イキイキと働く医療従事者を一人でも増やし、医療に貢献する」にあるように、医療に貢献するには医師や医療機関の支援を一つひとつ積み重ねていくことが必要なんです。

ゴールはまだまだ先だと思っているので、私自身10年やっていても一人前になったと思ったことはないです。これが医師の転職支援、医療機関の採用支援をするコンサルタントのおもしろさだと思っています。

※ 記載内容は2023年8月時点のものです