沼津で育ち、沼津に帰る。ボディシルエットでUターンを促進
2018年11月に公開となった静岡県沼津市の自治体PR動画。淡く浮かび上がる沼津市内の景色を背景に、「ただいま」ではじまる家族の物語が、ボディシルエット(影絵)で時系列に進んでいきます。
沼津で生まれ育った主人公が、やがて上京し、仕事に励み、結婚して、家族との暮らしがはじまっていく。でもふと、自分が育った沼津の景色が恋しくなる――。
地方出身者であれば誰もが経験する、故郷の風景や、賑やかな家族との時間を懐かしむ時間。それらを、ボディシルエットというシンプルな方法で表現したのが、影絵の自治体PR動画です。
表情のないシルエットだけで喜怒哀楽を表現するには、身体の動かし方に独自の技量が必要です。
そこで、日本で最初にできた現代影絵専門劇団「劇団かかし座」に監修・出演を依頼。かかし座は、TVや映像作品で広く活躍し、コブクロの「蕾」のミュージックビデオでも注目されたプロ集団です。
出演もお願いしたことで、シルエットだけだとは思えない豊かな感情表現をつくり出すことができました。
外部クリエイターと制作チームを組み、実写にこだわらない表現を検討
自治体PR動画制作にあたり、沼津市が目指したのは、地元を出た子ども世代と、沼津市で暮らす親世代、どちらにも訴えかける「感動動画」でした。
その願いをかなえるべく、ロントラの制作チームはブレスト(アイデア出し)を重ねました。
映像ディレクターや放送作家、作曲家、イラストレーターなどさまざまな分野のクリエイターが集まり、「家族」「両親」「子ども時代」「故郷」を振り返りながら、幅広い表現方法を検討。
若者にも、親世代にも伝わるノスタルジックな表現手法とはなにか?
そこで出てきたのが、沼津の風景を影絵と合成したボディシルエット動画でした。
TVを中心とした映像の業界にいると、“実写”を前提としたアイデアに偏りがちです。しかし、ロントラには実写以外のクリエイティブに携わったディレクターや、放送作家とのネットワークが豊富にあります。
自治体PR動画には前例がなかった影絵を提案できたのも、幅広いクリエイターたちとアイデア交換ができたからでした。
想像を駆り立てる影絵だからこそ、それぞれの家族や故郷をイメージできる
子どもが少しずつ成長し、やがて地元を離れていく……というシンプルな時系列だからこそ、テキストで説明を入れずに影絵のみでストーリーを伝えることができる。
情報を減らすことで想像力を駆り立て、見た人それぞれの「家族」や「故郷」をイメージすることができると私たちは考えました。
そして、「ただいま」という、どの家でも交わされる言葉を象徴的に浮かび上がらせることで、家族のあたたかさを印象づけるようなエンディングへとつなげていきました。
「ただいま」という言葉には、「本来いるべき場所に戻ってきた」という意味があると感じています。地域にルーツのある地方出身者の方に、心がほぐれて安心できる場所(故郷)に帰った、というシーンを連想させたいと思ったのです。
ただ、ボディシルエットにフォーカスされすぎては、沼津市のPRという要素が薄まってしまいます。
そこで、背景には沼津市で実際に撮影してきた観光名所を使用。沼津をよく知る人が見れば、「あ、あの場所だ!」とピンとくるような動画にしようと心がけました。
「懐かしいな。実家に連絡してみようかな」「この週末に顔を出そうかな」と思ってもらいたい。そして、「生まれ育った沼津で、子どもを育てるのもいいかもしれない」と考えるきっかけになれたら。
そんなイメージで、背景1点1点にもこだわりました。
ひとりでも多くの人に見てもらうためにこだわる
ほかにも、ユニークな自治体PR動画として、静岡県の魅力を「アイドル×ラップ」で伝える動画も制作。県内各地を背景に、双子ラップユニット「Mika+Rika」が、静岡の暮らしや働く魅力をリズミカルにPRしていきます。
自治体が動画を制作する際、それぞれの地域出身の芸能人などが出演するケースは少なくありません。しかし、著作権や肖像権の期限によって、一定時期を過ぎると動画自体を流せなくなってしまうことがあるのです。
そこで、せっかく予算をかけて動画をつくるなら長く活用できるものにしたい、との想いから、肖像権フリーだった「Mika+Rika」さんに出演してもらうことに。
ラップの歌詞は、静岡出身の作曲家に依頼し、地元愛が込められた内容が完成。歌によって静岡の特徴が耳に心地よく入ってくるような動画になりました。
影絵動画も、アイドルラップ動画も、自治体PR動画としては全国に先駆けた取り組みです。
ロントラが「誰も取り組んでいないこと」にこだわるのは、動画ができあがったあとに「どうメディア露出を増やすか」までを考えているから。
多くの人に見てもらえなければ、どんなに素晴らしい地域の魅力を伝えていても意味がありません。
「全国でも珍しい手法を取り入れる」という要素を入れることで、新聞やTVにアピールし、つくった作品を「どう活用するか」までを自治体に提案していく。
地域PRのつくり手として、制作の先まで責任をもっていきたいと考えています。