本物のデートみたい!?360°カメラでカップルの視線をリアルに演出

▲デートVRで関係人口を創出「レジャーな街へVRトリップ」

全国に先駆けて「関係人口創出のためのアクティビティVR」に取り組んだロントラ。2018年2月には静岡県沼津市と手がけた「デートVR」、同年11月には狩野川周辺を駆け抜ける「サイクリングVR」が公開になりました。

まるで体験しているかのような没入感を楽しめるのが、VRの最大の魅力。360°広がる景色のどこを見るか自由に視点を選べることも、従来の2Dにはなかった点です。この新しい制作手法を導入するにあたっては、撮影や編集の現場において新しい発想を生み出すことが必要です。

沼津市から委託を受け制作した「デートVR」は、東京のカップルが沼津で過ごす1日を追い、まるで自分がデートに行ったかのような体験ができます。

工夫したのは、360°カメラを設置する場所です。彼氏と彼女がカフェで話しているシーンでは、彼女が正面になるように撮影・編集。視聴者に「彼女に話しかけられているような感覚」を味わってもらおうと考えました。

VRだからこそできる技術で、彼氏側から彼女を見たときの風景、彼女側から彼氏を見たときの風景のそれぞれを、見る側が自由に選べる操作性も実現しています。ほかにも、動画に動きを持たせるように、2人が注文した料理がウェイター目線で運ばれてくるシーンや、カヌーの先端やサイクリング中のヘルメットにカメラを設置し“乗りもの主観”のアクティビティ動画も挿入。

見る側が、自分が見たいタイミングで、見たい景色を選んで眺められるように、2Dよりも一つひとつのカットを長くするなど、没入感を得られやすいよう、編集にも気を配りました。

360°カメラは、まだまだ撮影手法が確立されていません。そのため、シーンごとに「どこにカメラを置くと臨場感が出るのか」「何を撮れば動きが出て面白くなるのか」など試行錯誤しながら、最適な表現を模索していきました。

リアルとWeb、双方向アプローチで地域をPR

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▲ドローンに360°カメラをつけて撮影

ロントラが「VR技術を地域PRに活用する」という取り組みをスタートさせたのは2017年。「ドローンを使い360°の動画を撮影することで、地域の魅力を丸ごと伝えられるのではないか」そう静岡県小山町に提案したところ、前例のない取り組みだったにもかかわらず、チャレンジを決めていただけたんです。

360°撮影できるVR技術は、2015年の時点で最新のプロダクトとして注目が集まっていました。しかし、「その技術をどんな目的で使うと効果的なのか」「360°である必然性はどこにあるのか」という点があいまいで、現実的に活用できるコンテンツはなかなか生み出されてきませんでした。

「VRによって体験できる没入感をどこで発揮すべきか」そう考えたとき、地域PRこそ最適なフィールドなのではないかと気づきました。雄大な自然を360°で臨場感たっぷりに伝えることで、「次の週末はここに遊びに行ってみよう」と思う観光客が増えるかもしれない。“関係人口”を増やしたい地方自治体のニーズに応えられるのではないかと思ったんです。

実際に小山町で実施した「地域VRPR」は、NHK全国放送で特集が組まれるなどメディアからも注目され、地域の認知度アップに貢献。その成功事例を知ったほかの自治体からも、「VRを使った動画制作ができないか」とお声がけいただくようになりました。

VRPRの魅力は、リアルな場とWebそれぞれで体験を楽しめることです。リアルな場で提供できる体験としては、UIターンイベントの会場にVRゴーグルやタブレットを用意して、来場者に実際にVRを体験してもらうことが挙げられます。またWebでは、VRの再生対応をしているYouTubeとFacebookを使ってターゲットに広く拡散することができます。

沼津市のデートVRを配信したYouTube広告では、スキップできるにもかかわらず、30秒以上視聴した人が45%にも達し、VRと地域PRの相性の良さを実感しました。

撮影、編集、音響それぞれの角度からVRならではの演出を施す

▲広域連携PR「狩野川VRサイクリング」

小山町や沼津市での実績もあり、4つの自治体(沼津市、伊豆市、伊豆の国市、函南町)の協議会によるコンペを経て制作したのが、「サイクリングVR」です。

2020年に行われる世界的なスポーツの大会で自転車競技が開催される伊豆市。それを機に、サイクリストに優しく、雄大な自然を有する狩野川を中心としたサイクリングエリアを周知すべく、VR動画を制作することになったんです。

実際に自転車に乗っている感覚を体験してもらうため、自転車やヘルメットに360°カメラを設置したほか、ドローンを飛ばし鳥の目でコースを撮影しました。ドローンの撮影では、風によってどうしても動画のブレが生じてしまいます。それらをスタビライズ(揺れ補正)を使った編集技術によってカバーしました。

その結果、サイクリストを俯瞰し、大自然の中を疾走する爽快感を味わえるような動画となりました。

また本動画では、「バイノーラル録音技術」を導入。バイノーラル録音とは、人間の頭部や耳の構造を模したダミーヘッドなどを用いて録音する技術のこと。これにより、音が近づいてくる感覚や、音の左右差などを再現でき、没入感をより強く演出できます。

「映像業界の常識」と「ITベンチャーの斬新さ」をあわせ持つ強み

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▲VR立体音響を実現する、ダミーヘッド

テキストより音声、音声より画像、画像より動画……。

訴求力の高さを求めて、メディアのアウトプットは変化してきました。そして、動画の先にあるのは「体験」だと考えています。ロントラが映像制作会社として行き着いたのが「体験」を実現させるVR技術でした。

テレビなど既存のメディアはアナログ文化が根強く、テクノロジーを次々試していくITベンチャーから見れば、動きが遅いように見えるでしょう。しかし、映像業界の長い歴史には、撮影や編集をスムーズに進める様々なノウハウの蓄積があります。

撮影前の各関係機関への撮影許可の取得や衣装・美術品等の手配や関連する資料の作成。さらに、クライアントへの対応といった細やかな行動や配慮の面でも同様です。「これをしなければどうなるか」という逆算ができるのです。

ロントラは、こうした映像制作の作法を熟知したうえで、新たなテクノロジー活用にチャレンジしていくという強みを持っています。

映像制作とITベンチャー、双方のいいところを掛け合わせた動きができるのは、VRの豊富な実績でノウハウが高まってきていることと、常に新しい技術を使ったチャレンジをしていくというフットワークの軽さがあるからだと思います。

「地域VRPR」の成功事例ができた今、地域PRのひとつの手段としての自治体のVR市場をつくっていきたい。UIターン促進、スポーツ振興、ブランド力向上など、さまざまな自治体課題に対し、VRを活用できるフィールドを広げていきたいんです。

2000年代、新聞やテレビに加え「インターネット」という選択肢が増えたように、今後、「VR」が新たな地域PRの選択肢になっていってほしい。その大きな変革を推進する役割をわれわれは担っていきたいと考えています。