松岡修造さんのスポーツコーナーを担当。常に探究心を刺激されている
テレビ朝日の「報道ステーション」のスポーツコーナーに携わり、2018年で10年目になります。月3~4回のデスク業務のほか、ディレクターとしてスポーツキャスターの松岡修造さん(以下、修造さん)の週1回のコーナーを担当。
世界的な大会をはじめ、水泳、フィギュアスケート、テニスの現場で修造さんの取材を段取り、中継を演出するのが大きな役割です。
ディレクターの仕事には正解もゴールもなく、自分が手がけた数分間の映像を振り返っては「もっとこんな方法があったのではないか」「違うシーンを切り取ればよかったのではないか」と反省は尽きません。
でも、“終わりのない”仕事だからこそ、飽きることなく、新卒から一貫して映像の世界に携わっているのだと思います。
僕が映像業界に入ったのは、少し変わったきっかけからでした。父が土木系の会社を経営していたため、大学卒業後は入れてもらえるものだとのんびり過ごしていたら、「大学まで出したのだから、自分でやりたいことを見つけなさい」と突然はしごを外されることに……。
途方に暮れたところから、仕事探しがはじまったんです。
学生時代のアルバイト経験から、「ある程度できたと思えたらすぐに辞めて、新しいアルバイトをはじめる」という自分の飽き症を認識していました。何かを一生の仕事にするには、いつまでも終わりのない、新しいものを求め続けられる仕事を見つけなくては。
そこでたどり着いたのが、映像を使ったモノづくりの仕事でした。
最初に入ったのはバラエティを中心に扱う制作会社で、多忙なAD(アシスタントディレクター)生活を送り、映像制作の基礎を身につけました。この会社は撮影から編集まで全部自分たちでやるという、業界内でも珍しいスタンスを貫いており、自分がカメラを回してつくった映像が、キー局のゴールデン番組に流れるという、大きな裁量権がありました。
分業をしないため労働時間は長くなりますが、新人が映像制作の1から10まで覚えるという点では、非常に恵まれた環境でした。
その後、スポーツに強い別の制作会社に転職し、テレビ朝日のスポーツ局に常駐。ディレクターとして全英オープンゴルフの取材に行くなど、仕事の幅を広げていきました。
刺激を受けた第一線のスポーツ報道の現場
「報道ステーション」に携わりはじめたのは2009年のことです。
お世話になったテレビ朝日のスポーツ局から、「報道ステーションのスポーツコーナーを担当しないか」と声をかけていただき、25~30名のディレクターチームに加わることになったんです。「報道ステーション」の仕事を受けるには何らかの会社に所属している必要があったため、形ばかりの会社を自ら設立しました。
「報道ステーション」のスポーツコーナーの現場には、テレビ局のプロデューサーや制作会社に籍を置くディレクター、構成作家、カメラマンなど、それぞれの領域のプロフェッショナルたちが集っています。
そのプロたちが、数分の映像をどう構成しようとかと議論を重ねていきます。勝者を取り上げるのか、敗者を取り上げるのか。試合を決定づけた得点シーンを紹介するのか、他のニュースなら注目しないような渋い1シーンにスポットライトをあてるのか。無数の選択肢の中からベストを探していきます。
そうして精査した映像が積み重なり、毎日15~17分ほどのスポーツコーナーができていきます。レベルが高く刺激的な環境だからこそ、ここでキャリアを重ねるうちに、この仕事にもっと集中したいと考えるようになりました。
一方で、形ばかりとはいえ、会社を片手間で動かしていくのは大変で、経営に注力できないなら会社は畳むべきではないかと思うようになっていきました。
そんな悩みを抱えていたときに、代表の西村佳之と話す機会があり、報道ステーションの業務についたままロントラに入れてもらうという、幸運に恵まれました。
西村は、私が新卒で入った制作会社で映像制作のイロハを教えてくれた先輩です。その後のキャリア選択でも進む道を示唆してくれ、私のディレクター人生には欠かせない存在。巡り巡って、西村のもとで働くことになるとは思ってもいないことでした。
勝ちパターンをあえてつくらない――「報道ステーション」の演出
「報道ステーション」では、どんなにうまくいった演出でも、「勝ちパターンをつくらない」「今日やったことは明日やらない」ルールを自分に課しています。
2時間の試合をどう1~2分にまとめるか、躍動感をいかに伝えるかが、この仕事の最大の面白さであり、苦しみでもあります。
過去の編集や演出の仕方に引きずられては、引き出しのバリエーションが増えずすぐに行き詰まってしまい、自分の首を絞めるだけ。幸い私は、修造さんという、アイデアを豊富に持ち、しゃべる・書く・動くすべての才能にあふれたキャスターと一緒に動くことができます。
その力を活かさないなんてもったいないので、いつも、「もっと違う表現や演出方法があるんじゃないか」と頭をフル回転させ、走り続けることができるのだと思います。
思い出深い仕事はたくさんありますが、とくに反響が大きかったのは、元競泳選手の寺川綾さん(以下、綾さん)と修造さんが行った、2017年の世界水泳の現地(ブタペスト)中継。
修造さんが、「僕が一言も発さない中継をやってみたい」と突拍子もないことを言い出したので、そのアイデアを発展させ、修造さんが綾さんの解説に合わせてパントマイムをするという中継を行ないました。
綾さんが、海外の選手たちの本番までの過ごし方を伝え、「控えスペースでこんな準備をする選手がいました」と紹介すると、修造さんがその選手の動きを全力で再現。
結局、本当に一言もしゃべらないまま中継を終えました。キャスターが言葉を発さないことで情報が印象的に伝わりやすいという逆説的な面白さを、修造さんに教えていただきました。
僕は芸術家のように、0から1をつくり出すことはできません。でも、放送時間や内容、キャスターの存在など、ある程度の枠や制約がある中で、1を料理していく仕事では力を発揮できます。
何年やっていても、一度として同じ試合もインタビューもなく、どのシーンを切り取るかで伝わり方は180度変わっていく。試行錯誤が続くから、この仕事はやめられないのだと思います。
映像が持つ力を、多方面に活用していきたい
僕は普段はテレビ朝日に常駐していますが、毎週一度のロントラの全社ミーティングにはなるべく出席しています。ロントラに入ってから「ここが自分の拠点」という思いをより強く抱くようになり、周りの社員から新たな刺激をもらおうという意欲が高まりました。
ロントラでは地方創生をテーマに全国の地方自治体や企業と協業したプロジェクトが多く動いており、映像を使って地方の魅力を発信するといったチャレンジも進めています。
地方にどんなニーズがあるかといった情報は、「報道ステーション」に携わっているだけでは得られません。いろんな案件を進めている社員から現場の話を聞けるのは、ロントラに入った最大の魅力だと思います。
今後は、ひとつの場所だけで働くスタイルから一歩進んで、“映像”というツールを使って、いろんなアウトプットができる自分でありたいと考えています。
人物インタビューを通じてその人の話を聞く、活動を見る、生き方に触れるといった特集も多く手掛けてきた経験を活かせば、さまざまな分野に展開できる可能性があります。せっかくロントラという拠点があるのだから、映像と音が訴えかける力の強さをどう活用していくか、柔軟に考えていきたい。
これからまた新たなチャレンジをできることが、とても楽しみです。