介護業界への入り口──子育て中の「介護」との出会い
私は今、介護施設の施設長として働いていますが、「介護」に対する想いよりも、「ひと」 に対する想いで動いている体感があります。
大学卒業後、不動産の営業を2年半、その後人材業界の営業をトータルで9年くらい務めました。 このころに、今とても大事だと思っている営業の基盤を教わったんです。
「人がやらないことをやってみたい」、「うまくいかないと思われていることをどうにかしたい」。そういう想いで、とにかくバリバリ働いていました。
しかし、結婚・出産を機に、いったん仕事から離れることを決めました。 ただ、これまではとにかく忙しい毎日でしたので、もちろん子育てはあるものの時間に余裕があったんです。
空いた時間を有効活用したいと思い、営業としては長年働いてきましたが、何も資格を持っていなかったので、「よし、資格を取ろう」と思いました。ヘルパー(2019年現在の初任者研修)の勉強を始めたことが介護業界への入り口でしたね。
世間でも介護に関しての注目度が高まっていた2000年ごろ。今後さらに介護は絶対必要なものになっていくと思いましたし、資格を持っていて損はないと思いました。
そして、無事に資格を取得し、特別養護老人ホームやデイサービスで働くことに。
しかし、仕事にも慣れてきたころ、人材業界で働いていたときに信頼していた上司からお声を掛けていただき、もう一度人材業界の営業として働くことになりました。
子どもが中学校に上がり、子育てが落ち着いてきたタイミングでもありましたので、「よし、やってみよう」と決めたんです。 結婚前の働き方とは違い、若手社員の教育をする立場にもなりました。
人材業界と介護業界を経験して見えた共通点
人材、そして介護業界という業界をまたいで働いたことにより、気づいたことがあったんです。 「人材業界の営業というのは、介護業界の管理者と似ているな」と。
人材業界の営業も介護業界の管理者も、売上をつくることが第一でありながらも、何名ものスタッフさんを担当したり、何名もの職員をマネジメントしたり……。
そして、これまでの経験とヘルパーの資格取得と私の「ひとが好き」という想い。 これが一番生きるのは、介護業界の施設長だなと思ったんです。 新しいことに挑戦するのは好きなので、介護業界で施設長を目指そうと決意しました。
そして、再び介護業界へ。まずはサービス提供責任者からスタートしました。しかし、当時の施設長が体調を崩されたことをきっかけに、思っていたよりも早く施設長になることになりました。
その後転勤となり、2019年現在働いているサンライズ・ヴィラ海老名には副施設長として着任しました。約一年間副施設長として経験を積み、その後施設長に、という流れでした。
施設長になって思ったのはチームづくりの難しさ。
サンライズ・ヴィラ海老名に着任したときには職員の離職率が高かったんです。そのチームをどう居心地のいい場所にするのか──ということは、大きな課題のひとつでしたね。
しかし、今結果として離職率は低くなっています。それは職員と信頼関係をうまくつくれたから。最初に副施設長という立場から職員と関係値を築けていったのは大きかったと思います。
営業部長の蟹江 が言ってくれた言葉の中で印象に残っている言葉があります。それは「離職が減っていったのは“齋藤さんから愛されている”という実感を職員が持っているからです」というもの。
私はとにかく「ひとが好き」というのが根底にあって。介護業界だから、人材業界だから、想いがあふれているのではなく、「ひとが好き」なので、自然に気持ちが入り、仕事をすることができているんです。
私自身、本当に多くの方に支えられて生きてきたなという実感があります。それを周りに還元したい気持ちがあって。それが職員に正しく伝わったことは嬉しかったですね。
困ったとき、つらかったときにも手を差し伸べてくれたり、支えてくれたりして今がある。だからこそ、直接ではなかったとしても恩を返していきたいと思っているんです。
私自身が先輩からもらった愛を後輩に渡していく。 本当に照れくさいですが「愛の流れ」をつくっていけたらいいなと思っています。
「愛があるから叱る」──施設長としての職員とのコミュニケーション
私はとにかく褒めます。みんなの前でもとにかく褒めます。 「施設長、そんなに褒めて大げさです」と言われることもあるほどです。 ただ、私は褒めたいというよりも、しっかりと成長を見つけたいだけなんです。
昨日までできなかったことができるようになること。これはすごいことだと思います。だから成長を見つけたら、しっかりとその人をクローズアップして褒める。
そうすればその人にとっても自信になる。私自身がそうだったように、小さな自信の積み重ねで人はさらに成長できると思うんですよね。
これは人から聞いた話ではありますが、売れない営業マンは良くないところを探し、言い訳ばかりを口に出すそうです。
一方で、良いところを探し出すのが上手なのが、売れる営業マンです。「ここが良いところ」と価値を見つけることができるんですよね。
私は何かを維持することよりも、変化をつくり、耕すタイプかもしれません。 どんどん個人もチームも良くなっていく姿を見ることが好きなんです。成長の過程に携わることが大好き、とてもワクワクします。
これもまた、子育てと同じだと感じたんです。
親は子どもを叱ります。
でもそれは、叱りたいのではなく、成長してほしいと思うから注意するんですよね。 「愛があるから叱る」んです。
もちろん時には、私も職員を叱ることがあります。 私たちの仕事は、人の命を預かる仕事です。 何か過ちを犯したとき、私はその人を厳しく叱ります。正直遠慮はしないです。
ただ、それは普段の関係性ができているから成り立つことだと思うんです。 普段からコミュニケーションが取れているので、自分でこの人にはここまで言うべきだということが判断できるんです。
初対面の人には、恐らく本気で叱れません。 嫌われたくないな、という感情だってもちろんあるので、叱ることから逃げるでしょう。
でも愛情があるから厳しくできる。これは自信をもって言えることです。
とはいえ、なんでもかんでも口に出せばいいというものでもありません。 自分たちで決めさせることも大事にしています。もちろん私が最終判断をしなければいけないときはありますが、職員が自分たちで決めたことに対して否定はしません。
決めたことが守れないなら叱る。失敗したら原因を追究し、改善する術をつくる。そして今後どうしたいかを話してもらいます。
「なんでそこまでできるんですか?」と聞かれることもあります。ですが、愛っていくらあげてもタダなんですよ。
お金もかからない、自分にとってマイナスもない。それならたくさん愛を渡していこうと思っています。
ご入居者様・ご家族・そして職員──みんなに愛を伝えるために
入居を迷われているご入居者様のご家族の方とお話をすると、涙を流して話してくださる方も多くいらっしゃいます。皆さん苦しいから相談に来てくださるんですよね。
入居を決めていただいた後も、自分の親を施設に預けてしまったという罪悪感をお持ちの方もいる。そういったご家族がいらっしゃることを、私はしっかりと職員に伝えるようにしています。
さまざまな想いを持ちながらも、この施設に任せると決めてくださること。これはこの施設に対しての愛だと思うんです。 ご家族からの信頼があるということがわかれば、職員も安心して働くことができます。
もちろんその愛は、ご入居者様にも伝わります。
ご入居者様・ご家族・そして職員。 この3者の愛の流れをつくり、同じ方向を見ていただけるようにすることが、施設長である私の仕事だと考えています。
違う方向を向いているのを引っ張っていくのは大変ですからね。
一方で、施設長は孤独だとも思うんです。 施設長は当たり前ですが、施設運営のことも考えなければいけませんから。
現在、サンライズ・ヴィラ海老名はありがたいことに満床ですが満床になれば当然大変なことだって多いです。 でも、満床にしていく意味をしっかりと伝えていく必要があるんです。
私は恐らく、介護業界にとことん向いている人ではないと思います。 現に、介護業界が好きだとは思っていなかった。でも、今では介護業界で働くことがとても好きになってきています。
それって私の成長だと思うんですよね。人はいくつになっても成長すると身をもって感じました。 人を生かすことができるようになり、「人を生かす部分」が成長している。
施設の成長は職員の成長です。職員がいるからこの施設が成り立っている。だから私もここにいられるんです。
たしかに介護施設としてのハード面も大事です。
でも、一番大事なのはそこで働く人たちの“好き”という気持ちだと私は思っています。
私はスタッフが好きで好きでたまらないです。「ひとが好き」で、人の成長が好き。だからそういった教育に関われる仕事が本当に好きです。
好きに囲まれた仕事ができている私は本当に幸せだなって思います。