カメラの知識と経験を持って転職。希望せぬ部署での採用が運命の出会いに
2013年に転職でコメ兵に入社した久野。時計やカメラの部署を経て2022年11月現在は衣料品の販売を担当していますが、コメ兵での久野のキャリアで最も長いのは、カメラおよび楽器の部門です。中でもカメラには5年ほど携わり、商品管理や業者間の売買も担当して毎月のように出張がありました。
久野 「私の実家は名古屋市内にあるカメラ店です。生まれたときから機材に触れ、撮影よりもカメラをコレクションする方が好きでしたね。そのような背景もあり、コメ兵の前は都内のカメラ専門店に入社しました」
やがて30歳を機にUターン転職を考え、前職で取引のあったコメ兵に応募。面接担当者に「カメラの部署で自分は即戦力」とアピールし面接が進むも、紆余曲折を経て時計部門で採用となりました。しかし、これが久野の人生においてのターニングポイントに。
久野 「時計フロアでの勤務は1年半ほどでしたが、その際一緒に働いた同僚の女性と2019年に結婚しました。私より社歴が長く、最初は話す機会もありませんでしたが、スタッフ同士の仲が良い職場だったので自然に距離が縮まっていきました」
他のスタッフの様子から女性の苦労も知り、妻の出産と共に育休を取得
妻は昔からまじめで、ミッションを遂行しようとする意識が非常に高い人だと久野は言います。2022年11月現在は出産を経て短時間勤務(時短勤務)ですが、他のメンバーにかかる負担を十分に理解したうえで、限られた時間内で成果を出そうと努めている存在です。
久野 「私は彼女の出産に合わせ、2021年5月から約半年間の育休を取得しました。男性の長期取得は社内初ですね。私たち夫婦には『生まれて間もないわが子との貴重な時間を共有したい』という想いがあり、ぜひ制度を利用したいと申請することに。販売業はシフト制で不規則ですが、コメ兵は休暇も含めいろいろな希望を聞いてくれる会社だと感じていたので、まずは上司に相談しました」
久野が出産や育児について考えるようになったのはカメラ楽器の部署のころ。必要な費用や、世間の父親たちの小遣い制度などに関心がありました。また、育休前に同僚だった女性スタッフから「働いた後に夕食を作り、翌朝には早く起きて弁当も用意するので自分の睡眠時間がとても短くなる」という話を聞いていたこともあり、「もしも自分に子どもができたら妻の力になれることは何だろう」と、以前から想像力を働かせていたと言います。
久野 「相談した上司は長期間の育休取得を応援してくれました。身近に事例がなかったため、社内規程を読み返して、私に申請方法を教えてくれました。社内の手続きも円滑で、取得期間や時期についても希望通りに受け入れてもらえました。同僚も『応援する』と声をかけてくれて、感謝しています」
深夜の断続的な授乳、寝かしつけ、離乳食づくり……「会社に戻りたい」と思ったことも
久野は育休について「もしかすると『少しはゆっくりできるのかな』と期待していましたが、甘かったです……」と話します。新生児は2〜3時間おきに目を覚まし、そのたびにミルクをあげる必要がありました。
久野 「妻も私も、子どもと同じサイクルで起床し『夜がくるのが怖い』とすら思いました。あまりにも寝不足がひどく『こんな経験をするなら仕事を続けていれば良かった……』とさえ考えたほどです。幸せをかみしめるよりも、現実は『早く会社に戻りたい』でしたね」
「搾乳しておいた母乳を温めなおす」「哺乳瓶で飲ませる」「哺乳瓶を消毒しておく」といった作業も久野の担当。手作りの離乳食にこだわり、極力無農薬野菜を使用します。さらに妻の体も気遣い、調味料を厳選しています。「2人で分担してもこんなに大変なのに、これを女性が1人で行うには完全に無理がある」と肌で感じたと言います。
久野 「育休を取っていなければ、社員が子育てに臨む際の気持ちを理解できなかったと思います。とくに子どもが未就学児だと、発熱などの体調不良になることが多く、どうしても早退や欠勤しなければならないケースがあることも身をもって理解できました。
早退や欠勤になった社員は会社にいなくても、たとえば保育園や幼稚園まで迎えに行き、病院で順番を待ち、薬局に並んだ後は買い物をして食事の支度もするでしょう。その間も子どもの肌着やシーツを変え、保冷枕を交換しているかもしれません」
その後、育休からの復帰に際して久野が業務面で苦労することはありませんでした。逆に以前は出社前ギリギリまで寝ているタイプだったところが、子どもの寝かしつけに合わせて生活リズムが朝型になり、朝食を作って一緒に食べ、気分良く出社していると言います。
久野 「復帰後は以前いたカメラの担当に戻り、2022年の4月から衣料品の担当に異動しました。洋服が好きなので新しい売り場に抵抗はありませんでしたね。最近嬉しかったのは、私の説明でお客様が革靴を購入してくれたことです。懸命に身につけた商品知識を使って、結果につながりました」
革靴は履き続けると底部が沈み、内部にゆとりが生まれる。そのため履き始めはやや窮屈でも、時間が経てばフィットすると言います。久野も2、3足は所有しているので感覚では理解しているものの、周りのスタッフからあらためてメカニズムを教わり、適切なサイズ感をアドバイスできるようになりました。「カメラでなくても自分で売ることができる」と手応えを感じています。
久野は仕事と育児の両立にあたり、共働きでは夫婦がバランスよく仕事と育児に関わることが重要だと話します。現在は彼が売り場に立ち、妻は売り場ではなくバックオフィスの仕事を主に担当しているため、急に休まなければならない場合はどうしても妻に頼ることが多くなりがち。それでも、状況がゆるす限りで自分が早上がりを申請するなど、夫婦がバランスよく育児に関われるように意識しています。
久野 「私が子どもの面倒を見られる時は、妻は時短を意識せずに働き、遅れている案件をフォローしたり、新しい業務に取り組んだりしているそうです。育休でしっかり接してきたおかげか、子どもは私のことも大好きで、妻が抱っこしていてもこちらに手を伸ばしてくることもありますね。妻は『夫に預けても大丈夫かな』と不安になることはまったくないそうです」
最近は少しずつ言葉を発せられるようになり、「あっち」と話しかけるようにもなってきたと話す久野はとても楽しそうです。テレビを見ながら踊り、細かい動きもできるようになってきたことが成長を感じられて久野としても嬉しいそう。
久野 「多くの男性は育休を取得する気がない、あるいは気持ちがあっても職場環境や人間関係を理由にきり出せずにいると思います。私の場合、仕事を休んで収入が減ることが不安でしたが、それをしてもなお、子育てにはそれ以上の価値を見つけました。未知のことなので明確にわからない部分も多かったですが『3人で一緒にやっていこう』という想いは、漠然と、強く持っていましたね」
「男性育休経験者のパイオニア」として育児中の社員を代弁し、社内の意識を変えたい
2022年4月から衣料品の販売を担当している久野。社会人になって以降、数々の売り場に立ってきたものの、ファッションアイテムの取り扱いは未経験のため、勉強の毎日が続きます。
久野 「私はいまアルバイトスタッフとともに働いていて、その誰もが洋服や靴がとても好きです。商品知識が豊富な上に、幅広いブランドのコンセプトや歴史を教えてくれますし、まさに自分にとってはスタッフ全員が先生です。私自身もファッションに興味があるので彼ら、彼女らとの会話がとても楽しく、お客様に説明できる場面が増えていくのを実感しています。
さらに現在は、社内の教育機関で本格的に買い取りの研修を受けているところです。販売とあわせて担当できるようになれば今以上の戦力になれるはず。まだスタートしたばかりですが、現在は衣料品の査定には欠かせないタグや品質表示のチェック方法などの基礎的な部分を学んでいます」
衣料品の業務に関しては駆け出しですが、久野は社員としてアルバイトスタッフの管理を任されています。売り場内にバランスよく人員が配置されているかを確認したりと、ファッションフロア全体を俯瞰で見ることがミッション。
久野 「コメ兵に入社後、一貫して大事にしているのは、たとえスタッフの人数が少なくても適切に売り場をコントロールすることです。いかなる状況でも、販売も買い取りもおろそかにしないよう心がけています。そのためにも各自が今どこにいて、何をしているのかを把握し、共有するようにしています」
当面の久野の目標はファッションフロアの重要な戦力になること。また「男性育休経験者のパイオニア」として、社内外を問わず相談に応じたいとも話します。
久野 「育児はときにしんどいけれど『皆、こういうものなのだろう』と思っています。今後は私が子育て中の社員を代弁し、どのような経験をしたのか発信していけば社内の意識も変わっていくかもしれませんね」
近頃は、周囲で男性社員が育休を取る話をよく聞くようになったとも実感しており、妻や私に相談してくれるスタッフも増え、最近ではカメラのフロアで一緒だった男性が実際に長期の育休をとったと言います。
これまでは取得実績がほとんどなかった男性の育休ですが、コメ兵ではその流れを大きく変え、男女問わず、ライフとワークそれぞれ長くいきいきと働ける取り組みをしています。