「構造」とは、建設機械がそのパフォーマンスを発揮するために欠かせないもの

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――コベルコ建機の高い技術力を紐解いていくと、原点は構造技術と油圧技術になるとお聞きしました。今回は「構造」のスペシャリストである山口さんにお話を伺います。さっそくですが、「構造」とは建設機械においてどういう部分を担っているのでしょうか。

私が専門としているのは、構造解析と最適化解析、疲労評価になります。これが、どういう仕事かひと言で説明すると、ショベルやクレーンが建設現場で本来のパフォーマンスを維持しながら長く活躍できるように、計算と実験によって検証していく仕事です。

建設機械は、固い地面を掘ったり、建物を解体したり、重いものを持ち上げたりします。そういった動作をした時に、必ず発生するのが荷重です。荷重とは、地面に穴を掘ったり、建物を解体したりする時に、建設機械が受ける力と考えてください。

建設機械のどの部分に、どれくらいの力が、どれくらいの範囲で負荷をかけるのか。これが分かっていないと、作業中にポキリと折れる、グニャリと曲がる、といった事態になりかねません。そういった事態を防ぐために、想定される作業にかかる力を計算し、耐えられるような最適な部材の配置と寸法を導き出すのが、構造解析というものです。

――建設機械の場合、構造物の疲労も激しそうですね。

おっしゃる通りです。金属疲労で構造物が破損するまでの寿命推定を行うのが疲労評価という仕事になります。これは、計算で出された強度を誇る部品が本当に計算通りに長持ちするものなのか、実験とシミュレーションを行なって効果を確かめるというものです。

最近では、とても優秀なシミュレーションソフトが出ていますが、製品の安全や品質に担うため実験による検証も欠かせません。

――最適化解析とは、どういうことをやるのですか。

建設機械を作る上では、低燃費につながる軽量化も考えていく必要があります。こちらも優秀なシミュレーションソフトがありまして、条件を入力するとその条件の下で強度や剛性を満たす最も軽量な構造を導き出してくれます。

そのとき、入力する条件に見落としはないか、最適化された構造は本当に役割を果たすのか、このあたりを検証していくのが最適化解析を使う上で大切な点であり、私の仕事でもあります。

――当たり前と思われる建設機械の耐久性は、その裏で解析と検証を続ける人たちの弛まぬ努力によって実現していたのですね。低燃費で長持ちするコベルコ建機製品の信頼を守っている仕事だということが分かりました。

コベルコ建機の技術力は、90年以上にわたる挑戦の積み重ねの結晶

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――「コベルコ建機の技術力が凄い」という話をお聞きしますが、どう凄いのか。山口さんから見てコベルコ建機の技術力の凄さとは、どのようなところだと思いますか。

そうですね。各部門の方々が挑戦して成し遂げてきたものすべてが、コベルコ建機の高い技術力を作ってきたと思います。その上での私の考えになりますが、“先人たちが積み重ねてきたことを引き継いできたこと”が、コベルコ建機の技術力の凄いところなのではないでしょうか。

コベルコ建機のものづくりの歴史は1920年代にまで遡ります。当時は、まだ神戸製鋼所の一部門でした。神戸製鋼所は、製鉄を行ない鉄鋼製品を作ることを生業にしていましたが、大型船用ドッグ建設や炭鉱の露天掘り現場で活躍する外国製パワーショベルに注目し、やがて国産機の開発に着手します。

今のように、海外製品の情報を入手することが難しかった時代です。自分たちならどう作るか、すべて手さぐりの中、試行錯誤を重ねたのだと思います。こうして、作られたのが国産建設機械第1号機となる電気ショベル50Kです。

――今では世界各地で見られる日本製建設機械の歴史は、神戸製鋼所(KOBELCO)の電気ショベル50Kからはじまったのですね。

おっしゃる通りです。ただし、建設機械はただ形ができれば良いというものではありません。“バリバリ仕事ができる”ことが重要です。

そのためには、建設現場ではどんな作業をするのか。どんな使われ方をするのか。どういう状況に陥りやすいのか。さまざまなシチュエーションを想定し、建設機械の各部にかかる負荷を予測する。そして、そのすべてに耐えられる構造、作業を継続できる構造を作らなければなりません。そのために、さまざまな実験がくり返されました。

時代が変われば、建設機械に求められることが変わります。また、建設現場で関わる構造物も変わります。他にも、建設機械に使用する機械や素材が変わります。そのたびに、実験とシミュレーションです。100万回、1000万回と同じ挙動をくり返したときのデータを取得し、そのデータを活用したシミュレーションを行なう。問題がないかを確かめ、トラブルが発生した際には原因を突き止め、改善を重ねてきました。

――そういった検証を神戸製鋼所時代から続けてきたと。

コベルコ建機は90年以上にわたって、どこよりも建設現場を知ろうとして、どこよりも建設機械の新しい形を求め、どこよりもその性能と安全性を確かめようとしてきました。膨大な実験と検証のデータがあります。それは、先人たちが一つひとつ積み上げてきたものだと、新人の頃先輩方に言われました。だからこそ、慎重に取り扱わなければならないですし、私も自分の仕事を積み重ねていくという意識を大切にしています。

――コベルコ建機の高い技術力は、90年以上にわたって多くの人たちが積み重ねてきたものの集大成。コベルコDNAという挑戦する姿勢は、こういった基盤があるからできることなのかなと思いました。

脱炭素化社会に向けて、建設機械の未来を創る仕事へ

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――山口さんご自身についてお聞きします。山口さんは、もともと新卒で神戸製鋼所に入社されたんですよね?

はい。入社して技術開発本部 機械研究所 構造強度研究室という部署に配属になりました。その名の通り、機械に関する構造強度を研究する部門です。

就職活動の時、神戸製鋼所は鉄鋼メーカーと思っていたのですが、ショベル・クレーンや産業機械の開発も行なっていることを知って驚きました。私は、大学で機械工学を学んでいたこともあり、神戸製鋼所がカーボンディスクブレーキ開発という当時最先端の開発を行なっていたことに興味を持ち、社風や社員教育の姿勢にも惹かれて入社しました。

――コベルコ建機にはどういった経緯で参画することになったのですか。

神戸製鋼所で機械の構造強度の専門家として、20年以上にわたってさまざまな製品開発に関わってきました。

2015年に、クレーン開発に関わるためにグループ会社のコベルコクレーン株式会社に出向します。その後、グループ再編の一環としてコベルコクレーン株式会社がコベルコ建機株式会社と一つになるタイミングで、建設機械の開発に関わっていきたいという思いからコベルコ建機株式会社に籍を移しました。

――現在、コベルコ建機でどんなお仕事をされているのですか。

現在は、ゼロエミッション開発部でシニアマネージャーを務めています。ここは、今後求められるカーボンニュートラル実現に資する製品の先行開発を行なっている部門です。市場の動きを見て、先行開発した成果を商品開発部門に受け渡していく役割を担っています。

カーボンニュートラルは、今まさに普及に向けて技術開発やインフラ整備、法規制の整備が進められており、状況は年々変化しているものです。だからこそ、状況変化を把握し、時代の潮流に遅れないように技術開発を行ない、実証機を出していかなければなりません。

――カーボンニュートラル実現に向けた製品開発とのことですが、具体的にはどんな製品の開発に取り組んでいるのですか?

くわしいことは社外秘の情報になるため言えないのですが、ショベルとクレーンの電動化などを行っています。今注力しているのは、パワーエレクトロニクス機器の選定、制御技術や搭載設計ですね。

また、搭載機器が現行量産機とは変化するため、搭載上の構造提案、パワーエレクトロニクス機器搭載のための振動低減を行なっています。

――まさに、「コベルコ建機の未来を創る仕事」に関わられているわけですね。最先端の分野に関わる仕事ならではのお話を聞かせてください。

電動化などの最先端の分野の開発は、社内では初めて取り組む開発になるため、社外から情報を収集して、自分が社内の第一人者として開発を行わなければならない一面があります。

電動化においてはこれまでに使ったことがないパワーエレクトロニクス機器を多く用います。その多くは自動車で実績を積んだ機器ですが、建設機械は使用環境が未舗装の土砂地盤である上にサスペンションも持たないため、機器の耐振性を見ながら振動衝撃の緩和措置を考える必要があります。

また、重量があるバッテリーを搭載し、重量バランスも従来機と変わるため、走行時に機体や機器が共振しないようフレームの剛性チェックや強度を律速する箇所の確認も重要です。量産機開発のように現行機との比較設計を行えないことが多くあります。

どんなリスクがありそうか想像しながら、強度、剛性の計算を行なう必要がある仕事です。

――まったく新しい仕事に挑戦されているという印象を持っていたのですが、山口さんがこれまで培われてきた経験が充分に活かせる仕事でもあるのですね。

受け継いできたもの、培ってきたものを次の世代へ

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――今回は、コベルコ建機の高い技術力を支えている「構造」についてお話を伺ってきましたが、山口さんにとってのコベルコ建機での仕事の魅力とは何でしょうか。

そうですね。世に出したことがない建設機械を開発できること、今後会社の主力となる建設機械を開発できることに、仕事のやりがいを感じています。

――仕事をする上で大切に考えていることを教えてください。

“基本的なことを忘れずに、一つひとつ積み上げて行くこと”ですね。研究所時代に尊敬する上司・先輩たちが実践されていたことであり、よく言われていたことです。

当時は重く受け取っていなかったのですが、後年「ここは大丈夫だろう」と積み上げていくことを軽んじた結果、トラブルを起こしてしまったことがありました。

建設機械は一人では作れません。1台を作るのに何十人、何百人という人が関わっています。そこに用いられている技術は、さらに大勢の先人たちの挑戦と研鑽という積み重ねによるものです。どんな些細なことでもコベルコ建機の建設機械に関わっている以上、その積み重ねに名前を連ねることでもあると思います。

だからこそ、目の前の仕事はどんなものでも真剣に取り組むべきですし、後の工程の人へ、次の時代の人へ、つないでいくという意識が必要だと思っています。

――最後に、これからの抱負について教えてください。

長く勤めてきた私の役割として、自分がこれまで培ってきたものを次代に継承していくことが求められていると感じています。

具体的には、構造設計の基本と構造設計を間違えたときに予測されるトラブル(疲労き裂や共振など)について、どうすれば若い世代の人たちに分かりやすく伝えられるかが今の私の課題です。

いまやショベル・クレーンが求められる強度剛性を具備することは、“当然のこと”と認識されています。そのため、構造設計は付加価値になりにくいという側面があります。社内でも社外でもその重要性が認識されにくくなっており、設計者がこの分野で活躍しづらくなっていると感じています。

しかし、材料や製造方法が変わったときに構造設計を適切に実施しないと、新しくなった技術を活かしきれなかったり、構造に関するトラブルが生じてしまったり、そのような事態に陥る可能性がないとは言い切れません。

そのような事態を防ぐためにも、構造設計ができる人材の育成と技術継承はこれからも必要と考えています。

――コベルコDNAを支える、神戸製鋼所時代から受け継がれる「構造」の力がよく分かるお話でした。ありがとうございました!

※ 記載内容は2023年9月時点のものです