コベルコ建機のものづくりを支える生産本部。実際の仕事風景に迫る

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──2022年4月28日、建設機械業界がざわつく“ちょっとした事件”が起りましたね。コベルコ建機が米国子会社であるKOBELCO CONSTRUCTION MACHINERY U.S.A. INC.の北米工場を他社に譲渡することを発表した件です。あれはどういうことだったのか、背景を教えてください。

コベルコ建機は、“北米での生産拠点を事実上なくす”という選択をしました。需要が減ったというわけではありません。むしろ逆の話で、市場の期待に応えていくために、より高い生産力が求められてのことです。北米工場が担っていた生産は、日本国内の工場を増強して補うことになりました。

──今回の北米工場の閉鎖は稀なことだと思いますが、コベルコ建機のようなメーカーでは、数年から10数年周期で、市況や事業戦略に合わせて生産拠点はその役割を変えていく、ということが多々あると聞きました。

その通りです。今回の場合、北米工場で生産していた油圧ショベルは、広島事業所の五日市工場での生産に全数移管することになりました。ただ、そうなると五日市工場の生産負荷がかかりすぎてしまいます。そこで、五日市工場との相互補完体制を構築する形で、大垣工場の生産能力を増強。環境変化に強い製品供給体制を整えることになったんです。

これにより、大垣事業所は年間3,000 台を生産できる油圧ショベル組立ラインを新たに増やすことに加え、同事業所内の製缶能力増強も実施しました。大垣事業所全体の生産能力を現状の年間8,500台から年間1万1,500台まで高める計画を立てています。投資額は約34億円、期間は1年6カ月というプロジェクトです。

──社内・社外合わせて数百人という人が関わる、かなり大きなプロジェクトだと思うのですが、これを中心となって動かしているのが西田さん率いる生産本部ということなんですね?

おっしゃる通りです。今回取り上げた、北米工場の閉鎖、五日市工場と大垣工場の生産能力の増強など、工場に関わることを担当するのが生産本部です。技術開発本部で生み出した製品イメージを実際の製品という形に具現化していくのが、私たち生産本部の役割になります。

──まさに、メーカーの生命線である“生産を支える部署”ですね。今回は生産本部の仕事の魅力について迫っていきたいと思います。

コベルコ建機が描く未来を実現するために、「生産本部」に託されているものとは

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──生産本部は、コベルコ建機が実現しようとしている未来において、どんな役割を担っている部署であり、どのような働きが求められているのでしょうか?

コベルコ建機は、建機メーカーのグローバルトップブランドをめざしています。お客様の視点を持った提案力・商品力・対応力が差別化ポイントとなっており、数多くのお客様からの支持を獲得しています。それを踏まえて、私が生産本部として重視・注力していることが2つあります。それは、“差別化の具現化”と、“ものづくり力(安全・環境・品質・納期・コスト)の継続的な向上”です。

──つまり、どういうことでしょうか?

たとえば、技術開発本部が開発した新機能を搭載した試作機が1台作れたとします。でも、それだけでは意味がありません。新機能を搭載した建設機械を、性能を落とすことなく量産できるようにする必要があります。

なぜなら、世界中のユーザーのもとに商品を届けなければならないからです。量産することと、量産できる体制を継続させることが求められています。それが、コベルコ建機としてお客様の期待に応えることでもあると私は考えています。

── 生産本部は、具体的にどんな仕事ができる部門なのでしょうか?

生産本部の仕事は、大きく分けると“生産”と“調達”の2つです。“生産”は作るための仕事、“調達”は作るために必要なものを揃える仕事ですね。“生産”は、現場改善から新ラインや新工場の検討から実行までを担当。“調達”は、コストダウン、サプライヤー開拓、現調化などが主な仕事です。最近は、人手不足の対応として自動化にも注力しており、溶接、塗装、検査といった工程の自動化を進めています。

── “差別化の具現化”と“ものづくり力(安全・環境・品質・納期・コスト)の継続的な向上”は、「0」⇒「1」として生まれたものを「1」⇒「10」にしていくために欠かせない意識・姿勢と言えそうですね。 お話を伺って思ったのですが、生産本部は技術開発本部からバトンを渡されるようなポジションにありますよね。部署間の意思疎通や部署同士の連携がコベルコ建機のものづくり力向上に大きく関わってきそうですが……。

まさにおっしゃる通りです。他部署のことを意識する、知るというのはこの仕事をする上で大切なことです。じつは私も、昔は隣の部署のことをあまり考えられていなくて、失敗したことがありました。その体験から学んだことは大きかったのですが(笑)。

失敗から得た大きな学び。コベルコ建機のこだわりのものづくりを支えているもの

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──西田さんが失敗したこと、そしてそこから学んだことについて、詳しく聞かせてください。

今でこそ、コベルコ建機は“開発”と“生産”の連携が取れており、他社と差別化ができる生産体制を確立していますが、ひと昔前まで両部門の関係性は良好とは言えない時期がありました。決していがみ合っていたわけではありませんが、仕事上意見が対立することもある部門同士ですから。お互いに良い仕事をしようと考えていて、その思いのすり合わせに時間を要しました。

当時は、お互いに相手の仕事を理解していなかったんですよね。だから、開発部門から要望度の高いオーダーが生産部門に来たときに、「開発の人間は現場をなんにもわかっちゃいない」と私自身も思っていた時期がありました。

──転機となる出来事があったのでしょうか?

2013年4月に、開発本部の生産設計部長を命じられたことですね。ずっと“生産”の仕事をメインにやってきたのですが、“開発”の部署に異動になったんです。当時の私は「これからのコベルコ建機に必要なのは開発力の向上」と考えていたので、大改革を行うくらいの気持ちで開発部門に乗り込みました。ところが、そこで目の当たりにしたのは想像していなかった光景だったんです。

──何を見たのですか?

開発の人たちは、みんな真面目に高いレベルの仕事を行なっていたのです。すでに高い開発力を持っていて驚きました。同時に「なんでこの開発力の高さが社内に伝わっていないのだろう?」と疑問が湧いたんですね。

探ってみると、その理由は開発部門メンバーのコミュニケーションスキル。端的に言えば、開発部門メンバーたちの伝え方に課題があったため、開発部門の仕事のレベルの高さや開発意図が社内に全然伝わっていなかったんです。

「これは会社としても大きな損失だ」と思いました。伝わることで生まれるシナジーは大きいと感じたからです。それから開発部門メンバーのコミュニケーションスキルの向上に取り組みました。自分たちがわかる言葉ではなく、相手がわかる言葉で説明する訓練をくり返した結果、半年で開発部門メンバーの説明は他の部門の人たちから「わかりやすい!」と評価されるようになったのはうれしかったですね。

──たしかに、伝わらないことで誤解が生まれることはありますよね。

他にも、「チャレンジャーの集い」という、縁の下の力持ち的な開発者の活動を社内に発信する場も定期開催するようにしました。開発部門メンバーのコミュニケーションスキルを活かす場であり、ブラックボックスのようになっていた開発部門の仕事や思いを発信することが目的です。その結果、意思の疎通が図れるようになったことで他部門とのベクトルが合いやすくなりました。

相手のことがわからないと、不必要な遠慮や誤解による悪感情が生まれてしまいます。反対に、一緒に仕事をする相手のことがわかると強い連携が生まれます。失敗からの大きな学びでした。相手のことを知ろうとすること、自分や自分たちのことを伝えようとすることは、部署のみんなに伝えていますし、私自身も大切にしています。

──開発部門の新人研修には、半年間、生産部門の仕事を体験するという取り組みがあると聞きました。もしかして、西田さんが関わっていますか?

そうですね。私が発案した取り組みです。今も続いています。最近、作業着が油まみれになった開発部門研修生の1人が、「生産部門の仕事が、こんなつらい姿勢で行うものだったなんて。僕の設計でこの大変な仕事を絶対なくしますよ」なんて言ってくれました。コベルコ建機の高いものづくり力は、このような強い思いと相互理解と努力の積み重ねによって作られています。

生産本部はこれからどうあるべきなのか──生産本部長が語る未来

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──これからの抱負を教えてください。

 「みんながイキイキと働ける組織」にしていきたいですね。自分やチーム、会社の成長を感じられる。それが周りの人たち、お客様やサプライヤーなどのステークホルダーの方たちにも伝わって、「コベルコ建機は雰囲気が良い」「何かやってくれそう」と期待される状況を作っていきたいと考えています。

──その実現のためには、言葉だけでなく、行動で示すことが大事なんですね。

新しいことにチャレンジができること、失敗しても取り戻すことができる環境にすることが大事だと思っています。コベルコ建機にはもともとそういった風土があり、私もそれにずいぶん助けられているのですが、まだまだ浸透していないと感じています。

失敗してもいいんですよ。そこから何を学び、どう取り戻すか。最終的に良い結果につながれば良いと私は考えています。

──コベルコ建機には、「SPIRIT」という全世界のコベルコ建機グループ従業員を対象に、世代、国、地域を超えて共有される精神・価値観・行動規範があります。その中で西田さんが大切にされているものを教えてください。

8つあるキーワードのうち、「チャレンジ」「シンプル」「パッション」の3つをとくに大切にしています。何もしなければ何も始まりません。大切なのは、一歩踏み出すこと。

そして、情熱をもって取り組み続けることですね。その姿勢と行動が結果を引き寄せるのだと思います。これを社員が体現する。若手社員はそのお手本を見て行動する。その結果、差別化できる提案力、技術力、実現力をしっかり持っているプロ集団としての精度を上げていくことが、私のこれからの抱負ですね。

※ 記載内容は2023年5月時点のものです