人事労政グループの長として、コベルコ建機グループのハラスメント撲滅活動を担当した水野 一宏に、ハラスメント撲滅に向けた活動内容、その先に見える理想の職場を聞きました。
自分事として捉えにくい「ハラスメント」を撲滅するために
──いつからハラスメント撲滅の取り組みが始まったのでしょうか?
大きく本腰を入れて取り組もうということになったのは2021年です。コベルコ建機グループ全従業員に対する研修を行うことになりました。もともと会社として階層別教育の中でのハラスメント撲滅の取り組みや、各事業所単位での取り組みはあったものの、「ハラスメントは良くない」という注意喚起と相談環境の整備に留まり、個々人が日々の言動を見直す機会がなかったんです。
──全従業員対象の研修では、皆さんに意識と行動を見直してもらおうという狙いがあったんでしょうか?
そうです。相談窓口への問い合わせがあってから対処するのではなく、ハラスメントを未然に防止する観点で、全社研修を行うと決めたのが2021年でした。
──その研修を水野さんが主導して進めてきたということなんですね。
労務問題の管轄部署の長として、担当することになりました。研修をどのように行うことが効果的か、神戸製鋼グループの教育機関に協力を仰ぎつつ、チームのみんなで頭を悩ませました。
インプットとアウトプットの機会を駆使した研修
──そんな苦労の末に完成した研修は、どんなものだったのでしょうか?
2段構成にし、まずはライン長にハラスメント研修を展開しました。その次に、その研修を受けたライン長に、部下に対して、自分が受講した教育内容を研修講師として職場のメンバーに展開してもらいました。
一般的にハラスメント(とくにパワハラ)は、職位や立場が上位の方が加害者になる可能性が高いといわれています。ライン長は、職場展開にあたり、受講内容を再度学習すると思いますが、その中で、研修受講時より多くの気づきが得られると考えました。その気づきこそが、今後のハラスメント防止に役立つと考えたのです。また、ライン長が、直接メンバーに研修内容を展開することにより、ハラスメント撲滅にむけた、会社の本気度が伝わるのではないかと考えました。
──全社員がハラスメントに関する気づきを高め、かつライン長はインプットとアウトプットの機会を両方与えられることで実践力も高まる、そんな研修だったんですね。取り組むにあたって難しいことは何でしたか?
研修の中身もさることながら、ライン長が本気で受講内容を職場展開してもらえるかに気をもみました。
──何をハラスメントと捉えるかは、人によっても解釈に揺れが生じそうです。どのように伝えたのでしょうか?
事例を共有しました。実際にどんな相談があるのか、どれくらいの人がハラスメントを受けていると感じているのか、事例や数値などを見せることによって、何がハラスメントに当たるのかを目で見てわかるように伝えました。
──なるほど。新しいことを浸透させるのは難しいことだと思いますが、いかがでしたか?
そうですね。会社として本気で取り組むから、みんなにも本気で取り組んでほしいと伝えました。本気度を伝えるため、具体的には社長からのビデオメッセージをつくり、経営課題の1つとして掲げていくこと、毎年継続してやっていくことを研修の冒頭で見てもらいました。
研修後、大きな変化が
──ハラスメント研修を受けた従業員からどんなお声があったかご紹介いただけますか?
アンケートに答えてくれた受講者の9割以上の方から「研修が参考になった」という声をもらっています。また、アンケートの回答者の約8割が、「研修時に自身で宣言したパワハラ防止宣言(自身の職場での具体的な行動、取り組みの宣言)を職場で実践している」と回答。さらに、アンケート回答者の約6割の方から、「研修後に職場の中での変化を感じている」という声をもらっています。
――ハラスメント研修の成果は確実に出ている結果だと私は感じたのですが、水野さんはどう思われますか。
そうですね。多くの従業員が自身の行動に注意し始めて、職場の変化、すなわち周囲の行動も変わったと感じているということがわかり、研修の効果をあらためて実感しています。
その一方で、2021年度に全従業員でハラスメントについて学び、ハラスメントを撲滅していこうという取り組みの端緒についたばかりというところです。ここからが本当の始まりと言えます。ハラスメントに関する感性をどんどん磨いていくために、従業員がハラスメントを恐れて消極的にならず、しっかりとコミュニケーションをとることができるように、感性を磨く研修とコミュニケーションスキルを磨く研修、そういうものを両輪に取り組みを進めていかないといけないと考えています。
──その後、実際に変化はありましたか?
報告や相談が増えました。これだけ聞くと良くないと思われがちですが、相談の中身を見ると、皆の意識が上がり、かつ些細なことでも安心して相談をしやすい環境が作れた証拠かと思います。
実際にはハラスメントの事例には当たらない相談もあり、それまで「これって相談していいのかな?」と悩んでいた状態から、研修で「ハラスメントとはなにか」を学び、相談できるようになったようです。「もしハラスメントにあってしまったら、会社として皆さんを守る」という姿勢が伝わったからこそ、安心して相談に訪れるようになった人がいるのではないかと思っています。
──従業員の意識が変わったんですね。
そうですね。ライン長からも「研修を受けたハラスメントの件だけど……」と話題に出るようになりました。研修を行う前は、すでにこじれた状態になってからの相談が多く、対処が難しいケースが多かったんです。しかし、研修を行なった後は気軽に相談してくれるようになったので、早めに解決策を練れるようになりました。
──研修後も、継続して意識してもらう機会はあったのでしょうか?
行動宣言でしょうか。研修後に、ハラスメント防止の取り組みに対して自分は何に気をつけるのか、全員に言語化してもらったんです。さらに、ライン長のものは職場に掲示し、広島本社では食堂にも張り出しました。これはとくにライン長にとって、自分が常に模範として見られていることを意識する機会になったと思います。
嫌な想いをする人がいない、皆が安心して働ける職場をめざして
──ハラスメント撲滅のために重要なことは何だと思いますか?
二つあると思っています。一つは、継続して意識を高めること。上司も部下も感性を高めてもらうことが重要だと思います。そのためにはインプットしたものを実践しながら、継続して意識してもらうことが重要だと思います。
もう一つは、実際に発生したときに素早く、きちんと対応をしていくこと。ハラスメントの問題が起こらない職場をめざしていても、起こることはあります。そのような際、素早く着手し被害者を守ることが重要だと思っています。
──この取り組みにより、どんな効果が期待できますか?
エンゲージメント向上の土台になると思っています。安心して働けるようになると、やりがいの構築等、わくわくして仕事ができるようになるのではないでしょうか。
──今後、このハラスメント撲滅運動の中で改善していきたい事はどんなことでしょうか。
相談へのハードルを下げることですね。本当は私が相談役じゃないほうがいいと思っているんです。管理職に話すのって、緊張するじゃないですか。ですので、今後は部下を育成し、相談者に近い立場の従業員が個々人の相談をきちんと受け止め、相談者が働きやすいような職場に変革できるようにしていきたいです。
そのために、目下は部下のスキル向上と、組織としてしっかり対応できる仕組みを整えること。この二軸で取り組んでいきます。
──水野さんがめざす職場を教えてください。
誰もが気持ちよく働ける明るい職場です。社員の皆さんが、明るく元気に、安心して働ける職場であることをめざしています。最終的には、個々人のやりがい、職場目標へのコミットメントの向上が、組織としてのゴールだと思っています。そのために、まずはこのハラスメント撲滅を通し、土台作りに取り組んでいきます。
――水野さんのこれからの活躍に期待しています!ありがとうございました!
※ 記載内容は2023年8月時点のものです