データを用いて業務効率化を目指す──その仕組み作りに力を注ぐ
技術本部情報システム部で、主任技師を務める野口。
全社的に業務効率化を目指す“デジタルイノベーション活動”に2018年から参画し、2022年7月現在は、とくにデータサイエンス教育企画に力を入れています。
野口 「データサイエンス教育とは、社員の方に業務でのデータ活用の必要性を理解してもらう研修です。データを活用し、業務効率化をするためには、現場で働く方の『何を改善したいか、そのためにはどんなデータが必要か』というアイデアが大切です。そのアイデアを育んでもらうために、データで何ができるのか、機械学習で何ができるかを、コンテンツを作ってレクチャーしています。
現在は、主に新入社員や若手社員を中心に行っていますが、いずれは全社員に拡大するべく準備中です」
それと並行して、野口は、業務効率化に活用するデータを提供するアーキテクチャの企画も担当しています。そこで行っているのは、アイデアを持つ社員が、実際にデータを活用するときに、必要なデータを迅速かつ適切に得るための仕組みづくりです。
野口 「現在、生産活動のデータは、部門ごとのシステムで管理されています。こうしたデータを適切なアクセス権のもと、さまざまな部門の人が利用できるようにすることで、業務効率化が進みやすくなります。今は、全社的に共有できるような仕組み作りを検討している最中です。
また、工場では『IoT5カ年計画』に基づき具体的な施策に取り組んでいます。ロボットやAI技術を使った自動化や、工程のアナログ情報のデジタル化など、新しいテクノロジーを取り入れた場合の実現可能性や採算性などを検証しているところです」
ほかにも、海外の新工場建設のITエンジニア視点での支援やそこに導入する生産管理システムの企画を手掛けるなど、野口は当社のあらゆる業務をテクノロジーの側面から支えています。
金属プラントのおもしろさに惹きつけられて。情報システム課でキャリアを積む
学生時代は電子工学を専攻し、就職活動を始めた当初は石油業界のプラントエンジニアを志していた野口。合同説明会でのある出会いをきっかけに、状況が一変しました。
野口 「石油業界を中心に説明会へ参加していた時、石油事業も展開しているグループ会社の内の一社である当社の説明会にも参加しました。その時、説明会に参加していた社員の方がとても魅力的だったんです。楽しそうに仕事のことを話しているし、その方が話す金属プラントのおもしろさに惹きつけられました。
たとえば、石油プラントは外からパイプやタンクしか見えません。一方で金属プラントは、金属原料がコンベアーで流れていくところなど、加工の過程を見ることができるんです。これからチリで鉱山を開発していくという話にも気分が高揚し、入社を決めました」
入社後は日立事業所の情報システム課に配属。8年間勤め、さまざまな業務を経験しました。
野口 「最初は、社員が使用するPCの初期設定やExcelなどのソフトウェアの使い方の問い合わせなどに対応する、いわゆるOA担当を務めました。比較的単純な作業ですが、工程に関する知識をつけたり、色々な人と関わることで顔を覚えてもらって人脈が広がったり、と非常に良い経験だったと今では思います。
徐々に生産工程で使われるシステムの改善業務に携わるようになりました。それらに並行して、ネットワークの敷設やサーバーの保守運用・統合などにも業務範囲が広がり、6年目ごろには日立事業所内の生産管理システムの再構築プロジェクトで、プロジェクトリーダとしてシステム開発を行いました」
そして、入社9年目を迎えたところで、本社情報システム部へ異動します。
野口 「当時、IoTとAI技術を使って業務改善を進めようという機運が高まっていました。その技術検証にぜひ携わりたいという想いを上司にぶつけたことが少なからず影響したのではないかと思っています」
立ち上がったばかりのデジタルイノベーション活動に若手の野口が加わったことで、プロジェクトがさらに加速していくことになります。
画像処理技術を活用したシステム開発に挑戦。プロトタイプを自社で製作し、特許出願へ
異動先は、今までとは違う仕事の進め方や技術が求められる環境。野口は異動直後から、新しい技術の勉強に明け暮れます。そんな折、自身が大きく成長するきっかけになる案件と出会いました。
野口 「鹿児島県の春日鉱山での案件でした。製錬工程の副原料である珪酸鉱の岩盤をダイナマイトで発破後、クラッシャーという装置で粉砕して出荷するのですが、クラッシャーに投入できるサイズに鉱石を一つひとつショベルカーで小さく粉砕していく作業が必要だったんです。この作業を効率化するため、将来的には自動化したいという課題がありました」
クラッシャーの上限サイズを超える鉱石を識別する——
このミッションを解決するには、画像処理技術を使って、さまざまな大きさの鉱石の中から割るべき鉱石を特定するシステムが必要でした。
野口 「当時の私は、画像処理技術や機械学習を勉強している段階。システムの構築や運用を請け負っているベンダーさんに相談することが多く、正直、最初の工程段階から全てをベンダーさんに任せてしまうことも多かったです。
しかしこの件では、あえて自分で試行錯誤しながらプロトタイプを作りました。わからないままお願いするだけでは、いつまで経っても変わらないと思っていたからです。具体的にどの技術が有効なのか、自分で手探りしながら、検証していきました。
自分で作ったプロトタイプで実際に撮ってきた鉱石の画像を学習させ、鉱石を識別させる過程の中で、鉱石の識別率を上げるためにはどういう試行錯誤ができるかなど動かしながら確認しました。その結果、ベンダーさんとのディスカッションの中でお互いに立場の違うアイデアを出し合え、最終的に満足できるシステムに仕上げられたと思っています。
この開発は、ベンダーさんとの共同出願で特許登録ができた案件です。私にとっては、技術への理解も深まり、ベンダーさんと技術面で対等に話し合えるようになった転機となる出来事でした」
一方で野口には、失敗からSEの役割をあらためて認識した経験もあります。
野口 「成功した案件の裏には、少なくない失敗がありました。AIと一括りに言っても、そのAIシステムにはディープラーニングによる推論やその推論結果を使った演算処理が含まれます。
ある案件では、その処理フローの細分化を充分に検討しないままシステムを設計してしまい、ディープラーニングによる識別はできたものの、業務では使えないことがわかって導入見送りになってしまいました。
ディープラーニングは、あくまでも画像やデータから推論するだけです。課題を細分化し、どの部分にどういった技術を用い、全体としてシステム化、具現化するかは、人間が考えなければいけません。あらためてそのことを痛感しました」
異動から4年。数々の学びを糧に、野口は主任技師に昇格。8年間の工場時代の経験が自身のキャリアにとって有意義だったと振り返ります。
野口 「工場時代はITと名のつく業務はすべてやらせてもらい、その都度勉強しながら幅広い知識が身につきました。専門が細分化されている環境では味わえない経験です。業務システムは制御やソフトウェア、画像技術、通信技術などさまざまなテクノロジーの融合。工場時代に培った広い知見が、現在のデジタルイノベーション業務に活きています」
ひとつの会社、工場のITアーキテクチャを設計できるのがメーカー系SEの魅力
現在、情報システム部は、人数約50名。野口が所属するデジタルイノベーション担当、アプリケーション開発を担うIT戦略企画担当、そしてITインフラ担当の3チームから構成されています。
野口 「工場の生産性向上にはあらゆるテクノロジーを活用するため、メンバーの出身専攻はさまざまです。
私が所属するデジタルイノベーションチームには17人いますが、とくに出身専攻が多彩で、生産技術、制御、機械系のほか、製造現場からの転職者もいます。たとえば、製造現場出身の方は現場設備や生産技術の知識があり、現場の方と話が通じやすいなど、持ち味もさまざまです」
そんなメーカー系SEの一番の魅力は、ひとつの会社や工場のITアーキテクチャを設計できることだと、野口はいいます
野口 「いろいろなIT知識や、どれとどれを組み合わせれば最適解を出せるかを追い求める探求心が求められますが、そこがやりがいでもあります。ベンダーさんに依頼する部分もありますが、任せてばかりでは自分たちが成長できません。現在、内製化の考えが広がりつつあります」
また、メーカー系SEの特徴として、「コミュニケーション能力も大切」と野口は話します。
野口 「実は、われわれは人と話す機会がとても多いんです。業務効率化アイデアを現場から吸い上げるためにヒアリングは必須だし、新しい技術について誰かに教えてもらうことも。自分ひとりで解決できることはほぼなく、コミュニケーション能力がとても大切です。
また、工場に新技術を導入する際は、現場の方との円滑なコミュニケーションが鍵になりますが、私の場合、工場時代に培った人脈や現場とのコミュニケーションスキルが財産になっています」
これまで数々の開発に携わってきた野口。さらなるステップアップを見据えたビジョンを抱いています。
野口 「メーカー系SEの魅力として、会社の中に複数の事業や製造拠点を構えているからこそ、広い視点で横断的な課題解決に挑戦できることだと考えています。今後は、そういった会社全体のITアーキテクチャを考えるミッションに挑戦したいと思っています。これまでは、ひとつの工場や業務内の最適化を図ってきましたが、それをもっと広い範囲で見渡したとき、どういうアーキテクチャが最もふさわしいかを考えてみたいんです。
そのために、たとえば子会社に出向させてもらって、会社を俯瞰できるポジションから経営視点でITについて考えてみたい。『経営陣にとって、どこにITが必要か』『経営視点では、ITにどれぐらい投資するべきか』といったことを理解できるようになりたいと思っています」
目指すは、経営視点を持つメーカー系SE。これは、当社では前例のない挑戦です。
それでも、野口の目にはっきり映るのは、自身が業界のパイオニアへとキャリアアップしていく姿。次なるステージに向け、研鑽を続けていきます。