目指すのは環境負荷の低減、SDGs──環境意識の高まりも追い風に

article image 1
▲製錬所の設備の前で。佐賀関製錬所では国内1位の粗銅生産能力を誇るダイナミックな設備が多数稼動している

現在、リサイクル事業は、JX金属株式会社(以下JX金属)が最も注力する事業の一つです。岡本 弘晃は入社以来ずっと、佐賀関製錬所でリサイクル関連の部署に所属し、さまざまな形で事業推進を担ってきました。

岡本「佐賀関製錬所では、チリなど海外で採掘された銅鉱石の銅品位を高めて電気銅を生産する製錬事業と、使用済み家電製品や工場等から排出される金属スクラップ等、いわゆる“都市鉱山”から銅・貴金属などの有価金属を回収するリサイクル事業を行っています。これらの事業は、銅製錬工程で稼働している共通の工場設備を活用し行われています。

従来は、鉱石をもってきて銅をつくるのがメインストリームでした。一方、ESG ,SDGs(持続可能な開発目標)の社会的要請が高まる中、JX金属としても、できる限り資源循環型社会の実現に貢献できるようリサイクル事業に力を入れています」

リサイクル事業ではただ回収してきた原料を使用するだけでなく、製錬で出た余剰熱を有効活用しています。

岡本 「銅製錬の工程では不純物を酸化する際に余剰熱が発生します。当社ではここでリサイクル原料を活用しています。通常の銅製錬工程の中でリサイクル原料を処理することで、リサイクル原料が冷材として機能し、後工程に狙い通りの温度で送ることができるのです。

また、単純に冷材として扱うだけでなく、余剰熱を利用しリサイクル原料を処理する中で、そこに含まれる銅や貴金属を回収しています。通常の銅鉱石を処理するフローの中で冷材として活用しながら、必要な銅や貴金属も回収する。これが銅製錬事業の中でのリサイクル事業の位置づけです。当社が強みを持つ大規模な銅製錬工程を活用することで、高効率かつ大規模なリサイクル処理を実現できています」

JX金属におけるリサイクル事業の歴史は古く、1980年代にスタート。近年は社会的な環境意識の高まりを追い風に、さらなる事業の拡大を図り、2020年度は12%だった銅製錬におけるリサイクル原料比率を2040年度には50%まで引き上げる目標を掲げています。

岡本自身は2022年3月まで、佐賀関製錬所のプロジェクト推進室に所属し、「電気部品屑増処理プロジェクト」に携わってきました。

岡本 「パソコンの中にある緑色の基盤をご覧になったことがあると思います。そこには銅や金が含まれており、廃棄物としても世の中にあふれています。これらは『E-スクラップ』と呼ばれることもありますが、JX金属では『電気部品屑』と呼んでいます。廃棄物として世の中にあふれているものですが、実はそこには銅や金など価値のある金属がたくさん含まれています。

電気部品屑の取扱量を現状比5割増の月間1万t弱まで増集荷増処理することがこのプロジェクトの主旨です。これは現状と比べて5割増となる高い目標値ですが、チームで一丸となって取り組んでいます」

岡本は、プロジェクトのプロセス設計を担当。プロジェクトの実行に向け、さまざまな施設の建設、物流面、調達面の調整で活躍してきました。

学生時代から抱いていたリサイクルへの想い。JX金属への入社の決め手は「人」だった

article image 2
▲プレスされた「銅スクラップ」と。「銅スクラップ」も事業に欠かせないリサイクル原料

岡本は大学院を修了した後、2015年にJX金属へ入社。学生時代は、熱力学、電気化学、材料工学を専攻してきました。

岡本 「学生時代の研究内容と仕事内容が完全に合致しているというわけではないのですが、業務上で必要となる知識としても、かなり密接に関わる分野だったので、現在でも修士時代からの研究の知識は活用していますね。

リサイクルで扱うのは廃棄物ですので組成や性状も千差万別で、銅鉱石と比べてもばらつきが大きくなります。一方、炉として受け入れられるものには制約があります。ばらつきの大きいものをそのまま銅製錬工程に投入してしまうと、トラブルが発生してしまう可能性があるため、『前処理』が必要となります。不純物調整、水分調整、粒度調整、成型、ブレンド、焼却など多岐にわたります。いろいろなことをする中で、学んだ知識が関わることも少なくありません」

リサイクルへの想いは、学生時代に芽生えたという岡本。大学で勉強を始めた頃、中国がレアアースの対日輸出を制限した問題などに接し、金属資源の有効利用に関心を抱くようになったそう。

岡本 「レアアースの問題が起きたとき、資源が枯渇すると製造業に支障が出ることを目の当たりにしました。そこで、物の安定供給や、それに関連した技術開発、資源循環への貢献ということを、漠然とではありますが思い描くようになったんです」

就職活動ではリサイクルに関連する仕事を希望。そこでJX金属にたどり着きました。

岡本 「もともとJX金属の名前は知っていましたが、詳しい業務内容などは知りませんでした。

就職活動を開始した当初から、どのような会社なら自分が思い描くようなリサイクルに関わる仕事ができるのかと考えて調べていった結果、JX金属の仕事が近いな、と。自分が思い描いていたことを実現できると感じ、志望するに至りました」

こうして最初に関心を持ったのは事業領域でしたが、最終的にJX金属に入社を決めた理由は「人」だったと語ります。

岡本 「就職活動中に工場見学へ行かせてもらった際、行きのタクシーに荷物の忘れ物をしてしまいました。帰り際になってようやく気づき、かなり慌ててしまいました。その時、担当の総務の方が快くいろいろ対応してくれたことが印象的で。エピソードとしては何気ない些細なことかもしれませんが、JX金属で出会った方々に魅力を感じたことが決め手になったと思います。

他社でも工場見学などをさせていただきましたが、感覚的に一番しっくりきたのがJX金属で、ここがいいなという直感も働き、入社を決めました」

試行錯誤で大プロジェクトを推進。若手でも専門性で活躍できる環境

article image 3
▲「電気部品屑」と。岡本は2022年3月まで「電気部品屑増処理プロジェクト」を推進していた

2015年に入社したのち、岡本は佐賀関製錬所のリサイクル課で約2年間、リサイクル原料前処施設の操業管理を担当。そして次の2年間は、リサイクル管理課でリサイクル原料全般の物量、物流管理業務を経験しました。そしてプロジェクト推進室に異動し、電気部品屑増処理プロジェクトに携わることになったのです。

岡本「リサイクル原料を受け入れる場所が手狭だったため、佐賀関製錬所から車で20分ほどの場所に、新しく受け入れ拠点を設置しました。また、電気部品屑を処理するには焼却が必要なのですが、焼却能力が足りないということで焼却炉も建設しました。実現にあたって、自部署だけでなくさまざまな関係者と連携をとりながら推進していきました。

例えば、本社の営業部や物流部とはコストのかからない効率的な原料の輸送スキームを、佐賀関製錬所の設備技術部とは設備設計を検討していきました。私自身、この規模のプロジェクトに関わったのは初めての経験で、目まぐるしく2年が過ぎていったという感じです」

1つの課題を解決したらそれで終わりということはなく、新たに経験する仕事も多い中、岡本は試行錯誤を続け、難題にも立ち向かいました。

プロジェクトのコアメンバーは7~8人。岡本は若手でしたが、年齢や年次は関係なかったと振り返ります。

岡本「役割分担がしっかりとなされており、プロジェクトの統括をする人がいれば、私のようにプロセス設計をメインとする人がいる。あとは建設をメインで行う人、設備設計をメインで行う人など、部門ごとに人がいるわけです。そのため、年次が若いから遠慮しなければならないということもありませんでした」

メンバー同士が活発に意見を交わしながら仕事を進めていく──そんな自由な雰囲気がJX金属にはあると、岡本は感じています。

岡本 「私の上についてくれているプロジェクトマネージャーは、基本的には『任せます』というタイプの人。ただし、基本的に任せてくれるのですが、いろいろな意見を言ってくるタイプでもあります(笑)。私もけっこう意見するタイプなので、役職としてはずいぶん離れているのですが、議論はかなりしましたね。

そのうえで、どちらかが納得せずに進む、ということはなかったと思います。また、少なくとも私の周囲では、若手だからといって萎縮するみたいな人もいません。むしろ生意気な感じで、いろいろ自分の思ったことを言い、すり合わせながら前に進むということが多いです」

若手でも忌憚なく活躍できるJX金属の環境。そんな中、岡本も成長を続けます。

今後もリサイクルで社会貢献していきたい──責任感と想像力のある仲間に期待

article image 4
▲部署は変わっても「リサイクルで社会貢献したい」と変わらぬ想いを持ち続けている

岡本は2022年4月、プロジェクト推進室から製錬・リサイクル課に異動。転炉と精製炉の操業を担当することになりました。

岡本 「これまでは、リサイクル原料を炉に供給する側の仕事だったのですが、炉の管理の担当では、原料をいかに処理するかという、少し別の視点からの仕事になると考えています。

リサイクル側の視点でみると、リサイクル原料の処理量を増やすことが重要なミッションです。一方で、炉の操業というのはかなり難しく、バランスによってはリサイクル原料を入れたら炉況や製品の性状が悪くなってしまうなど、さまざまな問題があります。そういったところをできるだけ改善し、処理量を増やしていく。そこに視点を置いた技術開発や作業改善に取り組んでいきたいです」

担当する仕事は変化しても、「リサイクルで社会貢献したい」というかねてからの岡本の想いは、一貫して変わりません。環境問題への関心が高まる中、リサイクル事業を志望する学生も増えていますが、「ともに働く仲間」に求めるものが2つあるといいます。

岡本 「『責任感』と『想像力』は大切だな、と思っています。私たちは分業で仕事をしているので、どうしても境目、狭間の仕事が生じます。『誰がするべきかわからない』といった仕事ですね。でも、自分の仕事じゃないからいい、という態度ではひょんなところで大きな落とし穴に入り、前進できなくなることも少なくありません。ですから、境目の仕事も自分の仕事だと思って、責任感を持って取り組んでくれるような人と働きたいですね。

想像力に関しては、JX金属はやはり製造業という性質上、現場では一歩気を緩めてしまうと危険なこともままあり、作業をする人に怪我が無いよう常に細心の注意や点検が必要になります。なにより働いている人の安全が第一ですので、『こういうことをお願いしたら危険な状況になってしまうのではないか』と想像できることは非常に大切。ですから、想像力のある学生さんにぜひ来ていただきたいと思います」

社会貢献への熱意に、責任感と想像力をもって歩みを進める。そんな岡本が循環型社会という時代の要請に対し、これからどんな答えを出していくのか。熱意と冷静さのバランス感覚が次代を作っていくことでしょう。