顧客体験価値の向上がミッション──新しいサービスを生み出すCX推進部
CX推進部に所属する八木は、主に2つの業務を手掛けています。
八木 「私が担当している主な業務の1つに、カスタマーセンターの構築があります。これまではお客さまからのお問い合わせに対し、コールセンターのオペレーターが電話で対応することが主流でしたが、カスタマーセンターでは、電話に限らず、チャットやメール、Web会議などのツールを活用し、よりお客さまにご満足いただけるサービスの提供を目指しています。
そして、もう1つの主な業務が、お客さまの情報を一元的に管理し、お客さま対応に関係する社員が共有できるシステムの設計です。郵便局やかんぽ生命の営業社員等の対面チャネルも存在します。
お客さまから営業社員やカスタマーセンターにご相談された内容を、関係する社員がお互いに把握できるしくみを整え、お客さまの情報を的確に確認することで、お客さまがどこに相談されても、より質の高いサービスをご提供できると考えています」
生命保険はお客さまと長いお付き合いが続く一方、お客さまから保険会社に連絡をいただくことはそれほど多くありません。そのため、お客さまとの一つひとつのやり取りを大切にすることがCX(※)向上のためには重要だと八木は言います。
※CX…「Customer Experience」の略。顧客体験価値のこと
八木 「生命保険は、たとえば終身保険であればお客さまと一生涯のお付き合いになります。その長いお付き合いの中で、お客さまからご連絡をいただくときは、『入院してしまったが、入院保険金が支払われるのだろうか。どのように手続きをすれば良いのかわからない』などお客さまが何かお困りになっていることが多いです。その限られた接点でお客さまのご期待やご要望に応えられずに失望されてしまっては、挽回する機会が二度と訪れないかもしれません。
お客さまからお問い合わせいただいたときに、お客さまの期待以上の対応をすることがCX向上を考える上で非常に大切だと考えています。カスタマーセンターの構築に向けて、『入院保険金が支払われるのだろうか』とお客さまからお問い合わせがあれば、実際に保険金のお支払いの審査を行っている専門性の高い社員が直接対応するなど、お客さまにスムーズに、そして質の高いサービスを提供できるしくみをつくる必要があります」
コールセンター業務改善のためのアイデア──「Q&A集」の作成
八木がエリア基幹職として新卒で入社したのは、かんぽ生命が民営化して3年目の2010年のこと。民営化したばかりで、今後ダイナミックな変化を体験できるのではないかという期待があったと振り返ります。
仙台の新契約サービスセンターに初期配属となった八木は、業務をこなしていく中で、しだいに業務の改善ポイントが見えてきたと言います。自ら業務改善を企画したいと考えた八木は、3年目に総合職転換試験を受けます。
八木 「『この業務をこうしたら、もっとうまくできるのにな』ということは入社して2年目や3年目のときから感じていました。総合職転換試験を応募した一番の理由は、自分が気づいたことは自分で企画して実行できる方が、よりスピーディーに物事を進められると思ったからです。
総合職転換試験に合格して本社のお客さまサポート部に異動し、コールセンターの運用を担当しました。コールセンターには、お客さまからさまざまなお問い合わせが寄せられます。もし誤った回答をすれば、お客さまに多大なご迷惑をおかけしてしまうので、1件1件丁寧な対応が求められることを痛感しました。
また、担当したオペレーターによって対応の品質に濃淡があっては、お客さまサービスの向上につながりません。そこで、スーパーバイザーと呼ばれるコールセンターのリーダークラスの方々に協力を仰ぎ、コールセンターに寄せられるお問い合わせ内容の大部分をカバーできるQ&A集を作成しました。Q&A集を確認すれば、どのオペレーターでもすぐに回答できるため、対応品質が向上しました。その後、同じQ&A集を全てのコールセンターに展開し、全社的な対応品質の向上といった成果につながりました」
お問い合わせに電話以外の選択肢を──チャットによる新たなお客さま接点
次に八木が挑戦したのは、お客さまからのお問い合わせ手段の一つとして、チャットを導入したことです。
八木 「新型コロナウイルス感染症の流行によってオペレーターが出勤できず、お客さまからの電話を長らくお待たせしてしまう事態が発生しました。お客さまからのお問い合わせは日々寄せられているので、早期に解決しなくてはとチャットを活用することにしました。
チャットボット(テキストの無人対応機能)で疑問を解決できなかったお客さまには、チャットでオペレーターとつなぐことによって、電話以外の方法でお客さまの疑問を解消できる体制を整えました」
電話にはないチャットの気軽さがお客さまからのアンケートで高い評価を得た一方、少し複雑な説明が必要になってくると、テキストのやり取りだけではお客さまにお伝えしづらいという課題も見えてきました。
八木 「チャットを活用したお客さまとのコミュニケーションは、さらに有効な活用に向けて、改善に取り組んでいます。
コロナ禍前までは、お客さまが郵便局にお越しになる、もしくは営業社員が直接お客さまのお宅を訪問するなど、対面でのコミュニケーションが図れていました。しかし、新型コロナウイルス感染症が流行したことで、非対面チャネルを充実させる必要性が高まっています。
それだけでなく、お客さまの中にはあまり対面で会いたくない、電話をしたくないという方もいらっしゃいます。若い方を中心に、できるだけWeb上で済ませたいという方も増えているので、チャットの機能を拡充し、よりお客さまが使いやすく、関わりやすい手段をご提供できるよう、改善を図っています」
周りを巻き込みながら新しいことを成し遂げることこそがモチベーション
CX推進部はお客さまのために新しい価値を生み出すことを目的に新設された部署のため、すぐにトライアルできることが強みです。八木は、かんぽ生命に入社した当時は、大きな会社ならではの壁を感じたこともありました。
八木 「かんぽ生命は大きな会社である上、もともとは官庁の組織だったこともあるためか、ものごとを詳細まで決めて、100%完成した状態でリリースするという仕事の進め方が多かったと、私は感じています。
しかし、現在では市場環境が激しく変化し、お客さまのニーズもどんどん変化しています。お客さまのニーズにお応えしていくには、スピード感を持って施策を進めていかなければなりません。100%完成していなくても、まずは試してみて、修正すべき課題を見つけて、再度修正していくというアジャイル的な発想で仕事を進めていくよう変わっていく必要があると考えています。
今までにない新しい領域にチャレンジすることは、大きなやりがいです。社内には、良い取り組みだと共感してくれるメンバーも多くいます。そういった人たちを巻き込んで、よりお客さまにご満足いただける施策を進めていきたいと考えています」
今は手掛けている取り組みを世に送り出すことに専念している八木ですが、その視線の先には、生命保険の未来があります。
八木 「生命保険業界では、お客さま接点のあり方は転換期を迎えていて、各社CX向上に向けた取り組みについては試行錯誤している状況です。そんな中、かんぽ生命がトップランナーとして、お客さま接点のあり方の見本となることを目標に、日々活動しています。
当社は、生命保険業界の中でも規模の大きい会社です。もし、かんぽ生命がロールモデルのような存在になれば、他の生命保険会社のお客さま接点にも影響を及ぼすかもしれません。そうなれば生命保険に加入されているより多くの方に、保険をもっと身近に感じていただけるようになると思うので、将来的には生命保険業界全体への貢献にもつながればいいなと思って取り組んでいます」
自身のアイデアから多くの人を巻き込んで、やがて大きな変革を成し遂げれば、たくさんのお客さまの体験を変えることができる──そんな大きな希望を持ちながら、八木はこれからも挑戦を続けます。