ビジネス×モバイルに可能性を見出し、スタートアップへの挑戦を決意

2022年9月現在、アツラエでデジタル領域のプランニングディレクターを務める有海。大学卒業後、システムエンジニアを志してSIer企業に入社しますが、配属されたのはなぜか営業部だったといいます。

有海 「入社式の間際になって、『有海はよく喋るから営業をやれ』といわれて(笑)。入社後は飛び込み営業をやることに。SIerは商材があってないようなものなので、いきなり壁にぶち当たった気分でした。『こんなシステム開発できますよ』という訴求では、大抵の企業にはまったく響かず、門前払いの連続だったんです」

そこで有海が目を付けたのが、とあるスタートアップ企業。ガラケーから社内のメールやスケジュールを確認できるという、当時のビジネスシーンにおいて利便性の高いサービスを開発していたため、それを飛び込み営業のフック商材として取り入れることにしたのです。

有海 「これまでは会社に戻らないとできなかった業務が、モバイルを使えば出先で完結できる。そんなサービスを目の当たりにして、ビジネスシーンでのモバイル活用に大きな可能性を感じました。

そして、そのスタートアップ企業で、当時学生でありながらマーケティング支援を担っていたのが、のちに株式会社ジェナを創業する手塚 康夫。彼とコンビを組み、サービスを次々と企業に販売していきました」

働き方を変えてしまうようなシステムを作り、多くの企業やビジネスパーソンに使ってもらいたい──そう感じた有海は、さらに便利なサービスを世に出すことを目指し、SIerを退職。2008年、手塚が代表を務めるジェナにジョインします。

有海 「これまでは数千人の従業員のうちの一人でしたが、ジェナでは4人のうちの1人。自分たちのアイデアやアクションがダイレクトに事業に影響する手ごたえが感じられて、非常に楽しかったですね。そして、そのころから会社で使っていたiPhoneに、ガラケー以上のビジネスとの親和性を感じていました」

ジェナにはエンジニアがいなかったため、iPhoneのビジネス活用を提案するには、既存のツールやソリューションを組み合わせサービスとして仕上げる、もしくは企業独自のアプリ・システムを開発する必要がありました。そこで、ビジネスで使えるiPhoneアプリやサービスを紹介するポータルサイトを立ち上げ、情報発信にも力を入れました。

有海 「この取り組みがiPhoneを販売している企業から評価され、さまざまな案件をご相談いただけるようになりました。私のキャリアにおいて、ここが非常に大きなターニングポイントだったと思います」

そして2010年、法人向けスマートフォン事業を共同で推進するため、ジェナはJMASと資本提携および業務提携に至ったのです。

「ワクワク」する健康増進サービスを目指し、「Wellness Aile」を開発

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▲2022年7月、「Wellness Aile」の記者発表会に登壇した有海

当時ジェナでは、顧客の課題解決を図る4つの自社サービスと、有海が携わるクリエイティブコンサルティング事業部が確立していました。従業員が30人ほどに増えた2019年、事業の選択と集中を図るため、それらを整理する判断に至ります。

有海 「4つのサービスのうち2つはJMASに引き取ってもらい、1つは独立しました。クリエイティブコンサルティング事業に関しては、大手企業との取引が中心で取引額も大きかったため、事業をやめるという選択肢はありませんでした。

そんな状況下で、独立系企業として新たに独自の道を歩むのではなく、JMASのグループ会社として共に歩む道を提示していただき、2020年にアツラエが誕生したのです」

社名の「アツラエ」には、お客様の課題解決の一つひとつに対してオーダーメイドのサービスを“誂(あつら)える”という理念と、スタートアップでありながら古き良き文化や感覚も大切にする、という意味が込められています。

そして、アツラエの主力であるクリエイティブコンサルティング事業に加え、新たな柱となる事業としてスタートしたのが「Wellness Aile」。Apple Watchから取得したヘルスケアデータをもとに、健康経営をサポートする法人向けサービスです。

有海 「Apple Watchの初代機が発表された直後、ジェナは法人の健康経営を促進するためのサービスを作っていたのですが、当時は企業でのデバイス導入が進まず、サービスの採用が広がることはありませんでした。

しかし、昨今の新型モデルでは、睡眠や心電図をはじめとしたより多くのヘルスケアデータが取れるようになりました。Apple Watchが個人の健康管理に留まらず、企業の健康経営に活かせるという可能性を改めて感じ、『Wellness Aile』をアツラエの自社プロダクトとして開発していくことにしたのです」

「Wellness Aile」は、従業員のApple Watchに蓄積した健康データを一元管理するシステム。部署や年代別の健康分析や、健康診断の結果と照らし合わせた活動管理など、健康の促進と改善に役立てることができます。

有海 「サービスのコンセプトとして最初に決まったキーワードは、『ワクワク』。グラフや数値での表現ではなく、炎をモチーフにしたオリジナルキャラクター『バーネス』を起点にコミュニケーションを設計したことで、楽しみながら健康増進できるサービスになりました」

人材の調達、資金への不安に駆られることなく、事業に向き合える環境がある

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早くからモバイルツールの可能性に着目し、多くの大手企業からの信頼を勝ち取ってきた有海ですが、「Wellness Aile」の開発においては、JMASのグループ会社であることの恩恵が大きかったと語ります。

有海 「独立系のスタートアップ企業では、『優秀な人材を採用すること』『資金を集めること』の2点が大きな課題です。その点、JMASのグループ会社というポジションにあるわれわれは、必要に応じてJMASから優秀な人材が出向してきてくれたり、アツラエには乏しいプロモーションのノウハウを有する部門の支援を受けられたり、JMASの支えは非常に心強いですね。

また、JMASのようにミッションやビジョン、バリューに共感してくれる企業のグループとなることで、われわれのマインドや良さを損なわず、資金に対して不安に駆られることなく、お客様の課題解決や事業に集中できる環境を得られたことは大きな恩恵だと感じています」

JMASグループの一員となったことで、今までにも増して目の前の顧客に向き合い、サービス開発に全力で取り組める環境を得たアツラエ。「Wellness Aile」のリリースを経て、有海はさらに先を見据えています。

有海 「ビジネスシーンにiPhoneが広く普及したように、遠くない将来、企業がApple Watchを導入するのは当たり前という世の中になると期待しています。そうなれば、それをどう業務に活用していくかというテーマが必ず出てくるはず。

そのときに、『Apple Watchの法人活用といえばアツラエだよね』といっていただけるようなブランディングをしていきたい。Apple Watchの法人向け開発で、日本一を目指していきたいですね。現在は非常にニッチな市場ですが、『Wellness Aile』で新しい市場を創り、トップランナーとして駆け上がっていければいいなと思っています」

目指すのは、デジタルとリアルがシームレスに融合した体験づくり

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2022年8月1日のリリースと同時に、すでに数社での導入が決まった「Wellness Aile」。開発には大変な労力と時間がかかったものの、Apple Watchに関わったことで、自分自身の心と体には良い変化が感じられた、と有海は笑います。

有海 「実は、開発を始めてからかなり体重を絞れました(笑)。『Wellness Aile』 の開発中は、自分でもApple Watchのフィットネス機能を意識していたからでしょうね。ほんの少しの散歩のつもりが、早足で1km、2kmと距離も増えていき、動くことに対して非常にポジティブになりました。

さらに、しばらく遠のいていたマリンスポーツも再開し、新しくゴルフも始めたんです。導入企業のユーザーにも、是非こうした自身の変化を感じ、楽しんでいただきたいですね」

「Wellness Aile」 の開発には、JMASから出向した若手メンバーも多く携わっているという有海。スタートアップならではの自由度と責任感を楽しみながら働いて欲しい、と願っています。

有海 「他社を巻き込みながら企画を作っていくのは、アツラエの得意分野。一方、確かなエンタープライズ品質に仕上げていく技術は、まさにJMASがこれまで積み上げてきたものであり、2社のシナジー効果は非常に大きいと感じます。

スタートアップとして自分たちだけで頑張っていくことも、もちろん非常に夢があり、チャレンジングなこと。しかし、良いご縁があって親会社という存在に巡り合えたら、それは一つのチャンスだと考え、プラスに捉える広い視野を持つことも大切だと思います。JMASのように安定した環境があり、かつチャレンジを後押ししてくれる企業が増えて、若者がそこに思い切って飛び込めれば、日本はもっと元気になれると思いますね」

今後は「Wellness Aile」を自社サービスの「顔」としながらも、コアビジネスのクリエイティブコンサルティングでも、より豊かな新しい体験をお客様と創出していきたいと有海は語ります。

有海 「たとえば、次々と開発が進むメタバースやWeb3.0などの技術を使って、新しい価値を世の中に送り出してみたい。一方で、すべてがデジタルで完結することには、難しさや寂しさも感じています。

理想は、デジタルとリアルがシームレスに融合した体験づくり。アツラエのようなアプリケーションで顧客接点を担う企業が、そういったデジタルとリアルの継ぎ目をうまく作り出していけると確信しています」