小さな部品一つひとつを組み上げて形になっていく機械のおもしろさ

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幼少期は活発で、好奇心旺盛なタイプだったと言う市川。興味を持ったことはなんでも果敢に挑戦してきました。

「興味があることは全部やりたくて。ピアノ、エレクトーン、バイオリン、そろばん、男の子にまじって野球まで。たくさん習い事をかけ持ちしていました。『人に迷惑をかけなければ、なんでもやらせたい』という考えが家族にあったおかげでもあります。

外で遊んだり、体を動かしたりするのも好きで、小さいころの夢はツルツルの泥団子を作る泥団子職人(笑)。夢中になって外で遊んでいましたね。また、小さいころから身近だったのがバイク。家族全員が大型バイクに乗っていたことから、おのずと機械に興味を抱くようになりました」

そんな市川にとって転機となったのが中学生のとき。不登校になってしまい、中学時代に子どもを産みました。その後、定時制高校に進み、昼間はとび職として働き、夜は授業、帰宅後に子どもの世話をするという生活を送りました。

「人生で一番大変な時期でした。睡眠は毎日3時間くらい。子どもが小さかったので、熱を出したら休むことも多く、出席日数はギリギリの状態に。それでも子育てをしながら高校に通っていることを先生は理解してくれて、ありがたかったですね」

その定時制高校でとても貴重な体験をしたと市川は言います。

「自動車専門学校の出張授業で 、草刈り機のエンジンを分解して、組み立て直すという体験をし 、それがすごく楽しくて。これまでバイクのマフラーを交換するような作業はしていたんですが、一つひとつの小さな部品になるまで解体し、その小さな部品一つひとつを組んでいくと形になっていくということに、感動しました 」

その体験があって、卒業後は機械に触れられる自動車整備士になろうと決め、自動車専門学校に進みました。

「とび職を続けることも考えましたが、たとえば30歳を超えても続けられるかというと、体力的に厳しいはず。私は子どもを育てていかなければいけません。自動車整備の仕事は今後もなくならないし、手に職を持ってずっと長く働けるようにと考えたんです」

しかし、専門学校に通う中で、少しずつ気持ちに変化が現れます。同じような作業が続くことに、好奇心旺盛な市川は徐々に物足りなさを感じるようになっていきました。

「自分の性格に向いてないと思い始め、『思っていたのとちょっと違っていたかも』と母親に相談したり。就職先をどうするかギリギリまで悩んで、学内で就職が決まってないのは私ともうひとりだけになってしまいました」

新しいことに挑戦する姿勢と熱意が受け入れられて。初の女性整備士として入社

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▲同じインフロニアグループの前田道路の建設機械も取り扱います(左:前田道路 西課長 右:市川)。

自動車整備士を志したものの、ミスマッチを感じ壁にぶつかっていた市川。そんなときに出会ったのが前田製作所でした。

「整備士の世界はまだまだ待遇や制度が充実していないところが多いなかで、前田製作所は土日祝日休み、フレックスタイム制度、看護休暇など、業界全体を見渡しても、これだけ待遇や制度が充実しているところはめずらしく、子育てしながら働く環境として魅力を感じ、選考を受けました」

そんな前田製作所でも重量のある建設機械を扱う整備士に、これまで女性を採用した例がありませんでした。

「面接では、『がんばるので、なんとかお願いします!』と熱意を持って伝えました。後日、『新しいことに挑戦する姿勢にとても感動したので、ぜひ』と前田製作所から電話をいただいたときは、嬉しくて仕方がなかったですね」

とはいえ、市川が学んでいたのは自動車の整備。建設機械の整備はわからないことだらけで、不安もあったと振り返ります。

「採用が決まってからも、人事ご担当の方がまめに連絡をくれてほっとしました。『大丈夫そう?』『一度会社を見学に来てね』と、まだ入社前にもかかわらず親身になって相談に乗ってくれて、何もわからなかった私としては大きな安心感につながりました」

入社後は2年間愛知営業所に配属され、サービス担当として建設機械のメンテナンスを担当。3年目の春に名古屋南営業所に転勤となり、解体工事業の顧客をメインに解体用機械 のメンテナンスを行うように。

2023年4月からは、メンテナンスと営業を兼任していたメンバーが育休を取得し、その業務を市川が引き継いだことから、仕事の幅も大きく広がりました。

「仕事をする上で自分なりに工夫しているのは、見積書を直接持って行って、相手の顔を見ながら金額の説明をすること。FAXで書面を送って終わりではなく、どこをなんのために交換するのかきちんとご理解いただきたいからです。現場に行くと、女性の整備士はまだまだめずらしいので、『頑張ってね』というあたたかい言葉をよくいただけるんですよ。

また、名刺には自分の電話番号を書いてお客様に渡すようにしています。解体現場やスクラップ工場で使用される機械はダメージも大きく、急いで直しに行かなければならない場面が少なくありません。機械が壊れたとき、お客様はとてもお困りのはず。そんなときに私を思い出して電話をかけてきてもらえたらといいなと思っています」

入社4年目を迎え、顧客の助けになりたいという想いがますます大きくなっていると話す市川。寄せられた問い合わせに対して「わかりません」と言わなくて済むようにと、新しい知識の習得にも熱心に取り組んでいます。

「前田製作所では会社が費用を負担して研修に行かせてくれるので、年に2~3回は参加して、エンジン・油圧・電気のことなどを学んでいます 。また、1年目に受けた研修をオンラインで何回も見直し、新しい発見があるたびにメモをとったりしています。

ありがたいのは、社内の先輩整備士と職場結婚したことから、身近に質問できる存在がいること。帰宅後、いつも1時間ほどは、今日起こった不具合は、機械のどこが原因なのか、二人で議論しているんです。議論が白熱して喧嘩寸前までいくことも(笑)。教えてもらうだけでなく自分の意見も伝えて、現場で解決しきれなかった疑問をクリアにしたり、理解を深めたりしています」

経験やノウハウでは先輩にはかなわないものの、一方で、「知識だけは誰にも負けたくない」と言います。

「もともと勉強は苦手でしたが、建設機械の勉強は楽しいです。今後考えられる不具合を想定して、先回りをして知識を習得しておくようにしています。いざというとき『すみません知識不足で』と言わずに済むように。

また腕力では男の人に及ばないので、長い工具や特殊な工具を使って、力が少なくても整備しやすいよう工夫しています」

大好きな建設機械に触れられることがやりがい。家では建設機械のミニチュアの収集も

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▲建設機械のミニチュアコレクション

入社してからこれまでの出来事の中でも、とくに印象に残っていることとして、市川はとある建設機械を整備したときのことを挙げます。

「海で船の上で使う大きな建設機械があって、実物を見たときは感動しました。海の現場はそれが初めてだったので、『自分たちの仕事は陸地だけじゃないんだ』と思いましたね。

海では、海風で車体が錆びますから、踏みこむと損傷してしまいそうな箇所もあって、ひやひやしながら整備をしたのを覚えています。先輩と一緒に1週間くらいかけて整備したのですが、最後の試運転時にエンジンがかかってくれてほっとしました」

いまでも新しい機械を見るとわくわくすると話す市川。趣味で建設機械のミニチュアを集めるほど、建設機械のかっこよさに魅了されていると言います。

「スーパーロング仕様の解体機のミニチュアを集めていて、家の中に小さな解体現場があるような状況です(笑)。かなうなら、家中を建設機械で埋め尽くしたいですね。とくに好きなのが昔の古い建設機械。昔はいまみたいにコンピューター制御の仕組みがなかったので、無骨で機械的なところに惹かれています」

 そんな市川が一番お気に入りだと言うのが、水中ブルドーザー。

「日本に数台しかない機械なのですが、たまたまその実物を整備する機会があったんです。珍しい機械に触れて修理できることは建設機械整備士の誇り。水中ブルドーザーはコントローラーで遠隔操作でき、水中でも陸上でも作業できるんですよ。お客様に了承を得て、水中に潜っていく様子と水中から地上に上がる様子の動画を撮らせてもらい、興奮しましたね」

大好きな建設機械に触れられるいまの仕事が楽しくて仕方ないと言う市川。整備に使用する工具も好きで、工具の収集も趣味の一つとなっています。

「メーカーや値段にこだわりはないのですが、工具店を見つけるととりあえず入ってしまうくらい、とにかく工具を見るのが大好きなんです。『自由に使える100万円があったらどうする?』という質問に対して、迷わず『100万円分の工具を買います!』と回答するほど、現場で困らないように、工具をたくさん揃えています」

場所も機械も変化し、仕事に飽きることがない。活躍する姿に、整備士の後輩が続く

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▲名古屋南営業所の仲間たち

大好きな建設機械に触れる仕事にめぐりあい、仕事にやりがいを感じていると言う市川。今後は、建設機械整備士をめざす人を増やしていきたいと考えています。

「建設機械の整備は、その日によって現場も機械も、作業内容も変化するので、仕事に飽きることがありません。本当に毎日が充実していて、『楽しい』と思える仕事です」

子どもを育てながら整備士としてのキャリアを順調に歩んでこられたのは、社内制度が充実していたから。なかでも市川が魅力として挙げるのが、スキルアップ支援です。

「研修の受講費用や、資格の取得も会社が支援してくれるので、整備士として無理なく知識やスキルを身につけることができます。また、必要な工具を会社が用意してくれることにも助けられています」

女性整備士第一号として活躍してきた市川。前田製作所にフィットする人材についてこう述べます。

「元気でやる気がある方が向いていますね。扱うものが重いので、しんどいときはありますが、元気とやる気さえあれば、入社した時点で体力に自信がなくても、働く中で体力がついていくと思います。

もちろん、女性も大丈夫ですよ。重いだけでなく細かい作業もあるので、そういう仕事には女性のほうが合うかもしれません。もちろん、安全に対する意識の高さはピカイチ。安心して来ていただきたいですね」

建設機械整備士という天職にめぐりあい、瞳を輝かして建設機械の魅力を語る市川。仕事が楽しくて仕方がないと笑顔があふれ出す。その活躍する姿に導かれ、前田製作所のなかでさらなる女性整備士の誕生に希望がさしています。

 ※ 記載内容は2023年8月時点のものです