建築と土木の両事業本部が、それぞれ独立した人材開発グループで独自の人材育成を展開

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▲(左)土木人材開発グループ長 上村 (右)建築人材開発グループ長 山下

前田建設工業株式会社(以下、前田建設工業)にとって、2つの大きな柱をなす建築事業本部と土木事業本部。それぞれが人材開発グループを有し、おのおのの方針に基づいた人材育成に力を入れています。

このうち、建築事業本部の人材開発グループでグループ長を務めるのが、これまで建築設計部で構造設計などに携わってきた山下。自身の経験を活かし、2021年7月から建築系職員の人材育成に携わっています。

山下 「建築事業本部の人材開発グループは、全国の建築職員の情報を取り纏めて面談や育成ローテーションを計画するメンバーと、集合研修などのカリキュラム作成や実施を担当するメンバーで構成されています。人数は私を含めて計12名。そのうち6名は7~8年目の若手建築職員で、新入社員研修専任のインストラクターです」

土木事業本部の人材開発グループのグループ長を務め、2020年から土木系職員の人材育成に携わってきた上村は、2023年から企画グループも兼務し、同事業本部の課題解決にも取り組んでいます。

上村 「土木事業本部では、全社で取り組んでいるOJTを強化することで、若手職員の成長を促す取り組みを長く続けていることが特徴の1つです。グループのメンバーは私を含め3名。プラス外部の人材育成の専門家を招いて独自の研修を行うことや、面談などの育成記録を共有することで個人個人を手厚くサポートする体制を築いています」

キャリア面談やトレーニングによる徹底した人材開発。大きく開かれたキャリアの可能性

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▲構造設計部時代 メーカー工場新築工事の試験杭の立ち合い(左が山下)

建築事業本部の人材開発グループでは、全国の建築系職員約1,400名を対象に、対面あるいはリモートで1人あたり30~40分のキャリア面談を継続して実施しています。メンバー4名で担当しているため、全国の建築職員はおおむね1年半に1回程度、面談を行うことになります。

山下 「面談では、各職員が日常の業務を通じてどのような経験ができているか、自己の強みや課題をどのように捉えているか、将来のキャリアビジョンをどう考えているかなどをヒアリングします。建築事業本部では、建築・設備施工や設計のほか、BIMや見積等の専門職種ごとに、キャリアを積む上で必要な経験や資格取得などの育成プランを作成しているのですが、面談で聞き取った内容と育成プランを照らし合わせて、可能な限り多様な経験を積めるように所属長にフィードバックしすり合わせを実施しています。

また、各職員の適性や上長からのヒアリングも考慮し、適材適所の配属や各種ローテーションの情報として活用しています」

土木事業本部では、入社から5年間をトレーニー期間として設定。トレーニー1人に対してトレーナーが1人という体制で手厚いトレーニングを行ってきました。

上村 「本来は年2回のOJT育成面談を土木事業本部では4回実施し、追加した2回については、専門の人材開発アドバイザーが面談に入り、成長できたポイントや改善すべきところを深掘りするなど面談の質の向上に努めています。また面談で終わるのではなく、トレーナーを部門や支店ごとに年2回集めて、トレーニーの業務内容、成長ぶりや改善点などを共有し、一人ひとりの適性に合った育成プランを全員で考える人材育成会議も実施しています。

面談や人材育成会議の記録は、「現場でサポートを受けられているか」、「任されている業務の質や量の把握」のほか、「この上司で成長できた」、「現場が変わって力を発揮できなくなった」などについても読み取ることができます。そういった記録や傾向を分析し、パターン化することで育成プランに活用したり、事業本部の課題を抽出して施策や研修を立案したりするのにも役立てています」

また、今後はトレーニーを集めた会議を実施するなど、トレーナーを評価する仕組みづくりにも取り組みたいという上村。

上村 「当社の職員は総じて人柄が良く、互いに気をつかい合うところがあって、業務における課題を感じてもフィードバックするのが苦手な方が少なくありません。組織をより強くしていくためにも、改善点をお互い言い合える風土づくりが必要であると考えています」

同社の建築と土木の両分野に共通するのは、入社して10年ほどは全員に公平な教育機会が与えられること。それぞれ経験を積む過程は異なりますが、キャリアの可能性は大きく開かれています。

山下 「建築は入社時点から施工や設計といった多様な職種に分かれているのが特徴で、各職種それぞれの専門性を磨いていけるよう育成プログラムが用意されています。たとえるなら入口の扉がたくさんあって、扉の先の一本道を、途中途中にある年次に応じた研修と業務経験によりスキルアップしながら進んでいくイメージです」

上村 「土木にはそもそも職種という概念がなく、全員がさまざまな場所や業務で幅広い基礎知識を身につけながら、本人の希望や適性に関する評価をもとに、キャリアパスが決まっていきます。入口は1つだけで、その先で部屋が分かれていくイメージですね。広がる、選べる、輝く、キャリア。これが土木の特徴です」

技術の領域で培ったすべての経験が人材育成の仕事の糧になっている

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▲中国支店現場勤務時 山口県 宇賀上峠トンネル建設工事貫通式(左が上村)

大学では、構造系のゼミで鉄筋コンクリート造を専攻していた山下。学生時代に研究を通じて前田建設工業の職員と関わる機会があり、好感を抱いていたと言います。

山下 「学生時代、当社の構造設計部と一緒に学会のコンペに参加したことがあり、定期的に本社に来ていたんです。学生や若手にもどんどん意見を言う場を設け、積極的に担当を任せている印象がありました。この会社なら、早い段階から多くの経験を積ませてもらえそうだと感じて入社を志望しました」

入社後、構造設計の仕事がしたいと考えていた山下でしたが、当時は入社時の職種が今ほど細分化されていなかったこともあり、建築施工職として横浜支店の建築工事の現場に配属されました。そこで約1年半にわたって現場を経験した後、念願の構造設計に異動。途中、10カ月の育児休業を挟みながら、構造設計の領域で技術を修練してきました。

山下 「私が新入社員のころは、まずは全員現場に配属されることが決まっていました。入社後の上司との面談で将来の希望を聞かれて『何年後でもいいから構造設計をやりたい』と伝えたんです。さいわいなことに、私の場合は2年目にして希望がかないました。

入社前に思い描いていた通り、早い段階から経験が積める環境があり、『一級建築士の資格を取得し、設計者として名前を出せるように』と、先輩から設計や監理などひと通り指導してもらったおかげで、着実にステップアップすることができました」

育児休業から復職した1年半後に集合住宅事業部に異動となり、その後、本店営業を3年ほど経験した山下。2014年に再び構造設計部に異動となり、2021年まで構造のエンジニアとして業務に従事しました。

山下 「上司から集合住宅事業部への異動を打診され、設計とは違う経験をすることも時には必要だと考え、引き受けました。集合住宅事業部と本店営業部での4年間は構造設計部では経験できなかったことも多く、今の自分の貴重な糧になったと思っています。

ただ、法人営業の仕事では、お客様の要望をもとに社内で調整すべきことが少なくありません。技術的な知見を活かしてお客様に説明することはできても、技術以外の部分で営業担当として立ち回り、社内を円滑にまとめることが自分には向いていないと痛感し、異動を希望して構造設計の仕事に戻りました」

大学では環境土木工学を専攻し、2002年に入社している上村は、自身の入社の経緯をこう振り返ります。

上村 「当社のインターンシップに参加して、他の会社と比べて、ものづくりに近い視点があると感じたことが入社の決め手になりました。実際、生産部門との距離感の近さは前田建設がとても大事にしているところで、入社前の印象は今も変わっていません」

上村が最初に配属されたのは中国支店。現場で約10年間にわたって経験を積み、2012年に東北支店に異動してダムの災害復旧や発電所の工事に携わりました。

2015年には米軍基地の移転に関連する工事のため沖縄へ。ところが、移転の反対運動を受けて工事が始まらないまま現地で約5年過ごすことに。その後、東京の本店で人材育成に携わることになります。

上村 「入社してから10年ほどかけて、現場でしっかり基礎的な能力を身につけることができました。11年目に他支店に異動し、そこでスキルにさらに磨きをかけられたことで、確固たる自信を育むことができたと感じています。

一方、工事が始まらず時間に余裕のあった沖縄時代は、沖縄支店の立ち上げ後、施工グループ長を務めました。土木の作業所支援のかたわら、情報収集をして受注につなげたり、建築の現場の応援に行ったりして、営業や人脈開拓といった自分の長所を再確認。新たな境地での業務にはやりがいを感じましたし、学びも大きかったです」

人材育成の仕事をする上で、これまでの経験が大いに活かせていると話す上村と山下。次のように続けます。

上村 「たとえば、現場で培ってきた技術はもちろん、作業員の方や発注者さんに、それぞれ目線でわかりやすく伝えるコツ、失敗経験などすべてのことが役立っていると思います。中でも若い人たちにも特に伝えたいのは、現場との近い距離感を保つこと。当社にとって魂ともいえる部分を継承させていくことを使命と考え、日々人材開発に取り組んでいます」

山下 「設計担当として、会社の最前線である現場に関わり、お客様や社内の関係部署とともにさまざまな過程でコミュニケーションを取りながら物事を進めてきました。失敗経験も含めて、過去の経験はさまざまな場面で役立っていると思います。

たとえば今の仕事が合わないと悩む若手に私が面談で話しているのは、技術や専門を突き詰めていくことの大切さです。その道を極めようとして取り組んだことは、その後どんな道に進んだとしても、いずれ必ず花を咲かせることにつながると伝えています」

コアとなるスキルを磨き信頼を得ることが、思い描くキャリア実現の足がかりに

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ともに技術の領域で研鑽を積んできた2人。自分の望むキャリアを歩みたい、新しいことに挑戦したいと考えている若手人材に向けて伝えたいことがあると言います。

山下 「自分の思い描くキャリアを実現したいのであれば、まずは自分の専門性を高めた上で、それをアウトプットして周囲から求められるような人材になることが第一歩。『あの人が言うのだからきっとそうだろう』と思ってもらえるような信頼を得ることができれば、今後もどんな場所でも光を放つことができるはずです」

上村 「前田建設工業は現在、総合インフラサービス企業となることをめざしています。若いうちは、そういった新しい環境で力を発揮したいと思うものですが、組織がどう成長していこうと、コア事業の重要性は変わらないと考えています。

まずはコア事業でエンジニアリング力やインフラの維持管理に必要な知見、管理会計、地域住民との関係構築などの基礎を身につけることが、どの分野に行っても通用する人材、欲しがられる人材になる近道だと思います」

そのために欠かせないのは、学生のうちに人間性を磨くこと。2人はこう口を揃えます。

上村 「変化が激しい時代なので、いろいろなことに興味を持つための土台を学生時代に身につけてきてほしいですね。ICTやDXなどが話題となっていますが、そういったことは若い人のほうが覚えやすいということもありますから。

また、人に対して感謝したり挨拶したりといった、社会人としての基本動作も非常に大事です。もう一度基礎に立ち返り、再発見してもらえたらうれしいです。技術力は確かに重要ですが、それだけでは務まりません。技術と人間性の両面に強みがあることが大切だと思います」

山下 「私も同じ意見です。学生時代は、学校の勉強をすることはもちろんですが、その上で友人たちとたくさん時間と経験を共有してほしいと考えています。今の人脈が将来役立つこともきっとあるはずですから。

また、当社の事業は、他の職種や部門、他社の方々など、たくさんの人との関係で成り立っています。大切なのは、誰に対しても敬意を持って接すること。完璧である必要はありませんが、約束を守る意識を持つこと、もしも守れないと思ったら、リカバリーをどうとるかしっかり考えて行動できる人が信用される世界です。何事にも誠実に取り組める方と出会えることを楽しみにしています」

「生産性改革」「脱請負事業の全社的推進」「体質改善」と3つの戦略を掲げ、業界内で存在感を発揮してきた前田建設工業。その成長を支えてきたのは、社員の高い専門性と豊かな人間性です。持続可能な社会の実現に向けて、新たな仲間とともにさらなる飛躍をめざします。