先端分野の研究開発とともに、ITインフラの整備を進める

出光の電子材料部電子材料開発センターで働く奈良岡は、材料設計グループでチームリーダーを務めています。

奈良岡 「主な業務は、AIやMI(マテリアルズ・インフォマティクス)などの分野です。データを解析して、新たな分子や材料を設計する仕組みを構築する研究をしています。有機EL材料を開発してパネルメーカーに納め、テレビやスマートフォンのディスプレイとして消費者のみなさんのお役に立てるよう日々材料を研究開発しています」

2008年10月にキャリア採用で電子材料開発センターに入社した奈良岡は、2013年ごろからデータベースやネットワークなどのITインフラを整備してきました。日々取得する研究開発データを蓄積する有機ELデータベースと、それに連結するシステムを継続的に改善するプロジェクトの実行責任者として、DTK(だったらこうしよう)プロジェクトにも参加しています。

奈良岡 「入社当時は、有機ELのいわゆる素子、デバイスの設計において物理的な現象論まで踏み込んだ解析や光学的な調整をしていたのですが、複雑な現象がまだ解明できていない状況でした。光学シミュレーターも発展途上であった状況において、私の専門分野はそこに適用できるものでした。

ただ、入社当時から数年間はその分野での研究を続けていましたが、次第にやり尽くした感が出てきたんです。そこで、少し違う分野のことをやらないといけないなと考えていました」

そんなとき奈良岡が任されたのは、ITを活用した業務の再設計でした。

奈良岡 「開発センターでは有機分子の化合物を研究開発しています。その分子の種類が1万件弱になり、紙の画を見てリサーチャーが照合をかけて重複しているか否かを判断するのが難しい状況になっていました。

そこでITの力を借り、これから取得するデータをすべてデータベース化した上でワークフローに基づいた業務を再設計しようという動きがあったんです。私がその実務を担当することになりました」

ネットワーク化を推進し、コロナ禍でもスムーズなやり取りを実現

電子材料開発センターは、もともと業務を改善していこうという雰囲気のあるチームでした。2020年からはDTK活動に連動する形で、センター内で“ほねぶとプロジェクト”という業務改革活動がはじまったのです。奈良岡はほねぶとプロジェクトにおいて、ITを使って業務改善するITチームを率いています。

奈良岡 「プロジェクトではよりユーザー視点に立った業務改善をするため、新しいツールの導入やルールづくり、それに伴うセキュリティ関係や環境整備を担当しています。

東京オリンピック開催を契機としたサイバーテロの危険性が囁かれていたこともあり、制御系もセキュリティレベルを上げようということで、特にセキュリティ関係には力を入れることになりました。ネットワーク化して社外とアイソレートした環境をつくる話は、全社的にあがっていました」

その一方、電子材料開発センターの現場では、執務室と実験室の情報分断が業務の負荷になっていました。奈良岡は2015年ごろからなんとかネットワーク化しようと働きかけていましたが、なかなか実現できなかったのです。

奈良岡 「実験室はわれわれがいる執務室と同じ建物にあるのですが、若干距離が離れています。しかし、コミュニケーションツールとしてのネットワークが入っていなかったのです。結局ネットワーク化しないと、データの授受や連絡が上手くいかず、どんどん作業の負荷が増えていってしまいます。

そこで情報システム部に相談した結果、2018年にはネットワーク化が実現可能な状態になり、2020年より執務室と実験室をつなぐ分析LANが大活躍しています」

東京オリンピックに向けてのセキュリティ対策という大義名分があったものの、コロナ禍によって在宅勤務を余儀なくされた状況では、分析LANが大変有効に活用できました。

奈良岡 「まず実験室までネットワーク化することで、ラストワンマイルがつながったわけです。このおかげで在宅勤務中も実験室とやり取りができますし、制御系のPCのスクリーン情報だけなら見ることができます。

今まで実験室にこもらないとできなかった業務が、執務室や自宅でもある程度できるようになったので、場所という概念から解放されました。分析LANがなかったら、われわれの職場で出社比率8割減は実現できなかったと思います」

ほねぶとプロジェクトを進めるなかで苦労したのは、新たなものを導入したときにすぐに受け入れてくれるアーリーアダプターと、なかなか受け入れてくれない人の二極化が顕著になることでした。

奈良岡 「アーリーアダプターだけで業務改善を進めるのは不可能なので、IT化する前の環境に慣れ親しんだ人たちにいかに取り組みの意義を理解してもらい、仕組みに乗っていただけるかが重要になります。

すでに出来上がっている業務プロセスを破壊して再構築することに賛同できない人もいましたが、私は全体最適化することを一番に考えていました。各業務の部分最適化だけでなく、全体最適化を見据えないとできない施策もあると理解してもらうことに時間をかけ、十分な意見交換をしました」

さらに、メンバーの意見を吸い上げる場を新しくつくったことも、業務改善につながりました。

奈良岡 「あるシステムについて、どのような不満や要望があるか具体的に聞かせてほしいというアンケートをしたところ、たくさんの声が上がってきました。

これまではみなさん忙しくて、要望があるか聞いても『わかりません』と言われることが多かったのです。しかし、今まで改善活動に業務としてアサインされていなかった人たちに『DTKやほねぶとプロジェクトで業務改善することは、あなたの業務のひとつです』と伝えたら、意見が出るようになりました。意見を吸い上げる場をつくるのは重要だなと、あらためて認識しましたね」

やりっぱなしにせず効果を得るために奮闘し、時間削減効果を実感

DTK活動を進めたことにより、時間削減効果があらわれてきました。IT化によって本来時間をかけるべきではない作業にかける時間を減らし、生産性の高い業務にかける時間を創出する仕組みをつくれたのです。

奈良岡 「DTK活動がはじまる前からIT化による業務改善活動をずっとやってきたので、データ環境も整ってきています。みんな忙しくて手元の業務を捌くだけで手一杯なので、データベースや在庫管理システムのような業務システムを入れることで効率化ができ、入れて良かったという実感を持っていただけています」

今後はさらなる質の向上として、AIやMIなどデータサイエンスやデータドリブン的な手法を使用し、研究開発を遂行する、インテリジェンスな活動に時間をあてたいと奈良岡は考えています。

奈良岡 「データベース化やネットワーク化によってデータドリブンやデータサイエンスを推進するためには、データが命です。データが揃っていないと、そもそもそういったことはできません。将来的なAIやMIの活用はまだ検討段階で、どこまで使えるかという見極めは必要ですが、私自身は非常におもしろい分野だと思います。

これらは世界でも非常にホットな研究開発手法で、各社がとても速いスピードで環境を整えつつあります。それを出光興産でも睨みつつ、技術戦略室をつくってAIやMIを適正管理できるような会社にしようという全社の流れはできていると考えています」 

奈良岡は、業務改善活動に携わるようになってから、職場全体を見渡せるようになりました。

奈良岡 「業務全体を見て、ここが上手く連携できていないから改善しませんかと提案しています。以前は光関係に特化した研究をしていましたが、現在は全体を見渡せる業務をしているんです。そのため、より幅広い視点でデータサイエンス分野の手法を扱い、学べています。視野が広くなり、いろいろなおもしろいものを見つけることができていますね。

それぞれの業務が互いに良い影響を与え合っていることが、自身の成長につながり本当に満足しています」

奈良岡が業務改善活動を進めるなかで意識しているのは、周囲に理解してもらったうえで効果が出るよう進めることです。

奈良岡 「システムの利用者だけでなく、投資を判断する役員の方々にも、今抱えている課題とそれがITでなければ解決できないことを伝え、理解していただいています。

電子材料開発センターの業務改善活動では、システム投資にかなりの予算をかけています。それが適切な投資だと理解していただくためにも、やりっぱなしにせず効果を可視化して伝えることを日頃から心がけています」

見えてきた課題を解決しながら、新規事業の創出を目指す

業務改革を進めてきた電子材料部にも、課題は残っています。それは、表面化されていない業務の可視化です。ある人が抱えている業務を他の人に受け渡すとき、表に出ていない個別の業務が潜んでいるために、スムーズな連携ができないのです。

奈良岡 「業務連絡にアナログな部分が多く残っていると、例えば半期に一度かかった開発コストや試作品在庫などを棚卸して収支バランスを回答する際にも、大変な手間がかかります。そこで普段、研究開発をしていると表に出てこない業務を可視化することで得られるデータが、経営上重要な役割を果たします。その視点が、これまで足りていませんでした。

IT化を続けてきて、部分部分では少しずつ業務がスムーズに標準化されるようになってきました。ようやく形になってきたので、次年度はもっと簡単に業務を可視化できればと思います」

また、会社全体では、プログラミング技術の不足が課題だと奈良岡は考えています。

奈良岡 「私は物理系出身なので、大学生のころから結構プログラムも書いていました。しかし、出光はもともと石油や石油化学の会社なので化学系出身の方が多く、プログラミング技術は全体的に不足していると感じます。

老若男女問わずプログラミング技術やITリテラシーが高まっていくと、みなさんからより良い提案や業務改善方法、無駄を省くアイデアが集まってくると思います」

電子材料開発センターの業務改善活動は、データ環境整備の成功事例として取り扱われています。それに満足せず新たな事業につなげることが、奈良岡が現在掲げている目標です。

奈良岡 「お金もかかって大変だからこそ、覚悟を決めることができ、成功させられたのだと思っています。私は電子材料部でシステムを導入するとき、いろいろと説明してきちんとボーディングメンバーにご理解いただけたので、幸運だったのかもしれません。

ITを使ってデータサイエンス的な材料開発ができるようになることを目指すという動きのなかで、ようやくパズルが組み合わさってきた感じです。今はMIの土台にやっと到達し、効果検証をしています。

将来的には単なる業務改善ではなく、業界内やグローバルで勝ちにいけるような事業を作ることができるといいなと思っています」

数年かけてIT化に取り組み、確実に業務効率化を進めてきた奈良岡。

先端分野の新規事業創出を目指しながら、4月からはリチウム電池材料部に活躍の場を変えこれからも業務改善の取り組みを進めていきます。