移籍をきっかけに入社したアイベステクノ。会社員とサッカー選手の二足の草鞋で送る日々
2023年1月現在、主に日本の女子サッカーは、プロ選手で構成される「WEリーグ」と、アマチュア選手で構成される「なでしこリーグ」に大別されます。さらに、なでしこリーグは1部と2部に分かれ、それぞれ11チームが所属しています。
吉田が所属する「ASハリマアルビオン」は、兵庫県姫路市に本拠地を構える女子サッカークラブで、2022年には1部リーグ3位という好成績でシーズンを終えました。地域のイベントや広報活動にも積極的に出演するなど、地元に愛されているチームです。
3月から10月まではリーグ戦として、全22試合を行います。試合は土曜もしくは日曜日に行われ、空いた時間は練習やイベント参加に充てます。さらに11月から翌1月末までは、全日本女子サッカー選手権大会のトーナメント戦に挑みます。
そんなサッカー選手としての活動のかたわら、一方ではまったく別の顔を持っています。
吉田は平日の昼間は、アイベステクノで事務員として働いています。アイベステクノに入社したのは、ハリマアルビオンへの移籍がきっかけでした。
吉田 「兵庫県にくるまでは千葉県のオルカ鴨川FCに3年間所属していましたが、偶然にもハリマアルビオンとご縁があり、移籍しました。それを機に転職することになり、ハリマアルビオンのオーナーの紹介でアイベステクノに入社したんです。
もともとアイベステクノには私のような選手が数名働いていたので、チームメイトがいることも、私たちの働き方を理解し、活動を応援してくれる社風も心強かったですね」
平日の8時から15時までは勤務し、退社後の17時半から約3時間はサッカーの練習や自主トレ、帰宅すると21時を過ぎるハードな毎日です。そんな毎日を吉田はこう語ります。
吉田 「ハードと言えばハードですが、サッカーをして、なおかつ活躍しなければもっと過酷な現実が待っているんです。私たちはクラブと年間契約していますが、契約満了を告げられれば即刻クビです。そうなれば、自分を受け入れてくれる別のクラブを急いで探さなければならないので、その方がさらに大変なんです」
自分の好きなことを突き詰めて生きていく──格好良い言葉としてではなく、身をもって経験している吉田の言葉は、たしかな重さと強さを持って響きます。
全身全霊をかけてサッカーに打ち込む。地元を離れて西から東へ
今でこそ女子サッカーは高い認知度ですが、吉田がサッカーを始めた約20年前は、まだまだ女子に開かれた世界ではありませんでした。
吉田 「小学校2年生からサッカーを始めました。近所の仲良しの男の子たちとボールを蹴って遊ぶ程度でしたが、すごく楽しいなと思って。サッカークラブに入りたいと母に懇願すると、『男の子のスポーツだから』『ケガをすると困るから』と猛反対されました。
しかし、絶対に諦められないほどサッカーをしたいと思ったんです。そしてようやく地元のサッカークラブに入り、男の子に交じって練習しました。中学校でも女子サッカー部はなかったので、男子サッカー部に交じって練習していましたが、あるとき隣の市に女子サッカーチームがあると知り、電車で通うようになりました」
その後高校・大学でもサッカーを続け、社会人になってもその想いを持ち続けました。
吉田 「大学時代に、自分がプレーしたいチームを探しました。オルカ鴨川FCは実際に体験してみてプレースタイルや環境が自分に合っていると感じ、所属したいと強く思いました。生まれ育った関西から離れることになるので、両親には反対されましたが、私の気持ちが勝りました」
強い意志と行動力で順調な選手生活を思い描いたものの、現実は厳しいものでした。
吉田 「幸い大きなケガをすることはありませんでしたが、オルカ鴨川でのシーズン1年目はまったく試合に出られませんでした。生活環境や初めての仕事など慣れないことの連続で、萎縮していたんだと思います。とにかく生活するのに精一杯で、それがプレーにも現れていたんです。
上手くいかない現実を前に、心の底から地元に帰りたいと思った一方で、反対を押し切ってまで飛び込んだ世界で、何の成果も残せず、プレーする姿すら見せられていない自分が情けなく、このままでは終われないと思いました」
全身で踏ん張った甲斐があってか、2年目には持前の良さをプレーで活かし、試合への出場機会が増えました。チームメイトの支えや、仕事への慣れも良い循環になったと言います。
アイベステクノの働きやすい環境で成長する事務スキル。その基礎にはやはりサッカーが
現在はアイベステクノの業務課に所属している吉田ですが、前職は病院に勤務していたと言います。
吉田 「オルカ鴨川のチーム全員が、ひとつの大きな病院の各所で働いていて、私は手術に使う器具を準備する仕事を担当していました。私が直接患者さんに触れることはありませんでしたが、非常に専門的な業界でしたし、命に関わる重大な現場なので、毎回緊張しました」
そして今は、業務課で事務作業に携わっています。
吉田 「アイベステクノで働くチームメイトの中には、生産部での軽作業やCADオペレータとして従事する人もいますが、私は高校時代に培ったパソコンスキルを活かして、事務作業に従事しています。
配属されて間もないころは、さまざまな資料作成や先輩社員の補助が主な業務でしたが、今では部品管理業務の一部を任されています。もしも型式や数量を間違えると月々の締めで整合性が取れなくなるので、十分注意しながら扱っています。会社の雰囲気は、和気あいあいとしてなんでも言い合える、とても過ごしやすい環境ですね」
まずは飛び込んでみて、これまでの境遇で培ったメンタルの強さを活かしてその場に慣れ、その後にチームの一員としてうまく馴染むことができるのも、サッカーを通じて吉田が得たスキルなのかもしれません。
サッカーが生きがい。どんなときもサッカーと共にある人生
20年前から愛してやまないサッカーを続ける吉田は、今後のビジョンをこう語ります。
吉田 「高校時代は全国ベスト8、大学時代も準優勝だったので、日本一になったことがないんです。だから、ハリマアルビオンで1部リーグ優勝を目指したいです。また、1試合でも多く出場して、通算100試合、150試合と積み上げていきたいです。
そして、さまざまなチームを経験することが、サッカーにとっても仕事にとっても経験値が上がる良い機会だと思っています。刺激に満ちた毎日を過ごしたいですね。
それからもっと先の話で言うと、引退後もサッカーに携わる仕事をしたいです。指導者でもいいですし、どこかのクラブの裏方でもいいので、どんな形でもサッカーには関わっていたいです。サッカーは私にとっての生きがいなんです」
好きなことを極めたい──そう願っていても、安定した生活を秤にかけたときに、迷わず選択できる人がどれほどいるでしょうか。
だからこそ、迷うことなくただ前を見て走り続ける吉田の姿から目が離せません。これからもまっすぐに進み続ける彼女の活躍が期待されます。