幼少期からHondaに魅せられ、学生時代の学びを活かして解析の道へ

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品質改革統括部のなかでも技術解析推進部は、市場品質情報を元に解析を行う役割を担っている部署です。

松屋 「販売店がお客様から拝受した不具合情報は、Hondaのサービス部門に報告されます。私たちは交換された部品を観察し、どこが壊れているのか、どのような原因があったかなどを明らかにする一次解析を行います。

製造過程での問題なのかそもそもの仕様の問題なのかを判断したうえで、製作所や研究所に対応を依頼するという流れです」

技術解析推進部でエンジニアを務めている松屋は、Hondaに入社して以来、一貫して品質不具合の解析に携わってきました。

松屋 「大学時代は機械系を学んでいて、特に機械を構成する材料の構造解析に興味を持っていました。私はクルマが好きだったので、その研究が自動車の軽量化につながると聞き専攻を決めました。

Honda入社後は解析領域に配属されました。その部署では構造解析を活用することもありますが、何より、一つの事象に対して深く追求することや、そこで得られたデータの分析結果から仮説を立て立証していくという、大学での研究活動で経験したプロセスは、今の仕事に活かされていると思います」

世界各国でクルマを販売しているHondaでは、あらゆる地域から不具合情報が集まります。そのため、解析の仕事をしている社員は駐在で海外の現地法人へ行く可能性が高く、松屋も2018年から3年間タイに駐在していました。

松屋 「当時私たちの組織は研究所の一部として、全世界の品質不具合に対する解析を行っていたのですが、2017年頃から海外研究所の品質部門の解析能力を高めようという活動が本格化しました。その活動の一環として、私はタイの研究所へ駐在し、品質解析全般をサポートするアドバイザーのような形で仕事をしていました」

日本と海外法人の連携を強めるため、駐在中は土壌づくりに注力

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タイ駐在期間中に松屋が行ったのは、地域間の協調と連携を進める土壌づくりでした。

松屋 「仕様の不具合はその部品を開発した部門が1番詳細を把握しているので、日本の研究所に仕様改善を依頼することになります。その際に不具合が起きた地域ではどんなことが起きていたのか、どういう理由で部品が壊れてしまったのかなど、より詳細な情報が必要です。

伝える情報の精度を上げることが重要ですが、現地メンバーの情報収集力だけでは難しい部分もあります。そこで、駐在員として日本からの要求を正しく咀嚼して現地メンバーに伝え、現地メンバーと目線を合わせながら一緒に情報を集めることで、できる限り詳細な情報を日本に伝える。そういった地域と日本との連携強化を重視していました。

これからさらに市場の成長が見込めるアジア大洋州地域全体の情報収集力を強化するためにも、まずはアジア大洋州地域のハブとなるタイの研究所を中心に土壌づくりをする必要があったんです」

最初は最低限収集するべき情報のチェックリストを作って運用することで精度を高めようと考えていた松屋でしたが、不具合の状況は一つひとつ異なるため、定型的な運用では思うように仕事が進みませんでした。そこで、システマチックにやろうとせず、地道に泥臭く進めることを心がけたのです。

松屋 「現地のメンバーが何に困っているのか正確に拾い上げることや、日本の研究所で適切な仕様改善につなげるために、日本側が必要としている情報を丁寧に噛み砕いたうえで現地のメンバーに伝え情報収集をお願いすること、事象発生時はすぐに動くことなどを意識しながら仕事をしていました。それをコツコツと継続して、現地の情報収集力を強化しました」

結果として、松屋が駐在していた3年間でタイと日本の連携が強まり、やり取りのスピードが早まって解析にかかる日数を短縮できました。

松屋 「日本に共有する情報が不足していれば、研究所の解析がストップしてしまいます。必要な情報をスピーディーに集めるところが鍵で、それを強化する取り組みを行ってきたので、少しずつ改善されたのは嬉しかったですね。

駐在がはじまったのはコロナ禍前でしたので、コロナ禍で出張者の行き来が難しくなったときでも自身が日本とタイの橋渡しのような役割を果たすことができました」

国が変われば音の感じ方も変わる?先入観を持たないことが不具合発見の鍵

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英語での会話や現地メンバーとの関係性構築などは特に問題なかった松屋も、やはり駐在期間中は大変なこともあったと振り返ります。松屋が衝撃を受けたのは、国が違えば言語だけでなく音の感じ方も変わることでした。

松屋 「駐在がはじまってすぐに、現地のメンバーが深刻な表情で『この部品をクルマにつけるとすごく大きな異音がするから、どこから鳴っているのか調べたい』と言ってきました。私もその部品をつけたクルマに一緒に乗って確認したのですが、私にはその音が全く聞こえませんでした。正確に言うと聞こえてはいるのですが、異音として認識することができなかったんです。

調べたところ、国や文化の違いによって不快に思う音の周波数が異なる場合があることがわかりました。これでは現地メンバーがいくら異音がすると言って日本に部品を送っても、日本では音が鳴っていることに誰も気づけません。不具合というのは本当に現場で起きているんだなと、強く実感した出来事でした」

驚きの経験をした松屋は、それまでも解析をするうえで大切にしてきた考え方をより強固にしました。

松屋 「どんなことでも絶対頭ごなしに否定しないことを、常に考えて解析しています。不具合の解析経験を積んでいくほど、“こんなことはあるはずがない”という先入観が生まれてしまい、そういった先入観や思い込みが本当の不具合の原因を見逃してしまうきっかけになると思うんです。

だからこそ、まずは目の前の事象やメンバーが伝えてくれた情報を肯定して、そのうえでなぜ自分が違和感を覚えたのかを探っていくことで本当の原因を見つけ出そうと考えています」

駐在前は車体系をメインで担当してきた松屋は、駐在後はクルマ一台分全ての不具合解析を行うようになりました。品質全般を見なければならないのは大変でしたが、確認範囲が広がったことでスキルが上がったと実感しています。

松屋は現地の情報収集力の強化以外にも、ローカルアソシエイトの指導・育成や品質意識向上のための研修の実施など、アジア大洋州地域市場における品質問題の早期解決につなげるための施策を多数行いました。帰国してからは現地と直接やり取りする機会は減ったものの、新たな仕事で現地の成長に貢献しています。

松屋 「現在は解析の主担当というよりマネジメント業務を任される場面が増えたので、現地と直接コミュニケーションをとる機会は減りました。しかし今は、技術解析推進部が引き続き各拠点とフランクに連携できるような仕組みづくりのプロジェクトを担当しています。

今まではメールで現地とやり取りをしていましたが、システムを活用してより速く正確なコミュニケーションが取れるように取り組んでいます」

変革期のなかでも品質の重要性は不変、戦い方は変わる

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松屋は日々の業務において、人との関わりを大切にすることでモチベーションを高く維持しています。

松屋 「私たちの仕事では、技術を追求するだけでなく人との関わりのなかで進めていくことが大切です。人とのつながりがあってこその品質業務だと感じているので、『この件は松屋がいてくれたからうまくやれたよ』と言ってもらえたことを常に大切にしながらモチベーションを保って仕事をしています」

自動車業界が100年に1度の変革期にあると言われるなか、松屋は入社以来変わらず「技術を極めてスペシャリストになりたい」という想いを持ち続けています。それに加えて、今後は変化に合わせた品質領域での働き方を模索したいと考えています。

松屋 「クルマの技術の進化や、業界やビジネスモデルも変化はますます激しくなっています。電動化や自動運転、コネクテッドカーなど、新たな技術は日々生まれていきますが、『品質の重要性』は変わらないと思うんです。一方で、ビジネスの形が変われば品質の戦い方も変わるだろうなと感じています。

たとえばコネクテッドカーなどの場合、通信のインフラなどでも今後不具合が出るようになると考えると、クルマだけを見ていても仕方がありません。インフラなども含めたシステム全体を見て不具合としてとらえなければならないので、そこに対する備えが必要です。

今後クルマがどのように変化していくのかをとことん考えて、技術解析推進部としての戦い方を見つけ、次の世代に渡していけたらいいなと思っています」

解析の経験を活かして日本だけでなく世界でも活躍し、今後の仕事の広げ方についても考えている松屋。

時代が変わっても品質重視の姿勢を変えることはないHondaで、これからもより品質の高い商品をお客様に提供するために歩み続けます。