有事になると人が集まり、協力して解決に向かうHondaの底力

2020年初めから猛威を振るう新型コロナウイルス感染症は、Hondaの業務フローを大きく変えるきっかけになりました。Hondaは2020年にアフターコロナ対応として新業務フローを実施。そのなかでも、取引先に紙の請求書を電子化いただくプロジェクトに取り組んだのが、財務課の横田でした。

横田は2007年にHondaへ入社し、埼玉製作所の会計課に配属となりました。その後2011年からは本社に異動し、財務部や経理部で経験を積んできたのです。

横田 「経理部業務企画推進課では、7カ国28社2万人の経理・財務ユーザーが使うシステムの維持、運用と業務改善プロジェクトを担当していました。また、経理部財務経理課では、日本国内のHondaの製作所(5拠点)の支払業務を本社に集約するプロジェクトなどに携わりました。サイバー攻撃や新型コロナウイルスなど有事への対応にも関わってきたんです」

2011年以降は出張の機会が多く、中国の大連市やタイ、イギリス、アメリカなどを訪れて仕事をしてきた横田。学生時代から、海外に関わる活動をしてきました。

横田 「学生時代は、留学生と大学の国際交流センターのパイプ役をするなど、海外に関わるボランティアを継続してきました。入社後は、自分でも海外とのやり取りがある業務を希望しており、上司も理解してチャンスを与えてくれたので、2つ目の部署以降は海外とのやり取りがメインになっていますね」

横田がHondaに入社したのは、創業者である本田 宗一郎の考えに共感したからです。

横田 「就職活動をするなかでさまざまな業界を見て、素敵な会社はたくさんありました。本田 宗一郎の本を読むなかで、『世のため人のため、自分たちが何かできることはないか』『差ではなく違いを活かせ』など心に響く部分が多くあったんです。Hondaフィロソフィーや考え方をもとにグローバルに活躍できるHondaという会社で働き、地球規模での社会貢献活動をしたいと思い、入社を決めました」

Hondaに入社し、財務部時代は中国の大連市にあるSSC(Shared Service Center)へのアウトソーシングや約20の海外現地法人との決済業務効率化のため、グローバル・マルチネッティング導入プロジェクトなどを進めました。そのとき、デジタル統括部(当時はIT本部)で活躍する並木と出会います。

横田 「並木さんは、有事の際に登場してくれるヒーローのような存在です。たとえばHondaでは経理・財務業務を中国にある企業のメンバーにアウトソーシングしているのですが、2020年1月に中国で新型コロナウイルスが出たとき、約50名のメンバーが出社できない状況になってしまいました。

ですが、アウトソーシング先の会社とは、出社前提で契約していたので、リモートワークをできるように切替えないと、Hondaから国内外への支払業務が止まってしまう恐れがあったんです。そんなときに並木さんが登場し、本当に大変な状況のなか動いてくれて、IT本部(当時)の複数部署のメンバーにスピーディに働きかけてくれました。その結果、通常であれば3カ月ほどかかるようなインフラやセキュリティの整備が1〜2週間で完了したんです」

並木 「Hondaは大企業なので、関係者が多く、どうしても整備に時間がかかる場面もあります。でも、有事の際の団結力がすごいんですよね。私は長年経理のシステムを担当しているので、担当から外れたあとも有事になると召集されます。私だけではなく、何かあったらいろいろな人が集まってきますね」

横田 「Hondaには、ピンチをチャンスに変えなければいけないときに登場してくれる人が必ずいると感じています。IT本部(当時)から並木さんがきてくれたように、有事になると各領域のキーパーソンが集まってOneTeamとなって一緒に立ち向かうんです。私もコロナ禍になる前から大連とのつながりがあったので、コロナ対応で召集され、対策を進めました」

変えることが皆のハッピーにつながる。わずか半年で電子化を実行

2020年はじめに中国でのリモートワークは可能になったものの、今度は日本でも新型コロナウイルスが流行しました。そこで横田は上司と相談しながら“After CORONA Project”を企画し、5月に立ち上げたのです。

横田 「感染拡大防止を目的としたリモートワークを推進するためには、新業務フローを確立する必要がありました。具体的には、お取引先からの紙の請求書を電子に切替えをしていただいたのです。

内部統制領域や税務領域、システムなどの課題をクリアしなければ業務フローを切替えられず、各領域の協力が必須だったので、私がプロジェクトリーダーを務める形で、約20名のプロジェクトメンバーの皆と一緒にOne Teamで進めていくことになりました」

プロジェクト開始から半年後の11月に、紙から電子への切替えが実施されました。わずか半年でデジタル化を実行できたのは、Hondaのような大企業にとっては奇跡のような出来事だったのです。

横田 「当時の部長が、『コロナで失ったものもあると思うけれど、コロナによって一気に変えられるものはチャンスと捉えたらいいよ』という言葉をくれたんです。失ったものに目を向けるのではなく、得たものに目を向けて機会(チャンス!)と捉える考えが、私の信念と合致しました。だからこそ、反対の声を受け止めながらも絶対に変えるんだという気持ちで進められましたね」

社内の部門向けにAfter CORONA Project説明会をオンラインで実施した際には、約1,000名の担当者が参加し、業務フローの変化に戸惑う声も多くありました。また、11月に切替えを実施してからは、国内外の取引先からも各部門からも問い合わせが集中し、その数は1日に数百件にものぼりました。説明会実施後や、業務フロー切替え後3カ月間は、特にしっかりと対応する期間と捉え、変化に納得してもらうためにまず相手の意見を受け止めることを心がけました。

横田 「もらった意見を否定すると平行線をたどってしまうので、まずは『ご意見ありがとうございます』と受け止めたうえで『電子への切替えはしなければなりません。なぜならば……』と一つひとつ理由を説明するように、プロジェクトメンバーにも対応してもらいました。

目の前の業務が何のために取り組んでいることなのかわからなくなると、皆がハッピーではなくなってしまいます。ハッピーになるためにやっているんだと目的(A00*)を伝えることを心がけていましたね」

*Hondaでプロジェクトが走り出すときに、一番はじめに議論される最後まで絶対にぶれないための指針、コンセプト。経営戦略、計画、施策などさまざまなテーマの目的とその取り組みの明確化のために使われている。

今まで紙の請求書で対応していた取引先に電子化を依頼することになり、国内外約8,000社に案内を送ることになった本プロジェクト。取引先が多い分、関係部署も多岐にわたるため、頻繁にミーティングを行いベクトルがずれないように気をつけました。

横田  「いきなり切替え案が降ってきたら皆気分が良くないので、それぞれにしっかり目的や方向性を伝えるようにしていました。というのも、世の中でステイホームが推奨されている状況で、私のグループで一緒にお仕事をする仲間に請求書と伝票チェックのために出社してもらわなければいけないこと、部門のみなさんにも出社をしてもらわないといけないことと、Hondaの社会的責任を果たす『支払遂行』との間で葛藤があったんです。

リモートワークを実現し、お取引先にも支払ができる、みんなのハッピーを実現するために、という想いでプロジェクトを進めていましたが、当初は社内の理解が得られないこともあり辛かったこともあります。しかし、並木さんや部長をはじめとする周りの方々が声をかけてくれて救われましたね」

異なる領域同士でも、助け合いながら進めていく。有事の際にHondaがスピード感を持って対応できるのは、人と人とのつながりが強いからです。

「技術の前では皆平等」だからこそ、世の中を良くするためだけに動けた

請求書を電子化するにあたり、特にやり取りの多い取引先には直接連絡をして「電子化に対応いただけるか」を事前にヒアリングしました。電子への切替えが難しいと回答した取引先のなかには日本電気株式会社(以下、NEC)もありました。実はその回答がきっかけでNECとの関わりがより深くなっていったのです。

並木 「請求書は紙の電子化なのでPDFにしたものをメールで送っていただければいいのですが、NEC様の場合はそうではなく、『NECとHondaの共通の箱を準備してやり取りしよう』という一歩進んだレベルを目指してくださっていました。だからこそ、『できません』ではなく『すぐに電子化するのは難しい』という回答だったんですよね」

長田 「一旦難しいと回答したあと、横田さんや並木さんとやり取りをさせていただきました。請求書のPDF化だけにとどまらず、履歴や人の異動も管理できるシステムを作るというNECで構想していたプロジェクトの第1号になっていただき、一緒に進めることにしたんです。

プロジェクトを進めるうえで弊社にも課題があったんですが、おふたりにお伝えしたところとても迅速に対応していただけました。Hondaさんと一緒に進めた結果、両社にとって良いものになったと思います」

Hondaは古くから、NECのさまざまなシステムを利用しています。これまで取引をしてきた長い年月のなかでも、一気に方向性が変わることはありませんでした。2社で協力して無事に電子請求を実現できたのは、平等な立場で課題解決に立ち向かったからです。

長田 「Hondaさんから一方的にこれをやってと言われることはなく、何をどうすれば課題を解決できるのかという視点で動いていただいていたので、横田さんや並木さんの視座の高さを感じました。それがスピード感のある電子切替えにつながったんだと思います」

並木  「システム導入などをする場合、基本的には両社の担当者が『ここまでが対応できる範囲です』という主張をすることになります。しかし、今回のプロジェクトメンバーはそれで終わりにしませんでした。何をどう変えればお互いの要望が実現できるのかを考えられたのが大きかったですね。技術の前では皆平等だからこそ一緒になって進められたのは、プロジェクト成功の鍵のひとつだったと思います」

横田 「本田宗一郎の言葉に『差ではなく違いを活かせ』とありますが、私も肩書きや“依頼する側とされる側“などで優劣や上下はないと思っています。フラットなコミュニケーションを意識して、世の中を良くしていきたいという想いは一緒だと思うので、NECの皆さんとも団結して進めていけたのが良かったですね」

年齢や役職が異なっても平等に巻き込む力が、プロジェクトを動かす秘訣

横田とともに請求書の電子化プロジェクトを進めた並木と長田は、横田には人を惹きつける力があると感じています。

並木 「技術の前では皆平等といっても、やはり若い方が年上の方を巻き込むのは難しいこともあります。しかし、横田さんは私や長田さんだけでなくIT本部の部長にも躊躇うことなく積極的に関わっていたので、人を取り込んでいく力があると思うんです。

私からすると声もかけづらいくらい緊張してしまう相手も仲間にしてしまう巻き込み力こそ、横田さんがプロジェクトをスムーズに動かす秘訣なんだろうと思いますね」

横田  「一緒に頑張ってくれた方の役割が部長さんだったという感じで、本田 宗一郎が『国籍・年齢・性別・肩書きに関係なく』と言うように、あくまでも“役割“であると思っているので、肩書きにかかわらず、誰もが平等だと思っていますね」

大企業とは思えないスピード感でプロジェクトを進め、有事に立ち向かってきた横田。志は、Hondaに入社する前から変わっていません。

横田 「私は昔からずっと、世界を平和に、世界の人を幸せにする人なりたいと考えています。そのためには、まずは身の回りの人を幸せにすることが大切と思っているので、私がHondaに入ってから経験させてもらったことで何かHondaの企業活動に貢献できる部分があれば、本田 宗一郎の“世のため人のため、自分たちが何かできることはないか“という言葉につながると信じています。

Hondaは“第二の創業期“と掲げるように、私たちも知り得ないことがこれからたくさん起こると思います。予定していないことが出てきたとしても、これまでの経験を活かして周りをハッピーにしていきたいですね」

学生時代から一貫した想いを胸に、自分自身ができることを考え行動を続ける横田。

有事の際も周りを気遣いながら立ち向かうその姿勢に協力したくなるメンバーは社内外に多くいます。これからも人を惹きつけ、巻き込み力を発揮しながら進んでいくでしょう。