お互いがメリットを確保したまま目的を実現するため、技術契約に取り組む

2017年にHondaへ中途入社した山田は、現在、知的財産・標準化統括部四輪事業知的財産部第二知財課に所属しています。Hondaがサプライヤーとともに部品開発をしてクルマを作っていく活動に携わり、取引における契約を作成・交渉しさらにマネジメントすることが主な仕事です。

山田 「開発を進めていくにあたり、サプライヤー様とどのような関係を構築していくのか、開発メンバーと一緒に議論・検討し、双方にとって最適な関係性をつくっていきます。私自身が開発自体をすることはありませんが、深く開発の現場に入り込んで枠組みを整えています。

私は転職を経験していますが、前職とHondaとでは事業だけでなく、ビジネスモデルも取引先との関係も違います。Hondaは外部の企業と協力し一緒にビジネスを作っていく場面が多いので、その分現場に入り込む機会も多いですね」

Hondaは電気自動車や燃料電池などの領域でゼネラルモーターズとアライアンスを組んでいます。他社とのアライアンスのときは、開発だけでなくその先のビジネスまで見越したうえで、広範で多様な条件を細かい部分まで現場に落とし込んでいく必要があります。そのため、さまざまな部門が連携して議論を重ねていくことになります。

山田 「開発部門だけでなく、必要に応じてアライアンス部や財務、調達などの部門とも連携を取っています。

アライアンスでは、枠組みに応じて複数の契約が結ばれますが、そのなかでも私が主に関わっているのは共同開発契約です。多岐に渡る部門と適宜調整を図りながらHondaとしての統一見解をまとめ、契約条件をアライアンス先と交渉します。文化や仕組みの違う他社と深いところまで関わりあうこの手の契約は、多くの違いを認め合い、それぞれが納得できる点を探る必要があるので、タフな交渉になることが多いです。

また、契約締結に向けては、各部門のマネジメント層への確認を繰り返し、ときには役員とも直接議論を重ねながら、慎重に進めていきます」

一口に共同開発契約と言っても、税金や会計基準、商品の輸送など、知的財産以外の要素についても議論し、取り決めをしなければなりません。そのため社内の各種専門家たちに適宜相談しながら、どのような条件が最適なのか調整もしているのです。

山田 「私が主に担当している『技術契約』は、ある技術を開発していくために必要となるあらゆる契約を指します。共同開発契約も、技術契約のひとつですね。

技術契約を結ぶためには、さまざまなステップを踏んでいきます。まずはHondaが取引先と何をしたいのか正確に把握することが大切です。それを社内のメンバーからヒアリングしたうえで、その先のビジネス形態や商流を見据えながら、どのような契約にすればお互いのメリットを確保したままやりたいことが実現できるかを考え、必要に応じて関係部門との調整を経て、契約案を作成します。その後は取引先と交渉していくという流れです。

入社1年目からアライアンスの共同開発契約など、ニュースになるような仕事を中心メンバーとして任され進められたことは、自分の中で大きなモチベーションになりました」

サプライヤーと共栄していくための関係構築を、契約から支える

山田は大学の法学部を卒業後、2007年に電機メーカーへ就職しました。希望どおり知的財産部に配属され、特許の出願や権利化などの仕事に携わっていたのです。その後社内でキャリアチェンジをして、契約や権利の活用に関わる仕事を担当しました。

そして入社後10年が経過しキャリアアップしたいと考えたときにタイミングよくHondaで知的財産の求人があり、チャレンジすることになったのです。

山田 「実家で乗っていたクルマがずっとオデッセイだったこともあり、昔からHonda車を身近に感じていました。Hondaに勤めている友人から話を聞き、夢と想いを大切にする自由でチャレンジングな社風が魅力的だとも思っていました。

また、Hondaは宇宙関連やロボティクス、四輪車、二輪車、ライフクリエーション製品など、非常に多岐に渡る研究開発をしています。研究開発にとても力を入れている会社という印象があったので、知的財産の仕事をするにあたり、やりがいを感じられるだろうと考えました」

転職した山田は、良い意味でHondaにギャップを感じました。

山田 「研究開発に注力していろいろなものを生み出している会社だとは思っていましたが、中に入って事情を知っていくと、水面下の氷山のように外からは見えないけれど、とても多種多様な研究開発が行われていました。そして、各々の研究開発に注がれる熱量は想像以上でとても刺激的でした」

中途入社ならではの苦労がある一方、他社で経験を積んだからこそ今に活かせている強みもあります。

山田 「前職はBtoB事業や公共事業が中心の中間・最終製品メーカーでしたが、HondaはBtoC事業が中心の最終製品メーカーです。そのため、ビジネスモデルや文化が大きく異なり、馴染むまではとても苦労しました。

今の四輪車開発では、サプライヤー様に協力していただき一緒にHonda製品のための開発をしていきましょうという形がほとんどです。そのためには、双方にメリットがあるような付き合い方をしていく必要があります。今では、サプライヤー様と共栄していくために、契約や知的財産の面で関係構築を支えられるようになりました。

良い関係を築くには、まずサプライヤー様のことをよく知らなければいけません。Hondaとまったく違うビジネス構造を取っていたり考え方を持っていたりするサプライヤー様の事情を知り、それらを理解してお互いのメリットを出せるようにする必要があります。私は前職でサプライヤーの立場も最終製品メーカーの立場も両方経験しているので、その点は自身の強みになっていると思います」

Hondaは、2030年ビジョンの実現に向けて、次世代サービスの事業化をさらに強化しています。今後の事業がモビリティサービス領域にシフトしても、根底にあるHondaらしさは変わらないと考えている山田。しかし、従来のビジネスモデルが変化することで知的財産部門の仕事も変わらなければならないと感じています。

山田 「Hondaを取り巻く産業構造が変化していくので、それに合わせて知的財産という面でHondaの事業をどう守り、どう攻めていくか、ステークホルダーの方々とどのように上手く付き合っていくかなど、知的財産の活用方法は改めて考え直す必要があると思います。

私も今の四輪事業に限らず、将来の変化を見据えた長期目線の契約を考えていかなければならないと感じています」

さらに、最近ではコネクテッドなどの新しい領域の事業を展開しているため、通信業界やIT業界など今までHondaと関わりのなかった業界との付き合いもはじまりました。今までとは大きく異なるお取引先と新たな関係性を作っていく必要があるため、Hondaの事業を守りながらwin-winの関係が築けるよう、知的財産・標準化統括部の手腕が問われています。

Hondaの技術を他社との協業でより広く世に出し、より良い世の中にしたい

Hondaの新たな領域への挑戦により、これまで関わりのなかった多くの企業とゼロベースで関係構築する必要性が出てきました。それに伴う苦労もありますが、山田はHondaの良い技術を他社との協業により、より広く世の中の役に立たせることができるチャンスだと考えています。

山田 「Hondaは夢のある技術を自由に研究開発している会社ですが、商品となって世に出ていくものは限られています。たとえば四輪車はすでに決まったラインアップの中で、決まったコンセプトや機能に基づきそこに必要な技術を保有する技術の中から採用していく形になります。

このように、特にHondaではボトムアップの風土のなかで多くのエンジニアが常に優れた多様な技術を研究開発していますが、中には世に出ていくことなくお蔵入りになってしまうものも多いです。私はそれがすごくもったいないと思うんですよね。そこで、他社と連携しながらHondaの良い技術を世に出し、広めて、もっと世の中に貢献していきたいという想いがありますし、Hondaならそれができると思っています」

他社との協業によってHonda内にある技術を発掘し、世の中に出して成功を収めた例が、2020年7月に株式会社内田洋行より発売されたオフィスチェアです。HondaのN-BOXやN-WGNのシートに使用している生地「アレルクリーンプラス」がアレルゲン物質の不活性化などの機能を持つことから、オフィスチェアに採用されることになりました。

山田 「私から内田洋行様にお声がけをしてみたところ、興味を持ってくださいました。共同プロジェクトで開発を進め、製品の発売に至りました。ただし、最初から上手くいったわけではありません。自動車メーカーとオフィス家具メーカーとで業界が違うことから文化や取引の慣例も違ったので、そのすり合わせがとても大変でした。

たとえば、生地はロールの状態で装置に設置して加工していきますが、自動車業界とオフィス家具業界とでは装置に設置できる生地の幅の規格が全く違うのです。また、生地に関する商流の違いもあり、誰が規格に合わせて生地をカットするのかといったことも調整が必要になるなど、普段行っている知的財産の仕事の苦労とは違う大変さがありましたね」

本プロジェクトにおいて、山田は契約だけでなく企画や営業の仕事も担当しました。わからないことが多いなか、生地メーカーの営業担当の方に協力してもらいながら対応したのです。

山田 「知的財産の仕事も、契約をする、特許を出願・権利化するだけでは会社に貢献できる度合いが限られてしまいます。厳しい業界で生き残っていくためには、それだけでは足りないと考えていました。会社、さらには世の中に貢献していかなければならないという想いは、知的財産・標準化統括部全体でありますね。本プロジェクトはその取り組みのひとつとして進めました。

やはり自分が携わっているものが製品化されて多くの人に喜んでもらえたことは嬉しかったですね。実際にHondaのオフィスにもこのチェアが導入され、これまでの努力が報われたように感じました」

知的財産・標準化統括部だからこそできる、優れた技術を広めるための取り組み

▲子どもを寝かしつける山田

オフィスチェア開発は、山田をはじめとした知的財産・標準化統括部のメンバーがHondaの素晴らしい技術を世の中に出したいという強い想いがあったからこそ実現したのです。その想いがあったことで上司からも強力にサポートを得ることができ、積極的に進められました。

山田 「全事業領域をカバーする知財部門だからこそ、Honda全体を俯瞰して見ることができます。どこでどのような開発をしているか、開発成果や技術がどのよう状況なのかがわかります。そういう意味では、Hondaの良い技術を世の中に出すプロジェクトは私たちが旗を振って推進していくのがベストではないかと感じています」

より良い世の中づくりに貢献するため、知的財産・標準化統括部で意欲的に取り組みを進めている山田。しかし、決してプライベートを犠牲にしているわけではありません。山田は2019年には約2カ月間育児休職を取得し、子育てにも奮闘しました。

山田 「当時、周りで私以外に育児休職を取得している男性社員はいませんでした。そんななかで私が育児休職を取りたいと上司に相談したところ、快くOKをもらえました。

『もっと長く取ってもいい』と上司に言ってもらえたこともあり、実際にはむしろ育児休職を取りやすい環境でしたね」

育児休職取得後、後輩からは、私が育児休職を取ったことで、自分も取りやすい環境ができた、と感謝されることもありました。

山田 「うちは共働きなので、育児休職の相談の中で、妻が1年ほど育児休職を取ることになり、私も1年にしようかと伝えたら『そんなにいらない』と言われ、最終的に2カ月になりました(笑)。私も育児休職を取得したことで妻がとても感謝してくれて、家族の絆も深まったので本当に取って良かったと思います。妻も『こんなことならもう少し長く取ってもらえばよかった』と言ってくれたほどです。

育児休職を取得するかどうかはそれぞれの家庭の考えによるので、取ることが絶対的に良いことだとは思いません。ただ、育児休職を希望する人は、積極的に取った方がいいと思います。Hondaでは育児休職によって不利益な扱いを受けることはないと、多くの方に知ってもらいたいですね」

スキルを活かしてHondaに転職し、知的財産・標準化統括部で活躍しながらプライベートも充実させている山田。自身がHondaに中途入社したからこそ、Hondaで知的財産の仕事をするおもしろさをよく理解しています。

山田 「知的財産の仕事は特許を取る、技術契約をするというイメージがあると思いますが、企業によってはそれだけにとどまりません。Hondaの知的財産・標準化統括部は、自分が会社や世の中の役に立ちたいという志を持った人にとってとても働きがいのある環境だと思います。

そのような志を持った人と働くことで私自身もモチベーションが高まりますし、そういう人は周りに対しても良い影響を与えられますし、絶対により良い組織になっていくはずです。知的財産の仕事で会社や世の中の役に立ちたい、変えていきたいと考えている方がいれば、ぜひ一緒に働きたいですね」

新しい挑戦を続けるHondaだからこそ、知的財産・標準化統括部の仕事も幅広くなり、会社や世の中への貢献度も高まる。そこに魅力を感じる人と一緒に働きたい。自らも高い志を持つ山田は、そう願っているのです。