患者さんの悩みを解決するモビリティを開発したいと思い、Hondaへ

森下は2012年にHondaへ入社して以来、四輪開発におけるシステム開発に携わってきました。現在はデジタル改革統括部プロダクトライフサイクルマネジメント*推進部統合情報基盤課で四輪開発を支えています。

*製品の企画立案から設計、生産と出荷、そのあとのサポートなども含め、総合的に管理すること

森下 「四輪の商品開発に関わる日程やプロジェクト課題などの開発情報を一元管理してデータを活用するため、企画段階から設計、生産、出荷、アフターサービスまでを見据えたプロダクトライフサイクルマネジメント(PLM)のシステム導入を行っています。“モノづくりDX”プロジェクトと呼ばれるこの活動は、開発効率を上げて魅力ある商品づくりにつなげることを目指しています。

システム開発全般に携わっているので、日々の業務としてはまず実際に四輪開発に関わるメンバーから『今後どうしていきたいか』を聞き出します。業務要件を聞けたらそれに沿ってどのようなシステムを作ればいいか考え、設計をしていきます。

コーディングなどはベンダーさんに発注しますが、できあがったシステムをテストして品質保証を行い、ユーザー評価のフィードバックを反映するところまですべて担当しているんです」

Honda社員20〜30名に加え何十人ものベンダーが参画しているため、プロジェクトはかなり大規模です。さらに森下は、開発領域の部門に所属しながら製造領域のメンバーとも連携して仕事をするため、縦だけでなく部門の垣根を越え、さらには海外展開も踏まえた横のつながりも意識しています。

就職先としてHondaを選んだ森下は、学生時代に理工学を専攻していました。父がエンジニアだった影響もあり、小さい頃からモノづくりが好きだったため、技術の道に進んだのは森下にとって自然なことだったのです。

大学で取り組んだ研究がきっかけでHondaへの就職を決意します。

森下 「大学時代はブレイン・マシン・インタフェースという、脳波を使って外部機器を動かす技術の研究をしていました。その技術を、脳卒中の後遺症で手が麻痺して動かしにくくなっている患者さんにリハビリテーションで活用してもらおうとしていたんです。

実際に患者さんにも協力してもらうなかで、『身体の不自由な人にこそモビリティが必要だ』と強く感じました。患者さんの多くは乗り物の使用に不安があり、出かけることにも抵抗を感じていたんです。

そこで、患者さんの悩みを技術面で解決したいと思い、モビリティとしてさまざまなものを生み出しているHondaに就職しようと決めました」

入社4年目でチームリーダーに抜擢され、試行錯誤しながら成長

新たなモビリティを作りたいと考えHondaに入社した森下でしたが、専門とも希望とも異なるIT部門へ配属されました。

森下 「配属が決まったときはショックを受けました (笑) 。ですが、私が学生時代に専門としていたのは工学と医学の融合分野であり、さまざまな領域を学ぶことで新しい技術が生まれると考えていたため、今度はIT分野を専門として身に着けようと切り替えたんです」

配属が決まってから現在に至るまで、IT分野で専門性を高めてきた森下。現在携わっているモノづくりDXプロジェクトには、2015年から継続して関わっています。入社4年目の頃にはチーム内のシステムリーダーを務め、それが成長につながったと振り返ります。

森下 「当時ほかのチームを見渡してみると、チームリーダーはその道のエキスパートと呼ばれているようなベテランの先輩方ばかりでした。正直に言うと自分は不釣り合いだと感じていて、あまり自信がない状態からのスタートでしたね。

チームリーダーとなってからも、上手くできないことがたくさんありました。ベンダーさんに意見や判断を求められてもどう答えればいいかわからず、プロジェクトの推進も上手く取り回せず、技術面でもマネジメント面でも苦しんでいました」

実力不足を感じた森下は、打ち合わせで結論が出なかったものを一旦持ち帰り、上司や先輩に相談するようにしていました。そのときに心がけていたことが森下を成長させたのです。

森下 「持って帰って相談するときも、一度は必ず自分で考えるようにしていました。そして、アドバイスをもらって結論を鵜呑みにするのではなく、どう考えてその結論に至ったのかをしっかり理解するようにしていたんです。

その繰り返しによって、自分のなかに仕事のプロセスのベースができあがっていきました。できることが増え、プロジェクトも上手く回せるようになり任せてもらえる仕事も増えていきましたね」

Hondaの人材育成では「2階に上げてはしごを外す」という言葉がよく使われます。難易度の高い課題に挑む状況をつくることで、社員の能力を最大限引き出そうとしているのです。チームリーダーに森下が抜擢されたのも、チャレンジングな組織風土があってのことでした。

森下 「上司や先輩も私が実力以上の仕事にチャレンジしていると思っていたので、困ったときはすぐ相談に乗ってくれました。もちろん、重要な会議には一緒に出てもらっていました。

チームリーダーとして自分がやらないと何も進まない状況に置かれたことで、自分できちんと考えるようになりました。責任感も自然と生まれ、その後リーダーの立場を任される機会も増えましたね」

当初の配属希望とは異なりましたが、前向きに業務に取り組んできた森下。チャレンジングな風土のなかで自分自身のポテンシャルを発揮し、成長を実感することができました。

データとノウハウを蓄積するシステムで、魅力ある商品づくりを目指す

リーダーを任される機会が増えた森下は、その後も現場の課題をシステムで改善するためにプロジェクトを進めていきました。ひとつの機能の担当者から性能課題やインフラ領域など開発プロセス全体を俯瞰する役割に変化していき、開発の効率化に取り組んできたのです。

森下 「四輪の開発には、開発部門だけでなく営業部門や製造部門など非常に多くのメンバーが携わっています。しかし、事業所や組織を跨いだ情報共有の一部は属人的であったため、時間がかかってしまうという問題がありました。

そこで、四輪開発に関わる情報をデータとして管理し、業務の効率化に取り組んでいます。日程や課題、要件などをすべてデジタルデータとして一元管理し、必要なタイミングで即座に取り出せるようにしているんです」

市販のシステムをベースとしながらも、活用していくうえで要件に合うよう機能をどんどん追加し開発を進めてきました。データが蓄積されていくほど、次に活かしやすくなります。

森下 「開発したシステムのダッシュボードでは、ひと目で開発の進捗状況がわかるようになっています。また、ただ情報を管理しているだけではなく、関連している情報同士をつなげて管理していることが大きなポイントです。

製品開発では、要件を満たすように設計したものをテストして検証します。途中で課題が発生した際に、課題はどの要件に関連しているのか、どのデータ上で起こったのか、検討経緯はどうだったのかというように、あらゆることを紐づけた状態で管理できる仕組みになっているんです。

単純なデータだけでなくノウハウも蓄積されていくので、次の開発に活用すれば今後同じ課題は発生しなくなり、失敗を繰り返さずに済みます。このように、システムを活用しさらに発展させ、魅力ある商品づくりにつなげていくことを目指しています」

森下は、大規模なプロジェクトを大人数で進めていくこと、その中でリーダー的な立場として携わることにやりがいを感じています。

森下 「これからのHondaを支える仕組みを作っているため、とてもやりがいがあります。開発部門だけでなく、社内の別部門や社外のコンサルタント、ベンダーなどと仕事をするので、今まで自分になかった視点や考え方を学ぶことができるのも魅力ですね。

多くの人と協力して進めると、さまざまな意見が飛び交うこともありますが、その結果できあがったものは自分ひとりでは想像もできないようなものになっています。チームだからこそ生み出せたものを目の当たりにすると、おもしろさとやりがいを感じますね」

現在の対象ユーザーは2500人ほどですが、さらに多くのユーザーに展開していく予定です。

ユーザー視点に立ったモノづくりをするため、真の目的を確認する

プロジェクトを通じて自身の成長を感じられることは、森下のモチベーションになっています。

森下 「入社4年目でリーダーを務めた頃から、少しずつやらせてもらえることが増えていきました。私は、自分が担当になると決まった分野には自分が1番詳しくなるつもりで毎回臨んでいます。

担当領域の業務をまず理解して、システムの仕様を確実に把握するようにしています。こういう理由があってこういう仕様になったという過程は気をつけて確認していますね。細かいことを突き詰めることが好きなので、このような仕事のプロセスは自分に合っていると感じます」

入社前に希望していた新しいモビリティの開発とは分野が違いますが、森下はシステム開発でもユーザーである四輪開発メンバーの視点に立ったモノづくりを意識しています。

森下 「身近にいるユーザーが現在抱えている困りごとを把握して、システムにどのような仕組みが必要なのかをメンバーと一緒に考えています。

ユーザーによっては細かく希望を提案してくれる場合もありますが、そういうときはかえって目的が曖昧なこともあるんです。だからこそ、何度も繰り返し聞いて相手の希望の真の目的を捉え、解決策としてベストなものを提案することを心がけています」

開発の仕事のプロセスを変革するプロジェクトは、メンバーもユーザーも数が多いことから一筋縄ではいきません。しかし、森下は目標のために、一つひとつの課題に着実に取り組んでいこうと考えています。

森下 「昨今は電動化や自動運転などの技術が登場し、自動車の仕組みはより複雑になってきています。また、新型コロナウイルス感染症のような突発的な環境や状況の変化に追従していく必要があります。そのためにも、デジタルデータを最大限活用することが今後大切になってくるはずです。四輪開発全体として、フルデジタル開発ができるようにプロジェクトを進めていきたいと考えています」

IT領域の仕事に取り組むなかで自身の強みを発揮し、着実に成長を続けている森下。仕組みを進化させ開発者を支えるその先に、Hondaの未来が待っています。