入社前に思い描いていた世界とのギャップはなかった

国際的でダイナミックなフィールドで法務の仕事をしたい──。

2003年に新卒入社して以来、一貫してHondaの法務として働く柴田 佳織は、大きな夢を掲げてHondaに入社しました。

柴田 「せっかく働くなら、国際的なマーケットで多岐にわたって活躍することができて、さらに現地で働く機会があるという事業体が良いと考えました。そこで、思いついたのが自動車産業でした。

そのなかでも、Hondaに入社したゼミの先輩がしきりに『うちは良い会社だ』と言っていたことや、多角的な経営をしていることがきっかけになりHondaに興味を抱きました」

入社後も、柴田は入社前とのギャップを感じることなく仕事ができたと振り返ります。

柴田 「当初思い描いていた国際的な仕事が多く、やりたかった仕事に携われていると感じました。“2階に上げて、はしごを外す”というHondaでよく耳にする言葉の通り、若い社員でもどんどん仕事を任せてもらえますし、社内には互いに謙遜することなく言いたいことを言いあって、自分たちのやりたいことをしっかりと主張するというカルチャーが根付いていましたね」

こうして意気揚々とHondaでのキャリアをスタートさせた柴田は、入社3年が経った頃にイギリスに拠点を構えるホンダモーターヨーロッパ・リミテッド(Honda Motor Europe Ltd. )へ駐在するチャンスを得ました。同社はイギリスに拠点があるものの中近東やアフリカ地域も管轄範囲内であったことから、各国事業への法務支援とともに、幅広い国々を対象にしたコーポレートガバナンスの国際事務局会議や啓発活動を行う日々を送ることになりました。

柴田 「コーポレートガバナンスの国際事務局会議や啓発活動では会社のあるべき姿や各国でのビジネス動向を踏まえ、ビジネス格差がある国々に対しても配慮を欠かぬように言葉を選びながら話をすることを心がけていました。日本国内で見てきたHondaの姿・形とは異なるHondaという会社の姿を垣間見た瞬間でもありましたね」

地球の裏側で初心に返る

▲モトホンダ・ダ・アマゾニア・リミターダの企業対抗運動会にて(左)旅行先にて(右)

「Hondaの法務を担当する若手社員は、とある壁にぶつかりやすい」と柴田は笑顔で話し始めます。彼女自身もその壁にぶつかった一人でした。

柴田 「他の部署の方からの法律相談に対して、法務として部門に提案したい見解を上司に共有した際に『Hondaらしくない』と言われてしまうことです。法律的な解釈を踏まえた見解を準備しても、Hondaのフィロソフィーやカルチャーに合わないからという理由でその選択肢は法務部として提案できない、部署の担当者に納得してもらえないと指摘されることが多々あります。最初はその“Hondaらしさ”がわからず、困ったこともありました」

他社との契約交渉やトラブル対応において、自分たちが不利にならないよう、またできるだけリスクヘッジできるよう提案することは間違いではありません。しかし、単なる法律の解釈や、法的なリスクヘッジだけを考えた法務の意見では、Hondaフィロソフィーにそぐわない、社会からの期待に応えられないといった反対意見が出ることも少なくないのです。

法律の内容を正しく解釈することは当然として、Hondaの考え方やそのプロジェクトで実現したいことなどを踏まえて、法務としての意見を形成し、説得力を持って相手に伝え、プロジェクトの推進に貢献していく。難しさもありますが、それこそがHondaの法務として働くやりがいでもあるのです。

こうした壁を幾度となく超えながら、プロジェクトを進めてきた柴田でしたが、2014年に一度退職することとなります。理由はHonda社員でもある夫のブラジルへの駐在に同行するためでした。

夫の駐在に同行し、3年間ブラジルで過ごした柴田。貧しい地域ではガスも電気もなく、ひどいところは壁もないような環境でした。そのような経験をしたことで、Hondaは社会のさまざまなフェーズに貢献していることがよくわかるようになったといいます。

柴田 「Honda製品が世界のあらゆるところで活躍していて、人々の生活を支えている。そんなHondaの事業に、自分も何かしらの形で貢献したいと改めて感じました」

夫の駐在期間が終わり、帰国の途についた柴田は「再入社チャレンジ」の制度*を活用し、復帰することを決意します。

*配偶者の転勤や駐在、家族の介護などにより止むを得ず退職する社員が、その事由が解消した際に再び元の職場に戻ることができる制度のこと

柴田 「復帰を希望する場合は再度入社試験を受けなければならないので、不安はありました。しかし、ブラジルではライフイベントを乗り越えてHondaで働いている人が周りにたくさんいましたし、現地のディーラーを訪問したり、お客様の暮らしのなかに製品が入り込んでいる様子を目にしたりして、Hondaが世界で必要とされているということを改めて感じました。もっと新しい角度から仕事がしたいと思い再入社を決意しました」

退職し、ブラジルで3年間を過ごしたことで初心に立ち返り、キャリアの再スタートを切る意欲に溢れていました。

前例のない新規事業の手綱を引き、チームに貢献

再入社した翌月からすぐに、柴田はインドネシアのMobile Power Pack(MPP)事業に携わりはじめました。新規事業のために、インドネシアに合弁会社を設立したいという相談を受けたのです。

※Honda Mobile Power Pack…再生可能エネルギーを利用して発電した電気を蓄え、
小型電動モビリティの動力や家庭での電源として活用する、着脱可能な可搬式バッテリー。

柴田 「新規事業なので、プロジェクトメンバーもどうすればいいのかわからない状態でした。経理・財務部に説明する際も話が通じず、法務担当として付き添ったり、合弁会社を立てるための手続きについて人事部に説明したり、プロジェクトに入って一緒に進めたりしましたね」

柴田はバングラデシュの合弁会社設立や、ケニアの子会社設立を支援した経験があったため、MPP事業でも合弁会社設立に向けて積極的に働きかけました。しかし、各種契約交渉や各国企業結合届出対応など法務支援事項が多いなかで社内に前例やノウハウがなく、人手も不足していたため大変な状況だったのです。

さらに、プロジェクト進行中にインドネシアの会社法が変わってしまい、新たな手続きを進めなければならず、プロジェクトが落ち着くまでに想定以上の時間がかかってしまいました。それでもMPP事業にやりがいを感じられたのは、プロジェクトリーダーに「手綱を引いてほしい」と頼まれたからでした。

柴田 「リスク提示も大切な役割のため、法務はうるさいと思われることも少なくありません。それでも、何が起こるかわからない新規事業を進めるために、法務担当として頼りにしたいとメンバーに思ってもらえたのは嬉しかったですね。同じチームの一員として貢献していると感じ、光栄でした」

復職してからすぐ新規事業の立ち上げに携わったことで、柴田は待っているだけでは何もはじまらないと実感しました。

柴田 「MPP事業は新規事業ということもあり、契約交渉をする際には先方から多くのご要望をいただくことがあります。内部でじっくり検討した事業スキーム・契約内容の練り直しも度々発生し、対応が難しいことが多いと感じました。しかし、“新規事業の法務支援は手間暇かかって難しい”これが当たり前だと気持ちを切り替え、いろいろなアイデアを検討し、試行錯誤を重ねて柔軟に事業を進めていくしかないと考えるようにしました。

プロジェクトメンバーが日々新しいアイデアを出しながらビジネスを進める姿を見て、自分も他のビジネスモデルを勉強し、どんどん提案していかなければならないと感じましたね」

変化に対応するためのキーワードは「学び続けること」

2021年5月現在、柴田はチームのリーダーを務めながら複数のプロジェクトで法務サポートを担当しています。

柴田 「アメリカの会社の買収や自動運転のサポート、さらにスタートアップ企業への出資なども担当しています。新規事業領域でも法務として良い提案ができないか考え、データの取り扱いや社内の仕組みづくりなどにも関わっています」

さまざまなプロジェクトに携わるからこそ、勉強は必須です。新規のビジネスモデルや新製品について会社で説明会があるわけではないので、自力で勉強する必要があります。

柴田 「新規事業は、勉強しなければメンバーが何を言っているのかわかりません(笑)。新たな案件に取り組むたびに、本を読んだりニュースや特集番組を観たりして周辺情報を集め、自分のなかで点と点をつなげていきます。今は、自動運転やドローンの仕組みについての本を読んだり、コンピュータの図鑑を見たりしています」

また、最近では国内外問わず法律の変化が多く、法務の仕事もさらに大変になっています。そのため法務部では、チーム内で担当者を決めて変化があればメンバーに共有する体制をとったり、自分で勉強して情報を発信したりすることを心がけています。

柴田 「私は新しいことにとても興味があるので、変化していくものに携わることにやりがいを感じています。100年に1度と言われる業界が大きく変わる時代に法務として働くなかで困難にぶつかることもありますが、実際に携わった製品が発表できたり、事業をプレスリリースできたりすると嬉しくなりますね」

Hondaに入社した当初は、海外駐在員となるために必要なスキルを身につけたいと考えていた柴田。当時は駐在員となった後のキャリアは見えていませんでしたが、今はこれまでの経験を活かして自分の好きなビジネスがしたいと考えています。

柴田 「新しいものにずっと関わっていたいので、もう少しビジネスサイドに入り、法務ではなく事業部門のメンバーと一緒になって仕事ができたらいいなと思います。あとは、アメリカや中国などスタートアップ企業の活動が盛んで、新技術の社会実装スピードが全然違う地域と仕事をしてみたいですね」

リーダーを務めているチームの展望としては、ルールではなくパフォーマンスの良さで人が集まってくるようなチームにしたいと考えています。

柴田 「大きい企業だと、法務部に相談するのがルールになっていることがあります。そうではなく、パフォーマンスが良くて頼りになるから法務に相談しようと思ってもらえるような、自分たちの力で自然と仕事が集まってくるようなチームにできればと思うんです。

お役所仕事ではなく、みんなのサポートをして良いサービスを提供することで満足してもらう。そんなチームにしたいと考えていますね」

目まぐるしく変化する時代のなかでHondaが続ける挑戦を、ますます「頼れる法務担当」として支える柴田。

経験を積んで明確になったキャリアを実現させるため、今後も彼女自身が挑戦を続けながら、プロジェクトを引っ張っていきます。