自由にプロジェクトを立ち上げられる環境で、通信システム開発に携わる

シリコンバレーにあるHonda R&D Innovationsで働く三浦は、2009年に中途採用でHondaへ入社しました。入社後はまず四輪の開発に携わり、システム設計の基礎を1から叩き込まれます。その後車車間通信のラージプロジェクトリーダーのほか、自動運転システムや認識システムのプロジェクトリーダーを務めてきました。

三浦がHondaへ転職したきっかけは、前職で携帯電話の無線回線を設計していた際、より使い勝手の良いデバイスを開発したいと考えたからです。

三浦 「Hondaは車以外でもASIMOなどのロボットや芝刈り機、エンジンなどさまざまなモノを開発しています。そんなHondaであれば、私がやりたいと思っている無線を使った車のシステムが開発できるのではないかと考えました。Hondaの技術力に関して、入社するまでは正直ASIMOくらいしか知りませんでした。ただ、技術力の高さゆえに、いろいろなことに挑戦させてもらえるのではないかと思ったのです」

実際にHondaへ入社した三浦を迎えたのは、プロジェクトの立ち上げなどに関しても比較的自由にやらせてもらえる環境でした。

三浦 「もちろん簡単にできるわけではありませんが、通信をやってみたいという希望をHondaは叶えてくれました。しかも、部署変更直後の自分にプロジェクトリーダーを任せてくれました。この自由闊達な環境がHondaの魅力だと感じています」

三浦がHondaへ入社してから行なってきた新しいチャレンジのなかでも特に印象に残っているのは、車車間通信のプロジェクトです。もともと顧客や社内のニーズがすごく高い分野で、アメリカで法規化されるかどうかというところまで進みました。

三浦 「取り組んだ内容は、まずアメリカで車を仕立て、そこからテストを行なうというものです。テストはミシガン州のデトロイト、アナーバーという車車間通信に力を入れている都市に1〜2カ月ほど滞在し、テスト走行と検証を繰り返しました。ほかにもさまざまなシステムを作るため、イタリアのテストコースで300km/hでシステムが動作するか等、数多くのテストを行ないましたね。それがとても印象に残っています」

Hondaに入社する前の三浦は、世界で活躍する人々と話し技術親交を深め、さらにその技術を取り込む仕事に携わるとは夢にも思っていませんでした。しかし、2020年現在、三浦はシリコンバレーでHondaとスタートアップ企業の橋渡しをする役割を担っているのです。

世界の第一線で活躍する優れたスタートアップとHondaをつなぐ

三浦はスタートアップの経営者や技術者との意見交換を繰り返し、Hondaに技術投入ができないかを模索する橋渡し役をしています。

三浦 「スタンフォード大学やハーバード大学、マサチューセッツ工科大学などでハイレベルな技術を身につけたCEOと話をする機会もあります。世界の第一線で活躍する技術者の話を聞けるのは、ものすごくエキサイティングなことだと感じますね。個人的にも興味がある部分なので、今の業務に携われているのは非常に光栄です」

2019年頃までは、アクセラレーターのなかでもAIやコネクテッドカーなどが重点分野として挙げられていました。そして2020年からは、航空や船(マリン)など新しい事業についても考えを広げています。電池など新エネルギーの方面でも考えを進めていて、スタートアップの検索の幅を広げているのです。

また、世界中にある優れた技術を多くの社員に知ってもらうため、HondaはGVE(Global Venture Exhibition)という取り組みも行なっています。

三浦 「世界中のアクセラレーターがアメリカやイスラエル、ヨーロッパ、中国、インド、日本などのスタートアップを探していることから、GVEではより優れた技術を紹介しています。新型コロナウイルスの影響もあり、2020年のGVEはオンラインで開催しました。

オンライン開催の長所として、自由に参加できる点があります。好きな時間に、ストレスなく見られるようになりました。一方、他社とスタートアップの関係性が薄くなってしまうという短所が考えられるのも事実です。それを踏まえ、いくつか工夫をしました。

まず、なるべく多くの方に参加していただけるよう、人数や時間制限のあるウェビナー形式でなくスタートアップの技術説明も含めた動画を作成しました。加えて日本語字幕をつけ日本の方にも見てもらえるようにして、さらに24時間いつでも閲覧できるようにしました」

これまでに、GVEをきっかけとして活用されていったものは何件かあります。たとえばマサチューセッツ工科大学とハーバード大学がコラボレーションしたスタートアップでは、暗いところを明るく見せる技術を開発していました。

三浦 「通常は赤外線カメラなど特殊なカメラを使い、暗いところを明るく見せることがほとんどです。しかし、その技術は一般的な可視光のカメラ使い、アルゴリズムだけで暗いものを明るく見せます。これを活用することで車の安全性を高められ、かつ普通のカメラを活用するため低コスト化も可能です。これが、今まさに継続しているGVEからスタートした事業プロジェクトですね」

ともに事業価値を高めたいからこそ、コラボレーションは慎重に

Hondaは、自分でやることによって達成感を得る自前主義の会社であるがゆえに、他社とのコラボレーションが苦手という面があります。スタートアップからも、Hondaは大企業であり注目度も高い一方でコラボレーションしづらいと思われているのです。

三浦 「最近は技術の進化スピードがどんどん速くなり、Hondaが自社内で1から何かを作ろうとしても、すぐ時代遅れになる可能性が高くなっています。そのスピードを速めるために、もっと社外の技術を活用し、より良く強いモノづくりができるようにする必要があります」

スタートアップは、自分で株式公開することや買収されることを大きなゴールとしていることが多いもの。

そのため、より大きく投資してほしい、最終的には買収してほしいという想いがスタートアップにはあります。

HondaはPoC(Proof of Concept)を2回3回と繰り返し年間契約などが決まるまで、1〜2年かかることもめずらしくありません。つまり、遅いんです。

三浦 「Hondaでは、三現主義の考え方が非常に強いので、形になるかわからないものは敬遠されがちです。慎重に評価を繰り返して本当に良いものだけを取り込む傾向があります、つまり石橋を叩いて渡るということですか。スタートアップ的には、嫌な感じかもしれないですね(笑)」

他社は良いと思ったらすぐ投資や買収などに踏み切っているので、そういった観点で非常にスピード感がありますその点でHondaには遅れがあるかもしれないと三浦は感じています。

スピードが遅いという課題もありますが、投資対効果の最大化や事業価値の向上を考慮しつつ、技術力が非常に高かったり、レスポンスよく短期間でアウトプットが出せたりするスタートアップを紹介するなど工夫をしています。

持続的だけでなく、破壊的なイノベーションもこれからのHondaには必須

三浦のHondaに対する考え方は、入社してからのさまざまな経験により変化していきました。

三浦 「やはり、Hondaが世界的な大企業であるのは大きな強みですね。シリコンバレーで働いていてもHondaは世界中に知られている会社であると感じますし、そこに対してスタートアップが期待している部分はあります。

一方、ネガティブな部分としては、すべての技術において自前主義的な考え方が強いが故、他社の、とりわけスタートアップの技術などには興味を示さない傾向があると感じています。

自前主義が悪いというわけではなく、今の時代にマッチした感覚をいち早く取り入れる事が出来、新しい変化を早く起こせるようになれば、それこそがHondaと感じることも多いですね」

ハーバード大学のクレイト・クリステンセン教授著の『イノベーションのジレンマ』では、破壊的イノベーションと持続的イノベーションのふたつが紹介されています。たとえばGoogleやApple、Facebookなどは、破壊的イノベーションを通し世の中を変えていきました。

一方、Hondaはこれまで改良を重ねる持続的イノベーションを行なってきました。しかし、持続的イノベーションを行なっていると、破壊的イノベーションが顧客ニーズにマッチした際、他社に立ち位置を取って代わられてしまうという危険性があるのです。

大企業が持続的イノベーションをしていくだけでは、今後新たに出てくる企業に負けてしまう可能性がある。だからこそ、今後はHondaも破壊的イノベーションに取り組むべきだと三浦は考えています。

三浦 「2020年現在、Hondaは二輪のシェアが世界第1位であり、四輪のシェアも世界第7位と比較的高い位置にいます。しかし、今後のためには持続的イノベーションだけでなく、破壊的イノベーションも同時並行で取り組んでいくべきだと強く感じています。

具体的にはゲリラ部隊を作り、そのなかで破壊的イノベーションを検討していけるような小さなグループが必要です。そこで1から技術を作っていくと、やはり最近の技術進化に追いつけないという問題が出てくるのです。そのためにも、スタートアップによる技術の探索が非常に重要だと思っています」

Hondaが今後も優れた商品を世の中に提供し続ける会社であるため、スタートアップと協力し技術を活用するべきだと考える三浦。Hondaの魅力と課題の両方を冷静に分析したうえで、今後もスタートアップとの架け橋となって縁をつなぎます。