少し変わっているけれど、ときにミラクルな120点をたたき出す「はずれ値人材」。Hondaではそんな個性的なメンバーが集う「はずれ値人材Meet Up!」というイベントを開催しています。大好評だったVol.1とVol.2に続き、2022年12月11日にVol.3が開催されました。

これまでのイベントとはテーマを変え、新たなゲストとともに「人とマシンは、わかり合えるのか?」を考えた結果、議論は白熱。オーディエンスからのコメントも交えながら活発なトークを繰り広げたイベントの様子をレポートします。

人とロボットの関係にフォーカスして議論

過去に開催した「はずれ値Meet Up!」では、Vol.1は“社会”、Vo.2は“まち”に注目して議論を行いました。

今回開催されたVol.3でフォーカスしたのは、“人”。「人とマシンは、わかり合えるのか?」をテーマに、これまでとは異なるゲストをお招きして議論を繰り広げました。

ここからは、参加者がそれぞれの視点で意見を出し合いながらワイガヤしたイベント後半の様子をお伝えします。

そもそも、ロボットの定義とは?

人とマシンがわかり合えるのかを議論する前に、まずは「ロボットの定義」についてゲストの皆様に伺いました。

青木 「機械工学で決めているロボットの定義は、『人の心を動かす機械』とまとめています。たとえば洗濯機のような家電にもセンサーがたくさん搭載されていてアクチュエータ*もあって、自律的に計算して乾燥時間を調整するなど、やっていることは完全にロボットですよね。でも、洗濯機に名前をつけて可愛がっている方に僕は会ったことがありません。

もっとシンプルな機能のメカでも、名前をつけて可愛がってくださる方はいる。当社が発表している『甘噛みハムハム』のほうが“ロボット性”はあるなと思っています」

*電気・空気圧・油圧などのエネルギーを機械的な動きに変換し、機器を正確に動かす駆動装置のこと

安井 「できる作業は圧倒的に洗濯機のほうが多いですが、確かにロボット性があるのはハムハムですよね。人の心や動きにいい影響が与えられる点が、まさにロボットという気がします」

青木 「甘噛みハムハムは、“ハムゴリズム”と呼んでいるパターンを70くらい開発したので、甘噛みしたり、たまにサボったりと、行動に変化があります。伝統的な二足歩行のロボットを研究されている先生方からは、『お前たちのメカはロボットじゃない』と怒られることもありますね(笑)。散々言われてきましたが、今では割とこちらが主流になっているような気がします」

安井 「その点では、岡田先生が研究されている『弱いロボット』も少し似ているような気がしますね」

岡田 「そうですね。僕はロボットを見たとき、モノとして捉えるのか、機械として捉えるのか、意思を持ったモノとして捉えるのかという3つの構えを考えることが多いです。モノとして捉えているときは、誰かがプログラミングしたとおりに動いているんだという設計的な構えをします。一方でHondaのASIMOは、なんらかの意思を持って動いているんだという思考的な構えで見ていました。

この場においては、『思考性の構えを引き出せるモノ』をソーシャルなロボットと呼びたいですね。機械的な、あるいは設計的な構えを引き出してしまうのは高度に自律した機械であって、あまりロボットらしくない気がします」

ロボットが動くとき、人を介すかどうか。それもまた、対象のロボットによって異なるポイントです。

粕谷 「私は人の心に介入できるロボットを目指したいと考えています。遠隔共同子育てロボット『ChiCaRo(チカロ)』は、身体性といってそこに存在があることを大切にしているんです。ビデオ会議など画面上でのコミュニケーションでは、どうしても振る舞いや仕草がわかりづらいと感じていて。視線や存在を感じることで得られるコミュニケーションもあるのかなと。

子どもたちは大人以上にそれらに敏感なので、だからこそChiCaRoはコミュニケーションの手助けができると考えています」

安井 「仕草の生成において、アバターを操作している人の表情に連動して動くような機能はついているんですか?」

粕谷 「そこまではできていませんが、ロボットに全部表現させてしまうと『人間ってなんなの?』となってしまう気がするんです。私は人が悲しいときに支えてあげる、嬉しいときにもっと膨らませてあげるような心に介入できるロボットを目指しているので、そこは難しいなと正直思いますね」

安井 「なるほど。岡田先生のロボットは人が介さず、ロボットが表現していますよね」

岡田 「そうですね。僕は一応ロボットが自律性を持つことを目指しているんです。高度な知性を持つよりは環境に揺り動かされるような、他者の手助けのなかで一緒に何かを成すような周りとの関係性を思考している弱いロボットですね。

僕たちがロボットを作るときに大事にしているのは、ヨタヨタしていて、何かに向けて進む指向性を持っていて、何かしてもらったときに何かを返す社会的随伴性(事象間の相関関係のようなもの)があること。

そして、三項関係*という1つのタスクに対して二者が一緒に考えるシチュエーションを生み出すことです。
*「自己」と「他者」と(対面の二者間の空間以外にある)「モノ」の三者間の関係を指す

ロボットが高齢者と一緒に歩くときは、目の前の路面状況に対してロボットと高齢者が一緒に思考し調整しているので、三項関係を作っていると言えます」

安井 「シンプルとか高度とか関係なく、1つのタスクやモノに対してマシンと人が共有し、意図をキャッチボールしながらお互い影響し合えるのがロボットのひとつの定義と言えそうですね」

人に愛されるロボットのデザインとは?

Hondaは現在、マイクロモビリティロボット「WaPOCHI」の研究開発を進めています。開発チームでは「子どもに愛されるロボットにしたい」という想いがあるものの、あざとさを出さずに可愛くするのは難しいという専門家からの意見も。そこから、人とわかり合うロボットのデザインについて議論しました。

岡田 「僕たちが進めている弱いロボットには、『あざとい』という悪口が寄せられることがあります(笑)。あえて弱さをデザインするとあざとくなるので、それはWaPOCHIでもやめておいたほうがいいですよとアドバイスしておきますね。青木さんにお伺いしたかったんですが、可愛いロボットを作るコツは何かあるんですか?」

青木 「僕たちもあざとさを出したくない気持ちはすごく強いですね。なるべく表情をつけず、動きで可愛らしさを出そうとしています。音やディスプレイではなく、動きの可愛らしさだけで勝負したいと思っていますね」

安井 「ChiCaRoのデザインはいかがでしょうか?」

粕谷 「ChiCaRoは、子どもが怪我をしないよう乱暴に扱っても壊れないことが第一フェーズにあります。腕をつけても子どもは折ってしまうので、そういうものは削ぎ落としていきます。

あとは何もないのに目だけギョロッとしていたら怖いので、子どもが怖がる要素は削ぎ落としつつ耐久性がありそうな筐体を目指して設計しています。育児支援ロボットであるChiCaRoにとって、大切なのは可愛いことより怖がられないこと。子どもが抱きしめやすいようなデザインを心がけています」

安井 「なるほど。岡田先生のロボットはいろいろなバリエーションがありますが、やはり意図があってインタラクションのあるデザインを決められるんですか?」

岡田 「僕らのロボットは、できるだけシンプルにしていますね。コミュニケーションをとるときに目は大事なので、目のキョロキョロした動きだけのロボットを作ったり、手をつなぐだけなら手は1本にしたりしています。

人を頼ってくれるような、ロボット自身のなかで完結しないくらいが可愛らしさがあると思うんですよね。ちょっと言葉足らずだったり、誰かに助けを求めながら一生懸命話したりするほうが可愛らしい。デザインに関しても、すべてを表現するより相手の解釈の余地を残したほうが、親和性が高まると考えていますね」

ロボットの言語コミュニケーションに求められるレベルは?

オーディエンスから鋭い指摘や質問をいただけるのも、「はずれ値人材Meet Up!」の魅力のひとつ。ロボットの言語コミュニケーションについてオーディエンスからの意見を受けて、登壇者が見解を述べました。

安井 「生活にロボットが入っていくためには、親しみやすいデザインに加えてそれなりに高度な言語コミュニケーションが求められるのではないか、とオーディエンスからいただきました。言語能力が足りないから現状では仕草や振る舞いに特化しているのであって、将来的にはもっと高度なモノが出てくるのではないかということですね。いかがでしょう?」

岡田 「僕たちは同じ身体を持っていてこの場を感じ取ることができるから、何も伝えようとしていなくても結構伝わっていることが多いと思うんですよね。ベースに身体があって、その上に叙情的な領域があって、そこにおまけのように言葉が追加されている。言葉は身体でのコミュニケーションを補完するちょっとした道具として使われているくらいがいいのかなと思います。

ロボットとのコミュニケーションでは叙情レベルの意思疎通がまだまだ足りないので、そこを一生懸命頑張っているところです。そこがクリアできたら、もう少し言葉を添えて正確なコミュニケーションが取れるようになればいいと思います。自然言語処理はある意味で技術的に確立されているところがあるので、後からくっつけたらいいと考えていますね」

安井 「ありがとうございます。粕谷さん、もしChiCaRoが“振る舞い”ができず言葉だけのロボットだったとしたら、たとえ親子でも心の通じ合いは厳しいんですかね?」

粕谷 「正直、厳しい部分が大きいと思います。岡田先生がおっしゃったように、言語は身体の補助的なものという考えを私も持っているんです。

ただ、目的にもよると思います。たとえば親子の信頼関係のように心を必要とするコミュニケーションをする場合、言語だけでは難しい。一方、説明性AIのような説明を目的にしたシステムも当然あります。説明するためには正しい表現が必要なので、どこまで言語が必要か、どこまで心を必要とするかはロボットによると思いますね」

安井 「なるほど。藤村さん、今泉さん、どうですか?」

藤村 「言葉があっても身振り手振りがいらないわけではないかな、というのが僕の感想です。実際、SF映画に登場するロボットも喋らずに動きで表現するほうが可愛いですよね。喋りすぎるより喋らないことがプラスに働く側面もあると思います」

今泉 「私も同じ感想です。岡田先生がおっしゃっていたように、今のロボット技術の段階で言葉だけが発達してしまうと、どうしても上辺だけな感じがしちゃって。可愛いロボットというより、何かを目的とした機械として受け止められるんじゃないかと思います。

自分と同じ空間を共有していると人間が思えたり、ロボットも何かしら感じているんだろうなと人間が感じ取れたりするくらいの技術があれば、言葉がもう少し増えてきても冷たさを感じないのかなと」

どうすれば人とロボットはわかり合えるのか

デザインや言語に関する議論が白熱し、あっという間に時間が過ぎます。最後に改めて、登壇者全員で「どうすればロボットとわかり合えるか」を考えました。

青木 「僕たちのロボットもまだ試行錯誤の過程ですが、言語は必要ではあるものの必ずしも主要な役割ではないと思います。僕自身、今までで1番わかり合えた機械を振り返ってみると、自分で組み立てたパソコンや昔乗っていたバイクなどが挙げられます。僕が操作すれば大丈夫という、わかり合えている信頼感があったんですよね。

ロボットに関しては僕自身もまだその領域までたどりつけていない気がしますし、そこを目指していきたいと思います」

粕谷 「現在ChiCaRoのほかに、ロボットやAIが提示してくる説明の受け入れやすさについて別プロジェクトで研究をしています。やはり、人間同士がわかり合うようなニュアンスでロボットとわかり合うのは難しい部分があると個人的には思います。

でも、だからといってわからないわけではなく、ロボットが人間も理解しやすいように説明してあげればいいですよね。人間はどう伝えれば理解しやすいのかを調べていくことで、少しずつわかっていけるのではないかと思います。

その上でロボットと本当の意味で理解し合えるかというと、それをロボットに求めるのはまた違うと思っていて。一緒に何かをするためのサポートをしてくれるモノとしてわかり合える、わかりたいと思っています」

岡田 「ロボットとのコミュニケーションにはいろいろなスタイルがあって、やはり同じ身体を持っているから意思疎通できるというのは目指したいところだし、言葉でのやりとりでお互いの対話理解をきちんと高度化したいという想いもあります。ただ、コミュニケーションというと向き合う関係性が前面に出てきちゃいますが、僕たちが今考えているのは『並ぶ関係』なんです。

今は安井さんと私がここに並んでいて、同じテーマに向かって一生懸命調整し合っている。このようにある目的を持ってお互いに貢献し合って協力し合う状態は、最近だと『We-Mode』と呼ばれています。“あなたと私”のあいだで情報のやりとりをするのではなく、“私たち”として一緒にゴールを共有してそこに向かっていく。そうするとなんらかの一体感が生まれ、そこで意気投合したときに相手のことをすごく理解できるんです。

そういうWe-Mode、“私たち”として何かを成し遂げるのがコミュニケーションの到達点なのかなと。ロボットとのあいだでは、それを実現したいなと思います」

今泉 「人間とロボットがわかり合うのはなかなか難しいと思いますが、今日この場で可愛らしさの表現や言語などいろいろなことが重要になるんだと学びました。わかってあげたいと思わせるためにどうしたらいいのか私はまだわかりませんが、これからもっと考えていきたいと思います」

藤村 「自分も理解する、相手も理解したいと思っているという相互関係が、愛される・愛するという関係には1番必要なのかなと皆様のお話を聞いていて思いました」

安井 「私も、高度な知識をベラベラ喋るだけでは単なる高度なメカになってしまうと思っていて。人と一緒に空間やタスクを共有して、一緒に何かをする。人の心や振る舞いに対して働きかけられる。それがロボットであるという気がします。それがあればなんとなくわかり合えて、どんどん進化していくんだろうと思いますね」

イベント当日は、放送時間内に回答しきれないほど多数の質問をいただき、登壇者の刺激や発見がたくさんありました。

イベント放送後も、登壇者たちのあいだで白熱した議論は続きました。Vol.1やVo.2同様、今回のイベントがきっかけで次なる取り組みにつながる兆しが見えました。

「はずれ値人材Meet Up!」から生まれる今後の活動に、ご期待ください。