Hondaはこれまで積み重ねてきた技術を活かした新領域におけるチャレンジのひとつとして、「Honda eVTOL」*の開発に取り組んでいます。機体の開発だけでなく、新たなモビリティエコシステムの開発も進めることにより、生活の可能性を広げようとしているのです。空の次世代モビリティ開発の内容や目指す姿について先進技術研究所所属の3名が語ります。

*電動垂直離着陸機(electric Vertical Take Off and Landingの略)

目指すは二輪や四輪に次ぐ新たな事業──数十年後の未来をつくるプロジェクト

川辺: 先進技術研究所の新モビリティ部門では、2030年以降の先をみて、人々の自由時間や人が活躍できる時間や空間をもっと拡大する、新しいモビリティをつくろうとしています。

『空飛ぶクルマ』とも呼ばれている『Honda eVTOL』をつくり、それをコアとして地上を走る自動車などのHonda製品や、インフラ・運用システムなどのさまざまな要素とも組み合わせて、新しいモビリティシステムをつくり出そうとしているんです。

水谷: 私と辻本は、技術者として機体をつくっています。次世代モビリティを二輪や四輪の次を担う事業にしようというHondaのビジョン実現のため、プロジェクトを進めています。

川辺: 現在進めているeVTOL機の研究開発については、2023年くらいからアメリカでプロト機による飛行試験を開始したいと思っています。その後2025年位に一度判断を入れてGoがかかれば機体を安全に飛ばすためのFAA*型式証明取得に進み、2030年以降の事業化を目指しています。

事業化するためには、eVTOL機体だけではなくそれを取り巻くインフラ、予約、運用、管制といったさまざまな要素が必要となるため、それらをどのように組み合わせるのかというシステムの設計も並行して行っていきます。

現在世界の自動車市場の規模はだいたい200兆円超位なのに対し、eVTOL市場の現状はほぼゼロですが、これからどんどん伸びる予定です。2040年頃には機体もパイロットレスの自律操縦となり、市場も30兆円ほどの大きな規模に成長すると予測しています。自動車には並びませんが、十分Hondaの次の事業として成立するはずです。

先を見据えて2030年、2040年の未来のHondaの事業をつくっていこうというのが、空の次世代モビリティプロジェクトの取り組みです。

水谷: eVTOLの世界は、究極的には“パイロットがいない完全自律運航”を目指しています。完全自律運航にすることでチケットの価格を下げたり、ヒューマンエラーによる事故を減らしたりできるのです。2030年にまずはパイロットが操縦する機体でサービスを開始し、その後自律運航のための航空管制システムの整備に合わせて自律化していこうと考えています。

*FAA:アメリカ連邦航空局。民間航空機の運航、管制、安全管理などを統轄する(Federal Aviation Administrationの略)

若手社員の挑戦を促す企業風土で、ビッグチャレンジに立ち向かう

水谷: Hondaの空の次世代モビリティに興味を持っていただいた方の参考になるよう、少し私の経歴についてお話しさせていただきますね。私は2020年の10月に中途入社したのですが、実は昔新卒でHondaに入社していたんです。

入社当初から次世代航空機の開発に携わりたいと考えていましたが、機会に恵まれず四輪を担当していました。四輪も楽しかったですが、やはり航空機をやりたいと考え、重工メーカーに転職したんです。

重工メーカーでジェットエンジンの開発をしたあとは、スタートアップを共同創業し個人用のeVTOLをつくっていました。自分自身が創業者のひとりだったので、学ぶというよりとにかく実行する立場だったんです。次第に自分自身が経験豊富なチームのなかで技術者としてもっと成長する必要があると感じるようになりました。

また、eVTOLを社会実装するためには、航空機の認定プロセスに関するノウハウや電動コンポーネントの開発技術、車両制御技術、大量生産技術、人的リソースや長期間の開発に耐えられる資本などさまざまなものが必要だと痛感しました。

そんな中で以前たまたまお会いして名刺交換した川辺さんにメールを送り、自分の考えを伝えた結果、まさにHondaが今eVTOLのプロジェクトを進めていると教えてくれたんです。

HondaはeVTOLの社会実装に必要な要素をすべて持っている、世界でも数少ない企業であると考えていたので、HondaがeVTOLに本気で取り組んでいるなら、私もぜひプレイヤーとして関わり成長したいと考え、再びHondaで働くことを決めました。

辻本: 私は2018年に新卒でHondaに入社し、四輪の担当を経て2020年4月から先進技術研究所に所属しています。先進技術研究所では、eVTOL以外にもロケットやロボットなど、量産しているものではなく将来Hondaのコアになるような技術開発に取り組んでいます。

私は入社当初からユニークな製品に携わりたいと考えていて、四輪を担当しているときにたまたま空の次世代モビリティ担当として声がかかり、希望して異動した形です。

川辺: 私たち3名はそれぞれ世代が違うので、プロジェクトにおける役割も異なります。私は1987年入社で、当時ちょうど基礎研究所で飛行機の研究開発がスタートした頃でした。私もそこに配属されましたが、飛行機開発の経験者がほとんどいないなかで『飛行機をやるぞ、わからなければ自分で調べろ』と当時の社長や上司に言われ、平均年齢20代の若いメンバーがまさに手探りで開発を進めました。

その後プロジェクトとしては紆余曲折ありましたが、30年ほどの時を経て、今ではHondaJetが世界中の空を飛んでいます。私自身は途中でプロジェクトを離れましたが、振り返るとあっという間でしたね。

当時のHondaJetや今回の空の次世代モビリティのような新規の大きなプロジェクトのスタートはいつもあるわけではなく、タイミングというものがあります。ちょうど2年前に先進技術研究所が創立され、eVTOLや宇宙ロケットのような先を見据えた新しいチャレンジが再び始まりました。

だからこそ私のように若い頃新しいチャレンジをさせてもらった世代は、その経験や反省を活かして、前回よりさらに効率よく結果を出せるよう、ビジョンや作戦を考える役割を担いたいと思っています。

我々マネジメント世代がビジョン=いわばステージをつくって支え、水谷さんや辻本さんのような若い技術者がその上で自由に技術チャレンジ=パフォーマンスをするイメージですね。私が若い頃も社長や大先輩がステージを用意してくれて、『自由にやれ!』と言われて本当に好き勝手にチャレンジができました。

Hondaはこうして代々若い人がチャレンジし、それを通じて企業の風土が創られてきたと思いますし、この伝統や文化をぜひ継承していきたいと思っています。

Hondaの持っている技術を活用し上下関係なく皆で自由闊達にチャレンジすることで、新しいHondaの風土をつくってもらいたいし、二輪や四輪に続く事業をつくり上げてもらいたいと考えています。

実績やノウハウを活かしエンドユーザーのために自らつくるのはHondaだけの魅力

水谷: Hondaで空の次世代モビリティ開発に携わることは、非常に大きな意味を持ちます。私は学生の頃からずっと航空機を主体的につくりたいと思っていて、それがキャリア選択の軸となっていました。しかし、民間用の航空機をつくって自ら売っている会社というのは、日本にHondaしかありません。

たとえば欧米の大手航空機メーカーに入社しても、クルマでいうマイナーチェンジのような形で旅客機を製造していたり、ユニークな飛行機をつくったとしてもそれは実験機や軍事用の機体だったりします。全く新しい民間用の航空機の開発に取り組める航空機メーカーは、世界中見渡してもHondaのほかにほとんどありません。

HondaJetでゼロから民間用航空機開発を行い、試験機を飛ばし、最終的に量産するところまで経験したメンバーと次世代モビリティをつくっていくことができるのは稀有な経験だと感じています。

私がHondaに新卒入社した2011年当時は、経済環境が厳しく会社も主力事業に注力していましたので、新事業である航空事業に異動となる可能性は高くありませんでした。それで私は待つことができず、転職をしましたが、航空機のプロジェクトが再び動きはじめたところで、また戻ってくることができました。

川辺: 民間用航空機を量産するために必要な認定を取得した経験があるのも、Hondaのメリットです。認定取得には時間もお金もかかり、ノウハウが必要になるので、HondaJetやJet Engine開発の際に培った経験があるのは貴重ですね。

また、機体の認定が取れた場合でもそれだけで事業として成立させるのは今後ますます難しくなると考えています。たとえば機体を取り巻く予約システムやサービスの運用と地上のモビリティである自動車の結びつけ方についても考えてゆく必要があります。そこまで考えている機体メーカーはまだ多くないと思います。

Hondaは飛行機をつくった実績もあり、配車やカーシェアなどのサービスで得られたユーザー情報やシステム運用のノウハウもありますのでその強みを活かしていきたいですね。

水谷: そして、Hondaがほかの航空機メーカーなどと違うのは、BtoCの商売をしていることです。Hondaではエンドユーザーであるお客様がどう思うか、社会を構成する人たちはどう思うかという根本的なところから考えていくことを徹底しています。これがすごく大事なことであり、開発に必要なことだと思っています。

機体をつくっているときも、運航会社のことは当然考えますが、それより先にまずお金を払って乗ってくださるお客様がどう感じるのか、どういう製品だったら嬉しいのかを考えながら研究開発をしています。二輪や四輪で培ってきたお客様第一の考え方が、次世代モビリティにも表れていますね。

辻本: また空を飛ぶ以上は、安全が第一の課題であるということを念頭に開発を行っています。車とは違い何かあった時に止まるという対処法がないため、限りなく安全に着陸できなければなりません。万が一の事態にそなえ、可能な限り多くの故障ケースを想定してどうコントロールするのかを常に考えています。

さらに言えば、有事の際に安全に着陸できるだけでは不十分で、お客様にできる限り恐怖心を与えないためにはどうするかを検討してしています。安全なうえに安心である、というお客様視点に立った考えが強いのも、BtoCのHondaならではと感じますね。

モノづくりからコトづくりへ。製造業の新しい姿を自ら描く


辻本: 私は飛行機自体にこだわりがあったわけではなく、今までにないあっと驚くようなものを生み出したいと考えていました。そしてeVTOLの話を聞いて異動を決めたんですが、当部署も含めHondaはチャレンジしやすい環境だと思います。

基本的にはどのような提案でも、お客様のためになるのであればかなり受け入れてもらえます。自分の想いをあまり否定されず、やってみようという雰囲気になるのがHondaの良いところだと思いますね。さまざまな分野のスペシャリストが集まっているので、そのなかで働けるのもすごくおもしろいです。

あとは、Hondaでは仕事を与えてもらっているという感覚があまりありません。担当領域はもちろん決まっていますが、そのなかで『これをこうしてください』と上から指示がおりてくることはあまりなく、機体をつくるうえで何をすべきか自分で決めて、自分のやり方で進めていけます。

新人かどうかは関係なく、入社してきたらすぐその分野のエキスパートとして扱われるので大変ではありますが、やりがいがあります。責任がある分、モノができたときに『これは自分の意思でつくったんだ』と言えるのもおもしろいところだと思いますね。

川辺: 私はこれまでHondaで色々な分野を経験しましたが、製品の量産が進むにつれてどうしても全く新しい何かを生み出すチャレンジができる場所がだんだん少なくなってきたように感じます。

だからこそ、Hondaの次世代モビリティプロジェクトのような場所で若い人がどんどんチャレンジして、自分のために仕事をして楽しみながらキャリアを築いていってほしいですね。私たちくらいの年齢になったときに『私がこの事業の創始メンバーなんだ』って言ってもらいたいです。

水谷: 私は自分で飛行機をつくって、家族を乗せて『これは私がつくったんだよ』と自慢するのが夢なんです。そのためにキャリアを選択してきましたが、今はさらにもう1歩発展して、空の移動がもっと身近になる世の中をつくることに貢献したいと考えています。

辻本: 私は今携わっている機体が世の中に出てお客様が乗ったときに、『Hondaやってくれたな』と思ってもらえるようなものにできたらいいなと思っています。もともと私がHondaに入社したのは、学生時代に購入したスーパーカブが全然壊れなかったことに感動したからなんです。今自分がHondaでつくっているものに将来お客様が感動してくれたらいいなと思って日々仕事をしています。

水谷: Hondaは今、モノづくりからコトづくりに挑戦しています。これからは製品だけでなく、それを使ったサービスや社会システムまで含めたエコシステムの設計に取り組まなければならない。Hondaはモノをつくって売るだけでなく、それを使ったサービスやシステムをつくることで商売をしていこうとしていることが伝わったら嬉しいですね。

川辺: 2020年から空の次世代モビリティの採用を行っており、興味を持っていただいた方に来ていただいています。新しい空のモビリティ実現には、従来の航空技術だけでなく、電動化、制御、システムズエンジニアリングなどさまざまな技術が必要です。

また今回は出ませんでしたが、先進技術研究所では宇宙ロケット研究開発も行っており、そちらでも燃焼、制御、構造、システムなど多岐に渡る技術分野でのチャレンジの機会があります。

空の次世代モビリティ研究開発はまだ始まったばかり。ぜひこれから新たなメンバーとも一緒にチャレンジしていきたいですね。

──これまで積み重ねてきた実績を活かし、世界を変える新たなチャレンジに踏み切ったHonda。空の次世代モビリティプロジェクトを進めるため、技術者たちの奮闘は今日も続きます。