ミッションは、「創業者の想い・夢」を伝え、Hondaファンを増やすこと
藤枝は、2019年に新卒でホンダモビリティランドに入社し、モビリティリゾートもてぎにあるホンダコレクションホールの運営に携わっています。
藤枝 「私は上司と一緒にホンダコレクションホールの広報・イベント企画を担当しています。ホンダコレクションホールは、Hondaの情報発信基地。広報の業務内容は、テレビ・雑誌・YouTubeなどの媒体向けに館内をご案内し、Hondaのこれまでの歩みや歴代の製品をご紹介し、発信していくことです。来館されたお客様に、創業者である本田宗一郎の想いやHondaイズムをお伝えし、Hondaのファンになってもらえるよう努めています」
ホンダコレクションホールが掲げるテーマは、ずばり「夢」。
藤枝 「Hondaは創業以来『夢を見ることは楽しい、その夢をかなえることはもっと楽しい』という情熱のもと、クルマやバイクをはじめとするさまざまな製品を世に送り出してきました。今でもHondaは『夢』、そして夢をかなえるための『挑戦』という言葉を非常に大切にしています。それは、ホンダモビリティランドをはじめHondaグループでも同じです。
ホンダコレクションホールに入った瞬間に見えるピストンリングをモチーフにしたオブジェにも、本田宗一郎直筆の文字で『夢』と刻まれています。本田宗一郎がHondaを立ち上げる前にピストンリングを開発していたことから、『ものづくりへの夢』を表現しています。私も初めてホンダコレクションホールを訪れ、そのオブジェを見たときには感動しました」
ホンダコレクションホールは、「人に役立つものを創ろう」という人に対する市販車の夢と、「世界の頂点をめざそう」というレースに対する夢の二つの展示テーマで構成されています。
藤枝 「『Honda 夢と挑戦の軌跡』と題した展示場では、本田宗一郎が幼いころに自動車、そして飛行機に魅せられ、Hondaを創業し、歩んできた歴史や生み出してきた製品を展示しています。
戦後、本田宗一郎の妻が自転車で遠くの市場まで買い出しに行く姿を見て、『どうにか人々の生活を楽にできないか』と考え、旧陸軍が使用していた無線機の発電用小型エンジンを自転車に取り付けました。それまでにない便利さが話題となり、飛ぶように売れたと言われています。
後に本田宗一郎はHondaを立ち上げ、自社製エンジンを開発し、さまざまな製品を生み出していくわけですが、この『人々への想い』は今でも開発の原点になっています。当時は、戦後間もなく物資が少ない中でしたので、湯たんぽや茶筒を燃料タンクに流用した製品もあるんです。私たちとしても、このようなHondaの夢の結晶である展示車両をご覧いただき、Hondaが掲げる夢や想いを感じて皆様の心に勇気が湧いたりすると大変嬉しく思います」
展示だけでなく、イベントを通してもHondaの想いを伝えます。
藤枝 「モビリティリゾートもてぎでは、二輪の世界最高峰レース『MotoGP™』、四輪の『SUPER GT』などをはじめとするレースや、『Honda Racing THANKS DAY』というファン感謝祭など、数多くのイベントを開催しています。
ホンダコレクションホールでは、そのような多くのお客様が来場されるレースに合わせ、歴代のHonda車両をサーキットで実際に走らせるデモンストレーションランや、実際にエンジンをかけてサウンドを楽しんでいただくエンジン始動を開催します。
Hondaは創業以来、誰も成し得たことがないことや技術に挑戦してきた会社ですので、そのようなエピソード性のある車両をイベントで使用することが多いです。展示車両だけではなく、このようなイベントを通してもHondaの想いを伝えられたらという考えで企画しています」
モビリティリゾートを飛び出し、Hondaのレース活動の歴史に目を向けてもらう場に立ち会うこともあります。
藤枝 「ホンダコレクションホールには、歴代のHonda車両が常時300台ほど展示してあり、イベントの際に車両が貸し出されていきます。モビリティリゾートもてぎの外でエンジン始動するイベントも多く、鈴鹿サーキットでの『8時間耐久ロードレース』や『F1』でのエンジン始動を担当するケースもあります。
昨年鈴鹿で開催された3年ぶりのF1では、『RC142』という60年以上も前のバイクを走らせ、大観衆の前でHondaのレース活動の歴史に目を向けていただけたことは良い思い出です。展示車両のほとんどがエンジンのかかる状態で『動態保存』されているのは珍しいことで、これも各種イベントで需要が多い理由だと思います」
幼少から親しんだモータースポーツ──大人が夢を語れるHondaに再会
藤枝は幼いころからモビリティリゾートもてぎを訪れていました。
藤枝 「私の母が大のMotoGP™ファンで、幼いころからモビリティリゾートもてぎでレース観戦し、ホンダコレクションホールにも来ていました。モータースポーツはとても身近で、私もモータースポーツがずっと好きでした。
ただ、就活開始当初は好きなことを仕事にするという考えがまったくと言っていいほどなく、就職候補からは勝手に除外していました。大学も文系で専攻は国際協力。クルマとは無縁の学部でしたし、銀行・証券会社などで仕事できればいいな、と漠然と考えていました」
そんな考えは、就職合同説明会でがらりと変わります。
藤枝 「偶然参加した合同就職説明会にHondaの人事の方が来ていて、就活生に向けて『夢』『挑戦』の大切さを話してくれました。それを聞いたときに、ビビッと来ました。
私自身、どこかで物足りなさを感じていたこともあり、『大人が夢や挑戦を掲げ、大事にする会社に入ったら、おもしろい仕事ができるのかもしれない』『楽しみながらスキルアップや成長ができるのでは?』と、働くことへの考え方が根底から変わりました。そこからは一気に就活の方向性を変え、Hondaグループの会社に絞っていきました」
Hondaの想いや夢を直接多くのお客様に届けることができると感じ、ホンダモビリティランドに入社します。
藤枝 「ホンダモビリティランドは、私にとってとても楽しく、やりたいことを実現できる会社だなと実感しています。
たとえば、イベント企画の際やお客様と会話する中でも、お客様の立場でイベント参加・レース観戦をしていた経験が大いに役立っています。幼いころからモータースポーツが身近にあったため、現在のモータースポーツファンのボリュームゾーンと言える40〜50代の世代のお客様が若いころに熱狂した時代の話に共感できることもあります。
ちなみに母は、思い出のあるモビリティリゾートもてぎで働くことを非常に喜んでくれました」
入社後に配属されたのが、ホンダコレクションホールでした。
藤枝 「ホンダコレクションホールへの配属は、最初から希望していたわけではありませんでした。ただ、実際に仕事を始めてみると、自分に合っていたと感じます。大学時代は各国の文化を学び、海外ボランティアでカンボジアやフィリピン、ハワイなどに赴きました。
学び、伝えるという経験は、Hondaの歴史や文化を学び、その想いや製品に対する夢を多くの方に伝える現在の仕事に活かされています」
必死に学び、経験を重ね、成長を実感することも増えてきました。
藤枝 「入社以降、基本的な業務内容に大きな変化はありませんが、できることは確実に増えたと感じています。1~2年目は経験が浅く、先輩方に教えてもらい、上司に引っ張られながら仕事を覚えました。
とくに、Hondaの歴史と製品に関する勉強はたくさんしました。伝えることが仕事となると、お客様にとっては新人ということは通用しないので、知識をつけるのに必死でした。いろいろな資料を読めば読むほど、Hondaの考え方に共感したり感動したりする部分が多く、楽しみながら覚えることができました。
3~4年目からは、自分の裁量でできる部分が大きくなりました。メディア出演し館内をガイドする機会や、イベントへの出張も増えました。テレビや遠くから見ていたレースの世界で有名な方々と仕事をすることもあり、非常に光栄ですし、同時に『もっと勉強して知識をつけていこう』と身が引き締まる想いです」
92%が大満足──本格的「ナイトミュージアム」成功の舞台裏
経験を積み、業務の中で自ら提案・発信する機会も増えた藤枝。自身がゼロから企画を立ち上げたものとしてとくに印象に残っているのは「ナイトミュージアム」です。
藤枝 「2023年の春休みに開催された、宿泊のお客様向けの企画であるナイトミュージアムが非常に印象に残っています。これは、私が副リーダーとして初めて立ち上げから企画したイベントです。
夜になると館内の歴代のHonda車両たちがお子様に向かって話しかけるという演出で、ホンダコレクションホールで冒険・謎解きが楽しめるイベントです。このようなイベントは、ガイドツアーのみのケースがほとんどで、『展示車両とお子様が会話できる』という演出は、ほぼ世界初の試みではないかと自負しています。
まだ世の中にないものを『0から1』で生み出すとともに、お子様にクルマ・バイクのおもしろさを知っていただける要素を盛り込み、Hondaのこれまでの取り組みや夢見ること、挑戦することの大切さが伝わるようこだわりました。小さなお子様がナイトミュージアムを通して、モビリティやHondaのファンになってくれたらいいなとメンバーで議論を重ねました。」
※イベントの様子はモビリティリゾートもてぎのYouTubeチャンネルでも公開されています。(参考資料:ナイトミュージアム)
ナイトミュージアムのイベントは、急ピッチで進められました。
藤枝 「会社からはモビリティリゾートもてぎが掲げる『質の向上』というテーマのもと、『今までにない新しいものを』という指示をもらっていました。ナイトミュージアムのアイデアが直感的に湧いたのが2022年の11月ごろ。翌年3月半ばの公演に間に合わせるため、3カ月半程度で実現させる必要がありました。
3カ月半の間に、自分たちで『伝えたいメッセージ』を考えて台本に盛り込む内容をまとめ、車両の話す声を声優さんに音録りしていただき、館内の光などの演出・装飾、告知の手配も含め、急ピッチで取り組みました。経験が浅めの若手メンバーが中心となり部門を超えてチームを組んだため、大きなチャレンジでした」
若手メンバーにとっての挑戦であったナイトミュージアムは、結果、大成功を収めました。
藤枝 「3月18日〜4月9日までの金土日祝、トータル12日間ほどで約35組120名以上の方々にご参加いただきました。しかも、92%ものお客様に『大変満足』と回答していただけたんです。
『すごく良かった』『Hondaが好きになった』という声をお客様から多数いただき、さらに従業員からも『こんな企画は思いつかなかった』『これからも続けていってほしい』など、嬉しい言葉をもらえました。参加いただいたお子様が次の日も来館され、展示車両に話しかけている様子を見て、伝えたいことが伝わったと確信できました。すでに継続の要望も出ており、反響が大きかったです。
また、本田技術研究所の皆様にもご協力いただき、Hondaの先進モビリティ『UNI-ONE』をナイトミュージアムのために貸し出してもらい、ホンダコレクションホールで先進モビリティの体験の場を設けることができました」
イベントの実現に向けて大変だった反面、大きな手ごたえを感じています。
藤枝 「大きなイベントですので、多方面との調整やメンバーのモチベーション維持などがなかなか大変でしたが、前向きなメンバーばかりで、誰ひとり欠けることなく終えられてほっとしています。自分の守備範囲も広がり、主体的に動けるようになったので手ごたえも大きいですし、われながら成長を実感できました」
差ではなく違いを活かし、自らの「松明」で照らす
ナイトミュージアムの成功は、藤枝の今後のビジョンに大きな影響を与えています。
藤枝 「ナイトミュージアムという新企画の経験は、今後働く上での土台になりました。ゼロから立案し、承認を得て進めるというプロセス自体が初めてでした。チャンスをいただいてこうした成功体験ができたので、これを土台に、もっと多くの方に届けられる企画ができたらと考えています」
ナイトミュージアムを通じて、メンバー間の絆も強まりました。「また若手メンバーで力を合わせてイベントを提案していきたい」と希望を話す藤枝。モビリティリゾートもてぎが掲げる「人と自然とモビリティの共生」を伝えることに力を入れるという新たな目標を抱いています。
藤枝 「モビリティリゾートもてぎには、自然を体験できる『ハローウッズ』というエリアがあります。施設全体を通してお子様がサーキットやパークでモビリティの魅力に触れつつ、同時に自然の大切さを楽しみながら学べるよう工夫しています。
たとえば、ハローウッズの森でのキャンプや探検といったアクティビティを通して、自然への取り組みをお子様にも伝えているんです。ホンダコレクションホールからの視点も活かしながら、『モビリティ』と『自然』の両方に触れられる新たなアクティビティを創り上げていきたいと思っています」
今後のチャレンジに意欲を燃やす藤枝は、これから入社する皆さんと働くことを楽しみにしています。
藤枝 「どんなに小さいことでもチャレンジする意欲のある方、挑戦し続けられる方は、ホンダモビリティランドの社風に合っていると思います。仕事である以上、ときには大変な部分もありますが、ポジティブに考えて歩みを前に進めていけるような方と、一緒に乗り越えていきたいです」
藤枝には伝えたい言葉があります。
藤枝「お客様にもお伝えしているのですが、私自身もとても好きで大切にしている価値観です。
一つは、本田宗一郎の『差ではなく違いを活かせ』という言葉です。優劣の差で人と自分を比べるのではなく、違いという個性そのものが大切だと考えています。違いを活かすことは強みになりますし、新たな価値を生む源泉です。私も違いで勝負するよう心掛けています。
もう一つは、本田宗一郎と共にHondaを創り上げた藤澤武夫の『松明(たいまつ)は自分の手で』という言葉。前の人が持つ明かりに続くのではなく、どんなに小さな明かりでもいいから自分で道を照らして切り開いて行くという意味です。
ホンダモビリティランドは新しいことに挑戦できる環境なので、今後も違い(個性)を活かしつつ、新入社員やメンバーの皆さんとともにチャレンジを続けていきたいです」
モータースポーツ好きの少女からホンダモビリティランドフィロソフィーの体現者へ──日々お客様と近い距離にいるからこそ見えてくることを大切にしながら、藤枝の挑戦は続きます。
※本インタビューは、モビリティリゾートもてぎ パーク運営課 ホンダコレクションホール在籍時のものです。