出産を経ても変わらなかった、「北國銀行で働き続けたい」という想い

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珠洲支店で業務役を務める田中は、高校卒業後の1985年に北國銀行に入行。1998年に出産するにあたって、一度退職する道を選びました。

田中 「入社当時はまだ、男女雇用機会均等法が改正される前。90年代後半に一度退職したのは、会社として産休や育休の制度が整いきっていなかったからです。

ただ、受付担当として、あるいはお客様宅へ訪問してお客様とお話をする仕事はとてもやりがいを感じていたので、ずっと北國銀行で働き続けたい気持ちは入社当時から退職するまで、変わらずありました」

出産後にはパートとして北國銀行に復職。その後、正社員を募集していた関連会社に移り、2008年にはその関連会社の店舗統廃合にともない、北國銀行に再雇用されることとなりました。

田中 「北國銀行へは臨時雇員として再雇用されたのですが、当時の支店長が『もう一度、正社員をめざしてみないか』と背中を押してくれて。『何かあったら自分が守ってあげるから、あなたの望む働き方をしなさい』と言ってくれるような包容力のある支店長のおかげで、もう一度、北國銀行の正社員になることができました」

周りの支えもあって正社員に復帰した田中。支店長代理(現:チーフ)を経て、現在は窓口業務や、新任チーフの育成を担っています。

田中 「北國銀行では55歳で役職定年を迎えます。私は2021年に役職定年を迎えて、いまのポジションに就きました。現在は自分のこれまでの経験を伝えながら、新任チーフを育成しています」

一方、松任営業部チーフを務めている改瀬が北國銀行に入行したのは1999年。子どもが産まれるころには、北國銀行でもちょうど産休・育休制度の整備が進んでいた時期だったと言います。

改瀬 「私は、2013年と2018年の二度にわたって産休育休を取得しています。一人めのときは、子どもの1歳の誕生日に復職しなければいけないという規定があり、復帰後の仕事、家事、子育ての両立が大変だったのをよく覚えています。二人めのときには復帰時期を延ばせるようになっていて、時代とともに、働きやすくなってきたように思います」

改瀬は、入行以来変わらず受付業務に携わってきていますが、最初の育休から復職後に支店長代理に就任し、二度めの育休から復職後も支店長代理ポジションに戻っています。育児と両立しながらもポジションを変えることなく、事務のとりまとめや支店運営サポートなどに携わってきました。

きっかけはキャリアへの“もやもや”。研修受講後に動き始めた未来

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年齢や入行時期、勤務地も異なる田中と改瀬が出会ったのは、2021年に社員組合が開催した“プロティアンキャリア研修”でのことでした。“プロティアンキャリア”とは、個人の主体的なキャリア開発をベースに、所属する組織との関係性をより良くするキャリア理論のこと。研修に参加した経緯を田中はこう振り返ります。

田中 「2021年に55歳で役職定年を迎えてから、銀行員としての自分のキャリアはこれで終わりなのだろうか、もう会社から必要とされていないのだろうかと、もやもやした気持ちを抱えていました。

ちょうど同じころ、杖村社長が“キャリア自律”についてよく話していたんです。それについて知る目的もあって、研修に参加しようと思い立ちました」

一方、改瀬が研修に参加したのは、サイボウズ社の青野社長と北國銀行の杖村社長の対談動画を見たことがきっかけでした。

改瀬 「青野社長が『100人いれば100通りの働き方がある』『もし最適な人事制度がないならつくればいい』『自己啓発のための休暇制度もある』などと話されていて、当時の私にはない発想ばかりで、とても驚いたのを覚えています。

それまでは、会社から言われたことをすればそれでいいと思っていたのですが、自分の考えを伝えることの大切さに気づきました。また、自社の社長が青野社長と対談している姿を見たことで、そのような考え方を身近に感じ、自分ごとだと捉えられるようになりました。

研修を受けようと思ったのは、コロナ禍のため研修がオンラインで実施されると知ったから。子育てと並行しながらチャレンジできることが受講の決め手でした」

1回につき2時間程度のプログラムが複数、2日間にわたって行われるプロティアンキャリア研修では、自分自身のキャリアの振り返りや、動画を見ての予習などの事前課題も課されます。当日は個人ワークとグループワークの両方を行いながら、キャリアを見つめていきました。

田中 「研修の中では、“ライフラインチャート”という、これまでの人生を振り返るワークがとくに印象に残っています。私は参加者の中で一番年上だったので、振り返る期間も長くて大変でしたが、『幼少期のこうした経験があるから、自分はこうあるべきだと考えている』という具合に、自分の価値観の源泉を知ることができたのは大きな収穫でした」

改瀬 「『もし北國銀行の看板がなければ、自分はどんな存在だろうか』ということを考えるワークが、私にはもっとも印象的でした。受講して以来、会社の一員として会社の中だけでキャリアを考えるのではなく、『自分はどんな人になりたいのか』『何をしたいのか』を制限を設けずに考えていいと思えるようになりました」

研修を通して、それまで考えたことのなかったテーマにじっくりと向き合う中で、田中と改瀬は“キャリア自律”の考え方を身につけられたと言います。

田中 「キャリアは主体的に築いていくものだと知ってから気持ちがとても楽になり、『役職定年を迎えても働き続けていい』『60歳になっても将来のことを考えていい』と思えるようになりました。

また、こうした研修を開催してくれるということは、会社が多様な働き方や考え方を推奨しているということ。それまで自分で自分を縛っていたことに気づき、解き放たれたような気持ちにもなりました」

改瀬 「研修を受けたからといって、毎日が急に劇的に変わるわけではないですし、翌日からも同じように出勤しています。しかし、『いまの仕事、働き方を自分自身が選択している』と考えられるようになったことで、より主体的に仕事に向き合えるようになったと感じています」

研修受講後には、ダグラス・ホールが提唱するプロティアンキャリアの理論のほかにも自主的にキャリア学習を深める中で、改瀬にはこんな学びも。

改瀬 「個人が自らのキャリアを形成する際に大切にする価値観や欲求(キャリア・アンカー)が、私の場合は奉仕・社会貢献であることに気づくことができました。銀行での仕事を通して、お客様や地域と密接に関わり、社会に貢献できていることが自分のモチベーションになっていると認識しながら仕事ができています」

学びを深めてキャリアコンサルタント資格取得へ。研修だけで終わらせない探求心

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プロティアンキャリア研修に参加し、キャリア自律の考え方を身につけた田中と改瀬は、それぞれキャリアコンサルタントの資格を取得することを決意しました。

田中 「私自身、役職定年が近づいたときにキャリアのことですごく悩みましたが、現在の職場には自分と年齢が近く、これから役職定年を迎えようとする方がたくさんいます。そこで、今後は彼ら、彼女らの相談に乗ったりフォローしたり、『こういった選択肢もあるよ』と提案できるような存在になりたいと考えているんです。

より説得力のある話ができるようになりたい、もっと柔軟にキャリアに関する勉強がしたいと思い、資格を取得することにしました」

改瀬 「私はキャリア教育に興味があり、キャリアについてもっと深く勉強したいという想いから受講を決めました」

キャリアコンサルタントの資格試験説明会で再会し、同じ資格取得をめざす仲間として意気投合した二人。キャリアコンサルタント養成講座は、日曜日に全12回、9〜18時まで開催されるというハードな内容でしたが、周りの受講生の姿に励まされたと振り返ります。

改瀬 「家事や育児と両立できるだろうかと不安がありましたが、家族のサポートもあり、通うことができました。田中さんは片道2時間半かけて金沢内の会場まで来ていましたし、隣県から来られている受講生の方も。そんな受講生の姿を見て、『私も頑張らないと』と勇気をもらいました。

講座では、キャリアコンサルタントに一番大切なのは『傾聴』だと学びました。相手の話を聴くためには、自分の靴を脱ぎ相手の靴を履くようなものだと先生に教わりました。講座に通ったことで自分自身の考え方の視野が広がり、物事を俯瞰して見られるようになったと思います 」

田中 「10名ほどの受講生と先生で、和気あいあいとした雰囲気の中で行われる講座だったので、楽しく通うことができました。何より、全員のめざしているところが同じですし、キャリアについて勉強している方ばかりだったので、安心して学ぶことができました。異業種の方にもたくさん出会えておもしろかったです」

新しい考え方を知る。まわりに広めていく。インプットからアウトプットへ

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勉強の甲斐あって、ともにキャリアコンサルタントの資格取得を果たした田中と改瀬。今後は資格を活かしつつ、社内外でキャリア自律の考え方を広げていきたいと胸を膨らませます。

田中 「『一度会社の外に出てもいいし、また戻ってきてもいい』という社長の言葉にも表れているように、北國銀行は多様な考え方を認める働きやすい会社になってきていると思います。

しあわせな環境で働けているのですから、働き方や生き方を会社任せにせず、きちんと自分で考えられる人が増えていくといいなと思いますし、自分にできることで貢献していきたいと考えています」

そんな田中の姿勢や考え方の影響を受けている人は少なくありません。田中が育成を担当する50歳の新任チーフもそのひとりです。

田中 「その人には、もともとチーフになりたいという希望はありませんでした。ところが、私が『研修や資格学習で学んだことを活かし、5年後や10年後にどうありたいか』と尋ねていく中で、将来のキャリアに対する考え方が変わり、『役職定年後も会社に貢献して働きたい』という気持ちが芽生えたようです」

改瀬もまた、ネットワークを広げながら自身の経験を周りに伝えたいと意欲を見せます。

改瀬 「講座を受講して、立場の違うさまざまな方とお話をする楽しさにも気づいたので、キャリアコンサルタントの集まりやセミナーにも参加して、さらに知見を広げていきたいと思っています。

また、周りの社員の中には家事や育児で日々忙しい人も多くいますが、そんな人にこそ、自分のキャリアを考える場があることを伝えていきたいと思っています。私自身、子育てをすること自体がキャリアを構築していることを知り、何かに対して焦る必要もないとわかりました。現在は、子育て中の社員がより参加しやすくなるような研修にできないかと、組合の方と共に企画を進めています」

学びを深める中で、さまざまなキャリア理論に触れるようになったという改瀬。また、ダグラス・ホールのほかにも、「愛・労働・学習・余暇の4つの要素がうまく組み合わさって、人生は意味ある全体になる」──それをキルトで表現したL・サニー・ハンセンの考え方をはじめ、さまざまな理論を自分の仕事や生活と重ね合わせ、自身を振り返るいい機会になったと言います。

改瀬 「キャリアに関する悩みを解決したいと思っている人は、研修で有効なヒントを見つけられるかもしれません。具体的な悩みはないけれど漠然と不安を抱えているという人も、新しい考え方に触れることで、何か気づきが得られるはずです。

キャリアについて、主体的かつ柔軟に考えられるようになれば、きっといまより働きやすくなると思います」

働き方改革や柔軟な労働環境が進む中で、社員一人ひとりが自分の人生設計を考え、キャリアアップやスキルアップの機会を積極的に追求する風潮が生まれてきました。

主体的にキャリア開発することに高いハードルを感じてしまうものですが、田中と改瀬がいきいきと働く姿を見ていると、「キャリアを考えることは、実は楽しいことなのかもしれない」と思わせてくれます。

二人のように、プロティアンキャリア研修への参加をきっかけとしてキャリア自律を体現していく社員の存在が、やがて組織に大きな変化をもたらすことになるはずです。

※ 記載内容は2023年6月時点のものです