ソーシャルビジネスに取り組む人々の想いを映像制作によって伝えたい

▲大学時代に訪れた、長崎県五島列島・福江島にある半泊集落

2020年現在、フリーランスのビデオグラファーとして活動する私がこの道を選んだきっかけは、高校時代に通っていた予備校の先生の言葉でした。

複数の会社の経営もされていたその先生から、「会社に就職する以外に、起業やフリーランスという働き方もある」と教えてもらったことで、触発されたんです。当時からスーツを着たサラリーマンになる姿を想像できなかった私は、「将来は、会社名ではなく、自分の名前で仕事をしよう」と、漠然とイメージするようになります。

高校卒業後は、旅が好きだったことから、観光学部がある大学に進学。アルバイトでお金を貯めて、バックパッカーとして東南アジアを巡ったり、仲間とアメリカを横断したり、世界中を旅しながら心に残った風景や人物をカメラに収めていました。

一方で、本も好きだったことから、年間100冊を読破するペースで、毎日さまざまなジャンルの本を読みふけるように。

とくに影響を受けたのが、日本の各地域でコミュニティデザインを通じて多様なプロジェクトに取り組む「studio-L(スタジオ・エル)」代表の山崎 亮さんによる、『コミュニティデザイン』(学芸出版社)という一冊。

その本には、山崎さんが手がけた地域プロジェクトの事例として、長崎県五島列島のひとつ、福江島にある「半泊(はんとまり)」という集落の事例が書いてありました。

潜伏キリシタンの人々が切り拓いたその土地に興味を持った私は、友人を連れて現地を訪問。出会った住民の方に、教会集落としての観光業との向き合い方や、廃校を利用した地域活性化の取り組みなどについて伺うことができました。

そのとき、住民の方が情熱的に語ってくださった地域への愛情や描く未来の話に引き込まれた私は、これまで経験したことのないくらい強く心を動かされます。その日を境に、「地域活性化などソーシャルビジネスに取り組む人たちにもっと出会いたい。自分なりにサポートをして、彼らの想いを伝えたい」と考えるようになりました。

では、自分はどんなスキルを磨いて、ソーシャルビジネスに貢献したいのか?自問した末に出てきた答えは、「映像制作」でした。

視覚と聴覚に訴える映像は、写真よりも多くの情報を伝えることができます。さらに、長時間カメラを回し続けることで、撮影対象者との関係性を深めていける点も魅力に感じた私は、「いつか映像制作を通じて、自分が伝えたいことを表現しよう」と決意しました。

転機は、偶然見つけた起業家を支援するインキュベーション施設

▲シェアオフィス入居メンバーの皆さんと(左手前から2人目がほりごめ、右奥がひとしずく代表のこくぼ)

その後就職活動の時期を迎えるものの、将来の起業を見据えて一般的な就職活動はせず、自力で進路を切り開く術を探していました。

そのときに思い浮かんだのが、コワーキングスペースという場所。起業した人たちが多く集う場に加われば、彼らの仕事や働き方を肌感覚で理解できるのではないかと考えたんです。そこで調べ始めると、当時はまだ、東京にあるコワーキングスペースが多く、スタッフの募集も狭き門でした。

そんなある日、地元の横浜で近所を歩いていると、コワーキングスペースらしき施設が目に飛び込んできたんです。思いきって足を踏み入れたところ、運良くスタッフの方に話を伺うことができました。

コワーキングスペース、シェアオフィス、ワークショップスタジオを兼ね備えたそのインキュベーション(創業支援)施設は、横浜市都市整備局のモデル事業として横浜・関内エリアの地域活性化を目指し、地域の企業が出資して立ち上げた会社が運営を担っていました。

「コワーキングスペースの入居者は、社会課題の解決に挑む起業家」「国や自治体と連携しながらソーシャルビジネスの起業家を育成するスクールを運営」という内容は、まさに私が考えていたソーシャルビジネスと起業を結びつけるもの。事業に共感した私はスタッフの方にその想いを伝えたところ、ありがたいことに「それならインターンをしてみないか?」と誘っていただき、すぐに通い始めることになりました。

インターン生活は、たくさんの起業家の方々と接し、その前向きな姿勢に刺激を受ける日々。職場が大好きになった私は、上司に入社を志願します。日ごろの仕事ぶりに意欲を感じていただけたのか、大学を卒業した2015年春に入社することができました。

入社後は、ソーシャルビジネス分野で起業を志す人たちが学ぶ講座の運営事務局や、クラウドファンディングによる横浜の地域支援、トークイベントなどの企画を担当。充実した新人時代を過ごしました。

また同時に、入居者のフォトグラファーの方に撮影技術を教わりながら、週末の副業として写真撮影や映像制作の仕事も開始。企業のインタビュー撮影やプロモーション動画などを手がけていました。

そんな生活を続けるうち、「新しいステージでチャレンジしたい」と独立を考えるように。入社5年を区切りに会社を辞め、2020年4月に独立しました。

しかしその直後、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、政府が緊急事態宣言を発令。自粛期間に突入し、入っていた仕事がすべてキャンセルになってしまいます。

とはいえ、落ち込むことはありませんでした。自分だけが災難に遭っているわけではなく、「何があっても自己責任で生きる」と覚悟を決めていたからです。緊急事態宣言解除後は、徐々に仕事の依頼も増え、軌道に乗り始めます。

ひとしずくの成長とともに、プロジェクトの撮影を担当

▲「chart project® for SDGs in ISHIKAWA」では、石川県小松市を訪問

ひとしずくとは、2016年の創業直後から関わるようになりました。私が勤めていたコワーキングスペースに、代表のこくぼ ひろしが入居してきたんです。「ソーシャルグッドな活動をしている人たちを後方支援したい」という起業理由に興味を持った私はこくぼとよく話すようになり、仕事終わりに飲みに行くなど交流を続けていました。

そして、ひとしずくの事業が拡大していく中、さまざまなプロジェクトの撮影を依頼されるように。これまで、一般社団法人「星つむぎの村」による出張プラネタリウム、一般社団法人「児童健全育成推進財団」とスポーツブランドのナイキが推進する運動遊びプログラム「JUMP-JAM(ジャンジャン)」などの活動風景を撮影してきました。

子ども向けイベントも多く、子どもたちが夢中になったり、笑ったりしている様子を撮るのは楽しかったですね。

社会課題を表すグラフデータ(チャート)の形を生かし、アート作品として表現するプロジェクトである「chart project®」の撮影も思い入れのある仕事です。

石川県の自治体や企業とともに取り組む、SDGsに関連するグラフデータを活用した「chart project® for SDGs in ISHIKAWA」では、プロジェクト初のメイキングストーリー動画を制作。

作品をつくるアーティスト(chartist)の藤井 賢二さんに密着して、小松市の美しい自然や伝統文化施設を訪れてインスピレーションを得る様子など、制作過程を撮影しました。

ただし、小松市での撮影は限られた時間とのせめぎ合い。プロジェクトチームのメンバーと協力しながら乗りきり、最終的に全員が満足のいく動画を完成できたときは、大きな達成感を味わいました。

社会のため、ひたむきに汗を流す人々の記録を残せることが誇り

▲2019年のひとしずく創業3周年記念パーティーの様子

これまでひとしずくを通じて、ソーシャルビジネスに懸命に取り組むたくさんの方々と出会うことができました。そんなすてきな方々の想いが込められた活動の様子を撮影できることに、とてもやりがいを感じています。

ひとしずくのメンバーに共通しているのは、コミュニケーションが丁寧で、相手の立場に立って物事を考える姿勢。ほかのメンバーが、たとえパートナーであっても指摘すべき点は指摘して、先方の期待以上のものを提案する様子を見ると、私も身が引き締まります。

今後、私個人の活動でライフワークとして取り組みたいのは、日本の地域ドキュメンタリーの制作。1年くらいかけて、興味を持った地域を毎月訪れて、その土地と人々の記録を残したいと考えています。自分自身も地域に溶け込み、お祭りなどの行事や日常風景を撮り続けることで、地域が移り変わる様子をとらえてみたいですね。

ビデオグラファーとして独立してから、半年が過ぎました。学生のころから思い描いていた、フリーランスで映像制作をするという目標は達成できましたが、フリーランス自体は名乗りさえすれば始められるもの。長く続けていけるかは、これからの自分次第だと思います。どんな仕事にも全力で取り組み、たくさんの方々と幸せな時間を共有していきたいです。