免疫自動分析装置の生産設計を担当。メンバー、医療従事者、そして患者さんのために

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出縄 「日立ハイテクのライフ&メディカルシステム製品本部は、自動分析装置をはじめとするさまざまな医療・ライフサイエンス機器を開発しています。

中でも私が携わっているのは、血液を分析する装置。医用システム第一設計部が血液の中にある成分を解析する生化学系の分析装置をつくっているのに対し、第二設計部ではウイルスなど血液中の異物を検出・分析する免疫系の分析装置を担当しています」

第二設計部には100人以上が在籍し、電気、メカ、ソフトウェア、分析を担当する4つのグループから構成されます。このうち出縄が所属するのは、電気系グループ。30人前後のメンバーと共に業務に取り組んでいます。

出縄 「私は電気系のエンジニアとして回路の設計や開発をするのと並行して、生産設計を担当し、品質の改善や不具合の原因追求など、安定的に生産を維持するための取り組みも行っています。突発的な回路やユニットの故障など、生産ライン上で起きる電気的な不具合に対応することもあります」

仕事をする上で出縄が信条としているのが、“傍らにいる人を楽にする”こと。その言葉に込めた想いをこう話します。

出縄 「“傍(はた)”にいる人を“楽(らく)にする”と書いて“はたらく”と読むことができます。グループ内では日々数多くの業務をこなしていますが、生産設計を担う者として、改善・効率化していくことがメンバーを“楽にし”、誰もが気持ち良く仕事ができる環境づくりにつながると思っています。

また、自動分析装置を世に出すことで、ユーザーである医療従事者、そしてその先にいる患者さんの健康に貢献することも、広い意味で“楽にする”ことだと考えています。

医療機器を市場に出すためには、厳しい安全性を確保するための国際規格をクリアしなくてはなりません。第5世代の移動通信システムが普及しつつあるなど、電気・電波の分野の技術発展は日進月歩。新しい課題に一つひとつ誠実に対応していくことを意識しています」

臨床検査室を止めない——日立ハイテクの医療機器を世界の医療現場へ

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学生時代は電気電子工学を専攻し、ロボティクスを学んだ出縄。卒業後、人の役に立つ仕事がしたいと防災機器メーカー、食品機器メーカーなどにもエントリーしますが、最終的に医療機器メーカー、中でも日立ハイテクへの就職を決めたのには大きな理由がありました。

出縄 「ひと口に医療機器といっても、手術に使う道具からペースメーカーのように体中に入れるものまで実にさまざま。その中でも、とくに遺伝子とか血液の分野に関わりたいという気持ちがありました。というのも、実は私の大切にしている人が先天性の心疾患があって。同じような血液や遺伝子の病気を持って生まれてくる方々やそのご家族の力になれる仕事に就きたいと考えていたところ、血液や遺伝子の分析装置を世界中の病院の臨床検査室や検査センター(※)に提供している日立ハイテクと出会ったんです」

※病院等から臨床検査を受託する企業のこと

入社からこれまで、一貫して医療機器開発に携わってきた出縄ですが、その中でもさまざまな工程を経験してきました。

出縄 「1年目、製造ラインに立って作業する方の様子を見て感じたのは、幅広い年代の方が生産に関わっていること。精密機器は膨大な部品数の組み立てだけでなく細かい調整も必要であることを作業を通して学びました。生産管理だけでなく製造コストの面からも、どんな方でも組立や調整作業がやりやすい設計であることがいかに大切かを痛感しました。

2年目から新製品の開発に入り、ハードウェアエンジニアとして医用自動分析装置の電気系設計・開発に1年半ほど従事。その後、生産設計の担当となって現在に至ります」

“臨床検査室を止めない”というミッションのもと、世界の医療現場からの需要に対して製品を供給し続けることが出縄らの役目。安定して生産を維持することの難しさを感じていると言います。

出縄 「昨今の半導体不足やコロナの影響によって、生産がストップしそうになったことが何度かありました。とくに半導体に関しては、代替え可能なものを試して、生産維持対応をしたこともあります。サプライチェーンがどんなにひっ迫したとしても、医療機器の需要がなくなることはありませんから、生産を続けるためにとにかく必死でしたね」

また、開発工程を担当するようになって間もないころ、出縄がとくに苦労したというのが、英語や医療の専門用語への対応でした。

出縄 「扱っている製品の表示画面やユーザーガイドなどはすべて英語。専門用語を参照するデータベースのようなものはあるのですが、業務を進める上では法律や電気的用語に関する事項も英語で記載されているものもあり、医療の専門用語も多いので、『この単語の意味は?』というところから始まるんです。わからないところを上長に噛み砕いて教えてもらったり、詳しい方に表にまとめてもらったり。勉強しても追いつかないところは、社内で共有された情報を活用しながら身につけていきました」

FDA規格認証のための設計変更で手ごたえ。かかりつけの病院では自社製品との奇遇も

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2023年で入社5年目を迎える出縄。とくに印象に残っている出来事があります。

出縄 「当社では体外診断装置という患者さんの体に直接触れない装置を手掛けていますが、アメリカ当局の取り決めによって、体に触れるものや体内に入る機器と同じ電波規格が体外診断装置にも適用されることになったんです。

そこで、強い電波や静電気を当てても誤動作が起きないようにユニットや回路を改良したほか、パソコン本体やセンサーにもダメージを受けづらい構造に変更対応しました。 2022年に規格を無事にクリアし、アメリカで販売できる運びとなりました。現在は生産が着々と進んでいて、出荷を待つ製品がずらりと並ぶのを見ながら大きな達成感を感じています」

また、業務外でたまたま訪れた病院で、思いがけず仕事の手ごたえを感じたことも。

出縄 「かかりつけのドクターから職業を聞かれ、日立ハイテクで医療機器をつくっていると伝えたところ、『うちにも置いてあるよ』と、装置が動いているところを好意で見せてもらったことがあったんです。

検査室では、当社のロゴが入った見覚えのある装置のそばで、白衣を着た臨床検査技師さんが操作していました。自分がつくった製品が実際に運用されている現場を見たのは、それが初めてでした。技師さんからは『とても活躍しているよ』と言ってもらえて、世の中の役に立っていることを実感できました」

出縄が手がけるそれらの自動分析装置は、電気、メカ、ソフトウェア、試薬などの反応系を開発する分析、それぞれの分野のエンジニアの総力の結晶。開発はもちろんのこと生産においても、現場では各グループとの密な連携が欠かせないと言います。

出縄 「たとえば、ライン上で不具合が生じた際、電気だけでなく、メカやソフトウェアの観点からも原因を探る必要があります。また、その不具合によって医療機器の分析データにどの程度影響するのかは、分析グループがさらに詳しく探ってくれます。実際、複合的な原因でトラブルが起きているケースが多いため、毎日がグループワークです」

入社してすぐのころ、周囲が何を話しているのかまったく理解できず苦労したという出縄。専門分野を超えたコミュニケーションを円滑に進めるにあたって、大切にしていることがあります。

出縄 「電気部品や回路、基板の名前を言っても他グループの人には伝わらないことがほとんどなので、自分の言いたいことが独り歩きしないよう心がけています。なるべくわかりやすい言葉に置き換えて話したり、事前に文面や資料を送ったり。自分も専門用語がわからなくて苦労した経験があるからこそ、相手の立場に合わせたコミュニケーションを大事にしています」

社員のスキルが高く、業務の幅が広い環境で成長。仕事を誇れるエンジニアをめざして

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入社以来、周囲に支えられながら着実に成長を重ねてきた出縄。日立ハイテクでエンジニアとして働く魅力についてこう話します。

出縄 「まずなんといっても社員のスキルが高いと感じています。国内最高峰の技術系資格と言われる技術士の資格を取得している方や、英語が堪能な方、スケジュール管理能力に長けている方など、自身のグループだけでなく、他のグループでもそれぞれが各方面で存在感を発揮していて、とても刺激的な環境です。

また、堅実ながらもチャレンジングなところがあり、業務の幅が広いのも日立ハイテクならでは。電気分野の中でも、基板の設計はもちろん、マイコンの設計、ハーネスの設計、電波規格の対応など、網羅的に関わることができるところに魅力を感じています。装置の一部の設計を担当したときは、特許出願書類を自分で執筆したことも。他社で電気系のエンジニアをしている大学時代の友人たちと話していたとき、それぞれが縦割りで担当している業務を自分は複数経験していることを知って、自身のスキルや知識に自信を感じたことがありました」

今後、エンジニアとして技術に磨きをかける一方、社内の働き方改革にも取り組んでいきたいと言う出縄。その背景にあるのは、やはり“傍らにいる人を楽にしたい”という想いです。

出縄 「毎週水曜は定時退勤日など、当社でも働き方改革は進んでいますが、効率化して業務を減らしたり、より柔軟な働き方を取り入れたりと、一歩踏み込んだ改善を行っています。

実は最近、女性のエンジニアの方が新卒で入社したんです。グローバル経営を推進する当社らしく、誰もが『働きやすい、仕事が楽しい』と思えるような職場づくりをめざしていきたいですね」

「将来の目標は?」との質問に、「スペシャリストにはあまり向いていない感じがするので、ゼネラリストにしておきます」とはにかむ出縄。自身の未来のキャリア像についてこう話します。

出縄 「今の部署から異動になったとしても、電気の根本原理は同じなので、医用自動分析装置で培った電気系設計・開発の知識は、いろいろなところに応用できると思っています。この先、どんな道を歩むことになるとしても、後輩や将来自分の家族になる人たちに対して、『こんなことをしてきた』と胸を張って言えるような、そんな仕事をしていきたいですね」

「エンジニアとしてはまだ半人前。今は持ち前の明るさが強み」だと話す出縄。自分の仕事が、その先で待つ患者さんの力になると信じて、これからも医用製品の設計・開発と向き合い続けます。