コロナ禍が“ゆでガエル”状態だったことに気がつくきっかけに?!

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▲プライマリーファーマシー代表取締役の山村 真一さん

2020年現在、全国に6万軒近くある調剤薬局。以前から、人口減少や社会保障費の増加によりパイの奪い合いが加速すると、再三警鐘を鳴らされてきたにも関わらず、ほとんどの薬局はその対策を先送りしてきました。

しかし、そんな “ゆでガエル”状態だった薬局が、今回のコロナショックによっていよいよ本腰を入れて体質改善をせざるを得なくなってきたと山村さんは指摘します。

なぜなら処方箋枚数の減少という、以前から予測されていた未来を疑似的に体験したからです。“ゆでガエル”であったことに気がついた薬局が、まず取り組むべきことは処方箋に依存した経営からの脱却です。

山村 「これまでも処方箋に依存した経営のリスクが叫ばれてきました。今回のコロナで売上げの落ち込みに直面し、ようやく経営を見直さなくてはという動きが出ています。

2020年初めには調剤報酬の改定に注目が集まっていましたが、それよりコロナの影響の方がはるかに大きなものでした。なにせ処方箋の受付枚数自体が減ってしまったのですから」

国内で感染者が見つかった当初は、コロナの影響は一時的であり数ヵ月すれば元通りになるだろうという楽観的な見方がありました。しかし2020年7月下旬の現在、国内は再び感染拡大フェーズにあり、収束の目途は立っていません。受診を敬遠する傾向やマスクを常時装着するという新しい生活様式も定着しつつあります。

山村 「年間を通じたマスクや手洗いの徹底が習慣化されれば、インフルエンザや花粉症など季節流行の病気にもかかりにくくなるでしょう。風邪の頻度も減るとみられます。

通院頻度の低下だけでなくこうした間接的な変化も踏まえると、コロナショックは長期にわたって薬局経営に影響を及ぼすものと考えなければなりません」

それによってどのような変化が起きるのでしょうか。大手チェーン店に関しては不採算店舗の閉店、ギリギリ踏ん張っていた小中規模の薬局は店舗を存続させるか否かの決断。つまり、全国の調剤薬局数がついに減少に転じるのではないかと山村さんは見ています。

求められる調剤薬局のライフライン化とデジタル対応

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▲過去におこなわれた薬局関係者向けの講演活動のひとコマ

足元では対面型からオンライン型への医療提供が急務であり、行政を含めデジタル化に本腰を入れて取り組む必要性が高まっています。

山村 「特別給付金の事務手続きの問題もありましたが、オンライン診療においてもわが国のデジタル周りのお粗末さが明らかになりました。実際に、患者さんがオンライン診療を利用したいと思っても、医療提供側の問題からうまく機能しなかったのです。

結果的に、診療は電話で行われ、処方箋は薬局にファックス送信という昔ながらの形がとられました。薬の受け渡しも対面の受け渡しがほとんどでした」

とはいえ、日本にデジタル医療を提供するしくみがないわけではありません。すでに日本メーカーは、電子処方箋などのデジタル医療に関する技術を持ち、海外では導入されています。足かせとなっているのは技術そのものではなく、ルールやしくみといった制度の遅れにあると山村さんは説明します。

山村 「オンライン診療が医療保険で認められたのが2018年。それも厳しい条件が課された中でスタートしたわけですが、今春の改定でマイナーチェンジされたとはいえ、それでは患者さんが求めるレベルの医療提供を提供できないことが、コロナによって浮き彫りになりました」

調剤薬局の価値をどう最大化するのか。その点についても再考が必要になると山村さんはいいます。たとえば、イタリアでは感染が広まり都市封鎖をしている中、スーパーマーケットと薬局は“ライフライン”であるとして店を開けることが許されていました。

一方、日本では緊急事態宣言の間、イタリアでいうところの“ライフライン”だったのは調剤薬局でなくドラッグストアでした。

山村 「日本の調剤薬局は処方箋調剤に偏っており、一般医薬品や衛生商品の供給はドラッグストア任せになっているのが現状です。

日本の調剤薬局も、社会の中でその存在が許されるようになっていくためには、イタリアのようにライフラインとして機能できるように変容していかねばなりません」

コロナショックから露呈した経営改善やデジタル化の遅れ。調剤薬局の価値の最大化が問われる中、調剤薬局や業界全体はどういった舵を切れば良いのでしょうか。

あらためて「立地」を見直し、その立地ならではの強みを最大化すべき

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▲山村さんが経営するプライマリーファーマシー(神奈川)

調剤薬局がまず見直すべきは、地域との関係強化です。そのために、医薬品と衛生用品の供給体制を強化し、その上で、処方箋受付や服薬指導など薬局業務のオンライン化を急ぐべきだと話す山村さん。

薬局業務のオンライン化の流れの中で、0402通知に基づく薬剤師業務の効率化も含まれています。医療機関の近隣という「立地」への依存から「地域」の医療や公衆衛生に貢献する薬局へのニーズが高まっている一方で、山村さんは再度、薬局の「立地」を見直し、その「立地」ならではの強みを生かし、最大化するという発想が現実的な対応だと話します。

山村 「調剤薬局はコロナ前まで服薬後フォローを初めとする対面業務へのシフトに主眼が置かれてきました。しかし、今回のコロナにより、あらためてモノの供給の価値に気づかされました。

ライフラインとしての存在価値を高めるためにも、今後もマスクや消毒薬など衛生用品の供給確保が欠かせません。今更ではありますが、それは薬局の責務であると再認識する必要があります」

薬局業務のオンライン化を進めるにあたっては、国が電子処方箋を計画当初より1年前倒し2022年に導入すると発表したこともあり、その動向を注視する必要があります。医師とカルテや薬の処方状況の情報共有が実現すれば、薬剤師業務の変化を見越した準備が必要になります。

一方で、地域貢献型薬局への転換と並行して、日本における医薬分業のコンセプトについても議論すべきときに来ているのではないかと山村さんはいいます。

山村 「日本はこれまで欧州に医薬分業の理想を見いだしてきました。しかし、各国のコロナ対策を見てそれぞれの歴史や事情、文化によって病気や薬・ワクチンに対する考え方は国ごとに異なることがわかりました。

文化も国民性も異なる欧州で展開される医薬分業をまねるのではなく、日本の実情に沿ったジャパニーズスタンダードの医薬分業をつくりあげるという意識改革が必要ではないでしょうか」

コロナの流行抑止政策はその国の医療システムや価値観に根差したものです。だとするならば医薬分業も、ただ、欧州に追いつけ追い越せという発想だけではなく、これまでの経緯や実情にあわせた発展の仕方があるはずだと山村さんは分析します。

“医薬品供給“の強みを生かした戦略に活路見いだせ!

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▲山村さんの薬局では手作りマスクの販売を始めた。これが地域の人とつながるきっかけになっているという

新型コロナウイルスの流行をきっかけに、小中高校の休校、外出制限や在宅勤務対応など人々の生活は大きく変わりました。そして、今なお、既存の制度・ルールの中で対応しきれないことが噴出し、世の中は混乱状態にあります。

とりわけ医療業界はその渦中にあり、患者の受け入れと感染症対策の両立、心理的負担の大きい医療従事者へのケア、また、受診患者の減少による経営悪化など課題は山積みです。さらにこの状況が続けば、医療財政の悪化も懸念されます。

山村 「そうなれば国の支出で最も多い社会保障に関して、メスが入っていかざるを得ません。今まで、規制やルールで守られていた部分もゼロベースで考えていかなければならないでしょう。そうしたときに、どういった手を打っていくべきか。

われわれが活路として見いだすべきは、医薬品供給者としての強み(資格)でしょう。医薬品供給の在り方をさまざまな角度から見直し、国民が医薬品にどのようにアクセスしていくべきか、その供給はどうあるべきか、公費の在り方はどうかなど。

加えて、スイッチOTCの拡大や、今まで陰の存在であった零売についても『非処方箋薬の適正販売』という言い方に変え、前向きな検討を始める時期がきたように思います」

スイッチOTCとは、医療用医薬品をOTC医薬品に転換することです。ロキソニンなどの頭痛薬はスイッチOTCで一般薬品化した代表的な例ですが、こうした薬を増やしていく必要があるでしょう。

零売とは、法的に許されている非処方箋薬の販売のことです。処方箋第一の方針もあり薬局はこれまで積極的に手掛けてきませんでしたが、これからは零売のルールをうまく活用することが、「地域」の公衆衛生や医療に貢献する上での切り札になっていくだろうと山村さんは語ります。

山村 「スイッチOTCの拡大と非処方箋薬の適正販売の広がり、この両方の実現を加速化することができれば、国民の薬局を見る目が変わってくるのではないでしょうか。薬局の利用価値も格段に上がって、薬局の強化にもつながっていくことでしょう。また、国家レベルでも社会保障費の抑制に貢献できる取り組みになるといえます」

今はまだ見通しが不透明なことが少なくありません。しかし、情報を駆使してこれからのことを予測し、自らの強みを生かした戦略を立て、取り組んでいくこと――。その経営の原則はコロナ禍であっても有効です。

コロナにより新しい生活スタイルが始まりつつある現在、今後をしっかりと見極め、適応していくことが求められます。もうコロナ以前の常識は通用しない新時代に突入したのです。