じわじわと忍び寄る新型コロナウイルスの影

▲薬剤師で事業コンサルタントの戸井優貴さん

小売りや飲食店は早い段階から影響が出たのに対し、薬局の落ち込みはじわじわと遅れてやってきた── 薬剤師の資格を持ち、病院や薬局の経営コンサルティングを行う戸井 優貴さんは、新型コロナウイルスの影響をそう振り返ります。

医療情報総合研究所のプレスリリースによれば、前年の同月に比べ3月の患者数は約10%減少。緊急事態宣言が発令された4月は16%ほどの落ち込みとなりました。その一方で、4月は1回あたりの平均処方日数が18%伸びています。

医療機関への受診を控える動きや、1回あたりの処方日数の長期化が顕著となったのです。ただ、こうした中であっても、売上げの落ち込みを最小限に抑えられた薬局はあった、と戸井さんはいいます。

戸井 「患者さんとのコミュニケーションを大切にしてきた薬局は、来局の減少を最小限に抑えられました。信頼関係が築けており、自分の体や体調のことを知ってくれている薬局に外出のリスクを冒してでも行きたいという患者さんが少なくなかったのです。

外出頻度を減らす動きの中で、ドラッグストアに併設された調剤薬局を利用する方も増えました。ドラッグストアであれば、日用品や食品などの買い物を一緒に済ませることができるためです」

その一方で、苦境に立たされたのは、5~10店舗程度の中規模の薬局グループだといいます。

戸井 「1~3店舗程度の薬局グループの場合は、“売上げが落ちました(だけど、仕方ない)”という程度です。厳しいのは、5~10店舗ほどの店舗展開している薬局で“銀行からお金を借りなければ”という状況です。社員数が多く、医療職は安定した給料をもらえて当たり前という前提があり、簡単にボーナスや給料を減らすこともできず、資金繰りに苦労しているようです」

それでも、緊急事態宣言が明けて売上げ自体は下げ止まり、全体的に厳しい状態は脱しつつあります。

「データヘルスの集中改革プラン」が示す薬局の未来

今回の新型コロナウイルス流行で、薬局にとってもうひとつ大きかったのが、服薬指導のオンライン化でした。

当初、薬機法の改正を受け、2020年9月に開始予定でした。しかし、4月10日に厚生労働省から「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」が通知され、時限的に電話などを用いた服薬指導が認められることになったのです。

さらに、感染症対策として“新たな行動様式”の模索が始まる中にあって、6月22日の経済財政諮問会議で加藤勝信厚生労働省大臣は、「データヘルスの集中改革プラン」を発表しました。

その中身には、全国の医療機関などで投薬歴や手術歴などの医療情報を確認できるしくみや、患者本人が直接、自分の健康・医療情報にアクセスし活用できるようにするための取り組みのほか、投薬の重複回避が期待できる電子処方箋化について2022年夏を目途に運用開始することが盛り込まれました。

感染症予防という社会的要請の高まりを受け、医療のオンライン化を推進しようという動きは民間にも広がっています。たとえば、スマートフォン決済サービス「PayPay」はビデオ通話を利用したオンライン診療や服薬指導でのオンライン支払機能を新たに追加すると発表しました。(2020年6月1日)

これまで出遅れ気味だった医療のオンライン化が国を中心に動き始め、足元の医療現場においてもトライ&エラーが始まっています。

戸井 「規模の大小にかかわらず、オンライン診療を導入する医療クリニックは増えています。病院や薬局側のITリテラシーがそこまで高くないというのもあり、患者さんの入金がなく困っているケースもあるようですが……。あと10~20年して、スマホユーザーが大半となれば、オンライン化はさらに普及していくでしょう」

そして、このオンライン診療が当たり前になると、門前スタイルの薬局経営は成り立たなくなると戸井さんはいいます。それは一体、どうしてなのでしょうか。

門前薬局がなくなる日がやって来る!?

近い将来、門前薬局がなくなる日がやって来るかもしれません。なぜなら、オンライン診療が進めば、患者さんが病院に行く機会が減るからです。

戸井 「通院していれば門前薬局にも一定の利便性はありますが、オンライン診療がスタンダードになれば、門前薬局の意味はなくなるでしょう。薬を取りにいくだけなのであれば、病院の前より、患者さんの生活圏の中で処方してもらえる方が便利です。これまでのスタイルの門前薬局は集約が進むでしょう。在宅専門薬局の増加は、その流れのひとつと見ることもできます」

さらに、今、全国には約58,000店の薬局がありますが、これからは減少トレンドになるのではないかと戸井さんは見ています。

戸井 「新型コロナウイルスのワクチンが実用化されたとしても、今回、起きた生活や行動様式の変化というのはある程度残るでしょう。こうした中で、飲食店やアパレルが店舗数を減らしているように、薬局も店舗を減らす方向に転じるのではないでしょうか」

では、今後薬局が生き残るためには何が必要なのでしょうか。戸井さんは、薬機法や他関連法の流れに対応し加算を取ること、さらには、営業企画力が大事だといいます。

戸井 「これからは病院の前で待っていても患者さんは来てくれません。かつて町医者が自宅を訪問して診療していたように、薬剤師自らが患者さんに働きかけていく時代になっていくでしょう。

その患者さんへの働きかけというのも、オンライン化に対応してとにかく利便性を高める方法をとるのか、逆に対面のコミュニケーションを重視し徹底したホスピタリティを実践するのか、というふたつの方向性に分かれ、二極化していくと思います」

利便性のアプローチの例としては、ドローンを使った医薬品配送の試験運用が進んでいます。岡山県和気町では、一般医薬品だけでなく、医師が処方する医薬品もドローンで配送しようと県や国との協議を進めているそうです。過疎や医療資源に乏しい地方においては、ドローン配送は解決の糸口になります。

門前という病院近くの立地や店舗に固執することは、逆にリスクにもなりうるのです。

組織も個人も新たな“武器”が必要な時代に

医療のオンライン化や、門前経営の形骸化はコロナ禍以前にも繰り返し指摘されてきたことであり、目新しいものではないという戸井さん。ただ、コロナ禍に遭い、変革のスピードが早まったことで薬局業界は余計に苦しい立場に追い込まれているのではないか、と話します。

戸井 「すべて変革し終わった後であれば、コロナ禍の影響はあまりなかったのかもしれません。しかし薬機法も改正して、オンライン服薬指導を始めようとか、いろいろ変革が始まろうというタイミングでコロナ禍に見舞われ、今、薬局業界は一番苦しい時期ではないでしょうか。コロナや資金面の対策に、オンライン服薬指導の運用などやらなければならないことがいろいろ重なり、相当苦しいと思います」

それだけではありません。薬局業界全体が一丸となって取り組むべき課題があると戸井さんはいいます。

戸井 「日本の場合だと体調が悪いとき、薬剤師に相談することはまずなくて、だいたい医者に相談しますよね。しかし海外では、まず薬剤師に相談して薬を処方してもらいます。そしてそれでもだめなら医者にという国もあります。総じて、日本の薬剤師は地位が低い。医療における薬剤師のポジションを確立することが急務です」

医療の削減が叫ばれる中、薬局や薬剤師が軽視されていては、業界全体が不利な状況になりかねません。

戸井 「今の法律の枠組みでは、医療システムが崩壊するのが目に見えています。そうした中で、薬剤師の価値が認知されていなければ、必然的に薬局や薬剤師って本当に必要なのかという話にもなるでしょう」

戸井さん自身も、就職活動時にこうした危機感を募らせ、資格を取得しながらも薬局への就職を選択しなかったと打ち明けます。日本全体が先細りする中で、薬剤師がいつまでも安定した職業である保証はありません。資格以外の強みを磨く必要があるだろうと戸井さんは強調します。

今回のコロナ禍は、組織と個人、それぞれが取り組むべきことをより鮮明にさせたとも言えるのかもしれません。たとえ不利な状況に立たされたとしても、まさに今、そこから新たな局地を見いだす知恵が試されているときなのです。