前例にとらわれず、育成課題に合わせて、唯一無二の学ぶ場を創る

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人・組織コンサルタントとして活躍している齋藤は、入社以来、中部エリアを中心に製造業・インフラ・物流・小売業などのクライアントに対する人材育成や組織開発のコンサルティングを手がけてきました。

これまでに携わった案件の中でとくに印象的だったのが、ある会社の部課長層を対象にしたリーダー研修。

齋藤 「中でも、過去の受講者に対するフォローセッションは、わたしにとって大きなチャレンジでした」

一般的に研修は、1カ月ほど前から事前課題に取り組んでもらった上で当日を迎える流れが一般的です。しかし齋藤は、その流れを大きく変えることを試みます。

齋藤 「今回の研修対象の課長・部長層は忙しい方が多く、通常の流れだと直前になってようやく課題に取り組むケースが少なくありません。せっかく忙しい中参加いただくなら、形式的な研修で終わらせず、ご自身の成長機会として最大限活用いただけるものにしたいと思ったんです。

具体的には、受講者を4人1組のグループに分け、研修実施の半年前から、オンライン上でお互いの『成し遂げたいこと』や、それを実現する難しさなど、対話する時間を設けました。また対話のみならず、社長セッションまでの間に、職場での実践についても促す仕掛けをつくりました」

人も組織も、変われる──人の心に灯をともすコンサルタント

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研修当日までに半年間に及ぶ準備期間を設けることは、齋藤にとっても初の試み。スムーズに進むことばかりではなかったと言います。

齋藤 「オンラインでグループ活動をしてもらうのですが、グループによって議論への積極性に差が生じるケースや、リーダーとしてご自身が進むべき方向性に悩む受講者もいらっしゃいました」

そんな中齋藤は、自分でリードするのでなく、あくまで受講者が主体の場とし、サポートの姿勢を徹底。一方で、グループの様子を丁寧に観察し、必要な場合には受講者に寄り添います。

齋藤 「活性化していないグループには、議論のきっかけとなる話題を投稿したり、受講者同士の交流が進んでいないグループには、盛り上がる仕掛けを施したり」

“成長や変化のきっかけにしてほしい”と懸命に働きかけた結果、グループ活動は徐々に活発化。受講者からも嬉しい反応が。

齋藤 「仕事で交流の少ない他部門のリーダー同士で、互いの悩みや課題を対話できたことで、視界が広がり、新しい気づきをもらえたことに、価値を感じていただきました。また、『メンバーが普段どんな学びをしているかを聞くことで、自分ももっと頑張らなければと刺激を受けた』と言っていただいたことも、うれしかったです」

その後、対話と実践を重ね、実施した社長セッション。前回の社長セッションと比べ、受講者の姿勢は大きく変わったと言います。

齋藤 「社長に対して、『自分はこうしたい』と自身の取り組みたいことを提案・言語化される方が複数いたことが、大きな変化のひとつだと感じています。

また、数年前まではよく耳にした、『目の前の事業課題を解決できるかどうかは社長や役員次第。自分には関係のないこと』といった消極的な発言も聞くことが少なくなりました。組織をリードしている一員として、自分にできることは何か、という考え方にシフトしていったのだと思います

確かな手ごたえを感じている齋藤ですが、社長セッションの成果をもって目的達成とは捉えていません。

齋藤 「研修終了と同時に、学んだこと全てが身につくわけではありません。だからこそ、終了後も学びの定着やリマインドにつながるような働きかけをしています。たとえば、研修終了後、別の若手向けリーダー研修の状況をお伝えしたり、社長や役員の方が読まれている書籍を紹介したり。受講者から生じた変化の芽が、その後も継続するようなフォローを考えています

受講者とさまざまな角度から関わりを持ち続け、地道に変化を促す齋藤。伴走する過程で、自身も大きな学びを得ていると言います。

齋藤 「時間をかけて社員の方と関わり続けてきた結果、人も組織も変わることができることを実感しています。日々の業務が9割だとすると研修の比率は1割にも満たないかもしれません。それでも、関わり方次第で受講者の心に灯をともせるという感触があるんです」

役職者とも臆せず人と人で向き合う──顧客との対等な関係づくり

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いまでこそ臆せず顧客に踏み込む齋藤も、受講者・経営層との関わり方に迷った時期があると言います。というのも、受講者として参加しているのは、齋藤よりも年上で役職者の方がほとんど。

経験も豊富な彼ら、彼女らに対して、自分に何ができるのか……。そんなとき、ある受講者との対話が転機になったと言います。

齋藤 「研修でご一緒して以来、定期的にやり取りさせていただいているある企業の常務との懇親会でした。“グロービスのコンサルタント“ではなく、ひとりの後輩として、こんなふうに相談してみたことがあったんです。

齋藤 『私のような年下の女性が、役職が上の方に対して、どういう価値発揮ができるのか、正直悩んでいます』

常務 『向き合う層(役職)とは別の切り口で意見を言えるのが、齋藤さんの価値なんじゃないかな。だからこそ、自分が戦える領域(強み)をひとつ見つけてみたら?それを武器に価値発揮すればいい。私もいまだに仕事で悩んだり落ち込んだりすることは多いんですよ』

ハッとしましたね。勝手に自分の域を決め相手と壁を作っていたのは、私の方だったんです。また役員だからといって、完璧ではなくて悩むこともある。ならば、自分も悩み迷いながら進んでいくしかないと、気持ちを切り替えることができました

それからは、役職にとらわれず、顧客と対等な関係づくりを心がけてきた齋藤。受講者と共に時間をかけて同じ本を読んだり、食事会に参加してざっくばらんに話をしたりすることで、受講者や顧客の理解を高めています。

その中で大切にしてきたのは、自分を飾らず接することと、相手を見つめ続けること。

齋藤 「役職者の方と接していると、リーダーとしての鎧を被っているようなところが、誰しもあるように感じています。だからこそ、良いことを言おうと飾ったアドバイスは、中途半端で意味がないんです。ならば、受講者一人ひとりに向き合い、小さな変化を逃さず観察し、『最近話される言葉が変わりましたが、何かきっかけはありましたか?』と、素直に伝えることで、より良い変化を促すように働きかけています

とはいえ、いまも壁に直面する日々だと言う齋藤。この仕事を追求し続けられる理由についてこう話します。

齋藤 「答えがないところが人材育成の難しさであり、醍醐味でもあると思っています。受講者と接する中で、組織や個人の課題に自分で仮説を立てて実行した結果、人の変化に立ち会えると、大きな達成感を得られます

社員とその先にいる家族にも責任を持てるリーダーを育成する

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コンサルタントとして、人材育成への意欲を持ち続けている齋藤。その背景には、ふたつの出来事があると言います。

齋藤 「ひとつめは、新卒で入社した企業での経験です。社員数30名ほどのベンチャー企業で、入社当時の業績は不振続き。新入社員が『資金繰り』の本を買ってしまうほど経営状態が悪く、それによって経営陣の機嫌が悪く、常に社内の空気が張り詰めていました。しかし、業績の回復に伴い組織の雰囲気も良くなっていく様子を目の当たりにしたんです。“勝てる組織”“稼げる組織”をつくることの大切さに気づかされました

ふたつめは、2社目での出来事。

自社の大口取引先が、現場の環境整備が追い付かず、退職者が続出し債務超過に陥ったことでの大惨事でした。

齋藤 「その事態収拾のなかで、社員の気持ちよく働ける環境が、組織にとっていかに大事かを痛感したんです

こうした経験から、人・組織のコンサルタントを選択しましたが、齋藤には今、どうしても蟠りを隠せない想いがあります。

齋藤 「“勝てる組織”の要となるのは、次代を担う課長・部長層です。でもその彼ら、彼女らが、『事業や組織の課題は、経営者の責任』と自分事として捉え切れていない姿を目の当たりにしたことがありました。そうした状態を変えたい。それが私の原動力です。

生意気ですが、『今は課長や部長かもしれませんが、みなさんが役員や社長に就任したときに、社員ひいてはその家族を幸せにする責任をもつイメージができていますか?』という気概で、仕事に取り組んでいます。

人の幸福には、きれいごとだけでなくある程度の経済的保障も含まれると思うんです。勝てる組織を創り、社員に還元する。そうすることで、社員やその家族が豊かさを享受し、さまざまな可能性を得ることができるかもしれない。そうした豊かな組織をつくれるリーダーを、わたしは増やしていきたい。そのために、私自身まだまだ発展途上で足りないものだらけ。貪欲に学び続けていきたいですね」

変化の種を蒔き、時間をかけてその芽を丹念に育ててきた齋藤。

これからも人材育成の現場で組織に切り込み、人と深く関わり合いながら、触媒となって行動変容を促していきます。